勇敢_第10話前編

Last-modified: 2007-11-19 (月) 13:40:57

機動六課デバイス整備室

 

多少仄暗いデバイス整備室に3人の人物がいた。その内の一人、メガネをかけた女性がキーボードを操作し、
残りの二人の男女が映し出される映像を真剣な目で見ていた。
静かな部屋に鳴り響くキーボードを打つ音、音が止まった瞬間、エラーを表示するかのように鳴り響く電子音。
「・・・ふぅ・・・・やっぱり・・ダメみたい」
キーボードを打つ手を止め溜息を一つ、椅子を回転させ、後ろにいる男女に結果を報告するマリーと
「う~ん」
結果を聞き、残念そうに眉を寄せるシャーリーと
「・・・・・そうか・・・・」
目を閉じ、軽くうなだれるカナード
そんな二人を小さく笑いながら見据えた後、二人の後ろに設置してある
デバイス整備用ポットに入っているハイペリオンとドレッドノートを見据えた。

 

カナードの固有能力ともいえる防御魔法「アルミューレ・リュミエール」は、高ランクレベルの防御力を誇るが
魔力消費が高いという欠点があった。
さらに最近では防御だけに止まらず、攻撃にも転用しているため魔力消費量は馬鹿にならず、カナードを困らせていた。
そこで目を付けたのがプレアのデバイス『ドレッドノート』である。このデバイスは『魔力を消費するたびに、デバイスから装備者に魔力が無限に補充される』
という特殊効果を持っており、魔力の消費に頭を悩ませているカナードには願っても無いアイテムであったが
「やっぱり、ドレッドノートの特殊効果をハイペリオンに移植するのは無理だね」
カナードの「スーパーハイペリオン化計画」はマリーの断言した言葉により脆くも崩れ去った。

 

「この『ドレッドノート』自体、特殊効果からして立派なロストロギアだから、複製や機能の移し変えは無理だね」
マリーは立ち上がり、整備用ポットに入っているハイペリオンとドレッドノートを取り出し、カナードに渡す。
「そうか・・・・・すまなかったな。無理を言って」
二つのデバイスを受け取り、謝罪をするカナード。
「思ったんだけど、今度からデバイスをドレッドノートにしてみたら?そうすれば魔力の心配もないし、『アルミューレ・リュミエール』だっけ?
その防御魔法も、今じゃ発生装置を使わなくても出来るんでしょ?」
二つのデバイスを受け取ったばかりのカナードに、自分の考えを述べるシャーリー。
「いや、この『ドレッドノート』はプレアのような特殊スキルを持っている奴が使ってこそ、真の力を発揮する。確かに魔力切れの心配は無いが、
戦闘で使用するのならハイペリオンの方がいい。『アルミューレ・リュミエール』に関しても、発生装置が在るのと無いのとでは展開速度が全く違う」
シャーリーの意見を否定したカナードは、ハイペリオンをポケットに、ドレッドノートを懐に仕舞い、壁にかけてある時計を見る。
「そろそろか・・・・マリー、行くぞ」
「わかった。それじゃあ行って来るから留守番、お願いね」
マリーの言葉に
「はい!」
シャーリーは元気よく返事をし、

 

「・・・・・・珍しいな、いつのならここで土産を要求する筈なのにな」
驚いた顔をするカナードの言葉に
「そ・・そんなにがめつくありません!」
シャーリーは頬を膨らませて答えた。

 

途中でなのは達と合流し、ヘリに向かうカナード達、するとそこへアイナに連れられてヴィヴィオと久遠がやってきた。
久遠はアイナから離れ、カナードの元に駆け寄る。
「一体どうしたんだ?」
状況がわからないため、アイナに尋ねる
「ごめんなさいね、ヴィヴィオと同じで見送りたいって聞かなくて」
申し訳なさそうな顔をするアイナ。理由を聞いたカナードは微笑みながら久遠の頭に手を載せる
「そうか・・・・ありがとうな」
そう言い、多少乱暴に久遠の頭を撫でる。その行為を気持ちよさそうに受け入れる久遠。
「俺も向こうに行く。戻って来るのは明日になるが、ヴィヴィオと一緒に留守番を頼むぞ」
「うん・・・・わかった」
カナードを見据え、多少不安そうな顔をする久遠。
「そんな顔をするな。戻ってきたら・・・そうだな、どこかに行くか?」
微笑みながら尋ねるカナードに
「うん!」
久遠は満面の笑みで答えた。

 
 

中央管理局 地上本部

 

深夜2時を過ぎ、普段なら静まり返る地上本部も、今日に限っては武装した局員や警備員達により物々しい雰囲気に包まれていた。
機動六課のメンバーもその中に加わり、警備部隊からの差し入れのお茶を飲みながら周辺の警備に当たっていた。
そして特に何事も無く時間は過ぎ、公開意見陳述会まで3時間を切り、
内部警備のため、なのは達隊長組が建物内に入ってからも何も起こることは無かった。
そして何事も無く、公開意見陳述会が始まった。
ヴィータはエリオ達に油断せずに警備を怠らないように指示し、なのはとカナードに念話で話しかける。
「(それにしてもだ、今一わからねぇ。予言通りに事が起こるとして、内部のクーデターって線は薄いんだろ?)」
「(アコース査察官が調査してくれた範囲ではね。)」
「(そうすると外部からのテロだ。目的は何だよ?)」
ヴィータの質問に黙り込む二人。そんな二人を気にせずにヴィータは話を続ける。
「(犯人が例のレリックを集めている連中、スカリエッティ一見だっけか?奴らだとしたら、さらに目的がわからねぇ。局を襲って何の得がある?)」
「(兵器開発者なら、自分の兵器の威力証明かな?管理局の本部を壊滅させられる兵器を用意できるって証明できれば、
欲しがる人はいくらでもいるだろうし。カナードはどう思う?)」
なのはが話をカナードに振る。数秒間を置いてカナードは話し始めた。
「(高町の意見とほぼ同意見だ。兵器の威力証明なら全国中継されているこの場所はもってこいだな。『私の開発した兵器は難攻不落の地上本部を壊滅させました』
これほどの宣伝はあるまい。それだけの自信がスカリエッティにはあるのだろう。)」
「(だが、管理局に正面から喧嘩を売る行為だ。リスクが高すぎる)」
ヴィータの疑問に、カナードは即座に答える。

 

「(そのリスクを物ともしない『隠し玉』を持っていたら?)」
カナードの意見にハッとする二人。
「(以前はやてが言っていた。奴は『違法研究者でなければ間違いなく歴史に残る天才』だと。
仮に奴が今回のテロを高町と俺が考えた目的で行なうとする。俺達から見てもリスクが高いとわかっている行為を後先考えずに行なうとは思えん)」
「(だけど・・・仮に『隠し玉』を持っていたとしても、あいつも管理局の強大さは知ってる筈だ。馬鹿としか言いようがねぇ)」
カナードの意見にヴィータが納得しないように呟く。
「(確かにな・・・・・スカリエッティが馬鹿でない事を祈ろう)」
そう言い、歩く足を止め、地上本部を見上げながら
「馬鹿というのは、自分の欲望のためになら賢者100人分の働きをするからな」
声を出し、小さく呟いた。

 

そして、開始から4時間が経過し、公開意見陳述会が終わりを迎えようとしていた頃。

 
 

スカリエッティのラボ

 

「ナンバーズ、No.3トーレからNo.12ディードまで、配置完了」
多数のウィンドウを表示しながらウーノは端末を操作し、後ろで椅子に座っているスカリエッティに報告をする。
「お嬢とゼスト殿も所定の位置に着かれた」
「攻撃準備も全て万全。後はGOサインを待つだけですぅ~」
トーレとクアットロの報告に満足したのか、笑顔で答えるウーノ。
「あっ、そうだ!ドクターにウーノ姉さま~、一つ提案があるのですか~」
ふと、何かを思いついたのか、クアットロが二人に話しかける。
「ん?何だね?」
スカリエッティがモニターに移るクアットロを見据え尋ねる。
「ここは一つ~、皆の士気を上げる為にも、ヴェイアにドド~ンと一言、言ってもらおうかと思いまして~、どうでしょうか?」
突然のクアットロの発言に、セインと現場待機していたヴェイアは「へっ?!」と間の抜けた声を出し慌てる。
「ふふっ、いいアイデアだと思います。いかがでしょうか?」
ウーノがスカリエッティを見据え尋ねると
「確かに良いアイデアだよクアットロ。それじゃあヴェイア、よろしく頼むよ」
スカリエッティはニヤつきながら即決した。
「えっ!、ドクターまで!」
慌てるヴェイアをよそに、周りには多数のウィンドウが開かれる。そこには、
ある者はニヤつき、またある者は真剣な顔をし、またまたある者は『まぁ、がんばれ』と言いたそうな顔をしたスカリエッティ達が映し出されていた。
「(ゼストさんやルーテシアまで・・・・・)ああ・・それでは・・・・」
一つ咳払いをし、ヴェイアは話し始めた。
「これから、ドクターの夢にして最重要プランの達成に向けて、僕達は地上本部を、そして機動六課を襲撃します。
地上本部の防衛は鉄壁、オーバーSランクの魔道師も多数存在しますし、僕達は極力血を流さないようにしなければいけません」
ヴェイアは一息間を空ける。いつの間にかモニターに移る皆の顔は全員真剣な表情をしていた。
「ですけど、一致団結した皆さんなら、これらの障害を難なくクリア出来るはずです。一人でも強い力を皆で合わせる、
失敗するとは思えません。自分を信じて、仲間を信じて、姉妹を信じて、成功させましょう!・・・・ドクター、お願いします」
言い終えたヴェイアはスカリエッティを見据え、指示を仰ぐ。

 

スカリエッティは立ち上がり、ウーノとモニターに移るナンバーズを見据えながら
「ヴェイアの言う通りだ。スポンサー氏にとくと見せてやろう。我らの思いを、決意を、力を・・・・・・さぁ、始めよう!!!」
作戦開始の指示を出した。

 
 

?????
「はじまったか・・・・・・・フフ・・・」
男が木で出来た人形を弄りながら呟いた。

 

「アスクレピオス・・・・限定解除」
ルーテシアが多重遠隔召喚を行なうためにリミッターを解除する。
突然のエネルギー反応に戸惑う地上本部のオペレーター達、だがすぐに
「通信管制システムに異常?・・・・・クラッキング!?」
管制室を含めたモニター全てが砂嵐に変わり、先ほど以上の混乱が局員を襲った。
「クアットロさんのISシルバーカーテン、電子が織成す嘘と幻、銀幕芝居をお楽しみあれ!」
通信管制システムに異常を起こしてる張本人、クアットロが楽しそうに呟く。

 

「こちらだけではないのか!?」
「通信システムそのものがおかしい!!」
システムそのもに異常が発生し、慌てふためく局員達、
「緊急防壁を展開!予備のサーチシステム、立ち上げ急げ!」
上官と思われる男性局員が大声で指示を出す。その光景を天上から生えている手が見つめていた。
その手は人差し指に付いている『ペリスコープ・アイ』で状況を見た後、手に持っていたハンドグレネードを手放す。
ハンドグレネードは空中で爆発し、大量の煙を巻き上げ、その場にいた指揮管制要員を昏倒させた。
全員が再起不能になったのを確認し、ディープダイバーで指揮管制室に入るNo.6セインと赤を強調したバリアジャケットを装着したヴェイア。その時
「いたぞ!侵入者だ!!」
非常時のために待機していた武装局員が部屋に流れ込んできた。
だが、室内がガスで満たされている事を知り、即座にバリアジャケットに対毒ガス用術式を施そうとするが
「スターレンゲホイル!!」
その隙に、アギトから教えてもらった魔法を局員達に向かった投げた後、自身とセインに防御魔法を展開、
その直後激しい音と光が局員を襲い、視覚・聴覚を奪う。そして
「眠っていてください」
眩しさと爆音により苦しむ局員に向かって、非殺傷設定の魔力弾を『76mm重突撃機銃』に似たアサルトライフル型のデバイスからフルオートで放つ。
ライフルの発射音、薬莢が落ちる音、武装局員の悲鳴が室内に響く。
「・・・・・・・・・」
局員の悲鳴を聞きながらも、顔の表情を変えず、撃つ事を止めないヴェイア。
数秒後には指揮管制要員同様、武装局員も昏倒し、室内は再び静まり返った。
「・・・・・別に倒さなくても、ディープダイバーで逃げちゃえば良かったのに」
ライフルのバナナマガジンを交換しているヴェイアに尋ねるセイン
「うん。そうだけど、ここに潜入しているのは僕達だけじゃないからね。チンクさん達の作戦の傷害になるかもしれないから。少しでも減らしておかないと」
「うあ~・・・そこまで考えてなかった~。さすがヴェイア先生!」
ヴェイアに近づき、背中を軽くはたきながら笑顔で言い放つセイン
「わかればよろしい(笑)。それじゃあ、次に行こうか」
セインの茶化しに笑顔で答えるヴェイア。その後、二人は床に溶ける様に消えていった。

 

一方、No.5チンクは動力室にいた。
両腕にスローイングナイフ『スティンガー』を構え、四方に投げる。そして
「IS発動、ランブルデトネイター」
呟いた跡に指を鳴らす。すると刺さったスティンガーは爆発し、動力室を炎が包んだ。
「・・・・・簡単すぎるな」
退屈そうにそう呟きながら、チンクはその場を後にした。

 

「防壁出力減少。もう、チンクったら仕事速すぎ。もっと手子摺りなさい」
ぼやきながらも、顔は嬉しそうに綻ぶクアットロ。
「ルーお嬢様~お願いします~」
クアットロの言葉を合図にルーテシアは遠隔召喚を開始、地上本部周辺に幾つもの召喚魔法陣が発生、
そこから何体ものガジェットが出現した。
ルーテシアによって召喚された多数のガジェットは地上本部を取り囲みAMFを発動、その結果
魔力が結合できなくなり、通信も使用不能。地上本部に閉じ込められてしまったなのは達
「・・・やられた・・・・・」
はやてが苦々しく呟いた。

 

地上本部から、いくらか離れて聳え立つ高層ビル。その屋上に独特の魔法陣を展開し、
イノーメスカノンを構えるNo.10ディエチがいた。
「ISヘビーバレル・・・・バレットイメージ・エアゾルシェル」
アイカメラで目標を確認、エネルギーのチャージ音が辺りに響く。
「発射」
発射されたエネルギー弾は地上本部に直撃、内部にガスを撒き散らし、局員達を昏倒させていった。
「・・・・・次」
特に表情を変えずに、次の攻撃目標に向かって攻撃をするためエネルギーのチャージを始めた。

 

地上本部の上空に展開している航空魔道師部隊。
彼らの前に二人の戦闘機人が立ちはだかる、No.3トーレとNo.7セッテである。
「セッテ、お前は初戦闘だが・・・・・」
実戦さながらの訓練は行なってきたが、やはり実戦とは違うため、気にかけるトーレ。
「心配御無用。伊達に遅く生まれていませんよ。それに今まで行なってきた戦闘訓練、ドクターが作り、
ヴェイア先生が調整したブーメランブレード、皆が行なっている陽動かく乱」
そう言い、トーレを見据え
「敗北する要素が全くありませんよ」
微笑みながら答えた。
「ふっ、そうか・・・そうだな」
同じく微笑みながら答えるトーレ。そして前方に展開する航空魔道師部隊を見据える。
「・・・・こんな時にすみません・・・・一つ、お願いがあります・・・・・」
「どうした急に?何だ?言ってみろ」
セッテが自分に頼みごとをするなど初めての事であるため、後回しにせずに尋ねるトーレ

 
 

「この作戦が終ったら・・・・『可愛い子猫の写真集』を・・・・・貸してほしいのですが・・・・・」
控えめに尋ねるセッテに一瞬ポカンとするが、すぐに笑いがこみ上げるトーレ
「ふふっ・・・・・ああ、いいだろう。『前編』『中篇』『後編』『番外編』『総集編』どれがいい?」
「全部お願いします!!」
セッテは即答し武器を構える。
「いきましょう。IS発動、スローターアームズ」
ブーメランブレードを構え、戦闘機人特有の魔法陣を発動させるセッテ。
「ああ、ライドインパルス!」
腿と足首付近からインパルスブレードを発生させ、攻撃態勢に入るトーレ
「「アクション!!」」
航空魔道師部隊目掛けて突撃を開始する二人。すぐに爆発音と悲鳴が空に響き渡った。

 

「ちっ!数だけは多い!」
愚痴りながらも次々に出てくるガジェットを蜂の巣にし、破壊するカナード。
周りでは武装局員達も応戦しているが、AMF戦闘になれていないのか苦戦する一方であった。
「(だが、あっけなさ過ぎる・・・・まるで警備内用などを知っていたかのようだ・・・・それに)」
考えながらもガジェットドローンIII型にロムテクニカを突刺し、密集しているI型目掛けて蹴り上げる。
「カートリッジロード!」『Burst』
III型の爆発に巻き込まれ、次々と破壊されるI型。
「(それに・・・・何かが引っかかる・・・・)」
自問しながらも、迫り来るガジェットを破壊し続けるカナード。その時、ヴィータから通信が入る。
「(カナード!大丈夫か!?)」
「(ああ、ガジェット相手に戦闘中だ。そっちの状況は)」
答えながらも、二体のIII型を蜂の巣にする。
「(今デバイスを届けるためにスバル達が中に入った。私は今からツヴァイと一緒に新たに現れた航空戦力を叩く。

 

・・まったく、スカリエッティは本当に馬鹿だったな)」
ヴィータが『スカリエッティ』の名前を出した瞬間、カナードの脳裏にヴィータが数時間前に言った言葉が蘇る。

 

       犯人が例のレリックを集めている連中、スカリエッティ一見だっけか?

 

「(・・・・しまった!ヴィータ!!)」
ツヴァイとユニゾンしようとした瞬間に大声でカナードから通信が入り、ユニゾンが中断されてしまう。
「(な・・なんだよ!?いきなり大声で・・・・・どうした?)」
ユニゾンを邪魔された事に怒ろうとするが、カナードの声から尋常ではない事だと知り、尋ねるヴィータ。
「(ロングアーチと連絡は取れるか?)」
「(連絡も何も、さっきまで連絡してたぞ・・・・・あれ?ツヴァイ!?)」
「(だめです!急に連絡が!)」
急に連絡が取れなくなった事に慌てる二人。
「(チッ、やはりな・・・連中は地上本部と同時に機動六課も目標にしていたんだ・・・くそっ、今更気付くとは・・・)」
顔を顰め、悔しそうに言い放つカナード。

 

「(なんで六課を襲う必要が・・・レリックは六課では保管してないぞ・・・・)」
「(ああ、だが六課がレリック専門の部隊だという事は知っている筈だ。レリックを保管していると思っているかもしれない。
それにヴィヴィオや久遠の事も気になる)」
カナードはザスタバ・スティグマトのマガジンの所持数を確認した後、数発弾が残っているマガジンを捨て、新しい物に取り替える。
「(主力が欠けてる状態では、そう長くは持たない筈だ。今から六課に向かう、ここは頼むぞ!)」
念話を切り、六課へ向かうため、飛行を開始するカナード。
「・・・・・・間に合うか・・・・・」
呟きながらスピードを上げ、六課を目指した。

 

カナードが六課に向かい移動を開始したと同時に、機動六課作戦司令室に鳴り響く警報
「そんな・・・・高エネルギー反応二体、高速で飛来、こっちに向かってます!」
叫ぶように報告をするシャーリー。モニターには高エネルギー体を示すマーカーが二つ、六課目掛けて迫っていた。
「待機部隊、迎撃用意!近隣部隊に応援要請!総員、最大警戒態勢!」
グリフィスの声が司令室に響いた。

 

一方、バックヤードスタッフも戦闘に備え避難を始めていた。それと同時に待機部隊は迎撃態勢に入る。
皆が慌しく動き出す中、迎撃に向かうため、持ち場に移動しようとするザフィーラとシャマルを
アイナとヴィヴィオと共に避難しようとした久遠が呼び止めた。そして、
「久遠も・・・・戦う」
二人を見据え、迎撃部隊に志願する。シャマルとアイナは驚き、ザフィーラは沈黙する。
「だめよ!バックヤードスタッフの皆と避難し(いいだろう」
シャマルは即座に否定するが、ザフィーラがシャマルの言葉を遮り、許可を出す。
「ザフィーラ!!」
シャマルがザフィーラを睨むが、ザフィーラは冷静に理由を話しだす。
「久遠が放つ雷は強力だ、AMFの影響も受けない。戦力が乏しい今の状況では一人でも戦える者が必要だ」
ザフィーラの説明を聞き、シャマルは不満な顔をしながらも納得をする。そんなシャマルに、今度は念話で話しかける。
「(・・・情けないが、この状況では久遠の力は必要不可欠だ。それに、いざとなれば私達が守ればいい・・・・)」
「(ザフィーラ・・・・・・そうね。御免なさい、睨んで)」
ザフィーラを見つめ念話で謝罪した後、シャマルはしゃがみ、少女の姿の久遠と同じ目線で尋ねる。
「わかったわ。だけど、絶対に無茶はしちゃ駄目よ・・・・・・約束して」
久遠の両肩に手を置き、瞳をしっかりと見据えるシャマルに
「わかった」
久遠は短く、しっかりと答えた。その時
「くーちゃん」
話の内容を聞いたのか、アイナに抱きかかえられているヴィヴィオが泣きそうな顔をする。
そんなヴィヴィオに近づき
「大丈夫、久遠達が悪い人たち、全部追っ払うから・・・・・終ったら、また遊ぼ」
笑顔でヴィヴィオに約束する久遠に
「・・・・うん」
ヴィヴィオは泣くのを我慢し、しっかりと答えた。

 

機動六課隊舎を襲撃するため、No.8オットーとNo.12ディードは飛行を続けていた。
「・・・・・お嬢様もこちらに向かっている。向こうは上手くいっているみたい・・・・どうしたの?」
何か考え事をしているような顔をしているオットーを、不思議に思ったディードが尋ねる。
「いや・・・なんでもない・・・・急ごう」
そう言い、スピードを上げるオットー。ディードもそれ以上は追求せずに、スピードを上げた。
「(・・・・おかしい・・・・・)」
ディードに嘘をついた事に罪悪感を感じつつも、オットーは自分の考えの違いに疑問を抱いていた。
「(そろそろ・・・・いや、もう既に管理局の近隣部隊と鉢合わせする筈だけど・・・・魔力反応どころか、生体反応すら無い。情報が間違ってた?)」
疑問に思いながらも、与えられた任務を遂行するために、頭を切り替えた。

 

ディード達が機動六課隊舎に向かっている頃、近隣部隊が待機『していた』上空で
「・・・・・来るな・・・・・楽しみだ・・・・」
数時間前まで、木で出来た人形を弄っていた男が呟く。
「だが・・・・歯ごたえが無さ過ぎる・・・無駄に棚のコレクションが増えるな・・・・」
地上を二秒ほど見据えた後、男は空間と同化するように消えていった。
誰もいなくなり、辺りを静けさが包んだ。
多数の近隣部隊員『だった物』を残して。

 

一方、なのは達にデバイスを渡すため、地上本部に突入したスバル達は途中襲ってきた
No.9ノーヴェとNo.11ウェンディと戦闘を開始していた。
当初は戦闘機人の戦闘力に苦戦を強いられるスバル達、だが戦闘機人戦を想定したティアナとキャロによる幻術によるかく乱や、
スバルの打撃やエリオの雷撃戦により、その場の撤退に成功。
ノーヴェとウェンディは迎撃を行なおうとするが、
「ノーヴェ、ウェンディ、二人とも、ちょっとこっちを手伝え」
チンクから通信が入る。
「もう一機のタイプゼロ・・・・・ファーストの方と戦闘中だ」

 

通信を終えた後、目の前で攻撃態勢を崩さないギンガに話しかける。
「・・・・・今、仲間を呼んだ。数分後にはこちらに来るだろう・・・・・・投降してくれないか?」
いつでもスティンガーを投擲できるように構えながら、優しく諭す。
「悪いけど、それはこちらの台詞よ。これ以上地上本部を破壊させる訳にはいかない。・・・・・投降してくれないかしら?」
ギンガも、投降するように優しく諭す。
だが、チンクは言葉を発せずギンガを見据えながら黙り、ギンガもまた、チンクを見据え沈黙する。
その間約10秒、二人の考えは決まった。

 

              「「(行動不能にして、取り押さえる)」」

 

その直後、チンクはバックステップで後ろに下がりながらスティンガーを投擲、ギンガもバックステップでその攻撃を回避する。
「(おそらく、相手はスローイングナイフを使った戦闘スタイルからして中距離戦を主体としてる、接近戦に持ち込めば)」
投げられたスティンガーが床に刺さり、爆発した瞬間、ギンガはリボルバーナックルのカートリッジをロード、
ナックルスピナーを回転させながらチンク目掛けて突撃を開始した。
自分描けて突撃してくるギンガに、チンクは特に慌てずに新たなスティンガーを取り出し、ギンガ目掛けて放った。
その攻撃を今度は避けようともせずに、前方にトライシールドを張り防ぎ、そのまま直進する。
元々、トライシールドは展開範囲がアルミューレ・リュミエール以上に狭い。そのため、スティンガーその物の攻撃は防げたが、
衝撃や爆風までは防げず、ギンガの体に押し寄せてきた。

 

「くっ・・・・・だけど・・・・・距離は稼いだ!」
苦痛に顔を歪めながらも、どうにか至近距離まで近づき、
『ストームトゥース』
強烈なパンチを放とうとした。だが爆煙が晴れチンクの顔が見えたとき、ギンガは不審に思った。
チンクは攻撃をする素振りを見せない所か、笑っていたのだ。
後2秒もすれば、ギンガの強烈なパンチが目の前の小柄な戦闘機人を吹き飛ばすだろう。
だが、ギンガはその笑みを見た瞬間、勝利の喜びよりも、何かあるという不安の方が勝った。そして
「・・・・・さすがだ、予定より3分早いぞ」
チンクが呟くと同時に、収束砲が真横からギンガを襲った。
攻撃態勢だったギンガは防御する事が出来ず、放たれた収束砲をまともに喰らい、吹き飛び、壁に叩き付けられた。
「が・・はぁ・・」
収束砲のダメージと、壁に叩き付けられたダメージの両方がギンガを襲う。チンクが収束砲が来た方を向くと
「いや~ギリギリだったっスね~」
ギンガに収束砲を放ったウェンディが右手にライディングボードを構えながら歩いてきた。
「チンク姉、大丈夫?」
そんなウェンディを追い越し、チンクの元に駆け寄るノーヴェ。
「ああ、姉なら大丈夫だ」
そう言い、安心させるように微笑むチンク。そして、ふらつきながらも立ちあがり、3人を見つめるギンガに話しかける。
「・・・・・これが最後だ、投降してくれないか。勝ち目は無いぞ」
先ほどと同じように、優しく諭すチンクにギンガは
「・・・・・ありがとう。貴方、親切ね・・・でも・・・・」
ファイティングポーズを取り、答えを見せ付けた。
「だったら容赦しねぇ・・・・・腕の一本くらい、覚悟しとけよ」
ジェットエッジのスピナーを回転させ、ギンガを睨むノーヴェ
「殺しはしないから安心してもいいっスよ~・・・・・それなりに痛めつけるっスけど」
ニヤつきながらライディングボードを構えるウェンディ
だがチンクは参加せず、身近な壁に寄りかかり、腕を組んだ。
「姉はここで見ている。ダメージを負っているとはいえ、奴は強い。それに殺してはいけないのだ。
『殺してもいい』戦闘よりはるかに難しい。トーレに鍛えられた成果を見せてもらおうか。安心しろ、危なくなったら加勢する」
チンクの言葉にトーレとの訓練を思い出したのか、渋い顔する二人。だがすぐに嬉しそうにニヤつき
「悪いけど、チンク姉の出番は無いよ」
「そうっス。虐た・・じゃなかった、訓練の成果をご覧あれッス」
二体の戦闘機人が、ギンガに向かって攻撃を開始した。