宿命_第21話

Last-modified: 2007-12-27 (木) 00:26:25

先ず始めにフェイトが、そしてシンが出てきた。
そしてシンがアスランの顔を見つけ、そしてそれが『アスラン』であると認識する。
毎回毎回迷う彼も、最後の最後には正しい道を選んでいる。
シンにとって見ても、これが本当に正しいのかは分からないが、たった一つの全員の助かる道に、悪しは無いだろうと思う。
ついで出てくるのは、八神はやて。
その体を凛々しい甲冑に包んで、神々しいとも形容できそうな輝きと共に。
『あれが、夜天の魔道書の本質なのですね』
ティスの呟きが頭の中に直接聞こえる。
確かに、闇の書を治めたものと言う感じではない。
『あれもわたしと同じユニゾンデバイスのようです。
 多少毛色は違いますが、きっとはやてさんは心を通わせて、出てきたんですね』
それならば、それが一番いいことだと、シンにも思えた。
『ただ、その影響で心を通わすことのできない収集された魔力が、全部あそこに残っているようです』
出てきたときから存在していた黒い空間に、シンも目を落とす。
なるほど、確かに怨霊にも見えたそれに、小さな影が近づく。
「あれは……!!」
それを追い、シンも急降下する。
そして、闇の塊に、中枢に伸びている事を推測できる抜け穴を見つけ、そこに降り立った。
『呼ばなくていいんですか、他の人は?』
「ああ、多分、これで終わりだから」
シンはそこを駆け抜け、中枢部に達する。
吹き抜けのようで、天井の遠い場所だった。
「キミも来たのか……。」
その見上げた方向から、仮面の男の声が聞こえる。
「外で八神はやてと最後の時間を過ごしていればよかったものを、律儀とは難儀な事だ」
「これから、どれだけだって過ごす事が出来る。
 あんたを止めた、その先で!!」
『アロンダイト起動、いけます!!』
ティスの言葉と共に現れた二つ折りになった青い剣を振り下げて展開し、クルーゼに迫る。
そんなシンに対し、クルーゼは悠然と構ていた。
そしてシンが近づいてきた瞬間に、クルーゼは「プロヴィデンス」と呟き、目の前に細い魔力を張り巡らせた。
『マスター、ストップです』
ティスの言葉でシンもそれに気づき、急ブレーキをかける。
「ドラグーン!!」
しかし、クルーゼは張り巡らせた魔力をそのまま攻撃に転じさせ、シンに霰の様な魔力が降り注ぐ。
『ソリドゥス・フルゴール、展開!!
 マスター、左手を前に!!』
言われたとおりに、左手に現れた魔力壁で防ぎきる。
が、ガードに全力を注いだため、ドラグーン砲撃の止まった後の波状攻撃に、シンは吹き飛ばされる。
『強いですね、でも……。』
ティスがちょっとした疑念を浮かべる。
(本当なら、ソリドゥス・フルゴールももっと広く展開できるのに……。)
が、その理由や答えを主に求める暇もなく、シンは更なる攻撃を敢行する。
いや、しようとした。

シンがいなくなったことに気づいたのは、はやてがその騎士を4人、魔道書の能力で取り戻した瞬間であった。
フェイトやなのは、それにアルフにとって、もっともぶつかった相手であるから、感動も一入であったのだが、それまで突然現れたはやてに目を奪われていたキラが気づく。
そして、気づいてアスランを仰いだときには、既に異変が始まっていた。
切り離された防衛プログラムが、縮小していったのだ。

内部のシンとティスもそれに気づき、そこから出ることにする。
このままでは暴走に巻き込まれかねないのだ。
一瞬仰ぎ見たクルーゼは、狂ったように笑っていた……。

シンが外に出た瞬間に、塊だったものはなくなっていた。
その代わり、そこには人が一人、浮かんでいた。
「ラウ・ル・クルーゼ!!」
キラがその名を呼ぶことでアスランも気づき、なのはたちもそれがどういう存在なのかを悟った。
そして、その仮面の男は動き出した。 シンたちと離れる方向に、だ。
無論、誰もがその行動を怪しみ、軽挙妄動を避けた。
故に悠々離れ、急にクルーゼがこちらを向いた時に起こったことに、何とか全員が反応できた。
急に目の前に現れた、敵の攻撃を何とか対処しきれたのだった。

それでも、シンは我が目を疑った。
その目の前にいるのは、紛れもなく人間なのだ。
「この人、管理局で見たことあるかも……。」
偶々近くにいたユーノが呟いた。
もしかしたらと、シンは感づいた。
『あそこに残っていたのは蒐集された人間のリンカーコアですね。
 多分、マスターの勘はあたっていますよ』
ティスが出してくれたアロンダイトでそれを斬ると、なにも残らず消え去った。
「魔力体のようだね」
ユーノの呟いたとおり、シンもそう思っていた。
あれは、リンカーコアを奪われた人間を魔力体で出す、夜天の魔道書の残り香による魔法の類だろう。
「複製のベクトルで再生でもしているのか?」
『はい。
 それに今出てきているだけでも年代がバラバラです。
 恐らく蓄積されてますね、一時凍結前のものも』
確かに、フェイトやなのはの前に現れた人間は100や200では済まない程度に年代の離れた服装をしていた。
そして、それ故に無尽蔵とも思える兵力があった。
シンとユーノの周りのそれらも、いつの間にかさらに増えていた。
シンはアロンダイトを構えなおし、突きの態勢になった。
『あ、駄目です、マスター!!』
「へ?」
『あれは肉体です。
 もしも疑似肉体化を解くタイミングを弄られたら、アロンダイトを固定されてしまいます』
言われ、シンはその態勢を解いた。
ならば引っ込めればいいとも思うのだが、状況把握を任せている状態になってしまっているティスにこれ以上負担をかけさせるわけには行かない。
『マスター、魔力をフルドライブにしてください。
 そうすれば、わたしの方で切り札を切ります』
「駄目だ」
『なぜです!?
 先ほども感じましたが、全力ならもっと出力は出せるはずです!!』
先ほどクルーゼと戦っているときに感じた違和感が、浮き彫りになる。
マスターは全力を出せていない、と。
「シン!! なにボーっとしてるの!?」
ユーノの声がかかり、目の前に二つの影があったことに気づく。
それを斬り、ついでユーノがバインドしていたものも片付けておく。
そこまで行くと、敵が現れなくなった。
「無意味だってわかった、のか?」
『わかりません。
 しかし、警戒を怠らずに別所の援護に当たりましょう』
「そうだな。
 ユーノ、次だ!!」
言われ、返事と共にユーノはなのはの元へ行った。
シンは状況を見回す。
ざっと見た戦力は、はやてを中心にヴォルケンリッターが一チーム。 ここは先ず安泰だろう。
次に、キラとなのは。それから、ユーノ。 息は合っているように見えるし、キラの能力はシンをも卓越しているかもしれない。
そして、フェイトとアルフ。 彼女らは根っからのパートナーであり、心配は要らない。
最後は、アスラン。
『四面楚歌ですね』
「孤軍孤闘の間違いだろう」
行く先は決まった。
『そんな言葉ありませんよ』というティスは置いておいて、一騎当千を当たって砕けろの態勢でいる人間の援護に回ることにした。
(まだ、マスターの答えは聞いていませんよ?)
若干の不安を残して、だが。

そして、アスランの援護に入り、着々と敵の数を減らしていった。
しかし、無尽蔵ともいえる幾数年もの魔道士の積み重ねに、アスランは押されていった。
どちらかと言うと遠距離的な能力を多用していたからだ。
「ここはいいから、下がれ。
 あんたは混戦に向かないんだろ?」
タイプが若干以上に変わったアスランのデバイスの弱点をシンは見抜き、アスランに下がらせる。
援護砲撃のほうがアスランにとっても出来るだろうと判断し、アスランは数歩引いた。
そして、シンが前衛、アスランが後衛という形をとる。
奇しくも、コズミックイラからカウントしても久しぶりの共同戦線となった。
少しだけ立場は異なるが、やっている事はMSの時となんら変わりは無い。
シンが突っ込んで、アスランがその援護をすると言う、パーフェクト・ラップ。
『マスター、嬉しそうですね』
ティスが言い、シンは心の中で頷く。
それは紛れもなく真であったからだ。
「コズミック・イラにいたときは、全てが命がけだったし、ここに来てもそんな感じだったからな」
しかし今、アスランと共闘していればその心配は無い。
それにはやては今、自分の足で立っている。
『マスター、右です!!』
それに、自分はティスの力を借りて戦っている。

――しかし、失念はしていた。
闇の書に奪われたリンカーコア。
つまり、目の前にフェイトが突然現れ、それが襲い掛かってきても、それはなんらおかしい事ではないのだと。
「アスラン!!」
そしてそのフェイトの疑似体にアスランが切りかかられる。
速さは、本物のフェイトのそれにも劣らない。 それは、シンにも追いつけないほどである。
そしてその光鎌がアスランに届こうとした瞬間、『ブリッツ』という叫び声と共に、黒い影が立ちはだかった。
「アスラン、また僕の助けが必要みたいですね」
それはシンの手助けをした人間で、アスランをかつて救った人間だった。
「「ニコル!?」」
二人が驚き、ニコルは挨拶をする。
「お久しぶりです、アスラン。
 それからシン、渡すものがあります」
その間もニコルはフェイトの攻撃を防いでいた。
その最中、ニコルはシンにメモリースティックを投げよこした。
「これは?」
「ずっと見ていて気づきました。
 デバイスに、シンの魔力を受けきるだけの耐久が無いんだ、って。
 だから、それは修正パッチみたいなものです」
聞き、ティスが納得する。
シンが全力を出せなかったのは、そのデバイスに直結でユニゾンしている自分を気遣っての事なのだ、と。
少し不満事は残っているが、それでも嬉しいものである。
「助かる。
 ティス、一回降下するぞ」
『はい!!』
敢えて言い訳をするなら、積極的な後退である。

「フェイトさんの疑似体が下がりましたね。
 二人が別所の援護に行くようです」
一度ユニゾンを解いてデバイスを取り出したため、ティスの言葉が耳から脳を震わせる。
小さい体だが、声の大きさには全く問題は無かった。
「そうか。
 それで、状況は?」
「シグナムさんが隊列を抜けました。
 その代わりにアルフさんとフェイトさんがはやてさんの隊列に加わってます。
 シグナムさんは、「役不足な相手だが、決着をつけさせてもらう」そうです」
つまり、シグナムはフェイトの疑似体との交戦を取ったのだろう。
普通ならばありえないことだが、シグナムもはやてとの生活の中で確実に何かが変わったのだろう。
もしかしたらそれは、他の人間を信じられるようになったからかもしれない。
「その他隊列も個々に戦闘相手を選んでいます。
 マスター、どうされますか?」
ティスの言葉に、シンは一つ、考えていた事を口にする決心をする。
「俺は、マユと戦うつもりだ。
 いいか?」
そう、妹の魔力が蒐集された以上、出てくる確率はゼロではない。
いや、むしろあのクルーゼなら切り札にしてきかねない。
「大丈夫ですよ。
 わたしはデバイスですから、あなたに従います」
ティスの答えに、シンは首を振った。
「それじゃ、駄目だ。 二人で戦うって、決めたんだから」
面を食らったような表情のティスだが、そのことはシンにとっては重要なことなのだ。
一度頷いて、ティスは自分の考えを述べる事にした。
「前のマスターは・・・今のマスターの妹さんは、お兄さんのために沢山頑張っていました」
だから、好きだったと、ティスは目を細め、微笑した。
「だから、もう休ませて上げましょう。
 ちょっとおっちょこちょいだったり考えの足りない今のマスターは、わたしが守りますから」
一言多いパートナーに礼を言いながら、シンの心は決まった。
もう一度、戦場の空にティスと共に羽ばたき上がる。

シグナムは目の前にいるフェイトの偽者に、本物と同じ程度の威圧感を感じていた。
能力的な点では話にならないが、フェイトを少し弱くして、その心を兵器にしたそれが、どれほどの者か測りかねていた。
「レヴァンティン!!」
間違いなくこの一連の事件で最も胸躍る戦いになるだろう。
「Schlangeform.」
鎖状に伸びる剣が踊る。
それに、フェイトは持ち前の速さで対応する。しかし、
「遅い!!」
あまりに読みやすい動きに、切っ先を先回りさせてそれを止める。
しかし、無言の脅威はその迫る先端を避け、そのまま流れるようにシグナムを襲う。
(油断したか!!)
紙一重、これをかわし、レヴァンティンの剣身を収束させる。
「Schwertform.」
「やはり剣と斧、互いを出し尽くそうじゃないか」
剣を構えなおし、不敵な笑みを浮かべるシグナム。
本当に、心の躍る戦いだ。
剣と斧のぶつかり合う渇いた音も、その時起こる衝撃も、心を震わせる。
あまりにも周りを突き放したような光景はしかし、それでも終わりが来るものである。
「紫電一閃!!」
跳ね返し、一瞬で来た隙へ掛け声と共に、名の通りの一閃。
この相手に普段通りの能力があれば怪しかったかもしれないが、それでも、シグナムの剣閃はフェイトの疑似地を切り裂いた。

ちょうど同時期、クルーゼによって出された疑似体は、数より質の傾向になっていっていた。
それゆえ、個々が見合った相手を選び、戦うようになっていた。
先ほどのシグナムを始め、ヴィータはなのはの疑似体を、はやてとシャマルとザフィーラはあちら側に残された騎士の魔力、つまりはヴォルケンリッターとの戦いをしていた。
そして、なのはとユーノ、さらにフェイトの願いでその元から離れたアルフは他と一画を成す見知らぬ管理局の男の相手をしていた。
また、アルフに頼んでまで一人になったフェイトの相手は――。
「アリシア……。」
フェイトが吸収されたために闇の書にデータとして残されていた少女。
フェイトの姉に当たる彼女との戦いを、フェイトは進んで引き受けたのだ。

『あのあたりはマスターに似ているかもしれませんね、フェイトさん』
「そうかもな。 まぁ、今は置いておくとして……。」
結局キラとアスラン、ニコルの元へとシンは浮上するさい、ティスが言った。
因みにキラはなのはに頼まれてこちらに来たようだ。
「俺は一番辛そうなはやてのところに行く。
 ニコル……。」
シンが言いよどむと、それに気づいてか、「あ、別に呼び捨てで構いませんよ」と確認を取れた。
実際呼び捨てだったのだが、アスランの知り合いと言う事もあってなんとなく自分よりは年上だと分かったからだ。
「じゃあ、ついて来てくれ」
ニコルは頷くと、シンと共に唯一数で劣勢の団体の援護に向かった。
そして、キラとアスランは一度クルーゼのほうを見た。
全員が、最も警戒しているであろう彼は、何の行動もしてはいない。
「この状況を楽しんでいるのとでも言うか、あの人は!!」
アスランが怒りを口にする。
キラも同じ感情を抱くが、口にはしていない。
それよりも、今更ながら死んだ人間がなぜいるのかが気になった。

「あのニコルって人、前アスランが言ってた人だよね……。」
キラの言葉に虚を突かれながらも、アスランは頷く。
「後で、話がしたいな……。」
「そのためにも、早く終わらせるか」
「そうだね」
キラとアスランの目の前に宛がわれたように現れたのは、アスランとキラ、それぞれの疑似体だった。
収集されたことは無い二人だが、これはシンが残してしまったものだ。
それらは、互いを知った物同士。
しかし、キラとアスランには彼らとは違うものがあった。
キラはキラの疑似体を、アスランはアスランの疑似体を知っていて、それは逆もまた然りであった。
だが、それ以上に知っているのだ、キラとアスランは。
隣に居る、互いのことを……。
「『セイバー』!!」
アスランはもう一度二つの砲を構える。
シンが吸収された時点でのアスランとキラなので、その風貌はどちらも今の二人とは変わっていた。
アスランは、単純にデバイスが変わった。
キラは、そもそも見られていないので、シンの勝手な想像によるものだ。
「『フリーダム』と『ジャスティス』、かな?」
キラは再度セットアップをする必要などないため、そのままそれらを見る。
青い翼を生やしたキラの疑似体と、全体的に紅い感じのアスランの疑似体。
思えば後継機含めて敵に回した事は一度もない機体、その能力を端的にあらわしたデバイスだ。
「フェザードラグーン!!」
キラは偵察だの力量を測るだのを目的に、今は唯一つの攻撃魔法を使う。
蒐集ではなく吸収によるものだからか、キラの無線攻撃をキラの疑似体もアスランのそれもたいして避ける行動を取れない。
しかし、それら疑似体は魔術防壁を前面に張っていた。
「シンは俺たちをよほど強いものと思っていた、わけじゃないだろうな」
アスランは思いをめぐらす。
シンのことだから、この二体はシンならば倒せる程度のものだろう。
シンにとって、自分達はそういう存在だった。
考えている間にアスランに切りかかってくる彼の疑似体。
しかし、そんなものに当たるほど甘くは無い。
斬り終った姿勢からリフターを発射してくるが、「そんなもの、当てるための物じゃないだろう!!」これも避ける。
キラと、フリーダムと共に居るのなら、避けられる意味の無い攻撃など、そうはしない。
リフターを使った連携も、事実アスランたちは経験済みだ。
(やはり、ただの疑似体、無意味なものだな)
ならばと、「アムフォルタス高次元収束魔力砲!!」アスランも自分の力をぶつける。
アスランの疑似体とキラの疑似体に一門ずつぶつけると、アスラン疑似体の方だけ防御壁が破られた。
「なるほど、シンはそういう考えなのか……。」
少し悲しいものも有ったが、それでも隙は隙だ。
「キラ!!」
「わかってる!
 フェザードラグーン!!」
既に出ていた8基と、もう2基を出す。
それを全てアスランの疑似体に向かわせ、沈ませる。
残るはキラの疑似体。だが、二対一では勝負にもならないだろう。
「ここは勝ったかな、アスラン?」
「ああ。後は俺たち二人なら、なんともないさ」
こうやって言葉を交わして、心を交わさなければ、チーム戦など所詮数の上での二対二にしかならないのだ。