中身 氏_red eyes_第17話

Last-modified: 2009-11-15 (日) 03:30:43

SOCOM本隊が包囲網を敷かれて半刻弱。
SOCOMは持ち前の精強さで何とか持ちこたえていた。
「この包囲網を突破しないと・・・!」
キラは、宇宙戦仕様のフリーダム、背中にドラグーンを装備した、
以前のストライクフリーダムの発展型を駆り、敵MSを屠りながら舌打ちをした。
『アレス、火器の大半が使用不能!バイス、右舷に被弾!』
「被弾した艦は艦隊中央部まで後退して!」
フリーダムには、次々と事態の悪化を示す情報が入ってくる。
包囲されているこの状態で彼らは良くやっているが、それも限界が近い。
第2艦隊司令官が言うには、アスラン達が包囲を完成させまいと、懸命に敵を食い止めているらしい。
彼らが耐えてくれている間に打開策を見つけねばならない。
『キラ、お前は大将なんだから無茶するな!』
4機目のドムトルーパーを沈めたフリーダムに、
黒に赤で塗装されてケルベロスⅡを脇に構えたゲルググイレイザーから通信が入る。
「駄目だ!僕が今退いたら、後ろにいる被弾したみんなが狙い撃ちにされる」
『・・・たくっお前って奴は、しゃあねぇ援護するぜ』
ディアッカはそれ以上何も言わずフリーダムの周りで砲撃を再開した。
傷付いた部下を守る為に、ここまで何の躊躇も無く自分の命を晒せる大将もいないだろう。
それが将兵などから絶大な信頼を得られている訳でもあるのだが、
近しい者から見れば心臓に悪い事この上無い。
『中佐、レーダーに新しい反応・・・速い!』
『どうした、報告ははっきりしろ!』
只でさえ混乱したこの状況で、新たな不確定要素の存在がイザークの声を通してフリーダムに伝わる。
「大丈夫、もうこちらで捉えてる」
しかし、キラは通信を受けるより早く、その不確定要素に気付いていた。
ゲルググイレイザーを軽く上回る速度で戦場を奔り、降り注ぐ閃光を悠々と避ける青の編隊を、
フリーダムの両眼が捉える。

 

「歌姫の騎士団・・・、まさかヤキンに来ていたなんて!」

 

キラに気付いていないのか、全速力で戦場を横断していく青い閃光が4つ。デルタフリーダム。
歌姫の騎士団専用機として開発された機体である。平たく言えば、キラ専用にカスタマイズし、
運用されていたストライクフリーダムを、キラ専用でなくして強化した機体である。
武装、外見共にストライクフリーダムとほぼ同じ物であるが、
全身が青く塗装され、頭部のツインアイがバイザー型に変更されている点と、
装甲を極限まで削ったストライクフリーダムと違い、
装甲を十分に備えたまま機動力を上げる事に成功していた点で異なる。
そんな超高性能機が4機、周りを全く無視して進んでいる理由。
「あの方角、まさか!」
騎士団の向かう先、その進路上には辛うじて包囲網に食いついているアスランと黒い三連星がいるのだ。
あの4人が危ない。
フリーダムを援護に向かわせようと操縦桿を倒しかけた時、不意にフリーダムの肩が掴まえられた。
『お前がここを離れたら、後ろの連中はどうなる?』
「でも・・・!」
『アイツ等なら自分達で何とか出来る。だから踏み止まれ!』
「・・・分かったよ」
ディアッカの言葉に、不承不承ながらも従うキラ。
これ以上危ない事をするなという言外に含まれた意味が分からない程、彼はもう子供ではない。
「シン・・・間に合ってくれ・・・!!」
司令官という重い肩書を背負う彼には、そう願う他無かった。

 
 

包囲網の中でヤキン・ドゥーエⅢから最も遠い戦場に、孤軍奮闘する部隊があった。
アスランと黒い三連星による急造の部隊である。深手を受けていた友軍を下げ、
両側面からの猛攻をたった4機のみで食い止めていた。
「敵は、正面だけじゃないんだよ!」
ヘルベルト機の攻撃を正面で受け止めたドムトルーパーに、ヒルダが背後から急襲をかけ撃破する。
元々の愛機である。 弱点は百も承知であった。
ドムトルーパーは機動力はあるものの、その大きな体格から運動性に難があった。

その為、スクリーニングニンバスとビームシールドでは後方の攻撃に即応出来ない。
加えて近距離戦が不得手なパイロット達である。
持ち前のコンビネーションによる撹乱と接近戦を最も得意とする黒い三連星とは最悪の相性といえた。
撹乱役と攻撃役を何の合図も無く入れ替える彼らに、次々と落とされていく。
しかし、黒い三連星仕様のゲルググイレイザーの超加速は
確実にパイロットの体力を削っていくのも事実だった。
『でも、一体何機いるんだ?キリが無ぇぜ』
「お前ら、集中を切らすんじゃないよ!」
『そうだ!ここを開けておけば、陽動部隊と合流出来る。そうすれば、ここから反撃に出れる!』
急造部隊の隊長、アスランが檄を飛ばす。
華麗な連携で戦果を上げる黒い三連星とは対照的に、彼は激しい攻撃で次々と敵機を落としていた。
両肩の2連装大口径ビーム砲、右腕の高出力ビームライフルと、
左腕に装備されたビームガトリング砲を乱射し、隙あらばトツカノツルギで斬りかかる。
回避は最小限で、常に敵機に攻撃を加える。
その姿に、Iジャスティスに乗っていた時のスマートな戦いぶりは見られない。
しかし、彼にとってはこの泥臭い戦い方こそが自身の「らしい」戦い方だった。
イージスでキラを撃破した際も、オーブでシンに負けた時もそうであった様に、
アスランは本来超攻撃型の戦闘を好む男であった。
多少の損傷を物ともしない赤い竜に、ドムトルーパー隊は震撼する。
「ほら!お前達もあのくらい男らしい戦い方出来ないのかい!」
『無茶言わないで下さいよ姐さん』
『あんな無茶して生きてんのは、アイツと大佐、シン・アスカくらいだろ』
単なるゴリ押しに見えるアスランの戦いぶりは、しかし確かな技術と経験が不可欠な物だ。
並みのパイロットが同じ事をすれば、それは戦術では無く単なる特攻になるだろう。

 

『隊長さん、内側から猛スピードで迫る敵影を確認。こりゃ・・・!』
マーズの報告を合図とする様に、包囲網の内側から高速で瞬く小物体が迫る。
『各機散開っ!!』
アスランの咄嗟の指示で、急造部隊の面々が一斉に回避行動を取った。
それと同時に、夥しい数の閃光が四方から彼らを襲う。
「これは・・・!」
『ドラグーン!?』
迫って来た小物体、ドラグーンは、機械的な動きで急造部隊を包囲すると、一斉にビームを吐き出す。
各々がバラバラに回避行動を取りビームシールドで防御するが、全てを捌く事は出来ずに数発ずつ被弾する。
「敵は複数か?ドラグーンの数が、半端じゃない・・・!」
近くのデブリなどを盾に暫く降り注いだ光の雨をやり過ごすと、
計32基のドラグーンが攻撃を止めて補給の為に母機に戻っていった。
その先にいたのは、異常な殺気を放つ青い天使。

 

『貴方達ですか。ラクス様を守る同志を、沢山殺したのは・・・』
「だったらどうだってんだい?あんたが仇を取ろうってのかい」
隊長機らしき、肩に01の表記がある天使のパイロットが通信を入れてくる。
口調は至って丁寧だが、そこには明確な殺気が篭っていた。
『いえ、彼らが敗れたのは自らの非力の為。私が関知する所じゃありません。しかし・・・』
『我々はザフトの自浄機関、歌姫の騎士団。内部の特殊部隊の反乱など、看過出来ない』
『貴方達には、ここで死んでもらいます』
隊長機の後ろに控える3機の天使からも、言葉をリレーするかの様に通信が入る。
そして、3人目の言葉が終わる前に彼らは動いていた。
後ろの1機が黒い三連星とアスランを分断する様に搭載された火器を一斉射したのだ。
そこから1機がアスランに、残りの3機が黒い三連星に挑みかかった。
『向こうの3人は知っています。SOCOM地上軍、ヒルダ隊、通称黒い三連星。しかし、貴方は知らない。
 名乗っていただければ、事後処理がし易いのですが』
「お前に名乗る名前は・・・無い!」
ナイトジャスティスに単機で挑んできた隊長機からの通信に、苛立たしげに応戦するアスラン。
声はボイスチェンジャーでデュランダル似の声に変えてある。

 

「くっ、艦隊が!」
周りの防衛艦隊は、こちらの相手を歌姫の騎士団に任せて包囲網を完成させようとしている。
今すぐ阻止したいが、目の前の隊長機を無視する訳にもいかない。
隊長機が連射する2丁のビームライフルをビームシールドで防ぎ、
肩のビーム砲を連射しながら追い縋るナイトジャスティス。
フリーダムは中から遠距離での戦闘に真価を発揮する。対抗策としては、常に張り付く事。
シンプルだが一番効く戦法である。
「黒い三連星を知っていてこの分断の仕方を選んだなら、とんだ作戦ミスだな。
 彼らの連携は機体性能差を覆す。大体、フリーダムは同一機体で連携をするには不向きな機体だ」
『連携に関しては、こちらも少々自信があります。貴方に心配される事じゃない』
フリーダムは広範囲殲滅型の機体で、言うなれば足の速い砲撃機である。
その特性から、単機で、若しくはジャスティスの様な格闘機に護衛してもらうのが最適な運用方法である。
フリーダムが編隊を組んで攻撃しても、それは連携では無く、
只のスタンドプレーの寄せ集めになるのが関の山なのである。
そんな連中が、黒い三連星に小隊戦を挑むのは無謀と言う物だ。
しかし、アスランの指摘を侮辱と受け取ったのか、隊長の殺気に僅かな怒気が混じる。
「連携に自信があっても、格闘戦ならどうだ!」
持ち前の爆発的な加速力で懐に潜り込んだナイトジャスティスが、
両腕と肩の火器を折り畳み、両手の保持したトツカノツルギを振るう。
1刀目は寸前で抜き放ったビームサーベルで防いだ隊長機であったが、
1刀目と十字に重なる様に叩きつけられた2刀目に力負けして後方に吹っ飛ぶ。
ビームサーベルを取りこぼし、体勢を大きく崩している隙を逃すまいと猛追をかける。
しかし、その追撃は目標に達する前に阻止された。
1基のドラグーンから放たれたビームが、ナイトジャスティスの膝を削ったのだ。
被弾している間に隊長機が体勢を立て直す。
「なっ、どこから?」
落とす暇も与えず飛び去ったドラグーンが帰る場所を視界で追う。
そこには、黒い三連星と交戦中のデルタフリーダムがいた。
しかし、ドラグーンの母機はこちらに一瞥もくれずに黒い三連星と激しい銃火を交えている。
「こちらの状況も見ずに、どうやって・・・」
驚愕と共にじわりと恐怖が湧き上がってくる。敵はこちらの状況も見ず、正確に追撃を阻止してきたのだ。
受けたダメージは大した物では無い。しかし、彼らがやった事は普通の人間に出来る事では無かった。
『だから言ったじゃないですか。連携には自信があると』
唖然とするアスランが動きを止めていた隙に、隊長機は動いていた。
ドラグーンでナイトジャスティスを包囲し、連結したロングビームライフルを構える。

 

『私達は貴方達より高位な存在なんですよ』

 

「どういう事だ」
砲門に囲まれた状況でも、アスランは落ち着いていた。
冷静、というよりは青年が放った言葉の方が気になったというべきか。
『ラクス様に反旗を翻す貴方に、冥土の土産を渡すのも汚らわしい。ここで消えて下さい』

 
 

ナイトジャスティスがドラグーンに包囲されている頃、黒い三連星もまたピンチに陥っていた。
数の上では互角でも、機体性能で劣っていた。
しかし、連携には絶対的な自信を持っていた3人は、負ける気など微塵も無かった。だが・・・。
「コイツ等っ・・・!!」
既に左肩の装甲を欠いたゲルググイレイザーの中で、ヒルダは玉の様な汗を全身にかいていた。
高機動で揺さぶられ続けた事による疲労だけでは無い。
自身の周りを縦横無尽に駆ける3体の天使の猛攻が、彼女達の体力を大幅に奪っていた。
『ヒルダ、あぶねぇ!!』
ヒルダ機を背後から貫こうとしたビームを、ヘルベルト機がビームシールドで防ぐ。
直ぐ様反撃するが、ひらりと舞う天使にビームが空しく空を切るばかりだ。
『コイツ等、おかしいですぜ姐さん』
「ああ、分かってる。どういうカラクリなんだ一体・・・」
今は完全に向こうのペースで防戦一方だが、戦闘が始まった当初は
何度もこちらの得意な連携を叩きこめていた。
しかし、その尽くが彼らの連携で防がれてしまっていたのだ。
しかも、明らかに僚機の隙を狙って攻撃しているにも関わらず、である。
人であるなら反応出来ないタイミングで突然刺し入れられる援護。
見えざる神が、天使達に逐一味方の状況を教えているとでもしなければ説明が付かない程、
完璧な連携だった。

 

「野郎共、ジェットストリームアタック、タイプE3だ!」
『逃げるのか!?』
「この包囲を突破する為だ!それが出来なきゃ、負けるだけさ!」
3機のデルタフリーダムが繰り出す包囲を破る為にヒルダが選んだ手は、突進技による一点突破だった。
個々の力で僅かに劣っているのに加え、連携でも大きな差がある。
ならば自分達が持つ最高の技を使う他、手は無かった。
「今だ!」
『『おうっ!』』
牽制のビームライフルをばら撒きながら、3機が一列に重なる。
しかし、それは通常のジェットストリームアタックとは異なる陣形をしていた。
ジェットストリームアタックには、状況によって様々な形態が存在する。
共通する事は一点突破であるという事。タイプE3は退却する際に用いる形態である。
前、後衛が攻撃を捨て両腕のビームシールドを展開、
後衛は速度を落とす事を防ぐ為背中に腕を回して展開する。
それを中衛が全方位に気を配り敵機を牽制する。
黒い三連星は常に攻撃がモットーであり、この形態を使うのは屈辱であったがここで死ぬ訳にもいかない。
「いいかい、1人も欠けるんじゃないよ!」
ヒルダの掛け声を合図に、ジェットストリームアタックが開始される。狙うは牽制で空いた1点。
事前の牽制で、3機のデルタフリーダムの内手前の2機は回避行動で反応が遅れ、
奥の1機はドラグーンでもこちらを追撃出来ない距離にいる。
追撃は確実に遅れ、黒い三連星は天使の包囲を突破出来る、筈だった。

 

中衛を務めるマーズだけが見た、ドラグーンが収まっていない手前の2機がいなければ。

 

『姐さんっ!!』
「!?」
前衛を務めるヒルダ機を狙う様に、16基のドラグーンが待ち構えていたのだ。
全く予想外のタイミングと位置に、ヒルダの反応が遅れる。
一斉に放たれた16本のビームの内10本を防ぐが、
残りの6本が防御の隙を縫って右足に集中、放熱の追いつかないラミネート装甲を破壊した。
「あぐっ!」
片足を失って大きくバランスを崩したヒルダ機を、再度ドラグーンの冷たい視線が狙う。
『させねぇっ!!』
中衛だったマーズが、ヒルダ機を横に突き飛ばす。一斉に放たれた光の格子が、躍り出たマーズ機を捉えた。
『ぐああああああぁぁぁぁっ!!!』
「マーズ!?」
『馬鹿野郎っ!!』
四肢が尽く破壊され、最早人の形を残さないマーズ機を庇う様にヒルダ、ヘルベルト機がシールドを張る。
しかしジェットストリームアタックの動きは完全に止められた。
ドラグーンの母機達も3人に追いつき、再び包囲する。
「ここまでか・・・」
更に数を増やした24基のドラグーンと、その母機であるデルタフリーダムが3機。
完全な包囲に、絶望感を噛み締める。MSの中で死ぬなら本望。そう諦めかけた、その時だった。

 

包囲の外から飛来したビームに、1基のドラグーンが破壊される。
それを合図に、同方向から今度は極太の赤いビームが飛来、3機のデルタフリーダムを襲った。
3機はそれに被弾する愚は犯さず、包囲を一旦解いて回避する。
『こちら陽動部隊、ギャズ所属ウォルフガングだ。無事か!?』
「全く、遅いじゃないか!」
黒い三連星の窮地を救ったのは灰色のガンダムだった。そのパイロット、シン・アスカがモニターに映る。
『悪い、少し時間がかかった。そちらの被害状況は?』
喋っている間にも、ウォルフガングはデルタフリーダムへの牽制を欠かさない。
背中の2連装長距離砲とビームライフル、近距離ではパルマフォルキーナで、
黒い三連星を狙わせまいと火線を張る。
「3番機中破、9番機が大破、戦闘不能だ。ただパイロットは生存!」
『分かった。援護無しで母艦まで帰れるか?』
『まさか、この連中を1人で相手するつもりか、無茶だ!?』
シンの言葉に無茶だと、ヘルベルトが止める。
『大丈夫だ、何とかしてみせる』
『だが!』
『煩い!アンタ等にうろちょろされると、勝てる戦闘も勝てなくなるんだ!さっさと戻れ!!』
ヘルベルトをしつこいと感じたのか、シンが声を荒げる。
些かキツイ物言いだが、彼の言った事は事実だ。
それに、この戦力差で彼は抑えるではなく、勝てると口にしたのだ。
ここまで大口を叩かれては信用せざるを得ない。
「分かった、援護感謝するよ鬼神さん。ヘルベルト、戻るよ。マーズを死なせられない」
『・・・了解だ』
味方艦隊の方向に機体を飛ばす。
天使達にとって、黒い三連星は既に眼中に無いらしく、あっさりと離脱出来た。
しかし、ここから包囲の一部を突破しなければならない。
ヒルダは後部カメラに映る光の羽を一瞥すると、迷いを振り切る様に速度を上げた。