パトリック・レポート◆ヴァンダムセンチネル氏 09

Last-modified: 2016-03-04 (金) 01:38:07

『その9』
 
 
その時、ガロード・ランという少年にはDXを破壊された時の恐怖が蘇ったのだろう……
だが、それをも上回るなにかが……彼を突き動かされたのだと思う。

「・・・・アスラン、世話になったな」
「ガロード?」
「悪い。俺、ちょっと行ってくる」
「行くって・・・・どこへ、だ」
「ちょっとあそこへ突っ込んで来る。悪いな、俺、やっぱり軍人無理だわ
  これ、デュランダルのおっさんに返しといてくれ。もしかしたら、死ぬかもしれねぇし、勝手なことすんだし」

澄み切った表情でガロードは胸にある『F』の紋章を外し、アスランに押し付けてMSデッキへ走り出す。
自分の今まで積み上げた立場を戸惑うことなく捨て去り、死地へ向かう……確かにそれは愚かしいのだろう。
だが……私にはとても眩しく、崇高なものに感じた。

『やめろ! 勝手なことをするなガロード! いきなり『FAITH』やめますと言われて、はいそうですかと通るか!』
「そうだろうな。でも仕方ねぇんだよ、こればっかりは。説教なら後で聞くぜ。トニヤ!」
『はいはい。今あけるからねー。艦長、仕方ないわよ。だってガロードだもん』
『そうそう、ガロードだからな。止めても、無駄無駄』
「待ってろ・・・・今行くからな! ガロード・ラン、バビ、出るぜ!」

昔の自分なら一笑に終わったのだろう……だが今は彼の生還を祈った。
ナチュラルを害虫のように駆除しようとした私が……変われば変わるものだ。

『じゃっじゃじゃーん! 炎のMS乗り、ガロード・ラン様がティファを助けに来たぜ!』
「なにをやりたいんだ、あいつらは・・・・!」

私は彼のように、レノアを救いに行こうとするのだろうか?
……私はその答えは出せない、出す資格がない。
その時通信が入った。シン・アスカ……アカツキのパイロットか?

『艦長、アカツキとガイアを出させてください!』
「シン・・・・? バカを言え! おまえまで行ってどうする・・・・」
『でも、ガロードが! あのままじゃ死にますよ、あいつ!」
「クッ・・・・・」

アスランはもう一度、歯噛みした。
イアンは一瞬私の方向へ視線を向け、アスランに進言した。

「艦長。ヤタガラスを、戦域まで近づけましょう」
「イアン。戦闘に介入しろ、というのか?」
「いえ、近づけるだけです。それだけで十分でしょう
  私は敵であったから、わかります。ヤタガラスとは恐ろしいものなのです
  そこにいるだけで怖いのですよ」
「ザフトとも、オーブとも、戦うのは馬鹿げてるが・・・・」

イアンの進言を聞いても尚、決断に迷うアスラン。

『艦長! 出させてください、せめて俺だけでも!』
「シン、少し黙っていろ!」
『でも艦長! 忘れたんですか! あいつがいなきゃ・・・・ユニウスセブンは落ちてたんですよ!』
「・・・・・・・・・」
『あいつ他人なんですよ! この世界にぜんぜん関係のない・・・・なのに、あんな必死になって、
  たくさんの人が死ぬのを食い止めてくれたんです。そいつが今、なにより大切なものを取り返しに行って・・・
  女の子を助けに行くなんて、戦争してるヤツからしたら馬鹿げてるかもしれませんけど・・・・
  俺たちはそれを黙って見ていていいんですか!?』
「・・・・・・・・」
『俺たちはあいつにでかい借りがあるんです! なのに、借りを借りのまま置いとくなんて・・・・俺は嫌です!』

私はかつて復讐で歪んだ少年に今、思い人を救いに行った異世界の少年と同じ輝きを見た。
冷静な私の心は彼の言葉を却下していた。
だが、私は拳を握り、無意識に『行かせろ』……そう呟いていた。

「シン」

アスランは息をついた……覚悟を決めたようだ。

『艦長?』
「そういえば、俺もガロードに救われたことがあったよ。ユニウスセブンの時にな
  来るなって言ったのを無視して、ブリッツに追い詰められた俺を助けに来た
  別に親しくもなんともなかったんだがな」
『艦長・・・・・』
「シンゴ、ヤタガラスを戦域まで前進させろ! MS隊発進準備!
  シン、そこまで言うからには、ガロードもアカツキも無傷で連れて帰って来い!
  それでさっきまでの生意気な発言は許してやる」
『あ、ありがとうございます!』

奇跡が起こっていた。
バビは、ドラグーンを何度も掻い潜った後、MSからべイルアウトし、ガロードは、レジェンド……彼女を閉じ込めた檻へ取り付き、ビームナイフを何度も振り下ろす……
だが、フリーダムはその光景になんの感慨も持たず、ガロードごとレジェンドを薙ぎ払おうとする……
私は全身が沸騰する思いだった……
あの光景を見て何も感じないキラ・ヤマトへの嫌悪なのか? レノアを救えなかった事や、カガリ姫の非業を死を思い出させるためか?
頼む……レノア、彼を守ってやってくれ!!

『護れ、マガタマ』

ドラグーンを阻むバリアー……強き意思を込めた声が、金色のMSが白き暴君を阻む……

『キラ、あいつの邪魔はするな・・・!』
「アカツキ・・・!?」
『あいつが誰だと思ってるんだ。おまえが地球でのうのうと暮らせたのは、誰のおかげだと思ってるんだ・・・』
「シン・アスカ・・・・・」
『よくも好き勝手やってくれたな! ユウナさんの想いを踏みにじって、トダカ一佐も殺して・・・・!
  力があるからって、自分の正義のためにおまえは・・・!』
「やめてくれ! 君にもわかっているはずだ、議長を僕たちは止めなくちゃいけない!」
『ああ、わかってるよ。この世界でなにが起こっているのか・・・あんたよりはるかにな!
  だからこそ、あんたは許せないんだよッ!』
「どうしてデュランダル議長の味方をするんだ! 世界をおかしくしたいのか、君は!」
『そうやって、また・・・・自分勝手な理屈と正義で、人の想いを踏みにじるのかよ、あんたは! 
  どうして人の痛みがわからない・・・・人の想いがわからない・・・・!
  だから俺は、あんたには負けられない! シン・アスカ、テンメイアカツキガンダム、行きますッ!』

ガンダム……彼らの世界では特別な意味を持つMSのことらしい。
アカツキと呼ばれたMSは今、ガンダムの名を手に入れた……ならば、彼らが負けることはありえない。
フリーダムの腕はシールドごと切り落とされ、逆に守りに置いて鉄壁を誇った……。
シン・アスカ……彼ならガロードを守りきれる……。

「美しいものですな、艦長」
「ああ。どうしようもない、バカな行動なはずだ・・・・。なのに、どうしてこうも・・・・」

イアンは呟いた……アスラン、いやヤタガラスのクルーもまた心を動かされたに違いない。

「出られるのですか、艦長?」
「・・・・俺も馬鹿の一人のようだ。イアン、艦の指揮は任せる」
「はっ」

その時、メイリンが声を張り上げた。

「艦長! ミネルバの、ハイネ・ヴェステンフルスから、専用回線で緊急入電です!」

それは、起動要塞メサイアが動き、オーブ艦隊をまとめて宇宙の藻屑へ変える切り札、ネオジェネシスを発射するという知らせだった。

オマケ

『……私は駄目な親なんだ』
「……飲んでください(育児の才能を伸ばすコーディネイトとかないんだな……)」
「私も娘に苦労したものです」

タケミカヅチでひたすら酒を飲むシーゲルと仕方なく付き合うトダカ……と流れ着いたアルスター氏。
 
 
※未完※