デカルト漂流記 in Cosmic Era 71_4話

Last-modified: 2013-04-18 (木) 19:23:06
 

林の中に、少しばかりの白が動いている。
それはデカルトがコントロールしているGAT-01だった。
「…失策だったか…それとも腕が落ちたか…」
現状で、デカルトのGAT-01はバルカン以外の兵装を全て失っていた。それだけではなく、シールドもその半分が砕け散りもう半分は半ば融解している。
状況開始直後、乱闘の最中の三機のMSへの奇襲にデカルトは成功していた。手始めに青い砲撃型にバズーカを三発叩き込み、そのまま他の二機も随時撃破するつもりだった。だが―
一番槍のバズーカ三発は、確かに砲撃型の胸部に直撃していた。だが砲撃型は生きていた、それも無傷で。それどころかこちらの存在を知らせただけで第一波攻撃は中断させられてしまった。
「…さぁて…どうするか…」
どうやら彼らは長い間身内だけで模擬戦をしていたらしく、個々の隙を消し合えるだけの連携は体得しているようだ。奇襲を受けたと知るや否や、三機全員でこちらを仕留めに出てきている。
『…さすがに情報無しでTPS持ちはマズかったか?』
「…戦場じゃこんなことは日常茶飯事だろう?」
『そりゃそうだ』
そう、ここは電子の流れの中の出来事とはいえ戦場。想定外という免罪符は役に立たない、そういった甘えは即死に繋がる。
現にデカルトもそれで一度死にかけている。元居た世界で、ソレスタルビーイングのガン#br
『つったって、3対1で武装以外無傷ってのは誇ってもいいんじゃないの?モニターにエラー表示出っぱなしの中でなら尚更さ』
「任務は任務だ。果たせなければ誇るものなど何も無くなる。」
今、GAT-01は相手と全く同じOSで動いている。だが、機体が違えば当然機能も違ってくる。あの三機は基礎動作や基本的なシステムは大方同じであることもあり手直し程度の修正で済むが、この機体は全くの別系統機だ。修正しなければエラーが必ず出て来る。
今、デカルトの前のモニターはそういったエラーの表示で一杯だった。尤も、その原因にはデカルトが面倒臭がって無修正で機体を動かしたのが第一に上がるのだが…。
「…で?TPSって何だ?」
『電圧を掛けてやると装甲強度が跳ね上がるうちの新型装甲だ。運動エネルギー弾に関しちゃまず無敵な上ビームにもある程度の耐性付きっていう、インチキみたいな奴だがね。その代わり、食らえば食らう程電力を喰うが…』
…成る程、だからさっきのバズーカが効かなかった訳だ。
そう考え、当然そうであろう前提を下地に感想を述べる。
「…そういう訳ね、HEATも無効化するとは大した装甲だ。」
…が
『は?お前、何言ってるんだ?』
突如、予想もしなかった返答が帰ってきた。
「…え?」
訳が解らず、素っ頓狂な声が出てきてしまった。
『…知らないのか?』
「…知らないって…いや、バズーカの弾種って…」
『何言ってんだ、バズーカやミサイルの弾種は全部HEだぞ?何を常識外れな問いをしようとしてるんだお前?』

 

――ピーン――
モニター側から電子音が聞こえた。
モニターには、書き込み途中のOSの途中からkの文字が40ほど続いている。どうやら、一行当たりの文字数の限界になったらしい。
デカルトの指はOSをフラッグのものベースに書き換えている最中で、Kのキーを押したままピクリとも動かない。その代わり引きつった顔はピクピク動いていたが。
「……マ…マジ…な…のか…?」
10秒かけてやっと一言出すことが出来た。それでも指は動かない、いや、動かせない。
『そりゃそうだろ?今更HEATなんて旧世代の遺物、何に使うんだ?』
「……遺…物?」
無茶苦茶な答えが返ってくる。旧世代の遺物?HEATが?
『HEATなんて100年は使用も製造も保有もされてないぞ?…しっかし、懐かしい響きだなぁ…士官学校以来だ』
「………」
無茶苦茶だ。無茶苦茶すぎる。そう、デカルトは感じた。

 

HEATは西暦でも脅威と成りうる弾種だ。非GN機は勿論だが、GN機にとってもそれは変わらない。
アロウズとカタロンの戦いでは、撃墜には至らなかったものの四肢を破壊されたジンクスが多数出ている。
その多くはフラッグやイナクトのプラズマブレードではなく、ティエレンの滑腔砲から放たれるHEAT弾によるものだった。中には、長距離型の30サンチの直撃を受け、ドライヴを完全に粉砕された機体すらある。
確かにGN粒子を浸透させた装甲は飛躍的な強度を発揮する。だが、それでもHEATのモンロー&ノイマン効果による装甲侵徹は避けられない。カタロンがアロウズに対抗し得たのはこれが大きかった。

 

そのHEATが無い。これは、対PS装甲戦に対してでも非常に大きい事だった。
HEATが吐き出すメタルジェットのエネルギー量は並みの砲弾のエネルギーを遥かに凌ぐ。これを受け止めるとなれば、いかにPS装甲といえども侵徹を許すか大量のエネルギーを消耗するかの2択を迫られるのは間違いない。
「…これは…キツいな…」
『…まあ、まずは目の前の奴をどうにかしようや』
相手の三機が、こちらを見失ってから再開した乱戦に伴ってこちらに徐々に近付いてくる。このままでは丸腰で戦うことになる。
『教官機特権でコンソール操作で周りに武装の類を配置出来るから、そいつを使え!』
そう指示を受け、安心した。ならばビームライフルを取り出して撃ちまくればいい。
そう判断したが…
「おい、ビームライフルとサーベルが無いぞ!?HEATが無い上実弾が効かない相手にどうやって戦えって言うんだ!?」
『制式採用予定の奴のデータ登録がまだなんでね…データさえあれば配置は可能なんだが…』
最悪だ。ライフルもサーベルも無く、実弾のみで戦えというのか。
―いや、データさえあればいいなら…
「…ハイネマン…こっちで即席で設計したデータでも配置は可能なのか?」
『あ?一応可能だが…何する気だよ?』
「ギブアップするのは御免なんでね!!」
そう云うなり、キーボードを凄まじい速度で叩き出す。OSは完了。あとは兵装…
『…ま、お好きにどうぞ。機能使って存分に八つ当たりでもなさってね、っと』
呆れたようなハイネマンの声が途切れる。観戦モードに入ったらしい。
「…言われずとも…」
準備は整った。
右腕に57ミリ機関銃、各部にアーマーシュナイダー8本をマウント、左腕にシールドをマウントする。そして左手には―
「存分にやらせてもらいますよ、場当たり的ですけどね!」
―長い円柱と太い円柱を組み合わせた、異様な物体が保持されていた。

 
 

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