マリナ 淑やかな闘士

Last-modified: 2020-07-19 (日) 03:05:14

『マリナ 淑やかな闘士』

 

「すごい、ガンダムめっちゃデカイ!」
「負けるな、皇女さま!」

 

ここは、中東のアザディスタンのとある町にある孤児院ーーー
子供達はこぞってテレビに釘付けになっているが、アニメではなくスポーツの特集。
それも、先日ノルウェーで行われたガンダムファイトの映像だ。
まだサバイバルイレブンの段階だがこの手の番組の視聴率は高い。

 

司会者はテンション高く実況を続けている。

 

「さあ、始まりました!我れらがノルウェーと中東のアザディスタンとの試合!
我らが代表、広大な炭鉱を有するキルステン・バルグの駈るガンダムブラース
対するはアザディスタンのファイターにして皇女でもある……マリナ・イスマイールの駈るガンダムファーラ!!
一体勝利の女神はどちらに微笑むのか!
ガンダムファイト!レディ……ゴー!!」

 

ノルウェー代表はハンマーを持つガッシリとした神話のドワーフのようなガンダムブラース……
キルステンは立派な髭を生やした大男。
青銅のような暗いスーツに身を包んだ筋肉質な姿。

 

対するアザディスタンは、細身の青紫のガンダムファーラ。女性的なしなやかなラインは正に皇女専用と言った趣だ。
画面に映ったその乗り手に子供達は目を奪われた。
皇女にしてファイター……マリナ・イスマイールは長く豊かな黒髪、白い肌、澄んだ水色の目の女性だ。
普段から国の安定や貧困に喘ぐ各地の慰問に力を入れているので、今は眼前の敵を厳しく睨んでいてもその優しいイメージは国民から消えることはない。
格闘家らしからぬのは顔だけではない。
スラリと伸びた手足、ほっそりした胴体。
しかし鍛えられているので程好く引き締まったシルエットと筋肉の切れ込みが青紫のスーツから見える。

 

テレビの前の女子はその雰囲気に、そして男子は美貌とスタイルに各々釘付けになっていた。
特に、このアクバルという少年は一番目を輝かせている……
彼はやんちゃで孤児院の職員が手を焼いていた。

 

「行け!皇女さま!!」
「おい、アクバル。落ち着けよ!」

 

振り上げた腕を友達に退かされても画面に魅入るアクバル。

 
 

マリナは右手には槍を構え、走ってくる相手を静かに待ち構えている。

 

「一撃で勝つ!」

 

ドワーフ宛らに体格の良いファイターの力強いモーションから繰り出される攻撃。
次の瞬間には皇女の機体の小さな頭部は破損するだろうと思われたが……

 

「なに?!」

 

すんでのところで相手を見失い戸惑う。
……次の瞬間

 

「どこだ!いきなり……あ……」

 

突如感じる腹部の痛みに仰け反るファイター。
マリナのファーラが持つMFサイズの槍が機体に命中していた。
倒れるキルステン。
瞬時にしゃがみこみ素早い一突きを食らわせたのだ。

 

「勝者、マリナ・イスマイール選手!」

 

圧倒的な勝利に驚きと興奮を隠せない子供達。

 

「すげえ、細いお姉さんが一発で相手を!」
「女性ファイターいるって聞いてたけど、ホントに勝てちゃうなんて、あたしも自信持っちゃったぁ。」
「おまえ、ファイターにはならないだろ。でも速攻で勝っちゃうんだから凄いよなあ!」

 

口々に感心を表す中、いつもは賑やかなアクバルは興奮のあまり何も語らず、笑みを浮かべて画面のマリナを見つめるだけ。

 

(す、すげえ……あんなに綺麗で強いなんて……
それに、あのスーツテカっててハッキリとスタイルがわかってそそるよな……)
10歳程の少年の関心事はやはりそこだった。

 

そこへやってくるシスター達。

 

「みんなー、今日はお客様が来ておりますよ!さあ、どうぞ。」

 

「皆さん、こんにちは。マリナ・イスマイールです。」

 

子供達は呆気に取られた。さっきまでテレビに出ていた姫がここに立っている。
控えめながら雅な佇まい。そしてフランクで優しい笑顔に誰もが目を丸くした。
身に纏うのは流石にあのピッチリスーツではなく、白い上着に紺色の膝丈スカートというシンプルな姿。
職員が企画した子供達への一大サプライズで、話を聞いたマリナはファイトのテレビ放送とタイミングを合わせるというアイディアに戸惑っていたが、子供達の励みになりたいと承諾した。
今日も他の国でファイトをした帰りに寄ったのだ。
孤児院から少し離れた場所に今日だけ置かせてもらっているガンダムを後で子供達に見せるサプライズも用意している。

 
 

「え、えーすごい!ホントにマリナ様?」

 

「信じられない!今テレビ見てたとこだよ?」

 

皆沸き立って彼女を取り囲む。

 

「ええ、前回の闘いよね?何だか恥ずかしいわ。でも、皆に元気を少しでも分けられたみたいで良かった……」

 

はにかみながら談笑を続けるマリナ。
やがて彼女は皆が戦争や犯罪が原因で家族を失っていた話を聞いて慰めたり、得意のピアノ演奏で楽しませたりしていた。
そんな時……

 

「ターッチ!」

 

「キャッ……!」

 

小さな手がマリナの胸を豪快に触った。
やったのはいたずらっ子のアクバル。

 

「ちょっとアクバルー、皇女様になんてことをー!」
「全くホントにこの子は…!こういう時に……!」

 

赤面しながらアクバルを戸惑いの目で見続けるマリナ。

 

「……んーテレビで見たけど、思ってた以上に小さめだなー
ここのシスターさんの方がでかかったぞ?」

 

「……わ、私は鍛えてるからそんなに大きくならないだけで」

 

初めて触れられた驚きでスムーズに話せないマリナの代わりにシスターが捕らえようとするが、少年らしい俊敏さで建物を出ていくアクバル。

 

「小さいけど、柔らかくていい感じ……
鍛えててもやっぱり女の人だな。」

 

掌を見つめながら広い空地に行くと、彼は一気に目を丸くした。

 

「これは……あの、マリナ様のガンダム!?」

 

大木や簡素な滑り台やジャングルジムという日常的な光景の中に一際目立つ鋼の塊が片膝を着いてそこにあった。
さっき皆でテレビで見て盛り上がっていた自国の守り神・ガンダムファーラ。
頭部や腕部、脚部は殆どのガンダム同様に純白。
胴体と肩はマリナが演説や国内各地への訪問時に着ている正装宛らの鮮やかな青紫。
新聞等で見た他国のガンダムよりずっと華奢で格闘用機体というイメージはかなり薄れるが、やはり巨大人型マシンなので間近で見た迫力はかなりのもの。あんぐりと口を開けてしまう。

 
 

「……マジか?信じられねえ……あのMFがここにあるなんて……」

 

グルリと回り様々な角度から機体を鑑賞していくと、男特有のメカへの憧れが刺激される。

 

「実際に見るとでけえな……ん?」

 

背中から入る方式なのだろうが、肝心の背中ハッチが少し空いている。まるで入ってくれと言わんばかりの様子。
しかもそこから太いワイヤーが垂れ下がっている。いつもこれで乗り降りしているが、今日は仕舞い忘れたのだろう。
それを見て好奇心と悪戯心に溢れた彼に大人しくするのは無理だ。

 

「……やってみっか。」

 

グリップに付いたボタンを押すと背中の位置にスルスルと上がっていく。

 

「この高さ、何か不思議な感じだな……遊具の上に上がるのとは何か違う。
しかしマリナ様、意外と不用心だな。そこが可愛いか、フフッ。」

 

綺麗な皇女の「一人部屋」に侵入するようなスリルを持ってにやけながらコクピットに入ると、そこにはテレビで見たのと同様殆ど何もない、しかし真っ暗な空間が広がっていた。
手探りで探し当てた壁のライトを付けると無機質な壁に周囲の見慣れた町の風景が写し出され、天井と床に一つずつ設置されたリングが見えた。

 

「おー、テレビと同じだ!よく映ってるじゃん!
この高さだと色々イメージ違うなー。絶景かな、ってな。
取り合えずマリナ様ビックリさせたいから待ってるか!」

 

コクピットの隅にドカッと座る。
それとほぼ時を同じくして、上空には一体の剛健な外観のガンダムが飛んでいた。
メキシコ代表のガンダムスティンガー。手足に付いた複数の棘、サイズは大小様々。
乗っているのは荒れくれ者のバイス・アリアス。元野盗・名うてファイターの一人だ。
180強の身長のガッチリした身体。日に焼けた肌に僅かな顎髭を蓄えている。

 

「ここか、アザディスタンの姫が来ている場所は。腕が立つようだが叩きのめしてやるぜ!」

 

掌に拳を当てて意気込む。彼は元野盗だけあり、手段を選ばず卑怯で荒っぽい戦術を好むファイター。
自国からも色々問題視されているが一番の適任者ということで御上が目を瞑っているのが現実。

 

何人かの柄の悪い男達が町の至る場所から出て来て旗を振っている。

 

「バイスの兄貴ー待ってましたぜ!」

 

「よお、お前ら!ん、あそこにあるじゃねえか。ターゲットのガンダム。暢気なものだぜ。」

 

ファーラを見つけると重々しい音を立てて降り立つ機体。
駆け寄ってくる柄の悪い男達。
彼らはバイスの盗賊時代の手下で、彼の為に暗躍する時がある。正にどこまでもダーティーなファイターだ。

 

「おい!皇女のファイターはあんただな!俺はメキシコのバイス・アリアスだ。
ファイトを始めようぜ!」

 

アクバルはその大声に驚きスクリーンに映る仁王立ちするガンダムに度肝を抜かれる。
しかも手下達がライフルを持ってこちらや近隣の建物を脅すような素振りを見せている。
やんちゃなアクバルも普通の子供。犯罪者や荒くれ者には耐性なんてなく、出るに出られない。

 

「やばい、どうしよう……てかここで降りても危ねえし。
そういや、あの機体前に中継で見たけど、結構おっかない奴だったような……手下も従えてるし……
早く帰ってきてくれーマリナ様……」

 

しゃがみこんで怯えるのも無理はない。勝つために民間人を盾にしようとしたこともある極悪非道な相手だ。
近隣の住民も震えて黙り混んだり隠れたりしている。

 

「私に何か用かしら!?」

 

そこに聞き覚えのある女性の声がして顔を上げる。
周りの連中も一斉にその方向を向いた[newpage]
「え……本当に来た……?」
「随分騒がしいわ。あなたの相手は私だけでいいでしょう。場所を変えましょう、ここにいる皆さんの迷惑になるし。」

 

そこにいたのは誰もが待っていたマリナ・イスマイールだ。服はあの時と全く同じだがファイトの時に見せた厳しい表情で強靭なガンダムと周りの犯罪者を睨んでいる。

 

「よく来たな、姫さん。でも、俺は人に従いたくねえんだ。俺が態々来たんだし、どうしてもってんなら上空でやり合おうぜ?
……その前にこいつらでウォーミングアップだ!やっちまえ、お前ら!!」

 

彼の一声で一斉にライフルをぶっぱなす男達。

 

「あぶね、マリナ様……って……アレ?」

 

アクバルの心配は無用だった。しなやかな動きで銃弾のパレードを避けると、男達を一人ずつ殴り、蹴り、投げ飛ばし全員をのしてしまった。

 

「いいぞ、姫!やっぱり、生身でも凄いんだ!……」

 

「……あっさり倒すとは……あいつらファイター程じゃねえが相当強いってのに……
やっぱ本物のファイターには勝てねえのか……」

 

「あなた、国の代表として恥ずかしくないの?」

 

「勝てりゃいいのさ!早く始めなきゃ町の奴らどうなるかわからねえぞ!」

 

ワイヤーを掴むと背中のハッチを開けっぱなしにしているのに気付いて頬を染めるマリナ。

 

「私のミスだわ……気を付けなきゃ……」

 
 

ハッチを開けると皇女とご対面。苦笑いしながら出迎える少年。

 

「ど、どうもマリナ様。凄かったぜさっきの闘い……」

 

「アクバル!ここにいたの!」

 

怒りながら近付く彼女の迫力に圧倒され俯くが……

 

「……本当に心配してたのよ。あそこにいる皆も何かあったら悲しむわ……」

 

格闘家とは思えない優しい力で頭を撫でられ、赤面するアクバル。

 

「ごめん、俺面白そうだからここに入っちゃって……
邪魔にならないように下りるよ……」

 

「……だめ!あいつは有名な悪漢よ。いきなり出てきたあなたを人質にするかも知れないし……」

 

「じゃあどうすりゃ……」

 

事実過去の大戦で使われていた緊急脱出用戦闘機は配備されていない。こうなれば……

 

「……そうね、壁にあるバーに掴まっていて。大丈夫、必ず勝つわ。
皇女の誇りにかけてあなたを無事に皆の元に帰すわ……
……だから、目を瞑っていてもらえる?」

 

「……わかった。」

 

口を閉めて覚悟を決めるアクバル。しかしこの年の少年特有の高揚が生まれて、いてもたってもいられなくなる。

 

(でも、あの姿になるってことだよな……
おい、ヤバイって……!)

 

興奮する彼をよそに静かかつ素早い動作で衣服を脱ぐ音が聞こえる。
それらを手慣れた動きで畳むと、床リングの中央に立つマリナ。

 

「バイス、今から始めるわ。モビルトレースシステム起動。」

 

(マジで始まるのかよ……あのスーツを着るのか……)

 

(……うーん、我慢できねえ、許してくれよ。姫様。)

 

恐る恐る目を僅かに開けるとその光景に息を飲んだ……

 
 

幸いにもというべきか?目を閉じながら少し脚を広げ、祈るように両手をそっと握るマリナ。
これから闘うには相応しくない、寧ろ神を無垢に信じる聖女のよう。
柔らかさと優しさに溢れていた。

 

(ひめさま……邪魔しちゃいけない雰囲気だな
でも見ちゃう、ごめんな)

 

大人だろうと子供だろうと男であるのに変わりない。視線はその人並外れた美貌だけでなく、体にも注がれていた。

 

想像通りのスラリとして、同性の中でも華奢な体つき。
しなやかに伸びた長い手足。
どう見ても格闘には似合わない、寧ろ一流の女優やモデルのような姿。……但しシルエットだけなら。
手足は細い形を保ちながらも、程よい深さの切れ込みがあった。肉付きの薄い腹部にも腹筋のうっすらとした横ラインがいくつか走っており、縦ラインは比較的深々と主張している。
正に女性らしさと格闘家らしさの融合と言うに相応しい完璧なバランスだった。

 

……とは言えまだ子供のアクバルにはこの状況でここまで深く見る余裕はなく、全身の素晴らしさに驚愕し、男心を揺さぶられるしかなかった。

 

(すごい、マリナ様……
見ちゃった……姫様の裸を見ちゃった……
俺もしかして重罪?)

 

様々な考えが頭の中にとっちらかって、眼前の光景を目に焼き付けるしかない。

 

そして天井のリングから薄い布が力強い勢いで降ってくる。
彼女が王宮にいる時と同様、鮮やかで品のある青紫と、雪のような純白の二色に彩られたスーツ。
一気にマリナの肩から足元まで降り立つと、彼女は無表情から一転、目を閉じたまま苦しみ始める。

 
 

「う、ああ、……うう……!」

 

伸びやかな手を重々しく揺らし、激しくスイングすると両腕は一気にスーツに包まれる。

 

「が、頑張れ。マリナ様。」

 

初めて見る、皇女の苦労に思わず呟いてしまう。
「う、ああああぁぁぁ……」

 

小振りな胸や細い鎖骨を覆うスーツ。
細く引き締まった胴体を大胆に反らして、体を柔らかいモーションで捻り続ける。

 

しかし、次が色んな意味で問題だった……

 

控え目な毛で守られた秘所に当然の如くスーツが食い込む。すると……

 

「お、おおお……や、く、くす……」

 

(……?お、おい何を……)

 

いきなりそそるような声を出すマリナ。しかも、今度は体を反らす代わりに尻を突き出している。
アクバルも反応してこれまで以上の視線を注いでしまう。

 

「く、くすぐったい……あ、あ……」

 

男の好奇心が煽られたのかマリナの背後に回るとやはり、小さくも美しく引き締まった上向きの尻がスーツに包まれながらこちらに突きだされている。
尻を振って何とかスーツを体にフィットさせようとしているのを知って尚興奮するアクバル。
前後の秘所に与えられるスーツの摩擦と闘うマリナ。

 
 

「……!」

 

(マリナ様、くすぐったいって……てかこのポーズ相当ヤバイんじゃ……
俺ケツ触っちゃいそう……いや、ダメだ。んなことしたら処刑もんだ!)

 

子供なりに理性を働かせ、伸ばした手を慌てて引っ込める。

 

「……ふー、はあああぁぁぁ……!」

 

脚を含め下半身を激しく動かして全身にスーツを纏うマリナ。

 

一回のファイトや訓練毎にスーツは入れ換えられるので、前後の秘所は新品の冷たさが与える心地よい刺激に少しの間耐えることになる。

 

「色々、大変なんだな……ファイターって……」

 

背後のバーに掴まりながら呟く少年に対し、ニコリと笑顔で首を横に振る皇女。

 

「ひめ……」

 

もはや彼はマリナのことしか考えられない。

 

「さあ、やりましょう。」

 

互いに上空に浮かび上がる両雄の機体。

 

「ガンダムファイト! レディ……ゴー!!」

 
 

向かい合う二人のガンダム。
「俺が倒すのはあんたで10人目だな!」

 

鋭い棘の付いた肩を向けショルダーアタックを仕掛けるバイスのスティンガー。

 

「ハッ!」

 

マリナはファーラのリアアーマーに付いた、特殊金属製の伸縮式ランスを手にするとそれを伸ばし、鋭い刃で棘を粉々にしてしまう。

 

「何だと!」

 

咄嗟のことに驚く相手に構わず肩、手足、胴体に次々と槍の刃を突き刺し、時にはロッド部分で殴打しダメージを与えていく。
スティンガーの全身の棘は見る見る内に砕けて落ちていく。
悔しがるバイス。

 

「おのれ……甘く見ていたか……!」

 

「すげえ……マジでできるんだな……」

 

関心のあまり唖然とするアクバル。
槍を直に盛っているのはガンダムだが、それを操るマリナの構え・全身の動きを直で見て高揚する。
背後から彼女の様子・モーションが全て丸わかりだ。興奮しない方がおかしい。
真後ろから見る皇女の華奢な肩、手足はしなやかに動く。
長く豊かな黒髪は活発に靡く。
スーツ装着に必死になっていた小振りな尻の穴を戦闘開始からギュッと締めているのもアクバルを熱くさせた。

 

「力、入ってる……」

 

思わず呟いた声と視線に一瞬振り返った皇女の頬は紅かった。

 

「見ないで、癖なの……」

 

「ああ、失礼しやした……(試合中ずっと締めてたのか。やべえ、ドキドキするじゃん。)」

 
 

バイスは歯軋りしつつコクピット内のとあるボタンを押すと、スティンガーのバクパック(コアランダー式ではない)が開き、チェーン付きの鉄球が飛び出してきた。
慣れた構えで手に持つバイスのスティンガー。
更にグリップ部のボタンを押すと、幾つかの棘が鉄球から顔を出す。

 

「こいつは避けられねえぞ?」

 

豪快なスイングによって、巨大な蛇の如く宙を舞うチェーン。何度もマリナを襲い来る鉄球。

 

「ごめんなさい、さっきより揺れるわよ?」

 

「またか!?」

 

激しいモーションで避け続けるマリナのファーラ。
必死さの為か、子供の握力で耐えられるのが不思議な程、バーに掴まり続けられるアクバル。

 

「ホラホラ、どうした!この武器じゃ手も足も出ねえか!?」

 

「はぁはぁ、正直、不利だわ。ああいう重い武器は……」

 
 

何とか背後に回ると、あの鉄球が入っていたバックパックを思い切り蹴って距離を置くマリナ。

 

「はあはあ、きついな……このスピードで毎回闘ってるのか、マリナ様……」

 

「ええ……私は慣れてるけど、あなたには堪えるわよね、ごめんね……」

 

憂いを帯びた顔で言われて言葉に詰まりながらも「いや、んなことねえよ。俺は大丈夫だからさっ。」

 

無理矢理笑顔でガッツポーズを取って見せる。

 

「諦めな!姫さん!?」

 

意気揚々と飛んでくるルの機体。

 

「どうする!このままじゃ……!」

 

「いえ、この距離ならいけるわ……!」

 

微笑みながらランスの小型スイッチを押すと、刃パーツが収納され、ロッドが真っ二つに割れてアーチ状に変形した。
サイドアーマーに複数収納されていた矢をセットするマリナ。
彼女のもう一つの戦術だ。

 
 

「これって……」

 

「弓よ。これで決めるから、ね。」

 

ニッコリするマリナに素直な笑顔で笑い返すアクバル。

 
 

アクバルはマリナの左側に移動してその横顔を覗き込む。
いつもは柔和な水色の瞳は鋭く敵を狙う射手そのもの。
スラッとした脚を凛として開き、右腕を一点の緩みもなく、後方に力一杯引く。

 

「ハッ!」

 

細く優しい声は低い叫びに変えて、一本の矢を放つ。
回避を試みたバイスはギリギリで肩に刺さってしまう。

 

「このっ……!」

 

鋭い痛みに顔を歪めるバイス。

 

「よし!」

 

拳を握り興奮する少年。

 

手慣れた動きで複数の矢をセットすると目にも止まらぬ速さで撃ち抜いていく。

 

「町の人達を脅かしたこと、反省して……っ
これで終わりよ、ハッ!」

 

真空波のように飛び掛かる矢の雨。

 

「手こずらせやがって……って、何だありゃあ!?」

 

矢を引き抜いた直後のバイスは鉄球を持った腕で頭部を庇うが、当然のように腕、腹、脚に刺さっていく。

 

「うわあああ!!こ、この、小娘にぃぃぃ……!!!」

 

比較的頑丈な装甲だったが一定のダメージが至るところ刺さり、悲鳴を上げる悪漢。
ガッシリした機体はバイス本人と共にワナワナと揺れている。

 

「やりぃ!!姫さますごいじゃん!!」

 

はしゃぐアクバルに静かな声で諌めるマリナ。

 

「ありがとう……でも前に出てきちゃだめでしょう?
お願いだから下がっていて。
それに……まだ終わってないわ。」

 

「?」

 
 

実際スティンガーの頭部は無傷だった。そして、そこを守った鉄球も……
ガンダムファイトは頭部を攻撃され破壊されない限り敗北扱いにはならない。
そしてこの闘いで最も厄介なのはあの強靭な鉄の塊だ……

 

「……姫さん、やってくれんじゃねえか……
こうなりゃ本当の怖さを教えるしかねえな……」

 

ニヤリとすると鉄球を支えるチェーングリップのボタンを押すバイス。
瞬時にその塊はチェーンから離れ、まるで意思を持ったかのようにマリナ目掛けて飛んでいく。

 

「そんな!?」

 

驚きながらも矢を放つマリナ。
しかし、流石スティンガー本体以上の防御力を誇るだけありビクともせず、進んでいく。
「まさかあんな機能があるなんて!」

 

「ど、どうしよ。マリナ様!?」

 

「怖がらないで……勝って見せるわ……皇女だもの。」

 

優しく微笑みながらも激しい射撃を繰り返すがビクともせず突き進む鉄球。

 

「ハハハ!どこまで耐えられるかな!!」

 

まるでバイスの嘲りに呼応するようにそれはマリナの腹部に当たる。

 

「きゃああああ!!」

 

棘と鉄の重量、そしてかつてないスピードを一気に受けて、マリナのスーツと体に鈍く重い痛みが走り、細く高い声を上げる……
ファイターと言うよりは暴漢に教われる乙女のようだ。

 
 

ただヒットしただけではなく、腹部に接触したまま、マリナを後方へと押しやるように飛行し続ける鉄球。
もはや永続的に続く拷問のようなもの。

 

「うわあ!いてえ!」

 

勿論彼女の背後にいたアクバルも安全バーを握ったまま、壁とスーツ姿の皇女にサンドイッチされた状態になってしまった……

 

(姫様、やばいんじゃあ……あのトゲボールやり過ぎだろ……ルールよくわかんないけど
……にしても姫様とこんなに密着できるなんて……オレまじでラッキーじゃねえ?)

 

不謹慎だが年頃の少年なので仕方ない。
マリナのしなやかな筋肉に覆われた体(それも全身ピッチリスーツ)に押し付けられているのだ。
興奮しないのは至難の技というもの……
お陰で年相応のアレが逞しくなってマリナのお尻に当たっている。

 

(もう少しこうしてもいいかも……あのファイタームカつくけど今は感謝だな……アハハ……)

 

「ア、アクバル……ごめんなさい……ケガはない?……」

 

「お、おれだったら平気だよ……」
(姫様、オレのアレに気付いてねえのかな……でもその方がいい)

 

痛みを押さえて向き直るマリナ。

 

(この鉄球……どうにかしないと……どこかに策はあるはず……)

 

自分を押しやる鉄球を苦しみながらも見つめると一ヶ所に細く深い穴が見つかった。

 

(そうか……あの時連続で射撃したからなのね……)

 

「どんなに硬くても勝機はあるわ!」

 

「えっ!?」

 

突然の言葉に思わず自分の股間を触ってしまうアクバル。

 

(おいおい、硬くてもって……
やっぱりオレのことに気付いて……なわけないか。)

 

「随分苦戦してるな!俺が引導を渡してやる!挟み撃ちだ!」

 
 

後ろからいつの間にかやってきたバイスのガンダムスティンガー。
辛うじて残っていたトゲの付いたナックルをマリナの背中に向けて迫ってくる!

 

しかし、皇女は苦しみに汗を流しながらも珍しく強気に笑った。

 

「イチかバチかよ……!」

 

腹部は鉄球の摩擦と硬度を食らい、背中はスティンガーのニードルに狙われている。

 

「ど、どうすんのさ、マリナ様!?」

 

心配するアクバルをよそにマリナは刻が来るのを待った。

 

「覚悟しろ!」

 

迫るバイス。しかし……

 

「ハッ!!」

 

ギリギリのタイミングでバイス機の肩を踵で蹴り上げ上空に飛んだ!
その衝撃で彼女から離れた鉄球はその主であるスティンガーの腹部に激突した!!

 

「ぐああああ!!」

 

凄まじい叫びを上げるバイス。

 

「すげえ……マリナ様、こんなことできるんだ!」

 
 

はしゃぐアクバル。
一方自由落下で誰もいない山に落ちていく鉄球に目にも止まらぬ連続射撃を浴びせるマリナ。
あれ程彼女を苦しめた鋼の怪物は無惨に粉々に砕け散った。

 

「ちくしょう……マリナ、てめえ……!!」

 

悪漢は腹部を押さえて歯を食い縛り皇女の機体を見上げながら、相手と同じ高度まで飛翔する。
同じ目線で睨み合う両者。
マリナに数発矢を放たれ勢いを徐々になくすバイス。

 

「バイス、ここで終わりにするわ。
町の人達を脅かした罪、反省しなさい……」

 

弓を凛々しく構えるマリナ。しかし……腹を押さえて膝を着く。
やはり短時間とは言えダメージの蓄積はかなりのものだった……
鋼による圧迫と猛スピードの為に全身に疲労も溜まり、狙いを定めるのが難しいのだろう……

 

「うぐっ!……」

 

「マリナ様?!」

 

「……はあ、はぁ……ねえ、アクバル。
お願い、聞いてくれる……?」

 

「うん!何でも聞くよ!」

 

「それじゃあ……」

 
 

彼女の求めに少し頬を赤らめるがすぐに頷く。
片膝を着いて狙いを定めるマリナ。
後ろ側で何と彼女を羽交い締めにするアクバル。
上体を安定させる為とは言え、彼女の背中とお尻にイヤでも密着して動揺を抑えられない。
このまま胸を触りたい衝動に駈られるがグッと堪える。

 

「これで終わりだ!」

 

「いえ、あなたの方よ!」

 

光の速さで射たれた矢がスティンガーの頭を撃っていく。

 

「ぐわああああ!!俺が、小娘に……やられるだと……!!」

 

無人の山に落ちていく悪漢とスティンガー。

 
 

「ねえ、皇女様……」

 

「なにかしら?」

 

「今日は、色々と……ごめんなさい……」

 

「いいわ、謝らないで。私はこの国が、あなた達が好きだから闘ってるの。ただそれだけよ。」

 

頭を撫でる皇女はとても優しかった。

 

その後、孤児院に無事帰還するマリナのガンダムファーラ。

 

ワイヤーで降り立ち、ファイティングスーツ姿の皇女と手を繋ぎながら歩むアクバル。

 

「もう!本当に心配したのよ!!」

 

「やんちゃだからってまさかここまでとはな……」

 

真剣に怒ってくれる孤児院のシスター。呆れながらも帰宅を喜んでくれる友達。

 

「ごめんごめん。でもマリナ様凄かったんだぜ!!
テレビで見るのとは比べ物になんねえよ!
やっぱ本物は違うよな!」

 

拳を振り上げて皆に自慢するアクバル。
それをクスクスと微笑みながら見守るマリナ。

 

「今日は本当に申し訳ありませんでした!!家の子がとんでもないご迷惑を……!」

 

「いえ、気にしないで下さい。アクバルは立派に私を助けてくれましたから。
あんな子がいるんですから私は絶対勝って見せます。」

 

「マリナ様……」

 

憧れの目で見つめるアクバルの耳元に語りかけるマリナ。

 

「ねえ、アクバル……?」

 

「何?」

 

「あなたあの時……熱くなってたでしょ?」

 

「そ、そんなことないよ!」

 

「ねえ、何?何なのー!?」

 

アクバルは他の子達に聞かれて頬を赤らめながら苦笑いするしかなかった。

 
 

マリナ 闘いの始まり マリナがガンダムファイターだったら… マリナ 新たなる戦術 第1話