中身 氏_red eyes_第18話

Last-modified: 2009-11-22 (日) 03:09:25

黒い三連星がシンの援護により脱出した頃、アスランもまた窮地を脱していた。
『何勝手に死にそうになってるの!?貴方にはまだ、やる事があるでしょう!!』
「す、すまないルナマリア。助かったよ」
バレットドラグーンの一斉射とビームハルバードによる斬撃によって、
隊長機を退かせたルナマリアがスピーカー越しに怒鳴る。

 

「君が来ているという事は、シンも来ているのか?他の戦力は」
『シンは苦戦していた3機のゲルググの援護に向かったわ。
 他にゲルググが6機、包囲の外側から艦隊を挟み撃ちしてる。陽動艦隊は遅れてくるわ』
「そうか・・・、本隊と挟み撃ちにしているとはいえ、6機じゃ艦隊を相手にするのは厳しいだろう。
 君もゲルググ隊に合流してくれ」
『さっきやられそうになったばっかりで、よくそんな事言えますね』
痛い所を突かれたとアスランが若干口籠る。
ルナマリアからすれば、彼に死なれるとカガリの事もあって非常に後味が悪い。
「1人じゃ無理でも、シンとなら何とか出来る。行ってくれ、戦略的には向こうの方が大事だ」
『・・・分かったわ。くれぐれも死なない様にね』
「ああ、了解した!!」
アスランの返事と同時に、隊長機からの射撃が2機を襲う。
ルナマリアはそのまま、バデス隊の方向にレイヴンを奔らせる。
アスランは隊長機の攻撃を掻い潜り、トツカノツルギを振るった。

 

『先程の機体・・・インパルスの発展型ですね。向こうもデスティニーの発展型。
 SOCOMにそのような機体のデータはありませんが・・・傭兵ですか?』
「さっきも言った筈だ。貴様に答える義理は無い!」
斬撃を左に避けた隊長機に、すかさず蹴りをお見舞いする。
堪らずよろける隊長機は、しかしドラグーンを展開させて追撃を許さない。
『やりますね。今まで騎士団が戦ってきたパイロットの中でもダントツですよ、貴方は』
「褒めても見逃す気は無いぞ」
『しかし、私が4人になればどうでしょう?』
「何?」
意味有り気な台詞を呟く隊長。ウォルフガングがアスランの傍まで突っ込んで来たのはその時だった。

 
 

陽動艦隊のMSが包囲網の外から攻撃を加えた事で、守備艦隊の一部が挟み撃ちを食らう形になった。
今までじわじわと包囲戦を展開していた守備艦隊にとって、これは正に寝耳に水であった。
包囲網を敷く為に艦隊を広く薄く展開している守備艦隊は、
その一部を断ち切られてしまえば陣形におけるアドバンテージを失う。
流れは確実にSOCOMに傾いていた。
しかし、それは戦場を大局的に見た時の事で、MS同士の局地的な戦闘に関してはその限りではなかった。
包囲網の外、量産機の存在が許されない戦場も、その1つだった。

 

『生きてるか、シン?』
「・・・ええ、何とか」
流石のシンもデルタフリーダム3機の猛攻には耐えきれず、包囲を全速力で脱出したのだった。
しかしその途中で左足にビームが掠り、軌道が狂ってアスランのいる方に突っ込んで来たという訳である。
『お前が来てくれたお陰で、相手をする敵機の数が4倍に増えたよ』
「先輩なんだから、後輩にばっかり任すのは格好悪いでしょう?
 見せ場を作ったんですよ。良い後輩でしょう?」
『ふ、そうだな』
皮肉混じりに笑うアスランに、シンも同じ調子で返す。
シンはアスランの正体がバレぬ様に、彼を先輩と呼んでいた。
背中合わせのウォルフガングとナイトジャスティスを、一定の距離を保って包囲する騎士団の面々。
圧倒的不利な状況で、しかし2人に焦りも諦めも無い。

 

『分かっていない様ですね。貴方達は今、地球圏最強の部隊である歌姫の騎士団に包囲されている。
 これがどれだけ絶望的な出来事なのか』
隊長が侮蔑を含む口調で通信に割り込む。
『特にシン・アスカ。ラクス様に刃向かった逆賊である貴方は、装甲の欠片も残す事も許しません』
『ラクスを心棒するなら、もう少し感情を抑えるんだな。
 丁寧なのは口調だけで、凶暴な本質が透けているぞ』
胸糞悪そうに吐き捨てるアスランの横で、ウォルフガングがドラゴンキラーを隊長機に向ける。
「逆賊とか、装甲がうんたらとか、そんな御託はどうでも良い。
アンタ達が勝てば、外から攻撃してるルナマリア達を殲滅するのも容易だろう。
俺達が勝てば、逆にそれに合流して包囲網を食い破る」
『・・・成程、この戦いが大局を決するキ―となると。
 しかし、残念ながらラクス様に刃向かう者は私達には勝てない』
「たくっ、自信の根拠に吐き気がする。
 俺だって、アンタ達をルナマリアの所には行かせる訳にはいかない!」
目の前の敵を倒さねば、ルナマリアが死ぬかもしれない。その気持ちが、シンを動かす。
ドラゴンキラーを肩に担ぐ様に構えると、一直線に隊長機に奔った。
『シンっ!?』
『ふん、そんな稚拙な攻撃』
隊長機は全く動じず、代わりに左右に待機していた2機のデルタフリーダムが
ビームライフルとレールガンで弾幕を張る。
しかし、光の翼を広げたデスティニーに易々と当たる訳も無い。
高速で隊長機の背後に回り込み、必殺の剣を叩きこもうとドラゴンキラーを振り被る。

 

その瞬間、シンの背に冷たい物が走った。弾かれた様に絶好のポジションから離脱する。
その後にドラグーンのビームが殺到した。
『その程度のフェイント、私達には通用しませんよ』
いつの間にかドラグーンを射出していた隊長機が、ゆっくりとデスティニーに振り返る。

 

「どういう事だ。あんたはデスティニーの動きに付いて来れてなかった。どうやって・・・」
『確かに、私は反応出来ませんでした。良く機体を振り回していますね』
「答える気は無いってか。まぁ、当たり前か」
一応聞いてみたものの、適当な褒め言葉ではぐらかされた。
もしかしたら、デルタフリーダムには超高性能なレーダーとOSが搭載されていて、
パイロットにリアルタイムに敵機の位置情報を送っているのかも知れない。
以前少しだけ聞いたターミナルなる組織の噂が本当なら、それもあり得る。
そんな相手にどう戦うか。
隊長機の傍にいたデルタフリーダムの執拗な射撃を掻い潜りながら、シンは考える。
しかし、彼は直感で戦うタイプであり、残念ながらそういった小難しい対抗策を考えるのは苦手だった。
「なんか手は無いんですか、先輩?」
ナイトジャスティスと離れない様に気を配りながら、かつ包囲されない様に高速で移動する。
ビームライフルを連射するが、機動に気を回している射撃は当然ながら精度が下がり中々当たらない。
デスティニーの射撃を左に回避したデルタフリーダムが、お返しとばかりに倍以上のビームを放つ。
『明確な物は、無い!』
「はぁ!?アンタMSの戦術が専門じゃないのかよ!」
アスランもビームをばら撒きながら回避行動を取る。
包囲されていないから良いものの、ジリ貧には変わりなかった。
『対抗策を練るには材料が足りない!』

 

実はアスランの中で、歌姫の騎士団に対するある推測が形になりつつあった。
それが間違っていなければ、彼らの連携を崩せるかも知れない。
しかし、推測に確信を持つにはまだ材料が足りない。
『シン、何か気付いた事は無いか。何でも良い』
「何でもって言われても・・・!」
歌姫の騎士団が、渦を巻くように左回りに旋回しながら、シン達を包囲しようと速度を上げる。
それを崩そうと、懸命に射撃を行うがやはり当たらない。
「・・・ありましたよ、気付いた事。コイツ等、みんな左に回避するから、ビームライフルが当てにくい」
MSは基本的に右手にビームライフルを保持している。
デスティニーもその例に漏れず、右手にビームライフルを保持していた。
その為、左に逃げる歌姫の騎士団の動きは胴体が邪魔になって狙いにくい。
「でもまぁ、武器を持ってない方に回り込むのは基本だから、あんまり参考にはならないですね」
『・・・いや、有難うシン、最後のピースが見つかったぞ!』

 
 

「どうしたんです。鬼ごっこは終わりですか?」
急に動きを止めた反乱分子の機体に迂闊に手は出さず、遠回しに包囲、様子を窺う。
「・・・・・・」
さっきまでの調子なら、灰色の機体のパイロット、『鬼神』シン・アスカが減らず口を叩いてくる筈である。
しかしどうだろう、通信機には声はおろか、身じろぎする音さえ聞こえない。
「行動にメリハリがあるのは良い事ですが、あり過ぎるのもどうかと思いますよ。
 そちらから動かないなら、こちらから・・・!?」
溜息を1つ吐き、デルタフリーダムが一斉に動こうとした瞬間、一寸速く敵機が動いた。
デスティニーが、相変わらずの突撃戦法を行ってきたのだ。

 

「何かと思えば、策も無しに特攻ですか」
今度は落胆の溜息を吐くと、デスティニーの一刀を左に回避する。焦っているのだろう。
先程までより幾分大振りで、余裕を持って回避出来る。
デスティニーを挟み撃ちにしようとする左右のデルタフリーダムを、
ナイトジャスティスが装備した重火器を乱射して妨害する。
左右のデルタフリーダムはそれを左に回避した。
後ろのデルタフリーダムにも牽制の火線を張る。勿論それも左に回避した。
彼らが取った戦法は、先程と全く同じものだ。それでは歌姫の騎士団の連携は阻止出来ない。
「貴方達は何も学ばない様だ。このまま死んで貰いますよ」
『抜かせっ!!』
しっかりと返って来た通信と共に、ドラゴンキラーが二度振り下ろされる。
またしても大振りのそれに、団長は軽く辟易しながらも操縦桿を左に倒す。

 

隊長機に張り付くデスティニーと、その間に他のデルタフリーダムを牽制するナイトジャスティス。
その後も幾度と無く同じ動きが繰り返される。変わるのはデルタフリーダムの配置のみである。
しかしそれも終わりを迎えた。
ナイトジャスティスが真後ろのデルタフリーダムを牽制しきれずに、デスティニーへの攻撃を許したのだ。
ビームサーベルを抜き放ち、ドラゴンキラーを振り下ろしたばかりで隙だらけのデスティニーに急迫する。
しかし、後少しでデスティニーを袈裟斬りに出来るという所で、
デスティニーの左脇から2本目のドラゴンキラーが発振された。
既にビームサーベルを振り被っていたデルタフリーダムはしかし、寸での所で方向転換し左に逃れる。
奇襲としては良くやったと褒めるべきだろう。
しかしそれも不発に終わり、次の瞬間には灰色の機体が宇宙を赤く染める。
歌姫の騎士団の面々がそう確信した瞬間、回避に成功したと思われたドラゴンキラーに変化が生じる。

 

剣で言う刃の部分が、横に広がったのだ。
咄嗟にビームサーベルで機体を庇ったデルタフリーダムの脇腹に、赤い刃が容赦無く食い込む。

 

『これでぇっ!!!』

 

敵機を捕まえたシンは、力任せにドラゴンキラーを薙いだ。
辛うじて拮抗していたビームサーベルは、超高出力の刃の前にあっさりと折れ、
同時にデルタフリーダムの胴が割れる。
一瞬遅れておきた爆発に、『BASTARD』モードが起動して黒く変化した狼が赤く照らされる。

 

大剣を構えるその姿に、隊長は息を飲むのを抑えられなかった。