勇敢_第12話

Last-modified: 2007-11-21 (水) 11:51:20

・????

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」
夜の闇に包まれた森に、人の荒い息遣いが聞こえる。
「はぁ・・・・はぁ・・・・くっ・・・」
息を荒げるその人物は、何かに逃げるように暗闇の森の中を懸命に走っていた。
左腕で本来右腕があった所を押さえながら賢明に走る。そこからは赤い液体が出ており、
押さえつけている左腕と地面を赤く汚していた。
「っ・・・・・・痛覚は遮断してるけど・・・・体は・・正直ね・・・」
顔を顰めながらも一度立ち止まり、近くの木にもたれ掛る。そのまま背中を木で擦り付けながらゆっくりと地面に腰を下ろす。
「どうやら・・・・・・・来ないようね・・・・あの『ヴェイアもどき』は・・・・」
一度自身を落ち着かせるため、深く息を吐く。
そして何気なく首を上げ、夜空を見る。木々の隙間から見える夜空は星の光りで満たされており
「・・・・きれいね・・・・・」
自然と彼女の心を落ち着かせた。だが、急に俯き、自嘲気味に笑う。
「・・・・全く・・・・よく落ち着いていられるわね・・・私」
呼吸を整えながら再び空を見上げ、同時に数分前に起きた出来事を『No.2ドゥーエ』は思い出してた。

 
 

「中々繋がらないわね・・・・・」
ウーノとの通信が中々繋がらないことに、少しイライラするドゥーエ。
今の彼女の気持ちは『ウーノと久しぶりに話が出来る』という嬉しい気持ちと。
『こんな不気味な所からさっさと出たい』という気持ちで支配されていた。その時である。

 

              ジャリ

 

ドゥーエの耳に、何者かがガラスを踏み砕く音が聞こえた。
それは、数分前まで最高評議会員の脳を入れていたポットのガラス片で、ドゥーエの周りを始め、その近くの空中に浮いている床の至る所に散らばっていた。
ここの床は幅が1~2メートル程のパネルが多数宙に浮いており、それに乗って移動するという仕組みになっている。
そのため、散らばったガラス片を避けて歩くには出来ず、『誰かが』床を伝って移動する場合は、どうしてもガラス片を踏んでしまう。
「っ!!」
音を聴いた瞬間、ドゥーエは何も考えずに前に飛んだ。
目視や熱スキャンでこの部屋を調べたが、確かに反応はなかった。だが、確かに誰かがガラスを踏み砕く音が聞こえた。
その音はとてもよく聞こえ、自身の直近くだと言う事が理解できたドゥーエは何も考えずに前に飛び、近くの床に着地。
その直後、先ほどまで操作していた端末は切り裂かれ、床に落ちた。
ドゥーエは直にナンバーズ特有のバリアジャケットを装備し右腕の指に固有装備『ピアッシングネイル』を装着、戦闘態勢に入る。
「どうやら、犯人のご登場のようね。姿を表してくれえると嬉しいわ」
ピアッシングネイルを構え、犯人がいるであろう空間に向かって叫ぶ。
すると、そこから一人の少年が少しずつ体を現し、10秒も経たずにその姿を完全に現した。

 

「奇襲失敗・・・・・戦闘続行」
少年『トゥウェンティー・ソキウス』は感情の無い瞳でドゥーエを見据える。
「なっ・・・・・・ヴェイア!?」
その姿に驚くドゥーエ。だがトゥウェンティー・ソキウスは右腕の盾を向け、
「排除開始」
機械的に呟きながら、魔力弾を連続して発射する。
自分目掛けて正確に放たれる魔力弾をドゥーエは床を伝いながら避けていく。だが、
そのたびに床は破壊され、飛ぶ事のできないドゥーエの足場を徐々に奪っていった。
「(あのヴェイアもどき・・・・私が飛べない事を知って足場を狙っている。いやらしいわね)」
毒つきながらも攻撃をかわす。既に床の数は数える程となり、ドゥーエの移動範囲は限られていた。
ある程度床を破壊した事を確認したソキウスは射撃を止め、
左腰に差している二本の実剣を抜き、ドゥーエに斬りかかる。
振り下ろされる剣をかわし、時にはピアッシングネイルで防ぎながら床の上を移動するドゥーエ。だが、
「っ!・・・・私は通常戦闘は・・・・得意じゃないんだけど・・・ね!!」
潜入諜報活動や暗殺に特化したドゥーエは、トーレやノーヴェのような通常戦闘を得意としていない。
ソキウスと、そのデバイス『NダガーN』もドゥーエと同じ潜入諜報活動・暗殺型だが
ソキウス自身の戦闘能力と、飛行により足場を気にしない事も合間って徐々にドゥーエを追い詰めていった。
「だけど・・・・なんで貴方はヴェイアに・・・・・似ているのかしら?」
振り下ろされる実剣を受け止めながら、尋ねるドゥーエ。
「・・・・・・・」
だが、ヴェイアは答えずに振り下ろしている実剣に力を込める。
「黙秘?なら吐かせるまでよ!」
受け止めている実剣を力任せに横に切り払い、腹に強烈なけりを放ち、吹き飛ばす。そして続けて衝撃波を放つ。
だが、トゥウェンティー・ソキウスは吹き飛ばされながらも直に空中で態勢を立て直し、放たれた衝撃波を右腕の刀で切り払う。
続けて左上に装着されているハーケンファウストをドゥーエ目掛けて放った。
迫り来る鉤爪をピアッシングネイルで切り払う。だが、ソキウスは着地と同時に床をけり、ドゥーエに斬りかかった。
「っ!!」
ドゥーエは咄嗟にピアッシングネイルを突き出す。その爪は振り下ろされる剣より先にソキウスの左腕に深々と突き刺さった。
トゥウェンティー・ソキウスの手から面白いように血が流れ、床に血だまりを作る。
だが、どんなに訓練された人間でも顔を顰めるほどの痛みを受けても、ソキウスは表情を変えずに、
自身の左腕に刺さっているピアッシングネイルをドゥーエの右腕ごと掴んで動きを封じた。そして
「優先順位変更、使用武装から排除」

 

                   ザシュ

 

空いている右腕のの刀で、掴んでいるドゥーエの右腕を切り落とした。続けて腹に蹴りを放ち吹き飛ばす。
運よく近くの床に倒れたドゥーエ。だが、顔は苦痛のためか歪み、中々立ち上がることが出来ずにいた。
「(神経系切断・・・・・これで痛みはごまかせる)」
スパークが発生している切られた腕を抑え、ふらつきながらもどうにか立ち上がるドゥーエ。
だがそこで彼女が見たのは、盾に装備されているライフルを構えるソキウスだった。

 

自分目掛けて放たれる魔力弾、それと同時に刀を構えたソキウスが接近してくる。迫り来る二つの攻撃を、
「これしか・・・ないわね・・・」
ドゥーエは自ら床から離れ、そのまま重力に任せて落下。
その直後、先ほどまでドゥーエが立っていた床の真上を魔力弾が通過し、続けてソキウスが着地する。
そこからソキウスは下を見下ろすが、暗闇のせいもあって、ドゥーエの姿どころか底の地面すら見ることは出来なかった。
「・・・・・対象の死亡と予測・・・・・」
見下ろすのを止めたソキウスは、流れ出る腕の血を気にせずに、先ほど破壊した端末と同じ物を取り出す。
そこにシールドに内装されているワイヤーを突刺し、ウーノとの通信を開始した。
床の裏に刺さっている透明なワイヤーに気付かずに。

 

「・・・・・行った・・・・かしら・・・・」
ソキウスが通信を行なっていた床から数十メートル下、肉眼では捉えられない所にドゥーエはぶら下がっていた。
カメラアイの望遠機能を最大にし、ヴェイアが過ぎ去ったのを確認した後、
ワイヤーを巻きあげ、先ほどまでヴェイアがいた床にしがみ付き、左手だけの力でどうにか登りきった。
自分の端末は破壊されているため、施設の通信機器を使おうとしたが、全て破壊されており、
僅かにいた人員も、物言わない人形を化していた。

 

「・・・とにかく・・・・現状を報告・・・・しないと」
起こった出来事を連絡するため、休憩を終えたドゥーエは立ち上がり、近くの町までの移動を開始した。その時である、
「接近する物?・・・・・ガジェット?」
立ち上がったドゥーエは、直に何かが近づいてくるのを察知、すると茂みの中からがガジェットⅠ型とⅢ型が現れた。
「ガジェット?どうしてこんな所っ!!」
ドゥーエが言葉を発し終える前に、ガジェットはレーザーでドゥーエを攻撃し始めた。
その攻撃を咄嗟にかわし、衝撃波で攻撃を行なってるガジェットを破壊する。だが、茂みからはガジェットが次々と現れ、レーザーとミサイルを次々と放つ。
それらの攻撃をどうにか避けるドゥーエ。だが、ソキウスとの戦闘のダメージが効いているのか、動きに素早さがなく、数発のレーザーを受けてしまう。
「くっ・・・・!」
バリアジャケットの効果によりダメージは軽減されているが、衝撃は殺しきれずに吹き飛ばされ、先ほどまで休んでいた木に叩きつけられた。
ふらつきながらも、どうにか立ち上がる。だが、既に回りには十数機のガジェットがドゥーエを取り囲んでいた。
「・・・・・なんで私を・・・・・・」
自分達の手駒的存在であるガジェットが、どうして自分を狙うのかが理解出来ないドゥーエ。
だが、ガジェットのカメラアイがいつもと違い、真っ赤になっていることに気付く。
「誰かが操っている?・・・・・・あのヴェイアもどきの仕業ね?まったく、しつこい男はあの司祭だけで十分なのに」
せめてもの抵抗にと、ガジェットを睨みつける。だが、ガジェットは取り囲みながらドゥーエとの距離を段々と縮めていった。
「・・・・・はぁ・・・これまでかしら・・・・・」
背を預けている木に力なくもたれ掛り、夜空を見上げるドゥーエ。その表情からは諦めの色がにじみ出ていた。
「せめて・・・みんなと会いたかったな・・・・・」
静かに目をつぶり、覚悟を決める。そして

 

                    多数の砲火が、対象を打ち抜き、破壊した。

 

・スカリエッティのラボ

 

                 男は夢を見ていた・・・・・・昔の夢を・・・・・・

 

男は作られた存在だった。管理局最高評議会がアルハザードの技術を使って生み出した存在、開発コードネーム「アンリミテッドデザイア(無限の欲望)」。
人間の母親から生まれずに培養液の中で生を受けた彼。
だが、彼は自分の出生には疑問を持たなかった。もしくは評議会がそう仕向けたのかもしれない。だが、彼にはどうでもよかった。
彼は生まれて直に最高の設備が与えられた。そこで彼は研究に没頭した。
生命操作技術の完成という刷り込まれた夢を実現するために。だが、彼はその夢が自分が望んで抱いた物では無い事に、直に気がついた。
それでも、彼には他にする事もやりたい事も無かっため、時間つぶしのために研究に取り込んだ。
彼の世話をしている周囲の人間は、彼を人間として見ていなかった。だが、研究に支障がないため、特に気にしなかった。
そんな生活が続き、徐々に彼からは人間性が失われつつあった。
そんな時である、彼が彼女と出会ったのは

 

彼は、評議会の命令である研究所に赴く事となった。特に否定する理由も無い彼はそれを受け入れ
大型魔力駆動炉の設計に加わる事となった。
だが、そのプロジェクトは他者からの引継ぎで、なおかつ前責任者の管理のずさんさ、設計やシステムの幾度となく変更、絶対的に足りない日数。
それらの要素に悪戦苦闘している現場の姿に、彼は始めて同情と言う念を抱いた。
だが、彼にして見れば、そんなことは問題ではなかった。幾度と無く行なわれる修正・見直し、追加される機能。
それらの要素も、彼の実力を持ってすれば、問題なく解決する事が出来た。
突然現れ、自分達の数倍の仕事を行なう彼に、周囲のほとんどの大人達は異物を見るような目で彼を見ていた。
だが、彼は特に気にせずに、本来の目的と平行して作業に取り組んだ。そんな時である

 

                「ねぇ?何してるの?」

 

その日、彼は芝生で寝そべっている時に、一人の少女に声をかけられた。
見た目からして自分より少し年下の金髪が似合う少女。だが、彼はそれを無視し眠ろうとした。
だが、目を閉じた瞬間、何かに頬を舐められ、その感触に彼は吃驚し、飛び起きた。
「こら!駄目よ、悪戯しちゃ」
全く悪気が無い声で、彼の頬を舐めた山猫を抱きある少女。彼はそんな少女と猫を睨みつけるが、少女は全く気にせずに微笑む。そして
「ねぇ?なにしてるの?」
3分前と全く同じ質問を彼にした。
「・・・・・寝ようと思ったんだが、だ・れ・か・に邪魔されてな。眠気が覚めた」
嫌味タップリに言い放つ少年。だが、少女は全く意に返さずに
「そうなんだ~」
と、のほほんと言い返した。そして
「だったら遊ぼ!!」
そう言い、抱きかかえてる山猫をそっと地面に下ろした後、少女は少年の手を取り走り始めた。
「おっ・・おい!」
少年は初めて『怒鳴る』と言う行為に及んだが、少女には全く意味がなった。

 

それから、少年は少女に振り回される感じで毎日遊ぶ事となった。
そしてある日、少女は母親の仕事で、近くの開発室の一室で住んでおり、いつも一人で遊んでいた事を少年に話した。
「だけどね・・・・お母さんは頑張っているから・・・我侭いっちゃ駄目な事は分かってるの・・・」
「・・・・・・やっぱり・・・・・お母さんと一緒にいたいのか?」
「うん。だけど、今は君がいるから、さびしくなんかないよ!」
満面の笑顔で言う少女に、少年はそっぽを向く。
「(・・・・こいつの母親が一緒にいれば、僕に付きまとう事もなくなるだろ・・・・)」
内心で答えを出し、少年は行動に出た。『少女が喜ぶ顔を見たい』という、もう一つの気持ちを押さえ込んで。

 

少年は今まで以上に積極的にプロジェクトに加わった。
スタッフでも出来る所は全て任せ、難しい所、時間がかかる所などは研究スタッフと一緒に取り組んだ。
最初は異物を見るような目で少年をを見ていたスタッフも、次第に一人の仲間として少年を見るようになった。
スタッフも残業をする事がほとんど無くなり、皆、定時で帰る日が多くなった。

 

「最近ね、お母さんが早く帰ってくる日が多くなったんだ!」
時刻は昼を少し過ぎた頃、少女は少年と一緒に、芝生に座りながら昼食のサンドイッチを食べていた。
「そうか、よかったな」
少女の笑顔に自然と少年も微笑む。
「だけど・・・・・変わったね?」
突然、少年を真っ直ぐに見据えながら少女は尋ねる。
「昔の君って、ムスっとしてたから」
「・・・・誰かさんに振り回されたからね・・・・表情が無駄に豊かになったよ」
「む~、酷いな~そう思わない?」
少女に賛成するかのように側にいた猫は鳴き声を上げる。
その光景に二人は互いを見据え、微笑んだ。
少女と過ごす時間は、少年にとっては有意義な時間であり、早く過ぎ去る時間を怨みさえした。
そんな時である。評議会から帰ってくるように伝えられたのは。
今の状態なら、少年をプロジェクトから外し、他の物に任せても大丈夫だという理由であった。
少年は初めて拒否をしようとした。だが、評議会の力を誰よりも知っていた少年は、
少女や今では仲間として迎えてくれた研究員の安全を考え、出来るだけ冷静さを装い承諾をした。
命令を受けたその日のうちに、少年は荷物を纏め、そこを後にしようとした。その時
「まって!!!」
月明かりで照らされている草原、そこに経つ少年の下にパジャマを着た少女が走ってきた。
「おまえ・・・・・」
少年は少女の姿に歩みを止め、少女の方を向く。
少女は少年の前で止まり、息を整えた後、少年を見据える。
「・・・・・・・いっちゃうの・・・・・・」
少女は泣きそうな顔で少年に尋ねる。少年はただ、頷く事しか出来なかった。
「・・・やだよ・・・・いかないでよ!!いっちゃやだよ!!!」
感情を爆発させ、少女は少年抱きつく。少年は少女が落ち着くまで優しく少女を抱きしめた。

 

暫くし、少女の鳴き声が止まる。
「また・・・・・会えるよね・・・・・」
少年の方がいくらか背が高いため、少女は少年を見上げ尋ねた。
少年は分かっていた。おそらく会える可能背は低いと。
だが同時にゼロではない事も少年は分かっていた。だから少年は少女の目を見据え、
「うん・・・・・会えるよ」
しっかりと答えた。少年の答えに満足した少女はいつもの笑顔で少年を見つめる。
「だったら・・・・・今度あったら・・・・・私が、あなたのお嫁さんになってあげる」
そう言い、背伸びをし、少年に口づけをした。
突然の行為に、少年は面食らったように驚き、少女も自分がした行為に顔を真っ赤にする。
「・・・・正直、いつになるか分からない。だけど、帰ってくるよ・・・必ず」
「うん・・・私、待ってるから・・・・・またね、ジェイル」
少女は笑顔で少年『ジェイル』に別れを言う。
「うん・・・また会おう・・・・・・XXXX」
ジェイルも心を込めて、少女の名を呼んだ。

 
 

「ドクター・・・・ドクター・・・」
ウーノの声でスカリエッティは目を覚ました。
「ああ・・・ウーノか。寝てしまったようだね」
軽く頭を振り、自身を覚醒させる。そんなスカリエッティをウーノは悲しそうに見つめていた。
「ん?どういたんだい?」
悲しそうな瞳で自分を見据えるウーノに、スカリエッティは尋ねる
「・・・・悲しい夢でも・・・・見ていたのですか?」
どうしてそんな事を聞くのか、疑問に思うスカリエッティ。だが、いつの間にか自分が泣いている事に気が付いた。
「・・・・ああ・・・・・心配をかけたね。でも、大丈夫さ。ありがとう」
涙を拭い答える。ウーノはそれ以上は追求せずに、安心した顔になる。
「それで、どうしたんだい?」
「はい、プロト01ギンガ・ナカジマが目を覚ましました。傷も完治しています」
「わかった。それではここに呼んできてくれないか。話したいことがあるのでね」
「わかりました」
そう言い、端末を開き、誰かと連絡を取るウーノ。数分後
チンクに連れられたギンガ・ナカジマが、スカリエッティの前に現れた。

 

                地上本部から数日後

 

・アインへリアル二号機

 

「はぁ・・・・・暇ッスねぇ~」
アインへリアル直掩隊の隊員が、あくびをしながら隣の部隊長に言う。
「真面目にしろ!地上本部が襲撃を受けた以上、ここにもいつ敵が来るのか分からんのだぞ!!」
部隊長は男の態度に怒鳴るが、男は「りょ~か~い」と返事をし離れ、後輩と思われる隊員と話し始めた。
「ったく・・・・隊長も真面目なんだからな~」
「仕方ないですよ。地上本部があんな風になったんですからね。切り札のアインヘリアルが襲撃される可能性は大いにあります」
後輩と思われる隊員が苦笑いしながらなだめる。
「だけどよ~、ここの警備は万全。地上本部襲撃事件の教訓も踏まえて警備体制はいつも以上に強化されてるし、
Aクラス以上の魔道師も10人以上がここと一号機、三号機に配置されている。ガジェットだっけか?それに対抗して対フィールド弾を
打てる奴は俺とお前を含めて7割を占めている。今のここに攻撃を仕掛けてくる奴なんで、よほどの馬鹿か、よほどの自信家だよ」
先輩隊員の発言に後輩隊員も納得する。確かに今のここは対ガジェット対策としては万全と言っていいほどの警備体制で臨んでいる。
配属期間が浅い自分が言うのもなんだが、地上本部の二の舞は無い筈だと、彼は思った。
後輩隊員の安心した顔に満足したのか、一号機に配属されている友人と世間話でもしようかと、通信回線を開いた。
彼は直に知り合いの退屈そうな顔が写ると思っていた。だが映像は砂嵐で写らず、音声はノイズ交じりの
「た・・たすけ・・・・・ああああが・・あ・あ・・・・・」
悲鳴なのか絶叫なのか分からない声が聞こえてきた。
「なっ・・・・おい・・・おい!!!」
通信は繋がっているため、声が聞こえているであろう親友に必死に呼びかかる。
だが返事は無く、ノイズの向こうからは他の隊員たちの悲鳴がかすかに聞こえているだけだった。
「畜生!!隊長!!」
先ほどとは打って変って、真面目な顔で隊長に報告をする。
「分かっている!!三号機の直掩隊とも連絡が途絶えた!総員に伝えろ!戦闘配置!!」
隊長の支持に、周囲の隊員は敬礼で答え、持ち場に着く
「(くそ・・・・ガジェットか?戦闘機人って奴か?だけど壊滅が早すぎる!)」
30分ほど前までは普通に他愛も無い話をしていた友人の叫びを聞いた彼は、感情を抑えるために杖を力強く握り締める。その時、
「上空に転送魔法陣確認!!!」
その言葉に全員が杖と頭を空に向ける。すると、極めて巨大な転送魔法陣が出現し、そこから二人の少年と
「な・・・・なんだよ・・・・ありゃあ・・・・」
少年の後に出てきた、巨大な物に唖然とする隊員達。それは、六本の巨大な針が寄せ集まったような奇怪な形をした物だった。
そして結合部分であろう中枢を残して六本全てが分離、ゆっくりと離れた瞬間、
急に素早く動き回りながら、アインへリアルと地上の隊員目掛けて大口径の魔力砲を連続して放った。
連続して放たれる魔力砲に、アインへリアルは瞬く間に破壊され、隊員達は風に吹かれた枯葉のように吹き飛ばされる。
「何だよ・・・・・なんなんだよ!!」
恐怖を打ち消すため、叫びながら友人の敵と言わんばかりに魔力弾を放つ。だが、彼は攻撃をする事に気を取られ、同時に出てきた少年の内の一人
フィフティーン・ソキウスが、後ろから魔力刃を振り下ろそうとしている事に気付かなかった。

 

・一時間後

 

「これは・・・・・」
アインへリアル破壊のため、多数のガジェットを引きつれ、二号機現場に着いたトーレ。
そこで彼女達が見たのは、完全な防衛態勢で警戒をしている局員達ではなく、
アインへリアルや戦車などの残骸と、多数の局員の屍だけだった。
「何だよ・・・こりゃ・・・」
あまりの悲惨さに顔を顰めるノーヴェ、普段感情を面に出さないセッテも、顔を顰める。
トーレは急いで一号機と三号機を担当してる姉妹に連絡をとり、現状を報告する。
「・・・・・トーレ姉・・・向こうは・・・・」
「こちらと同じらしい。何者かに襲撃された後だった。次のプランに写るぞ」
そう言い、背を向けるトーレ。ノーヴェも離れるために、移動に使っていたガジェットに指示を出そうとするが
「待ってください」
セッテの声に二人とも移動を中断する。
「どうした?セッテ?」
「確認をしましたが、まだ生存者がいます。救助するべきかと?」
セッテの言葉に、トーレは押し黙る。だが
「分かった、やろうぜ。『犠牲は最小限に』がモットーだもんな」
ノーヴェは二人より先に、現場に降り立った。
セッテも続けて現場に降り立ち、トーレも数秒考えた後、深く溜息をつく。
「まったく・・・・・妹達に教えられるとはな・・・・」
ぼやきながらも、救出活動をする事を他の姉妹に伝える。すると
「もうやってるッスよ~。あっ、オットーそっちお願っス!」
と二人の局員を担ぎながらウェンディが報告をし、
「こっちもやってま~す。全く、皆御人好しよねぇ~」
『やれやれ』首を振りながらも、まんざらでもない顔をしてるクアットロが各自にに応急手当のデータを転送する。
「考える事は皆同じか・・・ふっ、ヴェイアの言う通りだな」
呟きながらスクラップとなっている戦車の残骸を持ち上げ、下敷きになっている局員を助け出す。
「く・・・・・ああ・・あ・・・・」
下敷きになっていた局員は、生きている事を証明するかのように声をあげる。だが、背中の傷から見て、助からない事は一目で分かった。
「お・・まえ・・・は・・・戦闘・・」
「喋るな・・・・傷に触る」
素直に自分の心配をするトーレに局員は力なく笑いかける。
「まった・・・く・・・敵に・・・助けられるとは・・な・・・だが、・攻撃したのは・・・・お前達・・・じゃ・・なさそうだ・・・・」
「喋るなと言っている。重症なんだぞ」
「いい・・さ・・・自分のこと・・は良く・・・知って・・・いる・・・あんたみたいな・・・美人に看取られてなら・・・わるくないさ・・・」
「・・・・・・・」
「せめて・・・もの礼だ・・・・教えてやる。俺達をやったのは・・・・巨大な・・・機動兵器・・・・・・
それと・・・・双子・・・なのか、死体みたいに青白い・・・そっくりな奴が二人・・・・・だ・・・・」

 

「そうか・・・・・情報感謝する」
「最後に頼みを聞いてくれ・・・・・・助けられる奴・・は・・・・助けてく・・・ゴフッ・・・」
口から血を吐き、トーレのバリアジャケットを血で汚す。
「ああ、約束しよう」
「へへ・・・わ・・り・・・・・・い」
その言葉を最後に局員の瞳から光りが消えた。
トーレは黙祷した後、見開いたまま死んだ局員の瞳を閉じ、救出活動を再開した。

 

・病院

 

病院のある一室。窓からこぼれる日差しが、その部屋を温かく包み込んでいた。
個室のため、他の患者がいないその部屋のベッドで、カナード・パルスはあの襲撃か一度も目を覚まさずに眠っていた。
ベッドの隣に備え付けている椅子に座り、その姿を見つめる久遠。怪我は既に感知し、暇さえあればカナードの病室を訪れていた。
その時、来客を告げるノックがなり
「失礼します」
管理局の制服に身を包んだはやてが入ってきた。
「はやて・・・」
「くーちゃん、カナードの様子はどうや?」
ハヤテの質問に久遠は首を横に振る。
「そうか」
そう言い、カナードに近づくはやて。その様子を見た久遠は
「久遠、先に行ってる」
椅子から立ち上がり、病室から出て行った。
「なんや?気ぃつかってくれたんか?」
久遠が出て行った扉を微笑みながら見つめたはやては、改めてカナードの寝顔を見つめる。
「全く・・・お寝坊さんやな・・・・」
右手で頬を優しく撫でる。人肌の暖かさがはやての手に伝わり、カナードが生きている事を実感させる。
暫くそうした後、名残惜しそうにてを離すはやて。
「それじゃ・・・・・いってくるな・・・・」
カナードの寝顔を見つめながら呟き、はやては病室を後にした。

 

・翌日

 

「・・・ん・・・・・」
カナード・パルスはベッドの中で目を覚ました。
上半身だけを起こし、意識をはっきりとさせるため、軽く頭を振る。
「俺は・・・・・一体・・・・」
自分に起きた出来事を考え、直に思い出す。それと同時に病室の外が騒がしいのにも同時に気がついた。
そして、軽いノックの後、カナードの病室に看護婦と思われる人物が入ってきた。

 

「あっ、目覚めたんですね!よかった!!」
「・・・・・・すまないが・・・・・・どれ位寝ていたんだ?」
「5日ほどです。それより避難しますのでそのままにしていてください。直に迎えが来ます」
迎えを呼ぶために、出て行こうとした看護婦を呼び止め、現状を尋ねるカナード。
看護婦は備え付けのテレビを点け、現状を説明する。突然巨大戦が現れたこと。首都クラナガンに向かって自動機械や、危険人物が向かっていること。
そのため、今は案内放送と管理局員の指示に従って避難している事を伝えた。
「ですから、ここも危ないので、避難を開始しているんですよ」
そう言い、出て行こうとする看護婦をカナードは再び呼び止める。
「すまないが、連絡を取ってほしい人物がいる。頼めるか」
ベッドからゆっくりと立ち上がり、軽く体を動かしながら尋ねるカナード
カナードの突然の行動に看護婦は慌てて止めようとするが、
「心配いらん。体は無駄に丈夫だからな」
微笑みながら答えた。

 

数十分後、カナードの病室にマリエル・アテンザが現れた。
「カナード!目覚めたのね!良かった!!」
心から喜ぶマリーに
「すまなかったな。所で、ハイペリオンはどうなった?」
軽く謝罪をした後、ハイペリオンについて尋ねるカナード。
「・・・・・実物を見た方がいいわね・・・もしかしたらと思って、持って来たわ」
そう言い、カナードの発言を予測していたのか、ケースに入れた待機状態のハイペリオンを取り出した。
「中枢はどうにか無事なんだけどね。他の機能は完全に大破。物が物だから修理にも全然時間が足りなくて」
全体にヒビが入っている待機状態のハイペリオンを見ながら説明をするマリー。
「・・・そうか・・・・ドレッドノートは?」
「それなら無事だよ。外装に傷がついてるけどね・・・」
ポケットから同じくケースに入っているドレッドノートを取り出す。
「この子がね、カナードに突き刺さった魔力刃を急所から逸らしてくれたんだよ」
ケースに入ってるドレッドノートは右側に大きな傷が出来てた。だが、中央の宝石は輝きを失っていなかった。
それを手に取り、眺めるカナード。
「ドレッドノートは機能に関しては問題ないのだな?」
「ええ・・・・まさか!?カナード」
カナードの言いたい事を理解したのか、マリーは驚きの表情を見せる。
「だけど、ドレッドノートはプレア君の様な能力者じゃないと使いこなせなって」
「ああ、だがハイペリオンの中枢は無事と言ったな?その戦闘データや機能をドレッドノートに移す。できるか?」
カナードの考えは当初、マリーも提案していた。だが、ドレッドノートはハイペリオンと違ってブラックボックスな部分が多かった。
そのため、下手に他のデータを移すとどうなってしまうか、マリーですら予測は出来なかった。
(その逆、ある程度解析が終ってるハイペリオンにドレッドノートのデータや機能を移す事を試しているが、失敗に終っている)
「でも・・・・そんな事・・・・・」
カナードの考えは理解できる。だが、投げやりとも思える行為にマリーは踏ん切りがつかなかった。
「ああ・・・・普通ならやらないな、それ以前に俺がやらせん。だがな」
カナードは持っていたドレッドノートを差し出し
「以前シャーリーにも言ったが、俺は信じられる奴にしか物事は頼まん。マリエル・アテンザ。おまえだからこそ頼んでいるんだ」
真っ直ぐにマリーを見据え、答えた。
「・・・・・・うん分かった!近くの施設を借りられる様に手配するね。ついてきて」

 

数十分後、病院から一番近い研究施設を訪れ刃二人は、ドレッドノートへのデータ転送の作業を行なっていた。
「・・・・・どうだ?」
『ある所に連絡する』と言い、一時的に席を離れたカナードが仕上がりを尋ねる。
「やるだけの事はやってみた。あとは・・・・・・」
「セットアップをして、試すしかないか」
マリーからドレットノートを受け取る。右側に出来ていた大きな傷は消え、中央の宝石が赤から金色に変化していた。
カナードは研究施設の外に出て、右手に持っているドレッドノートを見据える。
「・・・・・プレア・・・・・・俺に・・・・・力を貸してくれ・・・・ドレッドノート!セット・アップ!!」
その瞬間、カナードは光に包まれる。そして電子音が響く。

 
 

『 The spatial reasoning capacity was not able to be confirmed.Therefore, the η form is selected.
 Various data reflection beginning. Zastaba Sticmad addition.Almurerumialhandi Addition . ALL are normal. O.K 』

 
 

・スカリエッティのアジト周辺

 

ゆりかごが飛立ってからも、ロッサとシャッハは次々と現れるガジェットとの戦闘を継続していた。
「まったく、嫌になってくるよ・・・・・そう思わないかい?」
「ええ!同感です!!」
答えながらもⅠ型を二体まとめて切り裂くシャッハ。
二人の周りにはガジェットの残骸があちらこちらに散らばっていた。それでもなお、森の中からは次々と増援のガジェットが現れる。
「おやおや、またまた団体さんの登場だ。こちらの援軍の到着はもう暫くかかるのに・・・・」
「良いじゃないですか。ロッサのサボり癖を直すのにはいい機会です!」
カートリッジをロードしながらしながら、言い放つシャッハ。
「そうかい?それなら・・・・・頑張るとするかな!」
ロッサも同じく戦闘態勢に入ったその時、上空から多数の砲火が降り注ぎ、ガジェットを次々とスクラップにしていった。
「何?」
ガジェットを倒したとはいえ、突然の攻撃に警戒を強くすシャッハ。だが
「安心して良いよ、味方だよ」
ロッサが攻撃態勢を崩さないシャッハを手で制止し、空を見上げる。そして
「助かったよ、プレア君」
砲撃を行なった人物、プレア・レヴェリーの名を呼んだ。
「ご無事でよかったです」
展開していたガンバレルを仕舞いながらロッサ達に近づく。
「ロッサ、この子は??」
突然現れた少年について尋ねるシャッハ。だが、
「始めまして、プレア・レヴェリーといいます。」
ロッサの紹介より先に、笑顔でシャッハに自己紹介をするプレア。その行動にシャッハも反射的に頭を下げ、自分の名前を言う。
その光景をロッサは微笑みながら見つめていたが、直に顔を引き締める。

 

「どうやら、ゆっくり自己紹介は出来ないみたいだよ?」
その言葉通りに、林から増援のガジェットが現れた。三人は迎撃態勢を取ろうとするが
「プレア君、君はゆりかごに行ってくれ」
ロッサはガンバレルを展開しようとするプレアを見据えながら言う。その言葉にプレアは動揺するが、
「決心はついたんだろ?ここは大丈夫だから、みんなの所へ行くんだ」
微笑みながら言うロッサに、プレアは数秒沈黙するが
「・・・・はい!ありがとうございます!お二人ともお気をつけて」
深々とお辞儀をした後、ゆりかご目地してプレアは飛行を開始した。
「・・・いい子ですね、あの子」
飛んでいくプレアを見上げながら呟くカリム。
「ああ・・・・全くだよ」
カリムの言葉に素直に答えるロッサ。そして
「(敵である戦闘機人ですら、迷わず助けたんだからね)」
あのときのことを思い出しながら、内心で呟いた。

 

スカリエッティや人造魔道師施設についての調査をしていたロッサは、ある研究所に辿り対た。
猟犬を放ち、情報収集をしてた彼が見つけたのは、警備用とは言いがたい傀儡兵に追われるプレアの姿だった。
助けたプレアから事情を聞き、時には現状を話したロッサ、最初は混乱したプレアも、数日後には自ら望んでロッサを手伝うようになった。
だた、はやて達のことを知っていたロッサに『自分のことは話さないでください』と、お願いをして。
ロッサはその理由をなんとなく理解できた。だが、それを口に出そうとはしなった。
そして数日前、プレアと数人の教会騎士団と一緒に、周辺調査をしていたロッサはガジェットに囲まれている戦闘機人を発見。
指示を仰ごうとしている教会騎士団をよそに、プレアは瞬く間にガジェットを破壊し、その戦闘機人(後にドゥーエと名乗った)を助けた。
「どうして・・助けるの・・・・・敵よ・・・・・私は」
「そうだ、奴は戦闘機人だぞ。地上本部を襲撃した連中の仲間じゃないか?」
ドゥーエと、教会騎士団はプレアの行動に対し疑問を口にした。だが、プレアは耳を貸さずにドゥーエに回復魔法を掛け
「・・・・そうですね。ですけど、今は怪我人です。それに、助けるのに理由とかは必要ありません」
多少強い口調で言い放った。
その言葉に押し黙る騎士達。ドゥーエは優しく微笑みながら
「変わった・・・・・子ね・・・・・・」
回復魔法の心地よさに負け、眠りに入った。
その後、近くの施設の調査を終えたロッサは、ドゥーエをプレアに任せることにした。(一緒にいた教会騎士団には管理局に引き渡したと嘘をついた)
ドゥーエは特に抵抗はせずに、キズの回復と腕の接続治療(それは自ら行なった)に専念し、昨日プレアの下を去った。

 

「ホント・・・いい子だよ」
もう一度呟きながら、迫り来るガジェットに立ち向かうロッサ。
数分後、到着したフェイト達が見たのは、ガジェットの残骸に囲まれた二人が、応援の到着をを待ちわびている姿だった。