スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED_第4話

Last-modified: 2012-05-01 (火) 14:55:46

 スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
 第4話「不完全」

 
 

「……不用心だぞ」
「ぐあぁあ!!」

 

 侵入者は目前の少年に気を取られてセブンの接近に気付かず、そのまま腹部にもろに彼女の手刀の一撃を食らった。
 彼女の一撃は彼を軽々と遥か後方の壁面へ強かに打ちつけた。
 一見すればか弱い女の手刀だが、実際は強靭な異星人を無慈悲に滅ぼすボーグの一撃である。
 いくら強化されたコーディネイターといえども所詮は地球人である。
 ヒロージェンやクリンゴン程のタフさは無いかと考えていた。
 しかし、彼は我々の想像していた以上にタフな様で、多少はよろめきつつも素早く立ち上がり、イージスの方へと駆けたのだ。
 ラミアス大尉が銃で牽制するも、彼は打ち付けられたダメージなど無かったかの様に軽やかに身を躱し、
そのままの勢いでコックピットに入られてしまった。
 と、その時、ラミアス大尉がストライクのコックピットへ少年と共に入っていく姿が見えた。
 彼女が動かすというのか?
 ……ともかく私はセブンと共にその場を後退し、イチェブのいるデュエルのもとへ向かった。

 

 彼はデュエルを操縦し侵入者の攻撃を防いでいた。
 侵入者はデュエルへ向けて発砲するが、フェイズシフト装甲が機能している彼の機体には傷一つ付ける事は不可能だ。
 だが彼らはそれらを想定していたのか見事な連携でデュエルのメインカメラ付近を、彼らの持っていた手榴弾を天井に投げて爆発させ、視界を煙で封じている隙にバスターのコックピットへと侵入した。
 ハッチが閉まり、程なくPS装甲が起動するとゆっくり立ち上がった。

 

「何故俺がお前にお姫様だっこされねばいかんのだ!!」

 

 イザークは先に入ったディアッカの腕の中に収まる様な姿勢で入っていた。
 これは、バスターに乗り込む際に後から入ったことからシート後方に回っていたのだが、起き上がる際にコックピットを転がり、そのままでは危険な彼をディアッカが抱き止めた結果の産物だった。
 彼からすればお前が言う事かと反発したい所だが、ぐっと堪えて冷静に答える。

 

「……イザーク、狭いんだから大人しくしろよ。しかし、…なんだこのOS、事前の情報とまるで違うぞ。でも、ロックはされていないから動かせる。
 っつーか、何だよこれ。俺達のOSよりよっぽど使いやすいぞ」
「はぁ、なんだと?ナチュラルが俺達を超えただと?笑わせんな」
「いや…だけどよ、俺が何のカスタマイズもしないどころか、OSが俺に合わせて自動でセットアップしてるんだぜ?見てみろよ」

 

 そう指摘され画面を見たイザーク。彼もシステム側の対応を見て顔色が変わった。
 確かに全ての挙動が異常な程にスマートで洗練されている。
 少なくとも事前に知らされていた「出来損ない」とは雲泥の差で、予め書き換えの為に用意したデータすら越えており、簡単に言い表すなら次元が違うとでもいうべきか。
 システムの指示通りにセットアップを進めたディアッカは、システムが告げたボイスコントロールを試してみたくなった。

 

「えーと、……ガンダム、武器はあるか?」
『はい。武器、を、表示、します。』

 

 コンピューターは彼の言葉に反応して画面にバスターの3Dモデルを出すと、幾つかのパーツがグリーンのハイライトで表示され、それぞれを選択するとズームアップして武装の画像を表示し、名称と簡単な解説及び詳細な情報へのアクセスボタン等が示されていた。

 

彼は一つ一つ表示して行く。

 

 「220mm径6連装ミサイルポッド」
 両肩に装備されるミサイルポッド。
 本機の白兵戦能力の低さをカバーするために搭載された武装。
 煙幕や放電ガス弾など搭載ミサイルによって多彩な用途がある。

 

 「350mmガンランチャー」
 右腰アームに接続される電磁レールガン。散弾による複数目標への攻撃など、「面」の破壊に特化された武装。通常の質量弾頭の他にも、AP弾(徹甲弾)やHESH弾(粘着榴弾)などの各種特殊弾頭も射出可能。

 

 「94mm高エネルギー収束火線ライフル」
 左腰アームに接続される大型ビームライフル。
 他のGAT-Xシリーズに比べ大口径高出力を誇り、並の戦艦の主砲を上回る。

 

 「対装甲散弾砲(連結時)」
 ガンランチャーを前に、収束火線ライフルを後に連結した広域制圧モードでの利用が可能。

 

 「超高インパルス長射程狙撃ライフル(連結時)」
 収束火線ライフルを前に、ガンランチャーを後に連結した高威力・精密狙撃モードでの利用が可能。

 

 「その他」
 本機は他のGAT-Xシリーズとドライバ互換を持ち、他機向けの武装の利用も可能。
 本機は試作機のため、他機向けの武装登録は別途ドライバのインストールが必要。

 

「……おいおい、親切なのは良いが全部飛び道具ばかりかよ。
 とりあえず逃げるぞ」

 

 バスターは急いで逃走を始めた。
 だが、ディアッカがまず驚いたのは敵の攻撃ではない。
 その挙動の迅速さは勿論、動かし易さだ。特にこのOSは「学習機能付き」という説明通り、彼の操作に合わせてシステムが自動でバランスを調整して行くのがわかる。それもこれも、彼がただ操縦しているだけなのに見違える様に動きがスマートになって行くのだ。
 どんな機体も最初は慣れるのに時間を必要とするものだ。それはそれぞれに特有の癖があるのは勿論、操縦者自身にも個人的な癖があるからだ。それらは大抵は操縦者が機械に歩み寄る形で慣れて行くものだが、このガンダムというシステムは逆なのだ。OSも操縦者に歩み寄ってくれている。
 ディアッカは作戦中という非常事態にありながらワクワクするものを感じていた。

 

「……イザーク、少し揺れるが我慢しろよ」
「うるさい、お前は集中しろ!」
「……はいよ。舌噛むなよ」

 

 デュエルが進路上に立ちふさがった。武器は持っていない。
 丸腰同然のバスターからすれば、相手も武器を構えていないのは有り難い。
 そのまま突破するためにタックルを仕掛ける。しかし、デュエルは衝突する手前で避けた。
 バスターは相手がいなくなり、その勢いのまま壁に激突した。

 

「っつー、どんな操縦だ!」
「っいや、それは相手に言ってくれよ」

 

 激しい衝撃でイザークは正面に向けて強かに腰を打ち付けられた。
 シートベルトを着用したディアッカは無傷だ。
 彼は文句を垂れるイザークを膝上に乗せながら、逃走の動きは怠らない。
 姿勢を立て直したバスターは壁を背に構えながら時を待った。
 と、その時、イージスが立ち上がるのが見えた。
 そして次の瞬間、X105の方の壁面が爆発して吹き飛んだ。

 

「来た!!」

 

 バスターが走る。
 そして、それを追う様にイージスもそこから出て行く。
 イチェブは牽制しようと動くが、セブンがそれを止めた。
 これは私の指示だ。
 彼はそれに従うと彼らを見送った。
 私達がするべき道は他にある。今は生きているラミアス大尉を生かすべきだろう。
 だが、ラミアス大尉の乗ったストライクは起動する様子を見せない。
 何故だ。

 

「……そんな。OSのインストールが上手く行っていない。
 この子だけケーブルが断線していたんだわ。でも、私にも動かすくらいは」

 

 ラミアス大尉は必死に動かそうと元のOSを弄っていた。額から汗がしたたる。
 激痛を堪えて操縦桿を握ると、何とか立ち上がらせゆっくりと前進させて、破壊された壁穴から外へと出た。
 その動きはとてもゆっくりとしていて、見るからに姿勢も悪く不格好なものだ。
 そして、それを待っていたかのごとく、外には緑色に塗装されたジンと呼ばれるZAFTのMSが待ち構えていた。

 

『ヘリオポリス全土にレベル8の避難命令が発令されました。
 住民は速やかに最寄りの退避シェルターに避難して下さい』

 

 コロニー全域で緊急避難放送が流れていた。
 至る所で住民達の避難が進んでいる。そんな中、前方のジンが発砲した。
 ストライクに乗るラミアス大尉は寸での所でPS装甲の起動に成功した。
 灰色の機体がトリコロールカラーに塗られた様に鮮やかに変色する。
 装甲は正常に稼働し、弾丸を弾いて機体を保護した。
 しかし、その一方でコックピット内のカメラは、逸れた弾丸から逃げる一般市民の姿を捉えていた。
 そこには少年の友人達の姿もあった。

 

「あー!?サイ、トール、カズイ!」

 

 ジンのパイロットは、連合のMSが彼の攻撃を弾いて無傷で立っていることに驚いていた。
 彼の目にもハッキリと弾丸が弾かれたことが確認出来ていた。

 

「こいつ、どうなってる。…こいつの装甲は!?」

 

 そこに通信チャネルが開いた。声の主はアスラン・ザラだ。

 

『……こいつらはフェシズシフトの装甲を持つんだ。展開されたらジンのサーベルなど通用しない』
「アスラン、まだいたのか!お前は早く離脱しろ!いつまでもウロウロするな!邪魔だ!」
『な、じゃ、邪魔!?……ラスティは失敗した。油断はするな』
「……余計なお世話だ。お前の将来は絶対ズラだ。
 もたもたしてるなら、俺がズラの似合う男にしてやろうか」
『……離脱する(なんで俺はズラ扱いばかりされるんだ!額が広いからって、必ずズラになるとは限らないだろう。くそぉ!)』

 

 イージスが通信を切る。そして後方カメラより離脱するのが見えた。
 ジンのパイロット…ミゲルは、ストライクを睨んで不敵に笑った。

 

「ふん、いくら装甲が良かろうがっ!」

 

 ジンがサーベルを構えて突進する。ズシンズシンと響いてくる足音。
 ラミアス大尉は必死に動かそうとしている様だが、少年の目にはとてもまともに動きそうなシステムには見えない。

 

「(あっ、……これってまだ)うわぁあああ!!」
「あ、きゃぁああ!!」

 

 激しい振動が伝わり、突然後方に強かに打ち付けられる。
 ジンのサーベルは実際に通用しなかったが、その打撃でストライクはそのまま後ろに倒れてしまった。
 ストライクのコックピット内では、大尉の上から身を乗り出して少年が操縦を試みた。

 

「君!?」
「ここにはまだ人が居るんです!こんなものに乗ってるんだったら、何とかして下さいよ!!」

 

 少年は操縦桿に触れながらシステムの挙動を確認し始める。

 

「そんな動きで、生意気なんだよ!ナチュラルがモビルスーツなど!」

 

 前方に立つジンが振りかぶってサーベルを下ろしてきた。
 少年はなんとか機体を横向きの姿勢に変えて避ける。
 続けざまに来る攻撃を再度避けながら、システム情報を確認し終えた。

 

「無茶苦茶だ!……こんなOSでこれだけの機体を動かそうなんて!」
「まだ全て終わってないのよ、仕方ないでしょ!」
「……どいて下さい」
「え?」
「早くっ!!」

 

 ラミアスは少年のあまりの気迫に席を譲った。
 少年はシートに座るとキーボードを出してシステムを弄り始めた。
 そこになおもジンの攻撃が続く。
 しかし、少年は巧みに操縦桿を握るとその攻撃をかわし、その合間に設定を急ぐ。

 

「あ、あ。(この子…!?)」
「キャリブレーション取りつつ、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定…、
 チッ!なら疑似皮質の分子イオンポンプに制御モジュール直結!
 ニュートラルリンケージ・ネットワーク、再構築!メタ運動野パラメータ更新!
 フィードフォワード制御再起動、伝達関数!コリオリ偏差修正!運動ルーチン接続!
 ん?なんだこれ、ようこそ、Globe Union New Droid Attack Motion-controllerへ?
 別のシステム?ダウンロード率52%…全部バイナリ!?なんだこれ、使え…るのか?
 とりあえず、新しいコアとこのバイナリを直結、コアで読み込んで翻訳……
 ユニマトリクス・コア?新しいコアだったのか?
 他には、ボーグ709運動サブルーチンと、ポジトロニクスブレインも僕のコアに直結。
 ボイスコントローラは……不完全。よし!
 システム、オンライン!ブートストラップ起動!」

 

 にわかにストライクの挙動がスマートになり始めた。

 

「何なんだあいつ、急に動きが……ッチ、ヤバくなる前に斬る!」

 

 執拗なサーベルによる斬撃から両の手をクロスして耐えるストライク。
 少年は受けながらそのまま腕をクロスした姿勢で強く押し返した。
 ジンは突然の押しに対応できずよろめいて後退した。

 

「うっ、武器…!アーマーシュナイダー…?これだけかっ!」
「くっそー!チョロチョロと!」
「こんなところでっ、やめろぉっー!!!」

 

 少年は機体を立ち上がらせると、アーマーシュナイダーを構え突進する。
 よろめいたままのジンは防御姿勢を取れず、姿勢を正そうとした時には既に遅かった。
 ストライクのアーマーシュナイダーはジンの主要な駆動部を破壊。
 ジンのシステムはフリーズした。

 

「っち、ハイドロ応答無し。多元駆動システム停止。ええぇい!」
「あっ!まずいわ!ジンから離れて!」
「え?」

 

 ジンの自爆命令が起動し、ストライクはもろにその爆発の衝撃を受け後方へと飛ばされた。

 

 -つづく-

 
 

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