リリカルクロスSEEDW_第03話

Last-modified: 2008-03-17 (月) 09:01:26

「それじゃあ、まずはアッシュ・グレイという男について説明する」
クロノがモニターに映し出す。
場所はフェイトたちのアパートだ。そこにはメンバー全員が集まっている。
アッシュ・グレイについての説明をクロノがラウ・ル・クルーゼについての説明はキラが行うことになった。
「本件は私たちのアースラ担当となりました。はやてさんやリインフォースさんたちにも協力してもらいます」
「まずはアッシュ・グレイが何故重罪人になったかを説明する」
モニターに映し出されたのは激しく炎を上げ炎上している街だった。
「5年前、アッシュ・グレイは第24管理世界に突如現れ、街一つを破壊しつくした、そこに住む人を皆殺しにしてな」
全員が息を呑むのが伝わってくる。映像では悲惨な部分は見せないようにしてあるがひどいものであった。
「な・・・・なんで・・・・・?」
なのはがどうにかその言葉を口にする、全員がそう思った。何故そんなことをするのかと。
何かその世界の住人が恨むようなことをしたのかと。
「人を殺したいだけだ・・・・・・そうやつは答えたのさ」
いつも冷静なクロノもこの時ばかりはモニターに映っているアッシュの顔を睨みながら言った。
「それじゃあ、ここの街の人たちは理由なく?」
「そうだ」
「ひどい・・・・・」
あまりのことに否定すべき言葉さえ出なくなるほど何も言えなくなってしまう。
はっきり言って異常な発言と行動だ、そのことを理解しろという方が無茶なのである。
何の躊躇いもなく、理由もなく殺すのは戦争でも何でもない。ただの虐殺。
戦いの中に身をおいてきた騎士たちでさえ嫌悪の表情をする。
「管理局は彼を止めるために優秀な武装局員を用意し、それの鎮圧に向かわせた」
モニターには武装局員に囲まれるアッシュの姿があった。しかし、その表情は楽しそうな顔で気持ち悪いほど笑っていた。
「しかし、彼の操るデバイス・テスタメントによりそのほとんどが殺された」
戦闘中に武装局員のデバイスが制御不能になったり、味方を誤射するなどがあった。
これはテスタメントにより何かが働いた証拠だと考えられているようだ。
「管理局はアッシュ・グレイを危険人物と判断し、どうにか封印をすることに成功したんだ」
その間にも罪のない人々が殺されていった。
「アッシュ・グレイを野放しにしていればまた同じことが起こってしまう」
そう言いながらクロノは全員の顔を見回す。
「僕らはそれを防ぎ、アッシュ・グレイを倒さないといけない。そして、それを利用しようとするやつらも」
クロノの言葉に全員が頷いた、それを見てクロノも頷き返していた。
そんな中キラはモニターを見て思うところがあった。
それは彼の装備が自分と同じでモビルスーツと酷似する点が多いということだった。
キラはまさかと思った。
彼も自分の世界の人間なのではないかと・・・・・。

 

「それじゃあ、キラさん。彼についての説明をお願いできるかしら?」
モニターにはラウ・ル・クルーゼの姿が映し出される。
「はい」
キラは返事をすると全員の前に立ち説明を始める。
「まず、彼は僕の世界の住人です。そして、その世界で僕が殺したはずの人です」
キラはその言葉を抵抗があるものの取り乱さずに言うことが出来た、はやてたちのおかげだろう。
あの場にいなかったものはやはり信じられないといった顔をしていた。
「彼はクローンなんだ」
その言葉にフェイトはハッとキラの顔を見る。キラはそんなフェイトの顔を見ながらも説明を続ける。
「そして、彼はクローンであるが故にテロメアが短かった」
「テロメア?」
なのはは初めて聞く単語に首を傾げる。
「簡単に言っちゃうと・・・・・寿命が短くなるってことかな」
キラは細胞などの話をしても全員が理解できるとは思っていないので簡単に説明した。
自分もラウ・ル・クルーゼについてクローンについて資料を見て得た知識だった。
「彼はそのために失敗作と扱われた。そして、彼はいつしか自分を生み出した世界を恨むようになった」
キラはコロニーメンデルでの出来事を思い出していた。
彼の生い立ち、自分の出生の秘密、そして失敗作と最高のコーディネーター。
「僕と彼は生まれは似ていても対極の存在だった」
フェイトの顔がとても悲しそうになっている。キラもフェイトにこの話をするのは嫌だった。しかし、やらなければならない。
「そして、僕は彼と戦った。僕は彼を止めようとした・・・・でも」
キラは言葉を一度切る。握りこぶしを作り、続きを喋る。
「彼はそれを聞き入れず・・・・・僕が守ってあげなきゃいけない人を殺した。他にもたくさんの命が彼の思惑により失われた」
キラの目から涙が溢れそうになるがキラはそれをぐっと堪える。
先の戦闘でフラッシュバックした光景が目を閉じれば浮かんできそうになる。
「そして、僕は彼を止めるために戦って彼を殺した」
キラは作っていた握りこぶしを解いて、力なく言った。
ラウ・ル・クルーゼから真実を聞いたとき、真っ先にフェイトの顔が浮かんだ。彼もフェイトと似ていた。
しかし、フェイトは恨むことをしなかった。それが2人の違いだろう。

 

「クルーゼさんにはいなかったんだね。大切な人が、言葉を掛けてくれる人が・・・・」
「そうだね・・・・・僕が言葉を掛けるにはもう遅かったのかもしれない」
なのはの言葉にキラは同意する。
「でも、彼は生きていた。そして、キラと同じようにこの世界にいる。敵として」
「うん」
「どうにか・・・・・出来ないのかな?」
なのははキラやその場にいる全員に問いかける。
「彼は人を恨むしかなくなっている。むしろ彼はそのために生きていたのかもしれない」
「恨むことをやめること、それは彼の今までを否定することになる・・・・か」
「人の恨みは簡単に消えるものじゃない」
キラの言葉にクロノが続いた。
「何とかしたい気持ちは分かるけど、どうしようもないこともある」
クロノは本心からそう思っているわけではないが、はっきりとそう言っておかないといけない。そうしなければ迷いが生じる。
そして、それが自分たちの死に繋がることだってあるのだ。
「もし彼らを放置すれば大勢の人の命が危険にさらされるだろう」
なのはたちにとっては辛い選択だろう。
キラはクルーゼのことを話してなのはたちがこうなることは予想できていた。
だが、話しておかなければいけないことだってあるのだ。キラは自分にそう言い聞かせる。
「僕らは彼らを止めなくてはならない・・・・・全力で」
クロノの言葉に全員が表情を引き締める。
迷いがまだあるだろうが、今は彼らを止めるということが先決なのだ。
モニターに映る、燃える街を見ながらキラたちは決心する。
リンディはそんな全員の顔を見て頷くと、手をポンと合わせて笑顔で答えた。
「それじゃ、晩御飯にしましょうか」
「待ってました!」
嬉しそうなヴィータの言葉に全員の引き締まった顔が徐々に緩やかなものとなっていた。

 

「・・・・・・・」
全員が寝静まった後、キラはベランダに出て星を見上げていた。
星空はあの世界と変わることなく綺麗に輝いている。
浮かんでくるのは元の世界のこと。そして、忌まわしい戦いの記憶だった。
「風邪を引きますよ」
キラは後ろを見るとリンディやクロノ、ヴィータ以外の騎士たちがいた。
「すいません、どうも寝付けなくて」
「元の世界の事を考えていたの?」
リンディはカーディガンをキラの肩にかけて尋ねる。
「はい」
その言葉に正直にキラは頷いた。
「僕のこととか、ラウ・ル・クルーゼのこととか、戦争のこととか」
色々な思惑が交錯し、そして人は争い多くの血が流れていった。
「どうして僕たちはあんなところまでいってしまったのかなって」
キラの目は夜空を見上げる、その目は夜空ではなくもっと遠い何かを見ているようでとても儚げだった。
騎士たちにも戦争という名の戦いの記憶があった。だがそれはキラのように考えることなく敵を倒すだけだった。
その点で言えばキラは戦争というものを考え、苦しみ、答えが出ないことが苦痛なのかもしれない。
「その答えは私たちにも分からない」
リインフォースはキラにそう語りかける、キラも頷いた。
「うん、もしかしたら僕はその答えがずっと分からないかもしれない。でも、考えないでいるってことも出来ない」
キラは自分の手のひらを見ながら言った。
「たとえ守るためでも・・・もう銃を撃ってしまった僕だから」
その手には何もない、だが彼にはその手には人を撃ったという感触や想いがあるのだろう。
「だから・・・・・だからこそ、僕は探していかなくちゃいけないんです」
キラは振り返り、リンディたちに優しく微笑んだ。
月に照らされたその笑顔はとても儚げで消えてしまいそうで、見惚れるようなものだった。
「もし・・・・・」
キラが言葉を続ける、リンディたちは何も言わずキラの言葉を待つ。
「もし僕が間違った答えを出しそうになったら・・・・止めてください」
自分が間違った答えをするかもしれない、それを止められるのはここにいる人たちしかいないとキラは思った。

 

「「「うん!」」」
その答えはリンディや騎士たちのものではなくその後ろから聞こえた。
寝ていたはずのなのは、フェイト、はやて、ヴィータがいた。ユーノとアルフも一緒だ。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん」
「止めてあげる、キラくんが間違えそうになったら私たちが」
「そして、一緒に探してあげるから」
「それが友達やもんね」
その言葉にキラの目から一筋の涙がこぼれ、やがて嬉しそうに微笑んだ。
「うん、ありがとう」
キラは全員を見ながら思った。
(やっぱりこの人たちのことが自分は大好きで、大切で、守りたいんだ)
そうしてキラはもう一度夜空を見上げる。
(アスラン、カガリ、マリューさん、それにラクス。僕は守るよ、大切な人たちを)
まだ悩むことが多いだろう、ラウ・ル・クルーゼに会えば嫌でも考えずにはいられなくなるだろう。
でも、大丈夫だと思った自分にはこの人たちがいるんだと。
『トリィ』
どこからともなくトリィが飛んできてキラの肩に止まる。
「もう寝ましょうか。本当に風邪を引いてしまいますし」
キラはそう言ってベランダから中に入っていく。
「そうだ。今日はキラさんが寂しくないように皆で雑魚寝をしましょうか」
「・・・・・・はい?」
リンディは面白そうにそんなことを言ってくる。
「あ、それいいかも」
「面白そうやな」
なのはやはやてもそれに賛同する。周りのものも驚いたようだが、頷いた。
「じゃあ、枕とかシーツ持ってきましょう」
リンディの言葉に三々五々、先ほどまで寝ていた部屋に戻っていく。
キラは呆然とそれを見つめながら、やがて嘆息するとしょうがないなといった顔で笑った。
「この人たちにはほんとに・・・・・敵わないな」
「何か言ったキラ?」
フェイトが聞いてくるが、キラは首を振って全員が集まった場所へと向かった。
ここは本当に温かい。

 

「ここは・・・・・どこだ」
アッシュ・グレイは目を覚ますと見慣れない場所にいた。
「お目覚めのようだね。アッシュ・グレイ」
アッシュは横を見るとそこには仮面をつけた男が立っていた。
「誰だ・・・・貴様」
「そんなに怖い顔をしないでくれたまえ。私は君を助けたものさ」
「助けただと?」
アッシュは自分の記憶を掘り返す、あった記憶は封印される時の記憶。
「君は管理局に封印されていた。それを私たちは救ってあげたというわけだ」
「私たち?」
周りを見ると甲冑に身を包んでいるやつが壁際でこちらを見ていた。
「助けてくれといった覚えはないぞ」
「私としては君に興味もある、それに頼まれたことなのでね」
クルーゼは面白そうにアッシュに話しかける。
甲冑はアッシュが起きたのを確認するとさっさと部屋から出て行った。
「興味だと?」
「そうさ。君は何のために人殺しをしているのかと思ってね」
「何のため?殺したいから殺すだけだ」
「フ、ハハハハハハハハッ!」
クルーゼはそれを聞き楽しそうに笑う。それをアッシュは睨み口を開く。
「何がおかしい」
「いや、失礼。実に分かりやすくていい。おっと、そんなに睨まないでくれ」
そう言うとクルーゼは血の色をした翼のデバイスをアッシュへと差し出す。
「こいつは・・・・・デスタメント」
「そう、君のデバイスだ。管理局から先ほどの甲冑が奪ってきたのさ」
「まずはお前を殺す」
アッシュはクルーゼからを奪い取るとすぐに起動させようとする。
しかし、いつの間にかクルーゼは自分のデバイス・プロヴィデンスを起動しドラグーンでアッシュを囲んでいた。
「そんなに焦ることはないさ、君がしたい人殺しをさせてあげようと言っているんだ」
「何?」
「私たちはこれから魔導に関わっているもの達を全て殺す」
「ほぉ」
アッシュが興味を持ったような顔をする。
「そこで君の出番というわけさ、殺しをしたいのだろう」
「なるほど・・・・そいつは面白そうだ」
「やってくれるかい?」
「ふん・・・・いいだろう。お前を殺すのはそれが終わってからだ」
「ふ、感謝するよ」
クルーゼはデバイスを元に戻し、部屋から出ようとする。
「今は封印から覚めて日が経っていない。少し休みたまえ」
「そうさせてもらおう」
その言葉を聞くとクルーゼは外に出て行く、鍵をかけられ周りには結界を張られたようだ。
だが、アッシュはそんなこと気にしなかった。
ただまた人殺しが出来るということに心躍らせていた。
「フ・・・フフ・・・アーハッハッハッハ!」
アッシュは高らかに笑った、とても気分が良かった。