『マリナ 新たなる戦術 第1話』
アザディスタン代表のガンダムファイター、マリナ・イスマイールは都市から離れた荒野に敵ファイターと向かい合っていた。
相手はエジプト代表、レザー・クルスーム。185センチの大男でいかにもパワーのありそうな風体をしている。
「闘いにゃ似つかわしくねえ姉ちゃんだ。皇女様がよくやるぜ。
楽しめるんだろうな?」
どこかサディスティックな笑みを見せるレザーにマリナは静かに、だが毅然と答えた。
「……私にとっては楽しむものではありません。ただ、国の為に闘うだけです。」
「まあいいさ、精々泣かないようにな。ガンダム!」
レザーの大声と共に大地は割れ、ガンダムグレイブは姿を表した。
マッシブな人型ではあるものの、ピラミッドの頂点を思わせる尖ったパーツが複数付いている。
「ガンダム。」
対して静かに呟くマリナに答え、大地から現れるガンダムファーラ。弓と槍の闘いに適した純白の機体だ。
二人のファイターの声が重なる。
「ガンダムファイト!レディーゴー!!」
「喰らいな!」
「なんの!」
グレイブの全身に付いた突起から繰り出される大きな砲弾を得意の弓術で破壊していくマリナ。
「この調子で勝てれば……」
冷静に素早く近付くマリナ。しかし……
「どうかな!?」
突如猛スピードで迫るグレイブ。砂を掻き分けスムーズに走るその様に驚くマリナ。
「これは……!」
「この機体は様々なフィールドに対応できるように換装式になってんだ!
アマゾンなら湿地、海なら水中、砂漠ならホバータイプだ!」
瞬時に接近を許してしまい、弓を叩き落とされるマリナ。
「そんな!」
「非力な姫様には勝機はねえぞ!」
片腕を捕まれ抵抗できなくなるマリナ。
必死で外そうとするも相手は動じない。
それもそのはず。グレイブはパワーに長けているのもあるが、そもそもマリナは他のファイターに比べ非力。
よってパワータイプを操るのは負担になる。
それを補う為の槍と弓だったが落とされ身動きできなくなったとあれば勝ち目はない……。
皇女の戦況は絶望的だ……!
「まだ、諦めない……」
サイドスカートから取り出したスペアアロー……
しかしそれさえも叩き伏せられてしまう。
やはり遠距離でこそ輝く武器。至近距離ではどうしようもない……
「ほら、喰らいな!姉ちゃん!」
「きゃああぁぁ!!」
肩、腰、脚に砲撃を受ける。ファイトのルール上、コクピットを狙うわけにはいかないので必然的に食らうのはそれらの場所になる。
「さあて、頭を狙わせてもらおうか……」
「……!」
ファイターとしての本能とでも言おうか、瞬間的に精神がクリアになったマリナ。
恐れも焦りも心の奥に沈み、反射的に片足を上げて思いきり敵の片目にキックを直撃させた!
「ぎゃぁぁぁ!!」
一瞬の強い攻撃に悲鳴を上げファーラを離すグレイブ。
砂の上に尻餅を着いて何とか距離を取るマリナ。
「やろう、目を……ファイトはお預けだ。また一週間後に来るぜ!」
飛び去っていくグレイブ。
「はぁ、はぁ…………私の武器が通じない……」
汗を拭いながら飛んでいく巨体を見つめるマリナ。
そこに一体の小型飛行機が降り立った。
中から現れた女性を見てマリナは驚いた。
ウェーブのかかった短いブルネット。眼鏡の奥に光るクールな瞳。年はマリナより少し上だろうか。
「あなたは……シーリン?」
「久しぶりね。マリナ。」
マリナは機体から出ると飛行機にいる彼女に駆け寄った。
マリナの秘書をしていた女性、シーリン・バフティヤール……
外交の為、暫く国を留守にしていたのだ今日戻ってきたのだ。
皇女は頬を染めながら……
「あの……今のファイトは……」
「ええ、見ていたわ。一国の代表としては少し酷いわね……」
「言い訳はできないわね。でも、後一週間しかリミットが……」
「そう、それなら私に良い提案があるわ。ここで挽回できなければ……わかるわね?」
「…………」
マリナは首を縦に振った。