中身 氏_red eyes_第5話

Last-modified: 2009-08-11 (火) 23:27:22

シン達一行は再び車上の人となっていた。
さっきと違う所と言えば、助手席にカガリが乗っている事だ。
「どんなMSなんです、私達が乗る機体って?」
「ザフトとオーブの技術が融合したワンオフ機だ。期待して良いぞ」
ルナマリアの問に、バックミラー越しに微笑みながらカガリが答えた。
全く新しいMSの開発が殆ど無くなって久しい昨今に、傭兵の為にワンオフ機を開発するなんて、
俄かには信じ難い話だ。
「そろそろ到着です」
ヤラファス島とオノゴロ島を繋ぐ橋を渡ってから数分、オーブが世界に誇る軍事会社、
モルゲンレーテの本社が見えてきた。

 

「あれ?あれって・・・」
建物に近付くと、見覚えのあるオレンジのメッシュが入った頭を揺らす人物が1人。
「おお~い、おお~い、シーン!」
「ヴィーノじゃん。どうしたんだお前?」
車から降りたシン達にヴィーノが駆け寄る。なんだかやたらテンションが高い。
「僕が呼んだんだよ。機体を見るんなら彼にも見てもらう必要があると思ってね」
後ろからアーサーが顔を出す。しかしヴィーノは艦長の存在も意に介さぬ様で、
シンにハイテンションな視線を向けてくる。
その視線が何を求めているかは明白で。
「アビーとはどうだったの、上手くいった?」
シンの横から顔を出したルナマリアが、求められていた言葉を発する。
しかし、ヴィーノからの答えは2人の予想の斜め上を行く物だった。

 

「ばっちりだよ!なんてったって、手繋いじゃったんだぜ!しかも指絡ませる奴、町中で!!」
「「えっ・・・・・・・」」

 

カップルとして先輩の2人が固まる。
ヴィーノとアビーがデートも碌にした事が無いのは知っていたが、まさか手を繋いだだけでこうなるとは。
「これだからチェr、もがっ!?」
「どうかしたのか?」
「なっ何でも無いです。私早く自分の機体見たいんで、早く行きましょう!」
一歩遅れて車から降りてきたカガリが、状況を理解出来ずに不思議な顔をする。
咄嗟にシンの口を塞いだルナマリアがそれに答える。口元が歪な笑顔で引き攣っていた。

 
 

本社の中に入った一向の前には、黒髪を長く伸ばした男がいた。

 

「・・・・・・」

 

黙ったまま突っ立ている男は、一言で言えばモヤシだった。
モヤシが黒い傘を被っている。
ヒョロリと長い色白の体に、前髪まで伸ばしっぱなしの頭、頬がこけた顔をのせている。
表情は前髪のせいで隠れていて確認出来ない。
「おい」
「・・・・・・」

 

「おい!」
「ボエァッ!?」
「「「!?」」」

 

呼びかけても反応しない男にカガリが蹴りを入れると、奇声と共にビクリと体を跳ね上げた。
シン達もその奇声に体を半歩下げる。
「お前、また立ったまま寝てただろ」
「スイマセン。1時間前からこうして待ってたら眠くなってしまって」
奇声を発した口からは、意外とまともな声が返ってきた。
「紹介しよう。MS開発部特殊兵装課課長のジョンだ」
「ジョン・ソープです。宜しく」
そう言ってジョンがシン達に名刺を差し出す。意外と若い声に驚きながら、名刺を受取る。
そこにはジョン・ソープとだけ記されている。
「ソープって、面白い名前ですね」
「よく言われます。私はイギリス系の出身です。名前もイギリスの名前を受け継いでいるんですよ。」
正直な感想を漏らすシンに、ジョンは苦笑いしながら答える。
「案内します。同じ景色ばかりなので迷わない様に付いて来て下さい」
寝むそうな声と共に歩き出すひょろ長い背中に付いて行く。
先程まで一緒だったキサカよりも長身な彼は、天井に吊るされた標識を器用に避けながら進んでいった。
「早速ですが実物を見てもらいます。驚きますよ」
ジョンの言葉と共に、到着した真っ暗な部屋に光が生まれる。
そこに立っていたのは、2機の重騎兵だった。

 

「これって・・・」
シンが生唾を飲み込む。それも当然だろう。
彼の目の前には昔共に戦場を駆けた戦友、デスティニーとインパルスがいた。

 

「デスティニー《ウォルフガング》と、インパルス《レイヴン》です」
シンの反応に満足気な顔で、ジョンが機体の紹介に入る。
表情は前髪で隠れて見えないものの、声の波長には先程の寝むそうな声の断片も残っていない。

 

「月面でスクラップになってた物を修理、改修した機体です。機体自体には大きな変更点は無いですが、
 インパルスの方は核動力にするにあたって合体システムがオミットされています」
実際、2機共基本的な姿には依然と殆ど違いは見られない。
デスティニーは、代名詞である光の翼を発生させるユニットが全体的に小型になっており、
以前の曲線を多用した生物的な物から、直線的で機械的なフォルムになっている。
背中の対艦刀は取り外され、2門の長距離砲になっていた。
インパルスは、なにもシルエットを装備していない時に1番近い。
背中のバーニアはフォースシルエットから羽を無くした形に似ている。
ただし各バーニアが巨大化しており、以前より大きな推力が期待出来た。
両手にはビームライフルの代わりに、ハンドガードの様な形をしたハンドガンが装備されている。

 

「デスティニーはミラージュコロイドの性能を上げてあります。
 普通のパイロットじゃ射撃を当てるのはほぼ不可能ですね」
そう言うと小型モニターを取り出す。その中には別機体のコクピットから見たデスティニーが映っている。
「・・・なんかスゲーぶれてますね」
シンの素直な意見にジョンが嬉しそうに頷いた。
画面上では、光の翼を広げたデスティニーはの姿が大きくぶれており、照準が全く追いついていない。
「その通り。この機体が最大出力で動き回った場合、
 敵機はこの機体が3秒前にいた場所に標準を合わせてしまう。
 要は完璧なマニュアル操作で狙わなければデスティニーに射撃は当たらないという事です」
OSの恩恵が強いこの時代に、完全なマニュアル操作で射撃を敢行する者は、一部を除いて殆どいない。
即ち、このデスティニーに射撃を当てられる者は殆どいないという事だ。
「でも一部のパイロットは当ててくるでしょうね。例えば、キラ・ヤマトとか」
「アスランにも多分効かないですね」
キラやアスランなどの一部のエースパイロットは、敵機の任意の部分だけを撃ち抜く技術を持っている。
それは瞬時にマニュアル操作を行って標準をずらす事が出来るという事で、
その技術を用いられた場合、回避行動を取らなければ射撃に捉えられてしまうだろう。
「PS装甲は排除しました。君の腕があれば大丈夫でしょう。その代わり、機体の大幅に軽量化、
 エネルギーを他に回す事で基本的な性能と兵装全ての威力が大幅に上がっています」
本来、キラ・ヤマトもアスラン・ザラもPS装甲を必要としていないのだが、彼らの場合は立場が立場な為、
万が一を考えて周りが使用させている。
「構わないです。PS装甲無いのにはもう慣れてますんで」
シンも軽く答える。長年グフに乗っていた為、PS装甲にはあまり関心が無かった。

 

「そういえば格闘武器は無いんですか?見当たりませんけど」
パルマフィオキーナや、肩のブーメランが顕在なのは分かっていたが、
対艦刀を好んで使用していたシンにはどこか物足りない。
「ふふふふふっ、よくぞ聞いてくれました」
ジョンが低い笑い声を上げながら指をパチンと鳴らした。
すると台車に固定された、黒い剣の柄の様な物が運ばれてくる。
普通のビームサーベルの柄より幾分か大きく、角ばっていている。一言で言えばゴツイ。
「さあここでは危険だから見物室に移動しましょう」
そういうと、兵器の起動実験に使用する強化ガラス張りの部屋に移る。失明防止用のサングラスが配られた。
「よし、起動開始」
『了解、起動開始!』
研究員の声と共に、黒い柄からピンク色の光の剣が伸びる。
その刀身はビームサーベルと呼ぶには長く太く、より実際の剣に近い形をしている。

 

だが、その特徴を全く感じさせない様な特徴がこの武器にはあった。
音である。
「なっ何ですか、この音!」
狼の咆哮の様な、爆音と言って差し支えない駆動音が見物室に響く。

 

ジョン以外が例外無く耳を塞ぐ状況で、起動音に負けじとシンが大きな声を上げる。
「このビームソード、ドラゴンキラーはですね、ビームサーベル4本分の出力を使用してます。
 だから駆動音も激しい。 他の兵装も、限界ギリギリまで出力を上げた結果、似たような音が響きます。
 この駆動音が機体名、《ウォルフガング》、疾る狼の名の由来なんですよ」
白衣のポケットに手を突っ込みながら、うっとりした風にジョンが言葉を続ける。
「前のアロンダイトは折れやすかったでしょう。重かったし。
 これなら、収納時に嵩張らないし、ビームコーティングされた程度のシールドなら真っ二つに出来る」
ジョンが「電源落とせ」と言うと、猛々しい光が消える。
全員がサングラスを外すと、彼はシンの方に顔を向けた。
「本当はもっと凄い機能があるんだけど、ハンガーが壊れちゃうんで今はお預けです。
 さて、次はインパルスですが」
話がインパルスに移る。

 

「両手のビームガンは単銃身ですが、高い威力と精度、連射力を持っています。
 後、銃口はビームサーベルを発振させる事も出来るから、瞬時に格闘戦に持って行けますよ。
 純粋な格闘武器としては、ビームサイズ、ビームガンを保持したまま振り回せます」
ルナマリアに合わせて調整したであろう機体は、近接特化型のパワーファイターとして設計されている様だ。
しかし、何か足りない物を感じてルナマリアがおずおずと手を上げる。
「質問ですか?」
「身を守る物が無いみたいですけど・・・」
「ふふふふふっ、よくぞ聞いてくれました」
先程と同じ反応をするジョン。どうやら新兵器を紹介する時の決まり文句らしい。
「戦闘データを見せてもらいましたが、 君はシン君やキラ・ヤマト、アスラン・ザラの様な
 トップエースと比べると戦闘能力全般で劣るみたいですね」
「うっ・・・」
確かに彼らに比べると自分が弱い事は自覚していた。
射撃は勿論だが、攻撃している最中はどうしても視界が狭くなって、防御や回避が疎かになる事が多かった。
それでも、そこらのMSパイロットとは比べ物にならない技量を持っているのだが。

 

「そんな貴女の為に開発したのが多機能新型兵装バレット・ドラグーン。
 アカツキのドラグーンの発展型です。
 インパルスに搭載されたAIによって、計8基のドラグーンが敵の攻撃に反応して連携、防御を行います。」
インパルスの周りの、台形を2つ繋げた、菱形に似た形の板を指差しながら説明する。
「すっ凄い・・・」
オーブの技術が世界トップレベルなのは知っていたが、
まさかドラグーンをAI制御するまでになっていたとは。
「ただし、あまり過信はしないで下さい。
 PS装甲にビームシールドを搭載したバレット・ドラグーンは確かに鉄壁ですが、
 AIの防御制御は絶対ではありません。注意して下さい」
要は頼り切るなという事らしい。
一応手動操作も出来る様で、ゆっくりでも自分で動かせる様になった方が良さそうだ。
「バレット・ドラグーンは、通常のドラグーンの倍の大きさがあります。
ただその代わり、大出力バーニアを積んでいて、大気圏でも運用出来ます」
喋りっぱなしの為に疲れたのか咳払いをして間を作る。

 

「これで機体説明は以上です。復興記念日まで日が無いので馴らしは出来ませんが、
 まぁ操縦系は全く変わらないので大丈夫でしょう」
「「ええっ!!」」
サラッと重大発言をするジョンに当のパイロット2人が詰め寄る。
「仕方無いよ。グリックスのエンジントラブルで遅れたのはウチなんだから」
「戦艦への運搬に、当日の配備に・・・確かに馴らしの時間は無いな」
グリッグスはスケイルモーターで動いている為、水上も移動出来る。
しかし、本業は地上運用なので水上移動時たまに故障していた。
アーサーが理由を説明する横で、カガリが指を折りながら当日までにかかる行程を計算する。
「まぁまぁ、お前らの好みは俺が良く知ってるからさ。当日までに良い感じに調整してやるから」
シンの肩を叩きながら心配するなという様にヴィーノが言う。
ザフトを離れて以来ずっと機体を任せてある男として、彼の言葉にシンは心底安心する。
「分かりました。初めてデスティニーに乗った時も、
 どっかの裏切り者のせいでぶっつけ本番だったんで今回も何とかしますよ」
言葉の後半はカガリの方を向いて皮肉っぽく言ってみたが、
クスクス笑ってる彼女を見る限り見透かされた様だ。

 

「ではこれで今日の所は解散だ。因みに、ルナマリアは今晩ウチに泊まる事になってるからな」
「えっ、それってどういう・・・」
「さっき約束したのよ。因みに、男子禁制だから」
べーっと舌を出しながらカガリの方に歩いてゆくルナマリア。
こう見えて、カガリとルナマリアは仲が良い。
アスランがメイリンと付き合っている間に、シンが知らぬ間に、いつの間にか仲良くなっていた。
アスランを捨てた者同士通じる物があったのか。女同士の関係というのは男には分からない物だ。
「たまには男だけで過ごす夜というのも乙な物だぞシン君」
「今晩はMSの調整付き合えよ」
手を伸ばしかけた状態で固まっているシンに、ニヤけた男2人が肩を叩く。
「デスティニーとインパルスは今日中にはそちらの戦艦に運搬出来ると思います。
 深夜になるかもしれませんが」
ジョンの報告が、今日は女じゃなくてMS弄ってろという残酷な物に聞こえたシンだった。

 
 
 

「ルナの奴大丈夫かな」
「なんで?」
「なんでって・・・そりゃアスハだからに決まってんだろ」
油臭いハンガーに男2人の声が響く。思いの外早く運搬されてきたデスティニーは、
既に整備班によって弄繰り回されていた。
「たく、お前は心配し過ぎだよ。ルナマリアだってもうガキじゃないんだから、よっと。どうだ?」
「ああ、良い感じだ。このぐらい反応が敏感な方がやりやすい」
ヴィーノが調整したOSを、シンがコクピットで確認する。
他のメカニック達はインパルスの点検の方に回している。
微調整はパイロットとメカニック、1対1の勝負である。
「なぁ、ホントに動かせないのか?
 一度自由に動かしてみないと、メカニックとしてこの機体の事保障出来ないぜ」
「艦長も言ってただろ?
 オーブってのは敏感な国で、突然見知らぬガンダムタイプが空飛んでたら大騒ぎになるって」
実際の所、明後日に控えた復興記念日の為の警備が厳しくなっており、
まだオーブ全軍にデータが送られていないデスティニーが空を飛び回ると、
いらぬ混乱が起きるとのキサカの判断だった。
「俺も聞いたよそれは・・・。話戻すけどさ、シンはルナマリアに対して過保護過ぎないか?」
「そうかなぁ・・・。本当に過保護だったら一緒に戦場になんて出ないぜ。
 ってか、お前はアビーにもっと構ってやれよ。下手すると振られるぞ」
「良いんだよ。今日は2人きりでいられたし、これからさ」
話をはぐらかされたが、昔からヴィーノには分かっていた。

 

シンは 守る事 に固執している。

 

昔失ったという妹や、
ミネルバクルーの大半を敵に回しても必死になって守ろうとした、しかし守れなかった少女。
失い続けて、今度こそ、今度こそはと選んだ守る対象がルナマリアだったのだ。
それも、「結果的に守れた」では駄目なのだ、
「自分の手で守る」事が出来なければシンは自分を許せない。
この前のキラ・ヤマトとの戦闘の後も、尋常で無い感じでルナマリアに土下座していた。
それが、ルナマリアが戦場に出る事を許している彼の深層心理だ。
守っているという実感を得る為に、常に守る対象を危険に晒す。
無自覚だろうが、シンは大分歪んでいた。
ルナマリアも守られる様な玉では無いと思うのだが、
彼女は彼女でシンのそういった精神的外傷を理解していて、敢えて何も言わない。
今の関係が壊れるのが怖いのかも知れない。見た目以上に案外難儀な2人である。
「ヴィーノ、重心をもうちょっと前に設定し直してくれ。ヴィーノ?どうした?」
「んっ、ああゴメン、少し待っててくれ」
人の心も、このMSの様に簡単に調整出来たらどれだけ楽だろうかと思うヴィーノだった。

 
 
 

「デスティニーとインパルス、まさかオーブが月面から回収してると思わなかったわ。
 それに改修までしてくれて。どんなウラがあるのかしら?」
「前者は、デュランダル派の象徴だからと、プラントの連中が回収したがらなかったんだ。
 で、オーブが回収した。ラクスやキラは知らない様だが」
満点の星空を臨む露天風呂に、2人の女性の声が響く。
ここはカガリの数少ないプライベート空間、アスハ邸の中でも最も景色の良い場所だった。
「後者は?」
「ジョンという研究者がいただろう?アイツは優秀なんだが、普通のMSに興味が無くてな。
 でも、戦後オーブ軍は防衛に特化して、突飛なコストの高い特殊兵装がいらなくなった。
 開発もせずに腐っていたアイツに、暫く経って連合から誘いがあった。 
 アイツも満更じゃなくてな。だが優秀な人材を手放す訳にもいかない。 
 そこで、デスティニーとインパルスを与えて、好き勝手やらせたんだ。
 案の定、ジョンはオーブに残ってくれた、という訳だ」
デスティニーもインパルスも、元になる機体が健在だった為実はそれ程予算はかかっていない。
インパルスの核動力化には幾分かかかったが、
それで優秀な研究員と機密を連合に奪われるのを防げるのだから妥当なものであった。

 

「成程、難しい話は分からないけど、まぁ有難く使わせてもらうわ。・・・なに?」
両肘を石に預け、踏ん反り返る姿勢で星を眺めながら話していたルナマリアが、
カガリの異様な視線に気付く。
「いっいや、その・・・羨ましい体型だなぁと思って」
「カガリも十分良い体型だと思うけど。それに、こんな体抱きたいなんて奴はどっかのガキぐらいよ」
ルナマリアは俗に言うボンキュボンな体型で、男なら誰もが振り向く様な美人である。
しかしその肌は既に、多くの戦いの記憶が刻みつけられていた。
対するカガリは趣味の筋トレで鍛えている為、所謂スレンダー体型である。
「私も、もう少し胸があればなぁ・・・」
胸を擦りながら、物憂げな表情をするカガリ。
「アスランの事考えてるでしょ」
「!?」
悪戯っぽい笑顔で、顔を覗き込んできたルナマリアにビクッとなる。

 

「シンに聞いたけど、大丈夫よ。アスランは帰ってくるわ」
「・・・私が悪いんだ。本格的に政治の舞台に立つ事になれば、アイツと一緒にはなれない。
勿論、子供も産めない。コーディネーターはそこら辺気にするんだろ?」
「んー・・・、まぁ私達は出生率低いから、本能的に気にする人は気にするかなぁ」
シンには出来ない、女相手にしか出来ない愚痴とも取れる言葉がカガリの口から零れる。
年齢ではルナマリアの方が下ではあったが、男と女の問題に関しては圧倒的に経験値で負けている。
アスランとはキスまでしかしていない。
「それに、そんな事で逃げちゃう様な男なら一緒になったって上手く行く訳無いわ。別れて正解よ」
「・・・・・・」
見るからに落ち込んでいくカガリに、言い過ぎたかなと思いながら更に言葉を重ねる。
「さっきも言ったけど、帰ってくるわよアスランは」
「・・・気休めならいらないぞ」
「失礼ね、これは実体験よ実体験」
「実体験?」
恋愛の先輩に教えを乞う視線がルナマリアに向けられる。
「女に本気で惚れた男ってのは、こっちから振らない限り離れないモンよ。
アスランって凄いモテルけど、どう見たって惚れやすい奴には見えないわ。
ラクス・クラインとも許婚以上ではなかったらしいし」
「・・・だから?」
「だから、本気で惚れた女はカガリが初めてじゃない?って事。
 告白だってなんだってアスランの方からなんでしょ?」
「まぁ・・・」
「なんだかんだ言って、結局は女の所に戻ってくるモンよ。男ってのは」
落ち込んでいたと思ったら、今度は真赤になるカガリ。天下の獅子の子もこれでは唯の女である。
「さっ、これ以上はのぼせるわ。あがりましょ」
「あっああ、そうだな」
ザバッと立ち上がったルナマリアに続くカガリ。タオルを肩に掛けて歩く姿がなんとも男前である。

 

「あっ、そういえば実体験って?」
「ああ、シンと喧嘩する時の話よ。喧嘩すると、私がアイツの部屋を乗っ取って、籠城する訳。
 で、1日2日経つと必ずシンの方から謝りに来るのよ、情けない顔で。
 一度アスランに試してみたら良いわ」
クスクス笑いながら体を拭くルナマリア。
シンは自分に惚れていると自信満々なルナマリアに、自分にはちょっと無理そうだと思うカガリであった。