何でも屋ドミニオン 単発ネタ

Last-modified: 2017-09-30 (土) 19:44:19

「すまないなシン、残業代はこれ以上出せないのに」
深夜だというのに明かりの消えない倉庫に、二十台後半とおぼしきツナギを着た女性の声
が響いた。

 

「気にしなくて良いですよ、コーディネイター雇ってくれるとこあんまりないですから」
仰向けに寝そべった、巨大なヒト型の膝あたりから声が返ってくる。

 

「馬鹿を言うな、元ザフトのトップエースならジャンク屋の本部にだって、新しいコロ
ニー建設だって従事できる。君のような人材がこんな僻地で」
「ナタルさん、その話もう二十回超えてますって。
俺、ここの土地で働きたくているんですから」
「はあ、その返答も二十回を超えているな、愛社精神はありがたいのだがな」

 

ここはベルリン、何でも屋ドミニオンの倉庫だ。
シンはストライクダガーの整備を深夜まで続けていた。ジャンク屋に毛の生えた程度の零
細企業では、腕の良い整備工など雇うのは難しく、整備マニュアル片手に素人がやる他な
い。伊達に赤福ではなかったと持ち前の頭脳と若さを示し、シンは整備の真似事もこなし
ていた。

 

「やれやれ、モビルスーツというものは大きすぎる。3分の1くらいなら丁度良い重機に
なるんだがな」
彼女はナタル・バジルール、この何でも屋ドミニオンの経理担当兼常務だ。過去は堅物の
軍人だったそうだが、どういう訳かCE76年現在、怪しげな会社に勤めている。
なお今でも十分堅物である。

 

シンと呼ばれた若者は開きっぱなしのコクピットに乗り込み、機器を動かし始める。
「その内ミドルモビルスーツとか、プチモビルスーツとか出来ますって……OS起動……
機体診断……、良し。
ナタルさん下がってください、直接動かして最終チェックかけますから」

 

ナタルが安全圏まで退避したのを確認すると、ゆっくりとストライクダガーは起き上がり、
基本的な行動で機体の状態を確認する。シンの生まれ故郷では朝のラジオ体操と呼ばれ、
半ば強制的に参加させられていた体操を行った。無論モビルスーツの出来る範囲でだ。

 
 

「全パラメータオールグリーン、だけどオーバーホールが必要な時期ですね。
音とか、乗り心地が悪くなってます」
『十分だ、もとより5年前の戦時急造品だからな、まともに動くだけありがたい。
今日は電源落として早く上がれ、若い頃の無茶は後で響くぞ』
拡声器を片手に忠告するナタル。無茶が響く年頃になってしまったらしい。

 

「了解です、そろそろ入れ替わりの機体入らないんですかね?」
機体を再び寝かせ全活動を終了、バッテリーを充電状態にしてロックする。
モビルスーツの強奪事件は黎明期から枚挙にいとまがなく、資産管理は厳重に行っていた。
コクピットから這い出たシンは、仰向けの機体から身軽に飛び降り、ナタルのところまで
歩いてきた。

 

「社長がアクタイオン社が試作した工業用七つ道具パックに、何処で使用されたか分から
ない、黒い105ダガーをセットで手に入れられそうだと息巻いていたぞ」
「あの社長苦手なんですよ。コーディネイター嫌いだって言う割には、地球を愛するコー
ディネイターは認めるとか言ってるし、時々目が血走ってるし」
「プラント人が果てしなく嫌いで、核兵器を打ち込むべきだと日夜叫んでいる方だからな。
元々は軍事関連では名の知れた人物だったんだ」
「……ああそれって、もしかして」
「ああ多分元ロゴスだ。
……確かに彼らがユニウスセブンの攻撃を核攻撃にした可能性はあるが、確証は無い。
戦争を煽った可能性もあるが、世界に秩序をもたらしていた部分も大きいんだ。
彼らがいなくなったから今でも世界中、いや地球中の混乱は収まらないんだ」
暗にプラントを除外するナタル。

 

現在プラントではラクス・クラインが最高議長となって治めている。
CE73年の騒乱を傍から見ていた地球人などは、戦後復興も終わらぬままに始まった騒
動を厄介事として見ていた。
空からコーディネイター至上主義のテロリストが隕石を降らしたと思えば、犯人の検証を
行う間もなく、連合からの急ぎすぎる宣戦布告。

 

連合が不可解な無差別攻撃をしたと思えば、地球の歴史は死の商人が操っていたとする陰
謀説が旧プラント議長によって発表された。
真偽を確かめる間もなく、一部の暴徒が彼らを襲撃、その後ヘブンズベースの大規模な戦
闘で戦争に終わりが見えた。

 

直後にプラントからデスティニープランが提唱されたが、詳細を発表する前にプラントが
コーディネイターを首魁とするテロリストと、テロ支援国家、連合軍の残党に占領された。
最高議長は軍人ではないので、戦死扱いではなく、殺害されたことになる。
はっきり言って世論なぞ何処吹く風で戦争が始まり、なにやら分からぬ内に宇宙の果てで
終戦協定が結ばれた。まったくもって訳が分からない。

 
 

とりあえず生き残っている地球人は、CE70年以前の生活を取り戻そうと、度重なった
大戦の傷跡を癒そうと、必死で生きていた。

 

シンはメサイア攻防戦の後にザフトを除隊。このベルリンで就職した。
地球でコーディネイターがまともに働ける場所は極めて少ないが、デストロイと戦ったザ
フトの姿が住民の感情を和らげていた。そしてこのドミニオンは脛に傷持つ人間が集まっ
ている会社でもあった。

 

「お疲れ様でした、ナタルさん」
「君もな、シン。
もう雪が降り始めているから、明日……ではないか、今日の明朝は雪がどっさりだ。
町の排雪作業を手伝った後に、何時ものように瓦礫の撤去を行う。
今日の地区は不発弾が多そうだぞ」
「うへえ、気をつけます。またミイラが出なければいいんですけどね。
おやすみなさい」
「うむ、体に気をつけてな、暖かくして寝るんだぞ」

 

シンとナタルは今日の業務を終了し、誰もいない住処へ帰宅していった。

 
 

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