「シン、本気なの?」
「・・・あぁ」
偽者の、ラクス・クラインの護衛。
戦争がまた有耶無耶な形で休戦となり、まだまだ混乱は続く世界でラクス・クラインの偽者は生きていた。
ラクスを庇い撃たれ、コペルニクスで入院していた彼女は、退院後プラントに戻るようになっていた。
ラクス・クラインと騙り、民衆に立った事への断罪の為に。
その偽者の護衛にシンは志願したのだ。
これまでオーブを憎み、前線に立っていたシンの行為とはルナマリアには思えなかったのだ。
しかし、シンは多くを語らず、ただ「決めたんだ」とだけ彼女に伝えた。
「どうして?」
「・・・・・・ラクス・クラインよりましだと思ったから」
この応えははぐらかされてるとしかルナマリアには思えなかった。
きっと彼女の勘は正しいのだろう。
しかし、それ以上の言葉をルナマリアは言えなかった。
ラクス・クラインがオーブと共に居たという事で、プラントはラクス・クラインを迎えいれようと準備を始めた時、ZAFTから一つの声が上がった。
「私にとって、ラクス・クラインとはあの少女の事です」
此処で言う「少女」というのが偽者の彼女である事は明らかだった。
本物のラクス・クラインはプラントを見捨てた。
戦場に赴いた事も無ければ、傷付いた兵士を見たことも無い。
しかし、偽者のラクス・クラインは違う。
それが例え傀儡故の行為だったとしても、傷付いた戦士に近付き、励まし、皆に歌を聴かせたのは彼女自身の行為であるなら、その戦士にとって真のラクス・クラインはオーブに味方したラクスではない。
その為断罪の声が高くなっていたプラントには「本物派」と「偽者派」と、分かれる事になった。
本当であれば、まだ入院が必要な偽者のラクス・クラインは急遽プラントに呼び戻される。
そしてオーブのラクス・クラインはまだその身をオーブに寄せている。
これからの事は勝手に上が決める。
しかし、下の意見も無視は出来ない。
正直シンにはラクス・クラインという存在がそれほどプラントに重要とは思わない。
どちらが本物だろうが、偽者だろうが、生きていようが死んでいようがどちらでもいいと思っている。
それでも、たった一度聴いた。
月に居る少女の歌が。
戦地で歌った歌が・・・・忘れられない。
「同じ声なら、あっちの歌の方が好きだから。・・・本物には戻って来て欲しくないし。だから、守る」
「シン・・・」
ルナマリアはそれ以上の言葉は掛けても無駄なのだろうと立ち止まり、シンの背中を見送る。
なんだか、シンが遠くに感じる。
「もう、宇宙には出ないの!?」
仲間としても、一緒に居る事は出来ないのか。
暗に含まれた言葉にシンは立ち止まり、プラントの外の空を見上げる。
昼間は映像が映し出されるだけの、空を。
オーブとは全く違う、空を。
顎を引き、顔だけ振り返る。
「出るよ、いつか。戦争になれば、出なきゃならなくなる」
「シン・・・!」
「ルナ、ごめん。・・・・・俺、もう少し考えたいんだ」
何を憎んでいたのか、今も、憎んでいるのか。
まだ、戦えるのか。
どんな未来を望んでいるのか。
再び歩き出した時、もうルナマリアは付いて来なかった。
その事にシンは心の中でもう一度「ごめん」と、強く思う。
コロニーの中央エレベーターからシャトルの発着場に向かう。
低重力の中を移動し、たった今到着したばかりのシャトルの前に立った。
「FAITH所属、シン・アスカ。ミーア・キャンベル嬢の護衛の為到着しました」
「ご苦労様です。只今彼女は眠っているのでこのまま病院まで移送します。宜しくお願い致します」
「わかりました」
敬礼し目の前の軍医に伝えると、軍医もまた敬礼を返してシャトルのハッチを開けた。
空気が抜ける音がし、シャトルの中の空気が外に噴出した事にシンは目を細めてやり過ごす。
シャトル内の空気が外と同じとなった頃にシンが中に入ろうとすると、その前に中から重厚な機械の中に眠る『彼女』が現れた。
これが、偽者。
ピンク色の髪は紛らわしいからと、黒に戻されたという髪。
しかし、その顔は確かにラクス・クラインと同じモノだった。
眠っているというよりも機械によって眠らされているように見えた。
実際そうなのだろう。
今日から彼女を守るのが役目なのだとシンは思い直すと、機械を誘導し、移動する者達に付いて行った。
これから、シンとミーアの物語が始まる。