伊達と酔狂_第08話

Last-modified: 2008-04-26 (土) 19:05:51

時は少し遡り…
ロストロギアを強奪したクルーゼはスカリエッティのラボに帰還し
一人薄暗い通路を歩いていると思わぬ人物がクルーゼを待っていた。
ウーノである。
「おや?わざわざお出迎え…なら嬉しいのだが」
そんなクルーゼにウーノは
「ドクターがお決めになった事に私は口を出すつもりはありません。
しかし何故管理局員に管理局のデータを渡したのですか?
せめて今回の作戦の狙いをお教え戴ければ私も安心出来るのですが」
「君は彼から今回の話を聞いていないのかね?」
「内容しか知らされておりません。それ以上は彼にでも聞け、と」
クルーゼはやれやれといった表情をした。
「聡明な君なら真意を見抜けない筈はないと思うのだがね?まあいい」

 

ウーノはこのラウ・ル・クルーゼという男を計りかねていた。
2年程前に瀕死だったところ助け今はプロジェクトを手助けしているが
正直未だに何を目的にして従っているのか分からなかった。
故にウーノはクルーゼを警戒していた。
「彼、キラ君に管理局の裏の事情を教えた事自体は切っ掛けさ」
「切っ掛け?」
「そう。恐らく彼があのデータを信用する確率は極めて低いだろう
何せ渡したのがこの私なのだから。しかし信用しなくても気に留め
調べでもしたらどうなると思うね?」
「"あの方達"が黙ってはいないでしょうね」
「そう、そうすれば彼は管理局に拘束されるか逃走するかの二択に迫られる。
もし拘束出来たならスカリエッティが研究に欲しいとでも言えば老人達はキラ君を差し出すだろう。
逃走したならば組織の中にいるよりは幾分か楽に捕獲出来尚且つ管理局の戦力を削ぐことも出来る」
「それはそうですがそう上手く行くでしょうか?それに自分の所属している組織を簡単に裏切るとお思いですか?」
「上手く行くかは彼次第。それに彼は元々この世界の人間では無くそれ程管理局に思い入れも無いだろう。
それに彼はあまり組織という枠にこだわらない様子なのでね。」
「ならデータを上層部なりマスコミに流されでもしたら?」
「いくらマスコミでもそんな話を真に受けると思うかい?放送しようとしても圧力でどうにでも出来る。
管理局の上層部に報告してきたらこちらからそれとなく教唆し彼を捕まえてもらえばいい。
だが報告を全面的に信じ管理局内部で争ってくれたら重畳極まりない喜劇だと思わないかね?
双方が疲弊したところを我等が討てば労せず管理局を打倒出来る」
「最後まで上手くいかなければ喜劇とは言えないでしょう。まったく信用せずデータを放棄した場合は?」
「それで終了、双方これといって損失はない。これで如何かな?」
ウーノは小さな溜め息を漏らした。
「はっきり言って私はこの作戦が成功する確率は低いと思いますが。
そもそも狙いは個人ですか?それとも管理局?」
「実のところ私もそれ程成果を期待をしていないのだよ」
(ッ!この男何を…)
クルーゼに疑惑の眼差しを投げ掛けた。
「彼だって馬鹿ではない、途中で私の意図に気付くかもしれない…」
淡々と喋りながらもクルーゼの口元は次第に狂気の色を帯びていくのをウーノは感じ取った。
「私としては自分の意思とは関係なく追い詰められた彼がどのような行動に出るか…その一事の方が気になる。
管理局云々はオマケ程度さ」
「随分と私情を交えているご様子で」
ウーノは多少棘のある言葉を口にした。
「心配しなくとも君たちの計画の邪魔をするつもりは無い。
2年前瀕死だった所を君たちに助けられあまつさえ老い先短い私に未来まで与えてくれたのだ。
そこまでされて恩なり義理なりを返さないほど私は恩知らずじゃない」
淡々と喋るクルーゼに対して、どうだか?と内心ウーノは思ったが口には出さなかった。
「それであなたの予想はどうなると思いますか?」
「先程言った通りデータの信用度が低いことから放棄する可能性が一番高いだろう…が私は調査すると思うね」
「自身が御ありのようですがその根拠は?」
「私の勘、だよ。それでは」
クルーゼはそのまま歩き出し自室へと戻って行った。ウーノはその後姿をただ睨み付けるだけだった。

 

「ドクター、宜しいのですか?あの様な男を放置しておいて」
その後ウーノは事の顛末を話しクルーゼの危険性を説いた。
しかしスカリエッティもそんな事をウーノに言われるまでも無く感じ取っていた。
「君は心配性だね、確かにクルーゼは人の下に大人しくいるような人種じゃ無く野心家だろうね。
でも彼は頭は切れ、計算も出来る男さ、少なくとも私達が勝っていれば裏切りはしない。
万が一裏切ったところで彼の素の実力なんて高が知れている。排除する事なんて造作ないだろう?
それに彼一人御し得ない私だと思うかね?」
「ドクターがそう仰るのであれば」
その場から去っていくウーノを横目にスカリエッティはこの先起こるであろう事象に思いを馳せていた。
その為には戦力は多いに越したことは無い、だからその時までクルーゼは自由に泳がせておくつもりであった。
「使えるものは最大限に利用するだけ…さ。管理局であろうと何であろうと…」

 

キラはとりあえずロッサと同じメニューを注文した。今二人が座っている場所は比較的人が少なく
人目につき難い場所で密会を行うにはベストな場所であった。
「あの、何でわざわざここを選んだんですか?」
「僕のお気に入りの店でね」
「はぁ…」
先程からキラは完全にロッサペースに巻き込まれていたのであった。
初めて会った時からどうも掴み所の無い人との印象を受けたがかなりのやり手であるらしいのであるから
人間見た目で判断してはいけない。
「まあ単刀直入に言うと君の持ってきたデータなんだが…正直僕でも分かりかねるね、嘘か真か」
「そう…ですか」
キラは少しトーンを下げ残念そうに呟いた。
「記録上最高評議会なんて代物は存在していないから犯罪者との裏取引とかはガセかもしれない…
が、この殉職者リストはよく調べてあるね。何人かは公式発表されていない人物もいるから内部の人間の仕業かな。
これ何処から入手したんだい?あぁ、言えないならそれで構わないが」
「すみませんそれは…それでロッサさんは殉職した方々についてどう思います?」
かなり危険な事を頼んでいる事をキラは自覚していたので今更ではあるがこれ以上巻き込みたくはなかった。
「そちらは中々信憑性があると思うよ、と言うか公式発表が不自然過ぎるんだよ。遺族にも説明不足だったみたいだしね」
「じゃあこのデータは…」
「まだこの段階で決め付けるのは早計だよ。全てが全て真実とは限らないさ。
ほらケーキとお茶が来たようだから頂こうか」
丁度ケーキセットが来たので話は中断されてしまった。
話している内容が内容なだけにあまり他人に聞かれたくなかったからである。

 

「まず君の意見を是非聞きたいな」
ロッサはケーキにフォークを入れキラを真っ直ぐ見つめ、キラも一旦手に取ったフォークを置いた。
「えっと、まず手っ取り早く管理局のデータベースにハッキングしたのですが…」
キラの爆弾発言を受け飲んでいた紅茶を吹出しそうになった。
個人にハッキングされるようなセキュリティで大丈夫なのか?と心の中で思うロッサであった。
「ゴホッゴホッ…ハ、ハッキングってそんな危ない事を…そもそもウチのセキュリティはかなりのものだよ?」
「大丈夫です、あれくらいなら何とかなりますしそれに足取りは残らないようにしましたから」
「何とかって…はやてから話を聞いていたけど君凄いね…どうだい?僕の助手にでもならないかい?」
考えておきます、とロッサの誘いを笑いながらやんわりと受け流した。

 

そして周りを気にしながら小声で
「やはり怪しいデータはありませんでした。
もしあるとするなら管理局とは完全に切り離されているのかもしれません。
それとこれは推測なんですが最高評議会が決定機構ということはその決定を
実行する部署が管理局内部にあるのではないかと」
「なるほど…良い所に目をつけたね。
尤もこれは最高評議会とか言う見たことも聞いたことも無い組織がある事が前提の話だがね。
それよりどうだい、ここのケーキは美味しいだろ?」
「えっ、あ、はい。あまり甘過ぎないので」
「甘みを抑えたケーキが好みっと…僕もケーキには少し自信があってね。
次に聖王教会に来た時にでもご馳走するよ。
何度もこういった所で会うのはあまりよろしくないからね」
キラにはロッサの言うことの意味が理解出来ていなかった。ロッサは周りを確認しそっと耳打ちした。
「実はここに来るまでに怖~いお兄さん達に追っかけられてね。美人に追いかけられるのは大歓迎なんだが男じゃねぇ…」
キラは驚いて回りを見渡したがロッサは肩を竦めてさらに続けた。
「途中で撒いて来たから大丈夫、ちょっと別件の事でね。でも何度もこうして君と会っていると君にも在らぬ疑いが掛かってしまうから
次からは管理局が迂闊に手を出せない聖王教会辺りで会おう。日時はこちらから連絡するよ」
そしてロッサは急に真面目な表情になり
「いくらなんでも相手が管理局じゃ分が悪い。あまり首を突っ込まない方が君の為かも知れないが…
言っても無駄かな?まぁ程ほどにね。それとこの事は僕以外の誰かに話したかい?」
「いいえ、まだ誰にも話していません。下手に話してこれ以上他人に迷惑をかけるのも気が引けるので」
ロッサは少し温くなってしまった紅茶を飲み干しカップを置いた。
「その方が懸命だね、不確かな情報で管理局内部に波風立てるのは宜しくないしね。
万が一の為にクロノ君には僕の方から知らせておくよ。最悪の場合彼にも手伝ってもらう可能性もあるからね」
「はい、お任せします。ロッサさんはこれからどうするんですか?」
「ちょっと無限書庫の知り合いに手伝ってもらおうかとね。
それと少し気になる人物がいるからその身辺も探ってみるつもりさ。君は?」
「管理局についてのデータを洗い浚い全て調べてみようと思います。危険のない程度に」
「そうかい、さっきも言ったが無茶は禁物だよ」
「はい、大丈夫です」
結果的にキラはこの判断で今のところ評議会に目を付けられず身柄をスカリエッティに売られるのを回避したのであった。
もしもデータを提出していたらクルーゼの思惑通りに事が運んでおり最悪の結果になっていたかもしれなかった。

 

キラは手にしたカップの水面に映る自分の姿を見ながら不意にクルーゼの嘲笑が胸を過ぎった。
(予感がする…何かが始まる予感が…)
キラ自身もデータの提供者がクルーゼだったのであまり首を突っ込むつもりはなかった。この時は…

 

新暦75年4月
シンとキラがこの世界に来て一年が経ち、ようやくはやての念願であった機動六課の立ち上げまで漕ぎ着けるのに至ったのであった。
そんな中シンとエリオは真新しい隊舎の廊下を二人して歩いていた。
「エリオはもう他のメンバーと会ったのか?」
「僕はキャロ・ル・ルシエさんとしかまだ会っていませ…ん」
次の瞬間エリオは"あの"出来事を思い出し顔を真っ赤にしたのであった。
「ん?どうしたエリオ、顔が明らかに赤いぞ?」
そんなシンの指摘を受けエリオは慌てた様子で否定した。
「い、い、いいえ!あれは事故で決してワザとじゃ…」
「…お前大丈夫か?いきなりどうした?」
「ハッ!い、いえ何でもないです。そう言うシンさんはどうなんです?」
我に帰ったエリオは話をシンへと振った。
「ん、俺か?一人は知り合いの妹らしいけど直接面識ないしな」
「へぇ…そう言えばキラさんは?」
「あの人ならはやてにこき使われてたぜ。俺もこれから部隊長オフィスに向かう最中なんだけどな」
二人はそのまま十字路を曲がろうとした瞬間事件は起こった。

 

「うおっ」
「キャッ」
出会い頭にシンはオレンジ色のツインテール少女とぶつかってしまったが
咄嗟に倒れそうになった少女をシンは助けようと手を伸ばした。
「悪い、大丈夫か?」
シンは助けた少女に声を掛けたがわなわなと震えていた。
(ん?何か柔らかい感触が…デジャブ?)
見るとどういう訳か後ろから胸を鷲掴み状態であった。
「こ…」
少女はシンから離れ大きく右手を振り上げた。
「この変態!!」
豪快に振り下ろされた平手をシンは左手で咄嗟に受け止めた。が、
「ハッ!」
突然膝蹴りをシンの股間目掛けて放ったのであった。
「ふぐっ!」
クリティカルヒット、流石のコーディネーターもこれには適わず意識が飛びかけた。
しかしそれだけでは終わらずに追い討ちで強烈な平手、そしてフィニッシュにアッパーを
喰らいノックアウトしてしまった。
「シ、シンさん!しっかりして下さい!」
エリオがシンに駆け寄ったが完全に意識が無い状態であった。
しかし少女の方はまだ終わりで無いと言わんばかりに襲い掛かろうとした。
「ティ、ティア!」
「ランスター二士落ち着いて下さい!」
その場にいた二人の少女によって押さえられたが尚も怒りは収まらない様子であった。
「離しなさいスバルにキャロ!この変態を撲殺しないと…」
………
……

 

「「「失礼します」」」
「あっ、お着替え終了やな」
「皆さん素敵ですぅ」
なのは、フェイト、キラの三人は着替えてはやてとリインⅡがいる部隊長オフィスに顔を出した。
「にゃはは」
「ありがとう、リイン」
「ハハ…ありがとう」
キラも少し照れ顔で頭を掻いてみせた。
「三人で同じ制服姿は中学校のとき以来やね。なんや懐かしい
まあなのはちゃんは飛んだり跳ねたりし易い教導隊制服でいる時間の方が
多くなるかも知れへんけど」
「まあ事務仕事とか公式の場ではこっちって事で」
皆で微笑みあった。
「さてそれでは」
「うん。本日ただいまより高町なのは一等空尉」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」
「キラ・ヤマト一等空士」
「三名とも機動六課へ出向となります」
「どうぞよろしくお願いします」
そう言い三人ははやてに敬礼をし、挨拶をしたのであった。
「はい、よろしくお願いします。で…シン・アスカ一等空士は一体何処におるんやろな~?」
皆で顔を合わせて考えたが誰一人としてはやての質問に答えられなかった。
「ちゃんとシンにはここに来るようにって伝えておいたんだけど…」
フェイトは心配そうな表情をしたがなのはは
「フェイトちゃん、シンだって子供じゃないんだから大丈夫だって」
その時ブーというブザー音でドアに一斉に視線が集中した。
「どうぞ」
はやての一声でドアが開いたが
「失礼します……あの何か?」
「なんやグリフィス君か…」
「?」
グリフィス・ロウランは一体何のことだか理解出来ずにいた。

 

ほんの少し時間は戻り…
「ん…うっ」
「あっ、シンさん大丈夫ですか?」
「エリオ…ここは?」
「えっと、医務室です」
シンは上半身を起こして周りを見渡すとさっきの3人がいるのを確認し、
そして先程の事をまざまざと思い出したのであった。
そんな中1人の少女がシンに近付いてきて
「えっと、キャロ・ル・ルシエ三等陸士であります。本日より機動六課に配属になりました。
よろしくお願いします」
「じゃああたしも。スバル・ナカジマ二等陸士。よろしく~」
そして最後に
「ティアナ・ランスター二等陸士…」
三人の敬礼に対してシンも戸惑いつつ
「シン・アスカ一等空士…です。よろしく」
そしてエリオに対して耳打ちした。
(もしかしてこの三人ってお前と同じ新人のフォワード?)
(ハイ、そうです)
(マジかよ…)
出会いとしては約一名最悪の形となってしまった。

 

流石にシンも悪いと思い
「さっきは…その事故とはいえ悪かった…」
ティアナの機嫌は相変わらず悪く
「まあ"一応"あたしを助けようとしたみたいだし、その後アンタを蹴ったり引っ叩いたり
したからチャラにしてあげるわよ」
随分トゲのあるい方で返された。
シンにとっては善意で助けようとしたのに(結果的に胸を揉んでしまったのだが)
理不尽な扱いを受け、さらに挑発的な態度にムッとしたが年上らしく何とか堪えた。
流石に場の雰囲気が怪しくなったので無理矢理シンは話題を変えた。
「ナカジマ二士って…」
「スバルでいいよ。あたしもシンって呼ぶから」
初対面で随分人懐っこい性格なんだな、と思ったが自分も
あまり堅苦しいのは好きでないのでこの際ありがたかった。
「じゃあスバル、お前ってギンガの妹なんだってな」
「うん、ギン姉からはシンの事色々聞いてたし…」
「…アイツから一体どんな事聞いたんだ?」
「え~っと…」
スバルの視線は宙を舞い少し焦ったように見えたのでシンは
「やっぱいい、何となく予想がつく。今度ギンガに会ったら
直接文句言ってやるから」
「アンタ達、そろそろロビーに集合しないと遅れるわよ?」
ティアナの一声で全員がロビーへと向かった。
向かう途中スバルが
「シンが気を失った後大変だったんだよ。ティアの暴走が止まらなかったんだから」
「あ~、悪かった。というかまだ怒ってるよなアイツ?」
「あの様子じゃ当分はね」
「スバル!急ぐわよ!」
ティアナの怒声でスバル達は急ぎ足になった。

 

シンは取り合えずはやて達に遅れた事情を説明にしに行き、ティアナに引っ叩かれた
頬の手形を見られ大爆笑されたのであった。
そしてはやての部隊員への挨拶も終わりなのはに付いて行くフォワード4人とキラとシンに
なのはは
「そう言えばお互いの自己紹介はもう済んだ?」
口篭るスバルに代わりティアナが
「名前と経験やスキルの確認はしました」
続いてエリオが
「あと部隊分けとコールサインもです」
「そう、じゃあ訓練に入りたいんだけど、いいかな?」
「「「「「はい」」」」」
「マジかよ…」
小声でシンが呟いたのをなのはな聞き逃さず
「ん?シン何か言った?」
「…何も言っていません」
渋々シンも訓練場に向かうのであった。

 

先に着替え、集合場所で一人待っているなのはの元にシンが、そして少し遅れて
キラが集合した。
「しかしなのは、あの二人は兎も角エリオやキャロにお前の"アノ"訓練は
ちょっとキツイんじゃないか?」
シンは少し心配そうになのはに訴えた。
「ん?ああ、大丈夫大丈夫。二人のメニューとは別物だから。
二人のはわたしが考えた特別メニューなの、多少無茶苦茶な内容だったけど
ちゃんと最後までやり遂げられたでしょ?」
なのはの発言に二人は絶句した。
「正直わたしもビックリしたよ。実は心配だったけど予想の遥か上をいく結果だったし
二人のメニュー考えるのも楽しかったし…万々歳だね」
「なのはさ~ん」
凹んでる二人を横目にシャーリーがなのはの元に駆け寄ってきた。
「ん?二人供どうしたんですか?」
なのははニッコリと
「ううん、何でもないよ」
そして新人の4人も駈けて来た。

 

「今返したデバイスにはデータ記録用のチップが入っているからちょっとだけ大切に扱ってね。
それとメカニックのシャーリーから一言」
シャーリーの挨拶が済むとさっそく訓練を始めようとした。
なのは完全監修の陸戦用空間シュミレーターを起動させ説明を始めた。
訓練の内容は逃走するターゲット8体の破壊、又は捕獲であった。
「あ~そうそう、キラ君とシンは見学ね」
やる気満々であったシンは
「何でだよ?珍しく簡単な内容なのに」
「当たり前でしょ?二人が参加したら一瞬で終わっちゃうじゃない?」
「へいへい…」
こうして新人4人の初訓練が始まった。

 

「あ~、もう何やってんだよアイツ等!」
なのは達と一緒に戦いを見ていたシンは歯痒かった。
一機とも撃破出来ずに時間だけが過ぎていった。
そんなシンの様子を見てなのはは微笑みながら
「二人も最初はあんな感じだったから懐かしいんじゃない?」
「あ~確かに…」
「ぐっ…」
二人も初めての対AMF戦は散々な結果であった。
「まぁその為の二人の専用デバイスですけどね」
シャーリーがコンソールの操作しながら答えた。
そんな中4人に動きがあった。
「おっ、アイツ等何かするつもりだな」
「……」
「どうしたの?キラ君」
キラは一人だけ浮かない顔であった。
「…なのははさ、例えば自分の信じる道や夢が揺らいだ時、どうする?」
「えっ?…う~んわたしならまずは決めた事を貫き通すかな?
結果はどうあれ中途半端は嫌だし失敗するにしても自分の責任で失敗したいし…
いきなりどうしたの?」
「ううん、何でもないよ」
「まあいいや、二人供準備体操しておいてね。
別メニューで副隊長と模擬戦してもらうから」
「わかったよ」
「ああ」
シンとキラはなのは達から離れて模擬戦の為の準備をし始めた。

 

「あの~なのはさん…」
シャーリーはコンソールを操作しながらいつもとは違い控えめに質問した。
「二人共自分たちの時代に未練とか無いんですかね?」
「今はどうか知らないけれどキラ君は未練あるみたいだったし、
シンはどうでもいいみたいな事言ってたけど強がっていた様にわたしは感じた…
ホントは辛いんだろうね」
「そ、それにしても二人のデバイスは凄いですね。適正ピッタリですし」
シャーリーは自分の興味本位の質問せいで場の雰囲気が怪しくなってきたので無理やり話題を変えた。
なのはもそんなシャーリーの対応を汲み取り
「…うん、流石はマリーさんだよね。フリーダムはあらゆる状況にベストな対応が出来るけど使いこなすには
高い演算能力と判断力が必要不可欠、まだに完全に使いこなせていないけど最近になってようやく
コツを掴んできたって本人が言ってたし。デスティニーとシンのコンビももう充分に一級戦」
「デスティニーは既存のデバイスの延長線上ですけどフリーダムは…あの理論を提唱した人間は不明ですけど
製作したマリーさんとキラさんが口を合わせてもの凄い天才だろうって言ってました。けど…」
そこまで言うとシャーリーは視線を落とした。
「けど…何?」
「個人的な意見なんですけど、ここまでしなきゃいけないのかな?って思うん時があるんですよね。
あまり魔道師の事を考えてないようなデバイス設計…強くなる為に必要な機能を追求していったら
ああなるのかも知れませんけど…」
「わたし達も前キラ君にそう言って止める様に言ったんだけどね…
本人が意外と頑固で言うこと聞かないから。今はわたし達がフォローするしかないよ」
「そうですね」
シャーリーはかつてフェイトがなのはとキラは頑固で似た者同士と言っていたのを思い出し
その言葉の意味をこの時納得したのであった。
「で、4人のデバイスのデータ取れそう?」
「良いのが取れてます。4機とも良い子に仕上げますよ~
レイジングハートさんも協力して下さいね」
『All light』

 

「ヴィータ、お前はどちらと戦いたい?」
「あたしはいつぞやの模擬戦の借りがキラにあるからな、キラで」
「なら私はシンだな」
シグナムとヴィータはバリアジャケットを身に纏い二人の前に現れた。
「シンは私とキラはヴィータと一対一の模擬戦だ」
「言っとくけどこれからの模擬戦はお前達だけの模擬戦じゃないからな
今のお前達のレベルならあたし達にとっても特訓になる」
「つまり真剣勝負だ、気を抜いたらいつも以上に手痛い目に遭うから覚悟しておくのだな」
「へっ!上等」
「そう簡単に負けないよ」

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」
「とりゃ」
「ひゃぁっ!」
シンは寝転んでいたスバルのオデコに冷たい飲み物を当てた。
「これでも飲んどけ」
そう言いシンとキラは4人に飲み物を配った。
「ありがとうございます。キラさんは今まで何を?」
「僕?ヴィータ副隊長と模擬戦をぶっ続けでね。そっちはどうだった?
初めての高町教導官の訓練は?」
ティアナは苦笑いしながら
「見ての通りです、中々ハードで」
「初日からヘバッてたら続かないぜ」
シンはエリオのストレッチを手伝いながらそう言った。
「うっさいわね。ヘバッたなんて一言も言ってないでしょ」
「まぁまぁ、兎も角充分体をほぐしてゆっくり休まないと明日筋肉痛になって大変だから、ね?」
スバルが2人の間に入って体裁をし六課の隊舎へと戻ることにした。
シンはキャロがフラフラなのを見て
「大丈夫かキャロ?」
「あ、はい。大丈夫であります」
無理して笑顔を作るキャロであったが正直かなり辛かった。
シンは膝を屈めおんぶの体勢をし
「ほれ」
と担ごうとしたが
「あの、結構です」
あっさり断られたがそれでも尚引き下がらず強引におぶって歩き出した。
「エリオもおぶってあげようか?」
キラもエリオにそう言ったが
「僕は大丈夫ですから、本当に」
「そう…」
少し残念なキラであった。
「ティア、あたしもおんぶ」
「アンタは自分で歩け!」
こうして初日は暮れていった。

 

訓練開始から4日後
「隊員呼び出しです。スターズ分隊2名とライトニング分隊2名は
10分後にロビーに集合して下さい」
4人とも呼び出された理由が分からなかったので顔を見合わせて首を傾げた。
「お前等何か悪い事でもやって説教でも受けるのか?」
シンの冗談にティアナは
「アンタじゃあるまいし」
「ティア行こ」
「あー今行く」
ティアナは立ち上がって歩き出したが筋肉痛で体中ギシギシだった。
「あ、筋肉痛つらい?」
「まぁ…少しね」
そこへキャロが
「あの、ランスター二士。よろしければ簡単な治療をしますが…」
「あぁ…ヒーリング出来るんだっけ?じゃあお願いしちゃおうかな」
ティアナはキャロからヒーリングを筋肉痛の部位にしてもらい
気持ちの良さそうな表情をした。
「エリオは平気?」
「はい、何とか…ナカジマ二士」
「…」
「あ~楽になった、ありがとねキャロ」
「恐縮であります」
「…」

 

ここでスバルとティアナが
「あのさ二人供、なんつうか」
「チームメイトなんだからもうちょっと柔らかくていいよ?
階級付きで呼ばなくても」
今までエリオはスバルとティアナを、キャロは全員に対して階級付きで名前を呼んでおり
今までも気にはなっていたが特に訂正を求めなかったのであった。
「では何とお呼びすれば…」
「名前でいいよ、スバルとティア、それにシンにキラさん」
「僕だけさん付けなんだね」
「キラさんってこの中では一番年上ですし」
「いいんでしょうか?」
エリオとキャロはティアナに向かってそう言った。
「いいんじゃない?」
「じゃあスバルさんにティアさんにシンさんにキラさん」
そこでスバルは素朴な疑問を口にした。
「そういやエリオってキラさんとシンとは随分仲が良いけど…何で?」
「お二人とは去年からのお知り合いで…」
「そ、俺からすれば可愛い弟みたいなもんだな」
そう言ってシンはエリオの頭をクシャクシャと撫でた。
「そろそろ時間よ?行くわよ」
その後4人は六課の施設の見学と人員紹介をリインⅡから受け
午後から訓練となった。
「さて、じゃあこれから第一段階に入っていくわけだけど
まだしばらく個人スキルはやりません。
コンビネーションとチームワークが中心ね」
「はい」
「で、僕達はいつも通り」
「あたし達とだ」
ヴィータとシグナムがデバイス片手に歩いてきた。
「最近の戦績はどんな感じ?二人供」
「えっと…負け越し、かな?」
「…同じく」
「あたし等に勝ち越そうなんて10年早いんだよ」
そんなヴィータにシンは
「今日こそは絶対勝ち越してやる」
こうして今日の隊員達の訓練が始まっていった。