勇敢_第11話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 13:43:07

機動六課隊舎

 

襲撃から一夜明けた機動六課隊舎。建物に無傷な所は無く、一部では未だに煙が立ち昇っていた。
芝生が張られた地面はえぐられ、土が露出し、彼方此方には大小のクレーターと、無数のガジェットの残骸が散らばっていた。
「・・・ひどいわね・・・・まったく・・・・」
局の調査員と一緒に、周辺の被害調査をしているティアナが機動六課隊舎を見上げ、呟く。
「酷い事になってしまったな」
そこへ、入院している隊員の様子を見てきたシグナムがティアナに近づいてきた。
「シグナム服隊長・・・・病院の方は・・・・」
不安そうな顔をするティアナに、シグナムは表情を変えずに答える。
「重症だった隊員達も、峠は越えたそうだ。全員意識は回復している。・・・・・・・ただ」
「カナード・・・ですか」
「ああ・・・・・あいつだけは、まだ意識が回復していない。峠は越えたのだがな」
「そうですか・・・でも・・良かった・・・みんな無事で」
心から安心したのか、微笑みながら答えるティアナ。
その後、なのはの様子を聞いたシグナムはティアナの手から端末を取り上げ、病院に顔を出してくるように言う。
ティアナは頭を下げその場から去ろうとするが、途中で足を止め、シグナムの方を向く
「シグナム服隊長!」
後ろを向いていたシグナムがティアナの声を聞き、振り返る。
「カナードなら、直に目を覚ましますよ!事件を解決させて、あいつの仕事、なくしてやりましょ!!」
ポカンとするシグナムの顔に満足したティアナは深く頭をさげ、今度こそ、その場を後にした。
「ふっ、慰められたな」
声がした方を向くシグナム。すると、そこには
「おまえも・・・・来ていたのか」
一部始終を見ていたリインフォースが微笑みながら近づいてきた。

 

二人は、ほぼ廃墟となった機動六課隊舎の中を歩いていた。
時より、調査をしている局員が二人に対して敬礼をする。そして、昨日までは食堂『だった』場所にたどり着いた。
既に調査を終えたのか、ここには二人以外の人物はいなかった。
「徹底的に・・・・破壊されてるな・・・・」
焦げ付いたテーブルを軽く摩るリインフォース。それだけで手は煤で真っ黒になる。
「お前は、近隣部隊の所に行っていたのか?」
ガラスが全て破壊された窓から、外の様子を伺っているシグナムが尋ねる。
「ああ、酷い物だった・・・・」
現場を思い出したのか、顔を顰めるリインフォース

 

「生存者はゼロ。正直何人いたかすら、配置リストを見ないと分からなかった」
「奴・・・・アッシュ・グレイの仕業か?」
「戦闘機人は今までの経緯から人員の殺害は行なっていない、ガジェットではあれほどの芸当は無理だ
上空から強力な砲撃で一撃・・・・ほぼ間違いないだろう」
シグナムは「そうか」と呟く。そして、近くの壁を思い切り拳で壁を叩いた。
「何が・・・・何が烈火の将だ!何がリーダーだ!!何も・・・出来なかったでは・・・ないか」
うなだれ、腹のそこから搾り出すように呟く。
「お前やテスタロッサ達が駆けつけなければ・・・・シャマルが傷つきながらも処置を施さなかったら・・・・
皆は・・・・カナードは・・・・・・・」
自身を攻め立てるシグナムに、リインフォースは近づき、そっと方に手を置く。
「悔やむ事は・・・いつでも出来る。だが、今はそれをする時ではない・・・・違うか?」
リンフォースの言葉を沈黙で返すシグナム。だが、リインフォースは言葉を続ける。
「私も・・・・・・ここに着いた時には、全てが終っていた。私こそ・・・何も出来なかった・・だがな」
リンフォースはシグナムの肩に置いた手に力を入れ、引き、無理矢理こちらに向かせる。
そして、シグナムの両肩に両手を置き、シグナムの目を真っ直ぐに見据え、話す。
「取られたのなら取り戻せ!そして、今度こそ、守りぬけ!!私は、祝福の風の名の下に誓う!!
二度と過ちは繰り返さないとな!!お前はどうなんだ!!シグナム!!」
突然のリンフォースの言葉に呆然とするシグナム。だが、
「ふふっ・・・・・・そうだな・・・・・リーダー失格だな・・・・私は・・・・」
リインフォースを見据えるその顔からは自己嫌悪と後悔の念は消え、いつもの、逞しく、凛々しいシグナムの顔になる。
「ああ、私も誓おう・・・・・取り返し、守り抜く・・・・烈火の将名の下に!!」
シグナムの誓いを聞いたことに、そしていつもの顔に戻った事に、リインフォースは満足げに微笑んだ。

 
 

病院

 

「無理すんな・・・酷い怪我だったんだぞ」
シャマルとザフィーラの病室にお見舞いに来たヴィータ。
シャマルが体をお越し、出迎えようとするが、その行動を止める。
「平気よ・・・ザフィーラに比べれば私の怪我は軽いもの・・・・」
そう言い、隣のベッドを見る二人。そこには、体の約半分を包帯で巻かれたザフィーラが横たわっていた。
「ザフィーラが、盾になってくれて、護ってくれた」
「アタシの方も・・・ツヴァイが護ってくれた・・・・・ユニゾンしてなかったら、死んでいたかもしれねぇ」
うなだれ、拳を力強く握り締めるヴィータ。
「マリーさんから、連絡を受けたわ。今夜には目を覚ますって」
その報告に、ヴィータはしっかりと頷く。
「ザフィーラも念話には答えてくれるようになったわ。今は眠っているけど。他のみんなの意識も回復している・・・ただ」
「カナード・・・・・・か」
「ええ、峠は越えたんだけどね・・・まだ、意識が戻らないの」
その報告に顔を落とすヴィータ。しばらく沈黙が続く。

 

「そのことを・・・・・はやては?」
「知ってるわ。それでも、普段以上に仕事をこなしている・・・・・・無茶・・してるわね」
「ああ・・・・なのはもだ・・・・・ヴィヴィオが攫われたのに・・・我慢しているのが丸分かりだ・・・クソ!!」
悪態をつくヴィータ。だが、直に無意味だと分かり、シャマルに謝る。
「隊長という役割が、そうさせてるのよ・・・・・今の現状で、私的感情を見せたら、皆の士気に関わるわ・・・・だからね」
シャマルはヴィータの両肩に手を置き、真っ直ぐに見据える
「私達の前では・・・・弱気になっても良い様にしましょ・・・だからね、ヴィータちゃん」
そしてそのままヴィータを抱きしめる。
「貴方も、今だけは・・・弱気になってもいいのよ・・・・ヴィータちゃんこそ、
リインちゃんやカナード、皆の事で我慢している事が丸分かりよ・・・・だから・・・ね」
ヴィータは、今この時だけ、シャマルに甘える事にした。
一つの病室で、女の子の泣き声が聞こえる。だが、その声は外に漏れる事無く、室内だけに響いた。

 

「・・わりーな・・・・あんがとな・・・・」
目をこすり、涙を拭うヴィータ。その表情は、先ほどまでの暗さが抜けていた。
「じゃあ、アタシは行くな。とにかく今はゆっくり休めよ。皆が倒れた後もガジェットと戦ったり、
治療をやったり、一番頑張ったんだからな」
笑顔で自分を褒めるヴィータに、一瞬顔を曇らすが、直に笑顔で返事をする。
ヴィータが病室から出て行ったことを確認したシャマルは、深く溜息をついた。
「ゴメンね・・・ヴィータちゃん・・・・」
既に出て行ったヴィータに向かって謝るシャマル。その時、訪問を告げるノックが鳴る。
シャマルが訪問の許可を告げると、同じく皆のお見舞いに来ていたフェイトが入ってきた。
ヴィータの時と同じく、起き上がろうとするシャマルを止めるフェイト。そして、スバル達の様子について話し始めた。
フェイトの報告を聞いて安心するシャマル。だが、
「シャマル・・・・・正直に答えてください・・・・」
急にフェイトが真剣な顔で自分を見据えている事に驚きつつも、
「何・・・かしら?」
上半身だけを起こしたシャマルが臆する事無く、見つめ返し、答える。
「・・・・・・六課を襲ったガジェット、当初は活動を休止しましたが、途中から、目標を人員に定めて攻撃を開始しました」
「ええ・・・そうよ」
「ガジェットは二手に分かれた、カナードの所、そして避難しているシャマル達の所に。カナードの所のガジェットは久遠が
全て撃退してくれました」
ここでフェイトは一旦話を止める。だが、シャマルは沈黙しているため、話を再開する。
「シャマル達の所に行ったガジェット、撃退したのはシャマル・・・・・貴方で間違いありませんか?」
フェイトの問いに
「ええ、そうよ」
シャマルは即座に答えた。
「南側出口から脱出しようと思ったんだけどね、ガジェットが待ち伏せしていたの。出口から出た途端に一斉砲撃。
その時ザフィーラが防御してくれなかったら皆死んでいたわ。続けての一斉砲撃は私と待機部隊員でどうにか防いだわ。
だけど、私以外は昏倒。その後はどういうわけか砲撃が来なかったから、私でもあの数は倒せたわ」

 

「あの回復魔法は?」
「私がやったわ。最初は短距離転送でカナード達の所まで行って掛けたわ、一番危なかったから。その後はザフィーラ達と私自身にかけて、応援の到着を待った」
これで話は終わり、と言わんばかりにシャマルは黙る。
「・・・・わかりました。シャマル、貴方は嘘をついてますね」
フェイトの突然の発言に
「どうしてかしら?」
シャマルは表情を変えずに尋ねる。
「貴方がガジェットを破壊した事、これに関しては疑う所は『一応』ありません。ですが、その後に掛けた回復魔法、あの魔法は貴方が使える筈がないんです」
「どうして?回復魔法は一番メジャーな魔法よ。種類が多い分、テスタロッサちゃんが知らない魔法も幾つかあるわ。
それに、最近覚えた魔法も幾つかあるの、今回はそれを使用したから。テスタロッサちゃんが疑うのも無理は無いわね。つい最近まで使えなかったんだから。
だけど、ごめんなさい。術式は憶えたんだけど、名前は憶えていなくてね・・・・後で調べとくわ」
「・・・・いえ・・・結構です・・・・・どこを調べても、その魔法の名前、術式は載っている筈がありませんから」
フェイトの言葉にシャマルは初めて驚きの表情を見せる。
「あの魔法『ラウンドガーター・エクステンド』はスクライア一族だけが使える防御と回復を兼ね備えた魔法です。スクライア一族が独自に
生み出した魔法で、局のデーターにも登録はされていません。使えるのはスクライア一族・・・・ここではユーノだけです」
シャマルはフェイトから目をそらし、俯く。だが、フェイトは言葉を発するのを止めない。
「ユーノは、この魔法を二人の人物に『だけ』教えました。アルフと・・・・・・プレアにです。アルフは、母さんの所にいましたから
機動六課隊舎にくる事は不可能です。そうすると・・・・」
「・・・・・・・・・」
「少し話がずれます。ヴィヴィオを保護したあの事件、カナードが来なければストームレイダーは落とされていました。
あの時、カナードの端末は調子が悪かった。念話をしようにも、場所が分からなかったから出来なかった。それなのにカナードは来ました。
距離が離れていましたから、魔力反応を感知する事は出来ません・・・・・・・プレアが教えてくれたそうです」
「ええ・・・カナードから聞いたわ」
「騎士カリムの予言もそうです。今回の地上本部壊滅に関する予言の他にも、カナードが敗北すると解釈できる予言がありました。
その予言は未だに解読中ですが、その中にプレアに該当すると思われる記述がありました。真実を・・・・・教えてくれませんか」
フェイトは話すのを止め、シャマルの言葉を待つ。沈黙が室内を支配する。そして
「ええ・・・・テスタロッサちゃんの思っている通りよ」
シャマルは一度大きく息を吐き、顔をあげ、フェイトを見据えながら答え始めた。
「あの時、ガジェットに囲まれている私達を助けたのはプレア君よ。以前カナードが話したような幻ではなかったわ。
倒れそうになった私を支えてくれたのだから。10年前と、全く変わらない・・・・小さな体で」
「何故・・・真実を教えてくれなかったんですか?」
フェイトは多少攻め立てる口調でシャマルに尋ねる。
「ごめんなさい。プレア君に言われたの、『黙っていてください』って。本当なら貴方やヴィータちゃんやカナード、リンディ提督やクロノ提督に
真っ先に教えたかった。だけど、プレア君にも考えがあると思って・・・・・ごめんなさい」
深く頭を下げるシャマルに、フェイトは先ほどの攻め立てる口調を恥いた。
「いえ、私こそすみません。シャマルの気持ちも知らずに」
「いいのよ、テスタロッサちゃんの気持ちは当然よ」
申し訳なさそうな顔をするフェイトに、シャマルは微笑みかけ、答える。

 

「ありがとう、シャマル。それじゃあ、私は行きますね。ヴィータ達には悪いですけど、プレアに関しては皆に黙っています」
深くお辞儀をし、背を向けドアに向かって歩き出すフェイト。
「信じて待ちましょう。プレア君が、自分から話すまで」
シャマルの言葉にフェイトは歩みを止め、振り返り
「はい、信じています。プレアは、私の家族ですから」
微笑みながら答えた。

 
 
 

スカリエッテイのアジト

 

広い通路の左右に置かれている液体で満たされたポット、そこには何人もの少女が目をつぶり、液体の中で浮いていた。
その中の一つに一人の少年が浮いていた。少女達のように目をつぶり、その表情は眠っているように穏やかであった。
少年が入っているポットを心配そうに見つめている人物がいた。ノーヴェとウェンディ、チンクである。
3人の横ではクアットロがピアノを弾くように端末を操作してた。
「よお!」
そんな4人の下へセインが駆け寄って来る。
「・・・・・セイン・・・・・」
ノーヴェがセインの名前を呼ぶが、そこにはいつもの覇気が無かった。
「・・・・ヴェイアの様子は?」
「骨折・打撲が数箇所、臓器にもダメージがあるって・・・・」
呟くように答えるノーヴェに、セインは「そっか」とだけ答えた。
「あの子・・・ゼロセカンドのIS、振動破砕って私達の体内にある電子部品とか、フレームに対して、ものすごい威力が出るのね。
勿論、対人や対物に使っても、かなりの威力よ」
「そんな攻撃を・・・・・ヴェイアは・・・私を庇って・・・・」
チンクは俯き、声を絞り出すように呟く
「いえ、正直ヴェイアがチンクを庇ったのは正解だったわ」
クアットロは端末を操作する手を止め、ポットで眠るヴェイアを見つめる。
「あの攻撃は、能力からして正に対戦闘機人用。もしチンクがあの攻撃を受けていたら、
良くてメインフレームその他諸々交換、下手したら・・・・・・・・死んでいたわ」
クアットロの言葉に3人は押し黙る。
「確かに振動破砕は対人や対物に使っても、かなりの威力があるわ。だけど、戦闘機人と比べれば劣る。
ヴェイアは普通の人間じゃないし、バリアジャケットを装着していた。だから無事だったのね」
「クア姉・・・・ヴェイアは・・・・・いつ目を覚ますかわかるっスか?」
ノーヴェ同様、いつもの元気が無いウェンディが尋ねる。
「大丈夫よ、ドクター特性の回復ポットですもの、それにヴェイア自身の回復力も合間って、回復は順調よ。
明日にでも念話での会話はできるかもしれないわ」
クアットロは3人を安心させるように、微笑みながら答えた。
「だ・け・ど、ヴェイアが回復したからって、面倒な資料整理を押し付けたり、
お菓子を集ったりしちゃ駄目よ~。特にノーヴェちゃんとウェンディちゃんは」
図星なのか、言葉を詰まらせる二人。その様子を、微笑みながらセインとチンクは見ていた。その時
「ほぉ・・・人形共が何をしているかと思えば・・・・・」
突如アジトに響き渡る声に反応する四人。声がした方を向くと、黒いスーツに身を包んだアッシュ・グレイが歩いてきた。

 

「誰だ・・・・てめぇ・・・・・」
突然現れたアッシュを警戒しながらも睨むノーヴェ。だがアッシュはそれを無視し、ヴェイアのポットの前で足を止める。
「何をしているかと思えば・・・無能者の観察か。だが馬鹿な奴だ。人形を護るために盾になるとは
救いようの無い虫ケラだな。ははははははははは!!!!」
ヴェイアのポットを見下すように見つめ、愉快で仕方が無いと表現するように笑い出す。だが、

 

               ヒュッ!!

 

ノーヴェのジェットエッジによる蹴りにより、笑い声は強制的に中断される。
ジェットエッジの蹴りを紙一重で交わし、後ろへ飛ぶアッシュ。
「てめぇ・・・・・・・今・・・・・何て言った・・・・・・・・・」
ジェットエッジのスピナーを回転させながら、殺気を丸出しにし、アッシュを睨むノーヴェ。
「はは、不思議っスねぇ~・・・・・おたくをブチのめしたくて、しょうがないっスよ~・・・・・・」
相手を見下すような目つきでライディングボードの砲撃装置を作動させるウェンディ。だが、
「止め止め!二人とも止め!!!」
そんな二人をセインが止めに入る。二人は納得しない顔をするが、チンクが割り込み、強い口調で話し始める。
「セインの言う通りだ。ここには、ヴェイアや彼女達がいる。やめるんだ・・・・・頼む」
悔しそうに呟くチンクにウェンディは武器を下ろし、ノーヴェはスピナーの回転を停止させる。
「ふふっ、つまらんな」
その光景を見たアッシュはわざとらしく肩をすくめ、その場を立ち去ろうとする。だが、
「お待ちください」
一部始終を見ていたクアットロが呼び止めた。アッシュは背を向けたままだが、歩みを止める。
「今回は場所が場所です、見逃しましょう。ですが、ヴェイアを愚弄した事に関しては憶えておきます。
今度は場所を変え、私達姉妹全員がおもてなしを致しましょう」
邪悪に微笑みながら恭しく頭を下げるクアットロ。
「楽しみに・・・・・お持ちください。だからディエチちゃんにセッテちゃん、二人も、武器を仕舞ってねぇ~!」
アッシュの進行方向に向かって大きな声で言うクアットロ。すると、足音と共にそれぞれの武器を持った二人が歩いてきた。
二人とも、武器は構えてはいないが、目の前のアッシュを射殺さんばかりに睨みつけている。
「ああ・・・・・楽しみに待とうか、満足できるかは、わからんがなぁ」
そう言い、歩き始めるアッシュ。だが、
「ごめん・・・・・アタシは・・・我慢できそうに無い・・・・」
そう呟くと同時にジェットエッジのスピナーを回転させ、アッシュ目掛けて突撃する。
後ろから自分を止める声が聞こえるが、それを無視しジャンプ。
後部のブースターを点火し、威力を増した回し蹴りをアッシュの腕に叩きつけ、腕をへし折る。

 

                 筈だった

 

アッシュの右腕にノーヴェノ回し蹴りが当たる瞬間、ジェットエッジは何か見えない壁の様な物に当たり、激しく火花を散らしていた
「なんだ・・・・・一体」
疑問が頭をよぎった瞬間、ジェットエッジは見えない壁に払われ、ノーヴェは後ろに飛ばされる。
空中で体を捻り着地、見えない何かがあると思われるアッシュの右の方を見ると突如、
一人の少年が何も無い空間から少しずつ体を現し、10秒も経たずにその姿を完全に現した。
服装は緑を主体としたバリアジャケットをを着ており、右腕には右腕を覆うほどの大きな盾を装備、
アッシュを庇うように構えている事から、ノーヴェの蹴りを防いだのはこの盾だと想像がつく。
左腕には後ろにジェットノズルが付いた鉤爪を装着し、左腰には日本刀に似た刀を二本装備していた。
そして、その人物の顔は
「・・・・・・ヴェイア・・・・・・」
回復ポットで眠っている人物に瓜二つであった。だが、肌の色が死体とも思えるほど青白く、
均整の取れた顔立ちに浮かぶ表情には『熱』という物を全く感じられない。
今眠っている重症のヴェイアの方が、まだ『生きている』と感じられた。
「アッシュ様・・・ご無事ですか?」
ノーヴェを感情の無い瞳で見つめながら、同じく感情の無い声で尋ねるフォーティーン・ソキウス
「ああ、問題ない。それと戦闘は止めろ。帰るぞ」
アッシュの言葉にフォーティーン・ソキウスは短く返事をし、武装を解除する。
「そういうわけだ。本来ならスカリエッティに会う予定だったんだ(帰る必要は無いよ」
ディエチとセッテの後ろから聞こえる声にその場の全員がそちらを向く。すると、ウーノとトーレを引き連れたスカリエッテイが現れた。
「ほぉ、人形を侍らせて登場とは・・・・・いい趣味だ」
ニヤつきながら挑発するアッシュ。だが、
「おや?私は人形など侍らせていないが?思考だけではなく頭も逝っているようだね?」
スカリエッティはアッシュを詰まらない物を見るような目で見ながら言い放つ。
「ふふっ・・・・やはりお前は最高だ・・・八つ裂きにしたいほどに・・・・・だが、今度にしよう」
「悪いが、私は不毛な会話に付き合うほど暇では無いのでね・・・・・用件は何だね?」
白衣のポケットに両手を入れながら尋ねるスカリエッティ。
「ああ、もう用件は済んだ。あと安心しろ、評議会の脳みそとは無関係だ。まぁ、色々と頑張る事だな」
そう言い、背を向け出口へ向かうアッシュ。フォーティーン・ソキウスも後に続く。
周囲の殺気を物ともせずに歩く二人、そしてヴェイアが入っているポットの前を通過した瞬間
「また会おう・・・・血塗られし英雄」
アッシュはニヤつきばがら、小さく呟いた。

 

スカリエッティのアジトから出たアッシュとソキウス。ふと、ソキウスがアッシュに尋ねる。
「アッシュ様、よろしかったのですか?あの者達を生かしておいて」
「ああ、生かしておいた方が色々と使える・・・・・それに」
歩みを止め、フォーティーン・ソキウスの方を向き、
「面白いだろう?無駄に頑張る連中の必死な姿は」
顔を歪め、邪悪に笑いながら答えた。だが、反応を示さないフォーティーン・ソキウスに急に詰まらなそうな顔をする。

 

「まぁ、貴様らに喜怒哀楽を期待しても無駄だったな。まぁ、施した俺が言える台詞ではないがな」
「申し訳ありません」
「まぁいい。それと、『トゥウェンティー』は」
「はい、既に行動を開始しています」
フォーティーン・ソキウスの報告にアッシュは数秒間を置き
「最高だ」
嬉しそうに呟いた。

 
 

???????

 

明かりがほとんど無い部屋に三つのカプセルがあった。そのカプセルは液で満たされており、中には人間の脳が入っていた。
その部屋には床は無く、彼方此方に浮いている正方形の板で移動するという不思議な部屋だった。
「ジェイルは少々やりすぎたな・・・聖王のゆりかごも、奴は自分の玩具にしようとしている」
脳の一つが二つの脳に向かって話しかける。
「止めねばならんな」
「だが、ジェイルは貴重な個体だ、消去するにはまだ欲しい」
「ゼストとルーテシアも真実を知り、我らを見限った。いや、最初から見限っていたのかもしれん。聖王の器もジェイルの手の内、急速に手を打たねばならんな」
「あのレリックウェポンも、研究所が摘発された今では諦めるしかあるまい。奴一人では何も出来まいが、不安要素は少し手も消しておかなければ」
「心配はいらん。そのために奴を、アッシュ・グレイを蘇らせたのだからな。始末なら奴に任せれば良い。ジェイルの代わりなど、いくらでも作れる」
「そのための生命操作技術。時間は掛かるが、仕方があるまい。アッシュ・グレイの洗脳は完璧か?」
「問題ない。奴は我々の言う事をよく聞く。多少見境がないがな」
「局員の数も馬鹿にはならんのだ。自主させねばな」
脳みそ同士が語り合う光景は正に異常であった。だが、そこに一人の訪問者が訪れる。
「ん?お前はアッシュ・グレイの、どう」

 

                     ザシュ!!

 

脳が話し終わる前に、訪問者が脳をカプセルごと切り裂く。ガラスが割れる音が響き、液体と脳が床に散らばる。
「な・・・なにを・・・」
も一つの脳が疑問を口にしようとするが、振るわれた鉤爪によりカプセル共々破壊される。そして、残った中央のカプセルに向かって歩きはじめる。
「なぜだ・・・・なぜだ!!!」
最後に残った脳が襲撃者『トゥウェンティー・ソキウス』に疑問をぶつける。
「アッシュ様の伝言を伝える」
そんな脳みそとは対照的に、トゥウェンティー・ソキウスは機械的に、伝言を話し始めた。
「『どうやら洗脳に成功していたと思っていたらしいが、残念だったな。前の世界に受けた物に比べれば生易しい物だった。
だが、掛かっていないと可哀想だと思ったのでな。『フリ』はしてやった。俺を蘇生させたことには感謝する。
これからは、俺は自分の楽しみを気兼ねなく実行できるのだからな。だからせめてもの感謝に、安らかな眠りを与えよう。おやすみ』以上です」
自分目掛けて刃を振り下ろすトゥウェンティー・ソキウスを、カプセルに付けられたカメラアイで見ながら、旧暦の時代から生き続けた脳は思った。

 

                 我々は・・・・・・蘇らせてはならない者を・・・蘇らせてしまった

 
 

数分後

 

「これは・・・」
最高評議会員の秘書という立場で潜入をしていたドゥーエ。ポットメンテナンスのため、部屋を訪れたドゥーエが見たのは
壊されたポットと床に撒き散らされたガラス片と液体、そして脳だった。
「誰の仕業・・・・・ここのセキュリティは完璧、進入出来るのは入室を許されている人物だけ。
それ以前に、ここの存在を知ってる人物もほとんどいない・・・・・・」
目の前の現実に理解が追いつかないが、現状を報告するため、アジトにいるウーノに回線を開く。
「・・・一体誰が・・・・・でも、これで任務は一応完了よね・・・・・あっけないわ」
ドゥーエはスカリエッティから最高評議会への長期潜入任務を任されていた。
長期にわたる任務やスカリエッティとの繋がりを隠すため、姉妹達と会うことは全くと言っていい程無かった。
こんな任務での唯一の楽しみは、最近仲間になったヴェイアと他愛も無い話(愚痴を聞いてもらったり)をしたり
渡される姉妹達のメッセージが入った映像ディスクを見たりする事だけであった。
(ヴェイアは最高評議会に存在を知られていないが、念のため、常にISで姿を変え、会っていた)
「皆とも、久しぶりに会うわね・・・・・・初めての子の方が多いけど」
皆と会えることを考えると、自然と顔が綻ぶドゥーエ。場所が原因なのか中々繋がらない回線に少しイライラする。
ちなみに、ドゥーエは一度、部屋を目視や熱スキャンなどで周囲に人などがいないかを確認してる。
だが、全てのセンサーから逃れる事が出来るミラージュコロイドを展開させた、トゥウェンティー・ソキウスを見つけることは出来なかった。
ナンバーズ特有のバリアジャケットすら着ていない無防備状態のドゥーエに近づくトゥウェンティー・ソキウス。
両腕に刀を持ち、至近距離まで近づく・・・・・・・そして・・・・・・

 

                      ザシュ!!

 

「ん?ドゥーエから通信?」
今後の作戦内容を検討してるウーノの端末に任務中であるドゥーエから通信が入る。
先ほどまで開いていたウィンドウを縮小し、通信回線を開くウーノ。そこには任務中の姿のドゥーエが映し出された。
「久しぶりね。どうしたの?」
トーレが久しぶりに会うドゥーエを微笑みながら見据え尋ねる。
だが、ドゥーエは表情を変えずに暫らく間を開けた後、答え始める。
「任務完了の報告を。直に次の任務に移るわ」
「ご苦労様、でも一度帰ってきたら?皆が会いたがってるわよ?」
ドゥーエの態度に疑問を憶えるが、一度帰ってくるように勧めるトーレ、だが
「任務の実行が大事よ」
その言葉に、ウーノは先ほど以上に疑問を強くした。
「(おかしい・・・あんなに皆に会いたがっていたのに・・・)どかしたの?いつもと様子が変だけど?」
「・・・別に問題は無いわ。ただ、ドクターの理想のために行動しているだけ。報告は以上よ」
そう言い、一方的に通信を切るドゥーエ。ウーノは再度通信を試みたが、繋がる事はなかった。

 

「・・・別に問題は無いわ。ただ、ドクターの理想のために行動しているだけ。報告は以上よ」
そう言い、通信を切るトゥウェンティー・ソキウス、そして通信端末に刺さっていた細いワイヤーを引き抜き、右腕の盾の中に仕舞う。
「任務完了・・・・・・撤退開始」
テスタメントに使われているウィルスを使用し、偽のドゥーエを演じたトゥウェンティー・ソキウス。
彼の左腕は何かに切られた痕があり、血が腕を渡って床に落ちるが、それを無視しその場を後にした。
誰もいなくなった室内。そこには壊されたポット、床に撒き散らされたガラス片、液体、脳、そして
『ピアッシングネイル』を装着したドゥーエの右腕だけが、残されていた。