デカルト漂流記 in Cosmic Era 71_15話

Last-modified: 2013-08-26 (月) 21:12:33
 
 

「…だ、弾道軌道での大気圏再突入実験!?」
「…だ、そうだぜ?」

 

折られた指令書に書かれていた命令、それは色々と無茶な内容を含むものだった。
「USの小型マスドライバーと日本から提供された大型ブースターを併用し大気圏を離脱、軌道上に展開する日本宇宙軍第7機動艦隊分遣隊と合流しブースターを返還、終了次第大気圏に再突入、帰還しろ。だそうだ」
「…再突入の予備実験なんかはやったのか?」
「ぶっつけ本番だとよ、上からの強力な催促があったとか何とか」
「…」
改めて指令書を一瞥する。パッと見ただけでも弾道軌道だの大気圏再突入だの、不吉な予感のする語句がずらりと並んでいる。
「…で?これは何の為の実験なんだ?」
「海兵隊のMSの運用ドクトリン策定の為の予備実験なんだとさ。何か上のお偉方が企んでるみたいだが…」

 

「聴きたいならば聴かせてあげますよ」
突然低めのモーター音がしたと思えば、床の一部が凹み両側にスライドし、ドライアイスでも焚いたのか白い霧とともに空色のスーツ姿の御曹司が、胸の前で腕を組み脚を肩幅に開きながらせり上がってきた。
映画か何かのようにスピーカーからファンファーレのような音楽を大音量で鳴らしながら。
その様子をデカルトは
「…あ…アズラエル…理事…長…殿…?」
と腹筋を抱えながら必死に笑いを堪えながら見守り、ハイネマンは
「…なん…じゃそりゃ…」
と顔を歪ませ肩をがっくり落としながら呆然と凝視し、技師は
「ククク…こんなこともあろうかと用意しておいたエレベーターと噴霧機が理事長様に使われるとは…!そう!我らアメリカ人の演出力はぁ!!世界一ィ!!!」
と訳の判らないことを口走りながら狂喜乱舞して出迎えた。
「P02の設計依頼自体は僕が出したものでね、実は宇宙空間での運用はあまり想定してないんです。というより対ザフト目的の設計でもない。戦後の戦略的駆け引きに用いる為の駒、そのプロトタイプがP02です」
「…何故今から連合の友軍との戦闘を想定する?」
「…プラント群の利権絡み、ってやつですよ」
アズラエルは溜め息をつき、壁に寄りかかりながら話を進める。
「プラントは表向きは国際プロジェクトとされてます。でも元から国際プロジェクトだった訳じゃないんですよ。元々はロシア宇宙開発局が宇宙開発で一気に優位に立つ為の切り札として極秘に計画、建造を始めたものですから。
他の国はそれが進んで表向きにも成果を出し始めてから大船に乗っただけです。結果として全プラント中70%以上がロシア管轄下になっていましてね、各国がロシアの後塵を拝する結果になっていました。
ところが14年前にザフトが軍事蜂起、プラントはザフトの勢力下に落ち一方的に独立を宣言。ここまでは我々にとっては害でしかありません。」
そう語るうちにアズラエルの表情がだんだん喜々としたものに変わっていき、語るスピードも加速していく。
「しかぁし、これから先は私たちにとっては有り難いことなんですよ!仮にも連中はプラントを国家として認めるように我々に要求してきた、ならば認めてやりましょう!一瞬だけね、そして戦争の果てに消えて頂きます。
そして後に残るのは誰のものでもなくなったプラントォ!領土交渉は戦果に応じて、後塵を拝した者にも光が差し込む。これで我々もあのロシアの後塵を拝する事も無くなるというもの…ならばその栄光への道筋を切り開く為のプログラムを組んでおくのは同然の道理…
その為の駒がP02、則ちアナタの機体なんですよ…デカルト大尉ィ…」
一気にヒートアップしたアズラエルが語り終え、息を整えようとする。顔の至る所に汗が吹き出、表情は野望に燃える策略家そのものだ。
「…ということは、02はロシアへの外交手段の魁、ということか。まさかとは思うが、ミラージュコロイドの運用の想定は要人の暗殺も含めたものか?」
「…何を言っているんですか、デカルト大尉?」
アズラエルが、その狂気すら含む瞳をデカルトに向け、さも当然のように語り出す。
「戦争だけでなく政治ってのは損失は最小限に、そして利益は最大限になるようにやるのが筋ってものでしょう?ならば迷う事も無い。その邪魔になるようなもの、そんなものは…
プログラムには、不要だ。」

 

「…成る程、そういう訳か。気に入らんな」
「ご心配なく、そこまで手を汚させるようなつもりはありません、今のところは」
「あぁ…こりゃマズいな…」
場が一気に険悪な雰囲気と化す。ハイネマンが制止しようかとしたが、その雰囲気を和らげたのは開く途中のドアを潜り抜けてきた女性だった。

 

「えっと…申し訳ありません!エーファ・L・シュレーディンガー少尉、遅れて到着しまし…あれ?」
「遅いですよ、シュレーディンガー少尉。」
「…彼女は?」
熱くなった頭を冷やすような顔を扇ぎながらアズラエルが紹介する。
「エーファ・L・シュレーディンガー少尉です。今回のミッション以降P02に大尉と同乗、オペレーティングと機体とパイロット間のBMD情報管制を担当する」
「えと…よろしくお願いします!」
「…」
デカルトは妙な違和感を幾つか感じた。
一にその容姿だ。この容姿とよく似た少女をデカルトは見た事がある。ELSと同化し、連邦軍にサンプルとして収容されたイノベイター予備軍、アーミア・リー。その少女と瓜二つなのだ。それだけならまだ偶然と思えるが、2つ目がそれを不審に思わせる。
二にその脳量子波だ。イノベイタークラスとまではいかなくとも、普通の人間とは比べ物にならない強さの脳量子波を発している。さらに、一瞬ではあるがイノベイターのそれを上回る強さの脳量子波すら発している。
(何者だ…こいつは…)
こんなものを身近に置かれるとなると、何を聞き出されるか解ったものではない。デカルトにとっては非常に厄介な事だ。
「ミッション開始は明朝0830。遅れないで下さいね、少尉?」
「だ…大丈夫です!今日は…」
「なら明日は30分前には座席待機するんだな」
「…え?ちょっと、大尉!?」
「俺はもう寝る。明日に備えて、な」
適当にその場から立ち去る口実を作り、デカルトは早足でその場から立ち去った。
少尉に思考を読み取られぬよう、本当に寝る気で予定を立てながら。

 
 
 

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