パトリック・レポート◆ヴァンダムセンチネル氏 03

Last-modified: 2016-03-04 (金) 01:11:27

『その3』
 
 
私はこの日、自分の業は自分に帰ってくることを痛感した。
命は一瞬にして失われる事、アスランの怒りと悲しみの叫び……

「カガリは死んだぞ。死んだんだぞ・・・・・・!! うっ・・・・・あ・・・・ああああ・・・・ああああああああーッ!!」

私と同じ過ちを繰り返すかもしれない……。

私「レノア……アスランを守ってやってくれ……」

アッー、アッー、アッー・・・・!

私は、カモメの鳴き声を聞きながら海を眺めていた。
異世界からの来訪者とともに(彼は気がついていないだろうが)。
生前ならばナチュラルなど視界に入れたくもなかったのだったが……。
しばらくすると、彼の仲間らしい白衣の男がやってきてこれからの事を相談しはじめた。

「そうだな、私もステラを放り出して逃げ出すわけにはいかん
  お互いに辛いな」
「よし! ちょっとは俺らしいことやるか!」
「ほう、俺らしいこと?」
「ああ。せめて俺にできることをと思ってさ」

少年はそう言うなり走り去った……。

私「できること…か」

私はそれが気になり、それを追った……

………その後、私は考えた。
私は幽霊でもはや生者にすることはなにも無い。
だが、それでも私にできることは一つある。
それをするために私は慰霊碑に跳んだ。

私「ウズミ殿……」
ウズミ「……あなたですか(小さい声で)」

私はアスランに憑いてオーブに滞在した時、
彼に出会い、隣人として付き合うようになっていた。
理想主義に走りすぎるものの、実直かつ誠実な人物であると私は感じている。

私「このたびは…お悔やみ申し上げます(頭を下げる)」
ウズミ「………(無言で頭を下げ、海の方に視線を向ける)」
私「………」
ウズミ「………私は理念を貫き通した。
    だが、国は焼かれた。
    そしてカガリも……」

私は『オーブの獅子』と呼ばれた男の背中がとても小さく感じられた。
しばらく私は、彼の話を聞き続けた。
オーブの事、カガリの事、キラ・ヤマトの事……
全てを話し終えるまで声をかけなかった。

ウズミ「(全てを話し終え)すまない……愚痴を聞かせてしまって…」
私「(首を横に振る)いや…私も同じですから…。」

その後、しばらく互いに無言の時を過ごす。

ウズミ「……このままだと、あの時を繰り返すのだろうか…
    いや、ウナトならば連合に下るだろうか…」
私「いや、愚息と……ガロード・ラン…
  DXのパイロットが力になってくれる。
  過ちを繰り返すことなく、良い方向へ導いてくれる。」
ウズミ「DX……あのような大きな力はこの世界には不要ではないか!!(私の胸元を掴む)」
私「……私は、力は使い方次第だと感じ始めている。
  恐ろしい力でもユニウス7を落とすことを防いだように人を救うことができる。
  私は、DXとそのパイロットは信じてもいいと思う。」
ウズミ「同じコーディネーターだからか?」
私「彼はナチュラルだ。」
ウズミ「な……」

彼が驚くのは当然だろう。
ナチュラル殲滅を唱えたコーディネーターがナチュラルを信じると言ったのだから。

私「彼は言っていたよ…『過ちは繰り返さない』と……
  大きな力に心を飲み込まれることはないと私は感じたよ…」

彼は、ナチュラルでありながらコーディネーターと渡りあい、
異世界のことでありながらもこの世界を救ってくれた。
私は、コーディネーター…いやこの世界の人々が持っていないものを彼が持っているのだと確信した。

ウズミ「………」
私「ウズミ殿……貴方の意思を継ぎつつ、より良い方向へ導いてくれる人間は現れるよ」
ウズミ「………」
私「ついて来てもらう。」

私は彼を連れて跳んだ。

そこは丁度会議中であった。

「ついに来たか・・・・。地球連合に我々も参加せよとの、圧力だな・・・・。
  同盟をせねば、オーブを攻めるというわけか・・・・・」
「かくなる上は、大西洋連邦と同盟を結ぶしかありませんか・・・・」

彼は悲しみと諦めの顔をしていた。

バン!

そこにはユウナ・ロマ・セイランと、アスランがオーブの軍服姿で立っていた。
かつては暗愚と評価した男『セイラン』の息子ではなく、
獅子を思わせる『アスハ』の後継者としての風格が漂っている。

「オーブの理念は、
  他国を侵略せず・他国の侵略を許さず・他国の争いに介入しないというものだったはずだ!
  今回の地球連合の動きは、明らかに侵略である
  我々はそれを許してよいのか!」
「ユウナ・・・・?」
「私はユウナ・ロマ・アスハ! カガリ・ユラ・アスハの夫である!
  ゆえに、セイラン家の人間ではなく、アスハ家の人間として決断する
  大西洋連邦の艦隊が攻撃した場合、打ち払う!
  そしてオーブは独立を維持し、その理念を貫き通す!」

ウズミ「おお……」
私「彼なら我々の犯した過ちを繰り返すことはないだろうな…」

私は『プラント』のためではなく、『オーブ』のために闘うことを決意したアスランに寂しさを覚えた。
しかし、もはや一人前になった男に言う事は何もなかった。
ただ、全てが終わったときに『人』であり続けて欲しい、それだけを願っていた。

(つづく)

ジャンク! その2

アークエンジェル級三番艦ヤタガラス。
オーブ軍外部部隊タカマガハラの象徴的存在であり、搭載されているMSをあわせれば一国の軍事力の匹敵する。
だが、ある問題が浮上している。

<食堂にて>

「ポルターガイスト?」

ヤタガラス艦長のアスラン・ザラは怪訝そうな顔で副長のイアンに問い返す。

「はい、整備兵が物が勝手に動きだすと。」
「………集団幻覚や愉快犯が起こした可能性は?」
「それもないようです。」
「……そうか。」

激務で疲れた表情がより悪化している。

「艦長、私も空いた時間に調べてみましょう。」
「イアン…いいのか?」
「構いません。艦のチェックと把握と平行して行いますし…
 艦長は気にせず、休んでいてください。」
「…すまない。」

イアンを食事を切り上げ、仕事へ戻った。

イアンは空き時間に一人で倉庫を見て回った。
とくに収穫がないから切り上げようとしたとき視界の隅で光を見た。

「…!?あれは…」

光を確かめるべく進むと薄く透けているが人が立っていた。
それは写真で見たことはあるが、ここに存在することはありえない存在。

「…パ、パトリック・ザラ……」

イアンは喉の渇きを感じずにいられなかった。

パトリック「(声をかけられたことに驚きつつも振り返る)……私が見えるのか?」
イアン「…ええ。しかし…何故?」
パトリック「……解らない。死んだらいつの間にかこうなっていたと。
      幽霊なぞ非科学的と笑ったものだが…」

彼曰く、彼が居座る倉庫で大雑把に荷物が置かれているが耐え切れずに整頓していたらしい。

イアン「……それで艦長を見守っていたのですか?」
パトリック「ああ……」
イアン「何か伝えようとはしないのですか?」
パトリック「(首を横にふる)いや…もう一人前だ。
      老人の戯言なぞ害悪にすぎない…」
イアン「(想像していたのと随分異なるな…)ええ、素晴らしい上官だと思います。」
パトリック「……息子を頼む。まだまだ危なっかしい。」
イアン「……はい。」
パトリック「また、会おう(と言って消える)」

その後、頻繁にイアンはパトリックと会話を行うが……
周りから『仕事疲れで壁の染みに向かって会話している』と心配され、強制的にテクスのカウンセラーを受けたのは別の話……