宿命_第11話

Last-modified: 2007-12-27 (木) 00:20:58

月日は流れる。
学校に行っているような人間が八神家には居ないため、季節感というのも『寒い』『暑い』『涼しい』『ねっとりしている』くらいなものだ。
「なんて事をしみじみと庭を見つめながら考えてるのって、親父くさいかな・・・」
「ってかその独り言がおっさんくさい」
「ん、ヴィータか・・・」
独り言は知らぬうちから出てきたものであった。
「お前も独り言みたいなもんだな」
「何わけのわからねぇ事を言ってんだよ」
「知らないうちにニョロっと出てきた存在って事だ」
「わっけわかんねぇ。
 それよりも、はやてが呼んでんぞ」
ヴィータとシャマル辺りはすぐに『主』をつけることをやめた。
二人は主となった者との交友を積極的にするようにされているのかも知れないが、やはり性格云々が広く占めていると信じたかった。
「わかった」
返事をして立ち上がったシンの手を、ヴィータがその両手で握った。
「どうした?」
「シグナムの言ったとおりだ。
 武器を持った事のある手だな」
「ッ!?・・・それで?」
「少しは頼りに出来そうな奴だな、お前も」
あのオッサンも、と話すヴィータは、顔に笑顔を浮かべている。
立場が立場ゆえか、戦いを知る人間で気の置けない存在、というのはヴィータにはそう多く居ないのだろう。
シンは握られた手を振り解いて、
「いくぞ。はやて、呼んでるんだろ?」
といって、会話を切り上げさせた。

あの日、闇の書の起動から今日に至るまで。
シグナムを筆頭とするヴォルケンリッターとの穏やかな日は続いて、そのある日に、終わった。
それは本当にある日突然、はやての容態が好くない方向に進んでいることを、医師から聞いた。
原因は・・・
「闇の書が負担になってる?」
「多少語弊はあるかも知れんが、大体その通りだ」
シグナムの言葉には、日ごろから闇の書に疑念を持って感性を張り巡らせていたムウも賛同した。
「俺も確かに感じたわけじゃねぇが、あの書の中に嬢ちゃんの魔力をかすかに感じた。
 それが負担になってるんだろう、巡り巡って、な」
「巡り巡って?」
「風が吹けば桶屋が儲かる、程度に長ったらしい相互関係の果てに、ってことだ。
 このまま行けば・・・良くて足を切断、ってことになるな・・・」
説明するムウもあまり良い顔をしていない。
恐らくシンに言う前に相談されたのだろうが、それからあまり時間がたっていないのであろう。
「そんなっ・・・」
しかして、ムウの言葉にシンは戦慄する。
「あたしらのせいなのか?」
ヴィータがシャマルに聞いたその言葉は、静かな場所に良く響いた。
何も知らなかったヴィータ。
ヴォルケンリッターの中では比較的シンと感情的に接していたために、黙っておいたのだろう。
ザフィーラは感情を隠せるし、シャマルも大人だったから話を聞いたのだろうが、どうも不公平にも感じる。
「闇の書のプログラムとして責任は取る。
 主はやてを、闇の書から解放する」
その空気を切り裂いて、シグナムが言った。
その声と瞳には、確かな決意が見て取れた。
つまり、はやての言葉を無視してでも闇の書を完成、コントロールを得るという作戦になった。
もちろん心は痛んだりしたが、このやり方が一番的確だと、シンは判断せざるを得なかった。

「あのやり方でいいのか?」
その後日、シンはムウに言われた。
「コントロールも利かないんでしょう?
 今更俺が帰れと言ったところで、なんともなりませんよ」
「お前も丸くなったもんだ」
「なったかも知れませんけど、今はただはやてを護りたいんです」
そのためなら、少々むかつく奴との共闘だって出来る。それに・・・
「あいつらは・・・あんたと、ネオ・ロアノークだった時のあんたに似てるんです」
ステラを生かすためには、ステラが戦争で役に立たなければいけなかった。
そのことを知っていたムウは、破らなければならない約束をした。
しなければ、彼女は死んでいたのだから。
「似てる、か・・・
 お前から見たらそうなのかねぇ」
「なんとなく、ですよ。
 別に今更穿り返すつもりはありません」
「そうか・・・
 だが、気をつけろよ」
ムウは一旦表情を和らげたが、続けてもう一度険しい顔をした。
「はい?」
「あの書、あの嬢ちゃんに負担を与えてるってだけでもなさそうだ」
「まだ、何か有ると?」
「あいつが、クルーゼが出てくるくらいだからな。
 兎に角完成してからも気を抜かない事だ」
「分かっています」
当たり前だ。
はやてを護る事に、気も手も抜くつもりは無かった。

「ってなわけで、ちょっと出かけてくるな?」
時は戻り、今。
シンが空想にふけっていた時間はそう長くは無かったようだ。
はやてがシンを呼び寄せたのは、どうやら留守を任せる、とだけ伝えたかったかららしい。
「検査、長くなるかも知れへんから、お昼はシンがよろしくな」
「ああ、わかった。安心して行ってこい」
「ありがとう。ほな行こか?」
「はい」
どうやら隣に居るシグナムは付いていくらしい。
「それと、ムウさんとシャマル、ザフィーラもお昼は要らない、って。
 またどっかうろついてるんやと思う・・・」
「ああ、分かった」
「ん。じゃあ、また後でな」
「ああ、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
さて、ムウはというと、他の世界へ行っている。
はやてにはうろついてると言ってあるが、その実は他の世界で魔力の蒐集を行っているのだ。
「デバイスもないのに、良くやるよなぁ」
「シャマルがいればお前達と違って気絶だのさせる必要が無いんだろ?」
そう、シャマルはムウに付いていっている。
そのためムウが引きつけておけば相手に相当な知性がない限りは楽に蒐集できるのだ。
「ま、その話は置いといて、昼は何が食べたい?」
結局残ったのはヴィータだけになってしまった。
「なんでもいい」
「わかった、適当にあるもので作る」
半年間八神家の食事の半分を担ってきたため、料理の腕は相当上がっていた。

「戻ったぞ、坊主」
「ただ今帰りました」
はやてよりは早く、ムウとシャマルが帰ってきた。
「お疲れ。風呂に入るか?」
シャマルから闇の書を受け取り、ついでに聞いた。
「入れますか?」
「ちょっと待ってくれれば、すぐに」
「それじゃ、お願いしますね」

という感じに、闇の書の蒐集は順調だったのだが、
「そろそろ管理局辺りも感づいてきているな。
 この近くで蒐集しすぎたか・・・」
「うわ、ザフィーラ。お前居たのか?」
「今戻ってきたところだ。
 それで、管理局の事だが・・・」
「あっちから来るってんなら好都合だ!」
ザフィーラの懸念に一瞬で答えを出すヴィータだが、
「馬鹿を言うな。
 俺達はこの場所を隠すべきだろうが」
「そうですね、はやてちゃんに迷惑がかかってはいけませんし・・・」
ムウとシャマルに宥められていた。
「でも、あっちがうろついてるんなら無視できないよな・・・
 この町まで来たんなら、もう時、場所はある程度構わずにとっとと完成させないと・・・」
「そうだな、そうしなければ高い魔力反応を察知される結果に陥る」
「ああ。それも回避しなければならない要項だ」
シンとザフィーラはもう一つの危険性についてを述べた。
「なんにしろ急がなけりゃならねぇ。
 そんな事が無くてもあたしらには時間が無いんだ」
「そう・・・だな・・・」
ヴィータが言ったのは闇の書からはやてにかかっている重圧についてだろう。
確かに、急がなくてはならない。

その夜、はやてが寝たのを確認した後、一階に降りた。
そして、ヴィータが居ない事に気づき、シャマルに聞いてみた。
「あいつなかなかこねぇなぁ、って言って、先に行っちゃったんです」
はやての寝つきが悪いって言いたいのか、あいつは・・・
「まぁいいや。
 何処にいったんだ?」
ヴィータ一人では時空転送等は出来ないため、少なくとも居場所はわかるはずだ。
「それが・・・この近くに高い魔力があるから、って・・・」
「またかよ・・・」
これでヴィータが場所を変えずに蒐集に言ったのは二度目だ。
「昼にあんな話をしたばかりだと言うのに・・・」
「だよな・・・シグナムは知らないはずだけど・・・」
一応発言者に突っ込んでおいた。
「それにヴィータちゃん、闇の書も忘れて行っちゃってるんです」
「何やってるんだか・・・
 さっさと追うぞ?」
「はい、そうですね」

その先にあるのは、懐かしいもの達との邂逅、そして・・・