パトリック・レポート◆ヴァンダムセンチネル氏 08

Last-modified: 2016-03-04 (金) 01:24:50

『その8』
 
 
憔悴しきったアスラン……だが、死者である私には何かすることが出来ない……

「おーい、アスラン?」
「ガロードか・・・・」

ガロード・ランが入ってきた……今のアスランを少しでも元気付けてくれればいいのだが。

「あ・・・・」
「なにか用か?」
「いや、聞いてくれよ!
  DXの修理ができるようになったんだよ・・・・あのクラウダってMS、ルナチタニウムで出来ててさ・・・・」
「そうか・・・・・」
「んだよ、喜んじゃくれねぇのか、アスラン? いや、喜べる状況じゃねぇってわかってるけどさ・・・・」
「・・・・・ザフト兵に、復隊命令が出た」
「え?」
「シン、ルナマリア、レイ、メイリンら、ザフトの人間はヤタガラスを降りろ、と・・・・・
  デュランダル議長から正式に命令が出たんだ」
「なっ・・・・・!?」

ヤタガラスから力を取り上げるつもりのようだな。

「俺とおまえは、『FAITH』だから・・・命令が出ていないが・・・・・」
「そんな! ふざけんじゃねぇ! デュランダルのおっさんはどこにいるんだよ!」
「会いにいくのか? やめておけ・・・・・。ガロード、議長はおまえのことを異世界の人間だと知っているのだろう?」
「それがどうしたんだよ!」
「あまり目立つことをするな、ということだ。『今の』議長は信用できん・・・・。下手をすれば拘束されるかもな」
「そんな無茶なことをするか、あのオッサンが?」
「・・・・・それに、これは普通の命令だ。オーブがああなってしまった以上、タカマガハラは崩壊したも同然だ
  なら、ザフトも有能なパイロットを手元に戻したいだろう・・・・・」
「でも・・・・・」
「じゃあどうすればいいって言うんだ!」

……今のデュランダルは今までの方針とは全く異なる……まるで人が変わったかのようだ。
その時、また部屋に入ってくる男がいた。
オレンジの髪の青年……FAITHのハイネ・ヴェステンフルスか!

「あ・・・・ハイネ、だったっけ?」
「久しぶりだな、ガロード。それにしてもずいぶん険悪な雰囲気じゃないか」
「なんの用だ、ハイネ・・・・」

アスラン……指導者ならば動揺を周りに悟らせるべきではない……もっとも私も同じだが。
ハイネは、アスランの言葉を流して近づいてきた。

「オーブを失って、母艦はボロボロ、キラ・ヤマトは反則的に強くて、ラクス・クラインは民衆の心をつかんでいる
  その上、パイロットやMSを返せとザフトは言ってきた。大変だなぁ、アスラン?」
「負けた俺を、からかいに来たのか、おまえは・・・・・」
「ふーん。一度、負けた。完膚なきまで負けた。だから諦めるのか、おまえ?」
「なに・・・・!?」
「アスラン・ザラってのはこんなもんか? おまえはとっくに忘れたのかも知れないが・・・・・
  前大戦、フリーダムとジャスティスの名は同等だったんだぞ」
「・・・・・・・・」
「おまえはキラと互角だったんだよ。少なくとも、世間の人間はそう見ている。
  なのに情けないなぁ・・・・。アスラン、おまえはホモか? タマ無しか?
  キラがそばにいなきゃ、なにもできないオカマ野郎か?」
「ハイネ・・・・!」

……私はハイネの意図を悟った。
とても不器用だが、息子を奮い立たせようとしてくれている事を……。
アスランはハイネの言葉に激昂し殴りかかる。

「黙れ・・・! ハイネ・・・・! キラがいなければなにもできないだと・・・!? 
  俺がキラにどんな想いをさせられたのか・・・・・!」
「じゃあ、なんで戦う前から白旗あげてるんだよ」
「え・・・・・」
「もう一回言うぞ。フリーダムとジャスティスは、並び称された名前なんだ
  アスラン、おまえはキラと戦って、負けたのか? もう戦うことはできないのか?」
「・・・・・・・・・・」
「MSが足りない? 国を盗られた? 結構じゃないか! 
  おまえ、自分が前大戦でなにをやったのか忘れたのか?
  極少数のMSで、圧倒的に多数のザフトと連合の戦いに介入して、戦争を終わらせたんだぞ?
  あんな無茶はもうやらないのか?」
「・・・・・・・・・まさか、ハイネ」
「・・・・おまえが負け犬のタマ無し野郎なら、死ぬまでそこで這いつくばっていればいいさ」

息子は、その言葉を受け、負け犬から戦士の顔に変わる。
アスランは、ユウナの部屋へ向かっていった……発破をかけに行くのだろう。
これでいい。彼らはまた立ち上がれる。
私はハイネに向かって一礼する……例え伝わらなくとも感謝の意を示したかったからだ。

私はアスランの部屋を出た……まあ、なんだ……親子といえど立ち入ってはならぬ時があるというものだよ。
ガロードの様子を見に行くとしよう……む、ジャンク屋が近づいてきた。
それなりに若いが修羅場を潜り抜けていそうだが……何故だろうか、それでも頼りないというか……ううむ、まあいい。
サングラスをして怪しいが……だが、ガロードの様子から彼の知己、それも『向こう側』の人間のようだ。

「いいか、ガロード。ギルバート・デュランダルは偽者だ」
「なっ・・・・!? いきなりなにを・・・・?」
「いいから聞け。コイツをアスラン・ザラに渡しな」

男から小さなメモリーディスクを渡された。
それだけを言うと、男は背を向けて去っていった。

「ちょ・・・・待てよ!」                            
「俺の雇い主は、本物のデュランダルだ。じゃあまたな、ガロード。宇宙で会おうぜ」

ガロードは、ディスクを持ってアスランの元へ……あ。
私は今アスランの状況を思い出す……。

「あ・・・・・」
「え・・・・・」
「ああ・・・・きゃぁぁぁ!」

……未熟者だな。