宿命_第06話

Last-modified: 2007-12-27 (木) 00:17:40

今日も今日とて、魔力を少しでも抑えるためにシンは時空転送をしていた。
だれもいない、静かな場所なのだ。が、
「何でキミはいつもここをえらぶのかね?」
不意に、声をかけられた。どこか、懐かしいような声・・・
「誰だ!!」
「わたしのことはいい。どうなんだ?」
振り返ると、仮面を付けた、金髪の男が立っていた。
「何でそんな事をあんたに話さなきゃならないんだ?」
「そうだな。君に興味があるからだ」
気持ちの悪い事を・・・
「そんなの、あんたに教える義理は無い!!」
「義理は無くても理由はあるよ」
「なに?」
シンは警戒しまくりな声を上げた。
「君の事を黙っておいてやる、それで十分じゃないかね?」
「アンタをここで始末すれば、そんな事気にしなくていいだろ?」
シンの言葉に、「ふははははははは、はっはっはっはっは」などと、仮面の男は大笑いした。
「何なんだよ、あんたは!!」
「君の手がいくらこれ以上汚れないからと言っても、今ここで私を殺せば、君を匿っている少女も共犯と言う事になると思うが?」
「なっ!?」(なんではやてのことを・・・)
「どうかね?悪い相談ではないと思うが?」
たとえ悪い相談でなくても、こいつに付け込まれるのはシンは生理的に許せなかった。大体・・・
「俺にやましい事なんて無いんだ。別に管理局に何を言われても、構いやしない」
「ほう、ならなんで逃げているんだ?」
「別に逃げてなんかッ!!」

「いいや、逃げているさ。
 君は君の内にある膨大な魔力を恐れ、さらには二度と八神はやてに会えなくなることを恐れている」
「なっ、名前まで知ってるのか!?」
「君の名前も知っているさ。ああそれに、君がどんな想いで彼女のそばにいるのかも知っている」
「何を言ってるんだよ、あんたは」
シンの言葉を無視し、仮面の男は続ける。
「君は穢れを知らぬ少女と共にいることに矛盾を感じながらも、その時間の絶えぬことを願っている。
 そんなに心地よかったかね?人間とは愚かしいまでに『雰囲気』などに弱いからな」
「そんなんじゃ無い!!」
「ならなんだ?なぜ逃げる?それが君のためにならないと分かっていながら!!!」
シンは押し黙った。
一方的に知られている以上、討論で敵うとは思えなかった。
それに、この男の言っている事は、少々婉曲されていても真実なのだ。
「まぁいいさ。君に質問をするために出てきたわけではない。
 ましてや、言い負かすためでも、ね」
そんなシンを見て、満足したように告げた。
「これを受け取ってくれたまえ」
そして、右手と、そこに乗せられた薄く四角いものを差し出した。
「何だ、これ?」
「デバイスだよ。インテリタイプではないが、八神はやてのためにこれが必要なときが来る」
「何?」
「いつか分かる時が来る。君はただ、それを持っていてくれればいい」
言って、仮面の男は消えていった。
シンはデバイスを握り締めた。
これは、どうすればいいのだろう・・・
(守るための・・・力だよな?)
今はそう、はやてに降りかかる『何か』がもしもあるのなら、そのために使いたいと思い、それの存在を許容した。
本当は、受け取りたくなかった力ではあったのだが・・・

「これ、は?」
受け取ったものに、アスランは困惑した。
「これはデバイスっていうの」
赤い、カード。と、言えど、硬めだ。
「これがあれば、魔法ももう少し簡単にコントロールできるようになるから」
「はぁ・・・」
そういうものは先に渡してもらいたいものだが、あちらにも考えはあるのだろう。
「発動には名前を呼んだりすれば大丈夫」
「インテリタイプじゃないけど、名前は自分で付けていいわよ」
「名前って・・・」 
カードに、名前?
「そう。それはあなたのための特注品だから」
有り難い話だった。
「名前って、たとえば、バー○ーカー○ウル、みたいに?」
「まぁ、なんでもいいけど・・・」
そのセンスはどうかと思う、って空気に書いてあった。
「そ、それじゃあ、えっと・・・『ジャスティス』だ」
「ジャスティス・・・正義か、いいんじゃない?」
「そうね」
少々曰く付きの名前ではあったが、デバイスの名は決まった。

「デバイス?」
「そう、あの人の。え~っと・・・キラくん、だっけ?」
先ほど、キラの中に高い魔力の素質が見つかったので、エイミィがクロノに相談を持ちかけたのだ。
相談と言っても、クロノが呼び出されて、彼女はなんかPCを弄っていた。

「それは流石に許可できない。一応彼も身元を証明するものは無いんだから」
「そうよねぇ。流石にこれ以上『爆弾を抱えた艦』なんて評判、欲しくないもんねぇ」
と、いうのは、特例としてこの艦にはフェイトたちが乗っている事に起因していた。
「あ、デバイスといえば・・・」
エイミィが思い出したようにクロノを振り返り、もう一度PCを弄り始める。
「あの時からずっといろいろあって言い忘れてたんだけど、これ・・・」
画面には、シンのデバイスがあった。そこには、
「バーサーカーモード?このデバイスは暴走でもするのか?」
「あたしもそう思ったんだけどさぁ、なんかこのモードって言うの?出力下がってんだよねぇ」
「じゃあ、何でバーサーカー?」
バーサーカーといえば、凶戦士≒暴走、とかが思い浮かぶ。
「それを考えてたわけよ。それに、このデバイスはまだ色々謎なんだぁ」
「謎?」
「そう。携帯電話としての機能も残ってたし、音楽聞けるし、メモリースティックも入るし・・・」
「s○ny製か・・・は、どうでもいいとして・・・」
確かに、今までに無いタイプでは、あった。
能力としてはナイフを二本出すほかには、少々魔力の引き出す手伝いをするだけ・・・
「能力が低すぎるのに・・・さらにリミッターを『かける?』」
『かかってた』、でないのが、逆に不気味なくらいだ。
「そうなんだよねぇ・・・これも懸案事項にしておく?」
「優先ではないとはいえ、こういうタイプのデバイスが過去あったかどうかは調べておいたほうがいいかもしれない・・・」
既にシンと共に行方不明である以上、このデータ以上は望めない、というのも起因して、少々消極的な捜索にはなりそうだ。
「うん、そうする。
 そういえばフェイトちゃんの嘱託魔導師の試験みたいなのも、近づいてきたよね?」
思い出したように、エイミィは言う。
「そうか、それもあったな・・・」
問題は目の前にも存在するのだ、二つほど・・・
「たいへんだねぇ、わたしたち・・・」
能天気そうに言っているが、本気で山積みである。

シンは先ほど貰ったデバイスを眺めていた。
「このデバイス・・・」
それには問題点がいくつかあった。
先ず、「名前が分からない・・・」これはインテリじゃないから何とかなるとして、
「魔力を全く感じられない?」
つまり、これはデバイスなのかどうかから、胡散臭かった。
使うつもりはさらさら無いけど、持っている力の使い方が分からないのでは、どんな危険を及ぼすか分かったもんじゃない。
「シン~、ご飯やよ~?」
はやてが呼んでいる。
「あぁ、今行く」
シンはデバイスのことは一旦忘れて、一階へ下った。
はやてを守るための力のことに気を殺がれて、はやてを心配させるわけにはいかない。
(大体、力が必要って言った奴自体がありえないほど胡散臭かったしな・・・)
そんな認識で十分だって、シンは思いたかった。

翌日、シンははやてと町に出ていた。
と、言うのも、今日の朝に、はやてがどうしても付き合って欲しいとシンに頼んだからだ。
もちろん快諾したシンは、たいして用件も聞かずに付いてきていた。
折角なので、はやての車椅子を押しながら町並みを眺めてみた。
数ヶ月前、もうそんなに経つことに驚きさえあるが、その頃シンは記憶を失っていた。
(そっか・・・思えばあの時から、はやてとは知り合いだったんだよな・・・)
オープンテラスのカフェを眺めながら、そう思い出す。
静かな町だ。でも、活気のある町だ。
「いい町だな・・・」
思わず呟いた言葉にも、はやては反応してくれた。
「そうやね。毎朝晩、わたしのことを手伝ってくれる人がおったんは、やっぱりこの町やったからやと思う」
「好きか?この町・・・」
「好きやよ、すっごく」
とても昔のシンには考えられないような笑顔で、はやては答えた。
「俺も好きだ」
雰囲気も、町の人々の暖かさも。
そういえばフェイトを管理局が完全に敵とみなさなかった直接的な理由であるなのはも、ここに住んでいると聞いている。
なのはなら話せば分かってくれるだろうが、やはり今は会いたくなかった。
「シンが好きになってくれると、わたしもうれしいわ。住んでたかいがあったっちゅうもんやね」
「どういう理屈だよ」
笑いながらの会話に温かみをかんじれる。
(そうか・・・俺は・・・)
ある人に問われてついに答えることなくこちらへ来てしまったこと、『俺の本当に欲しかったもの』。
案外、ずっとこういうものを求めていたのかもしれない。

「さ、到着や」
そういわれて前を改めてみる。
いや、歩いているときから見えていた建物だが・・・
「映画館?」
「そや。シンはなんか見れんタイプのある?」
「映画・・・そうだな・・・好きなのってのも特に無いけど、嫌いなのってのも無いかな・・・」
実際は熱血格闘ものとかSFとかは好きな部類に入るが、相手が女の子と言う事も考慮してやめておいた。
「せやったら、あれなんかどう?」
そういってはやてが指をさしたのは、唯一まだ空いている場所。
「ここは30分ずつずれて始めてるから、今からならこれが一番早いし・・・」
内容は・・・学生の恋愛物か・・・
「まぁ、別に俺はなんでもいいけどな。
 時間とかも気にしてないから、はやての好きな物にしろよ」
「それやったら・・・」
言い、はやては見回し、
「やっぱり、これがええな」
結局すぐに始まる恋愛物を見る事になった。
「すみません、大人と子供一枚・・・」
はやては、受付にそう言いに行き、何やら簡単な手続きをしていた。
(ってか、俺は経済力がないとは言え・・・)
この状況はあまりよろしくないような気がしたので、
「すみませ~ん、ポップコーンとジュースを・・・」
はやてから受け取っていたお金で先に買っておくことにした。

席について、映画なんてものが久しぶりである事を思い出した。
休戦の折、シンは軍に入った。
それは、まだまだ成長段階だったシンにとって、きついものだったのは言うまでも無い。
休日に映画館に入る相手もいなければ、入ったところで眠気に勝てるわけも無く・・・
(ぐっすり寝る、ってのが、そもそも少なかったんだよな・・・)
そして戦後、シンは各地を回ってMSの操縦技術などで人々の助けをしていた。
少しでも、助けになれるようにと思って。
もちろんその際に、いろいろと憎まれ口をたたかれはした。
曰く、「何で議長の言ってた平和が訪れないのか」、とか、いろいろ。
かつて救った街ではそのとき知り合った少女にいろいろときつい事も言われた。
まぁ、彼女は彼女なりに許してはくれたのだが・・・
各地における民族的な問題は、収まるどころか浮き彫りになっていたのは、もはや仕方の無い事であるとも言えた。
そんなこんなをやっているうちに、シンはこちらの世界へ送られたのだが、
(その辺の記憶が、また曖昧なんだよな・・・)
そう、自分がなぜこの世界にいるのかは、未だによくは分からない。
「あ、はじまるで?」
はやての言葉どおり、暗幕が上がっていった。
別に見たくないわけでもないので、今は映像を見、なるだけ難しい事は考えない事にした。

そして、約二時間後、
「シンって、映画とか平気で寝てまうタイプの人と違うんやね」
なんて心外な事を言われた。
「俺だって、他人の金で入ってまで寝るような奴じゃない」
「あ、なんや、自分で払ってたら寝るみたいやね?」
「それは・・・寝るかもしれない」
ってか、多分映画なんかを見にきたりしないような気がする。
「ほな、次は服買いに行こうか?」
「はやての新しい服?」
「ちゃうよ~。シンの生活用の服。
 ええ加減に借りてる服は返さなあかんよ?」
そういえば、今のシンの服はお隣から『どうせ着ないし』と言うことで借りていたものなのだ。
「そうだったな・・・悪い、はやて」
そんな服を買うのも、今ははやてに頼るしかなかった。
「ええよ、困ったときはお互い様や」
今までもずっとそんな感じにはやてはシンにいろいろと与えてくれていた。
食事や服だけではない。
シンはここに来て始めて、居場所を貰った。だから・・・
(はやてになにか困った事があったら、俺が助けてやりたい)
もう何度とも分からない決意、だが、それだけが、今のシンをこの場所につなぎとめている『鎖』だった。
そのことに、はやてが気づかないはずも無かった。

「トリィ、トリィ」
フェイトがキラの部屋に入ると、妙な泣き声で空を飛ぶロボットが一機。
「キラさん、その子は?」
「あ、フェイトちゃん」
ずっとつれていたが、時空転送の際に一度機能が停止したらしく、先ほどようやく修理が完了した。
「これはトリィって言ってね、大切な友達に貰ったものなんだ」
そして、『大切な友達』が敵のとき、『正体をばれず』に逃がすためにも役に立った。
あの時アスランにまだ自分が友達だと思ってるって言えなければ、オーブは攻め落とされ、戦争はある人によって最悪の結末を迎えていただろう。
「そうなんですか・・・
 わたしにもありますよ、大切な友達に貰った、大切なもの」
そういって、別れの際になのはと交換したリボンを見せた。
「それに、わたしの命は、とても大切な人に貰ったものです」
あの時、止めてくれなかったら、自分は母と運命を共にしていただろうから。
「そう。
 それじゃあ、大切にしなきゃね」
結ばれた絆が一度も違わず、衝突する事も無いように、キラはフェイトに告げた。
「はい。だから、一緒に探しましょうね」
しかし、キラはそういわれるまでそれがシンの事とは気づいていなかった。