戦後シン×ミーア_PHASE02

Last-modified: 2008-04-27 (日) 18:29:49

病院に到着し、ミーアは重厚な機械からは解放されたが、直ぐに沢山のチューブに繋が
れた。
シンは護衛のみではなく、ミーアの行動を現在の最高評議会議長に報告する義務がある。
病院で彼女が機械からベッドに移される間、シンはシンで隠しカメラの設置と盗聴器の
設置をしていた。

 

これも彼女が裁判に掛けられる時の重要な資料となる。

 

「麻酔がいつ切れるか分かりません。彼女の資料は渡されているかと思いますが、改め
てご説明致します」

 

カメラと盗聴器のセットが終わると彼女の担当医に呼ばれる。
プラントへの転院の為、一週間前にコペルニクスに向かい、シンよりは彼女に関しての
情報がある。
資料に載せるほどの物ではない情報もあるかもしれない。

 

眠ったままのミーアに一度だけ視線を投げてからシンは医師の執務室に移動した。

 

「再三の忠告になりますが、彼女の前でアスラン・ザラとラクス・クラインの名前は控
えて下さい。少なくとも、入院をしている間は」
「分かっています。自分は護衛で、彼女の様子を報告する義務はありますが、尋問は仕
事に入っていません」

 

当初、ミーア・キャンベルはエターナルで保護をしていた為、ミーアの身柄をプラント
に呼び戻すのは不可能かと思われた。
しかし、ラクス・クラインとアスラン・ザラがプラントに呼び戻すという話が出た時に、
後ろ盾が無いミーアもまたプラントに戻る事になったのだ。
これをオーブのカガリ・ユラ・アスハは渋々という感で了承したところを見ると、少な
くともアスランとラクスはプラントに戻る決意をしていたようだ。
ラクス・クラインとアスラン・ザラの帰還を発表後、本物のラクス・クラインの帰還を反対する声が上がった。

 

これは本物のラクス・クラインにもアスラン・ザラにも予想外の事だったらしい。
シンにしてみればすんなり帰れると思っていたという事の方が信じられなかったが、ど
こか温室育ちの二人はどんな状況であれ、帰れると思っていたようだ。
プラントに拒絶された事によってオーブは改めてラクスとアスランの擁護を行ったが、
ミーアに関してはオーブはプラントに引き渡す事を約束したのだ。
ラクスとアスランはオーブにとっては英雄扱いでも、ミーアはプラントを混乱に導き、
ラクスを騙った犯罪者の意識の方が高い。
ミーアを手放し、プラントに判断を委ねた方が外交上も内政上も印象が良かったのだ。

 

その為、ラクスとアスランを擁護する事に首脳陣は反対しなかったが、ミーアの存在は
疎ましく、国民意識を纏める上で邪魔でしかなかったのだ。

 

ラクスとアスランがこのことに付いてどのように思ったのかは分からない。
反対の声を上げたのか、それともミーアの引渡しにすんなりと了承したのか。
オーブは背景を一切発表しなかった。

 

どちらにしろ、事実はミーアのみがプラントに戻ってくる。

 

重症だったミーアはずっと月に居た為彼女もまた詳しい事は知らされず、ミーアのみが
プラントに戻る事が決まってからは彼女に連絡を取る事にも規制が掛かったようだった。
アスランとラクスの心情も分からないミーアが感じた事は「見放された」という思いだ
けだった。

 

暫くその理由は告げずに涙を流す事が増え、そのタイミングから恐らく自身だけがプラ
ントに戻る事に多大な不安を抱えているようだとだけ判断がされた。

 

この状況からの医師の判断というものである。

 

シンは医師の判断に異論を唱えられる程医療に詳しい訳ではないので此処は逆らう理由
もなく了承する。
「次に、彼女の言動に付いてですが、記憶障害がみられるので事実が彼女の言葉とは違
ったものでも反論は控えて下さい。彼女の記憶障害がどの期間のもので、彼女がどのよ
うに勘違いをしているのかを我々はきちんと把握したい。これは最高評議会の決定でも
あります」
「分かりました」

 

ミーア・キャンベルがラクス・クラインを庇い瀕死の状態になった時、一度心配停止状
態に陥った。
心配停止から蘇生までの時間が丁度5分。
心配停止から4分が経過すると脳にダメージを受ける。
ミーアは基本的な生活には支障は出ていないが、一部の記憶に事実とは違った情報が混
じっていたり、記憶の時期が前後している事がある事だけが分かっている。
デュランダル前議長亡き今、彼の裏の考えを少しでも理解するにはミーアの記憶は非常
に重要なものなのだが、その記憶が混乱している。
それでも今後のリハビリで改善の余地がある為、余計な混乱は避け、医師の判断の下で
情報提供などを行いたいという事だった。

 

総合すれば護衛以外の余計な事はするな、という事だ。

 

シンはこれもまた自分には然程関係ないと簡単に了承すると、医師もこれ以上の注意点
はないのか「以上です」と、最後を締めくくった。
護衛の時間は朝7時から夜7時までの12時間。
まだ昼間である為、護衛の時間である。
直ぐにシンはミーアの病室に戻ると室内のソファに腰掛ける。

 

最高評議会が用意しただけあって立派な個室で室内にトイレも給湯室も浴場もあり、鍵
まで掛けられるという何とも最高の「スイートルーム」だ。
今日はZAFTのシャトルに出迎えに行く必要があった為軍服を身に纏っているが、明
日からは私服での任務になる。
偽者のラクス・クラインといえど、ミーアはプラント全市民を騙した時の人だ。
少しでも彼女の情報を手に入れようと走り回っているパパラッチの数はかなりのものだ。
そんな中、最高評議会議長直属のFAITHの人間が毎日一つの病院に通い詰めとなる
と目立って仕方ない。
その為の処置だが、私服の下には銃の携帯が許可されている。
シンは何となく落ち着かず、直ぐに立ち上がり、ベッドの脇に置かれた革張りの椅子に
腰掛ける。
女の子の顔をじろじろと見るのは失礼なのだろうが、今は相手は眠っていると思うと遠
慮なくじっと見つめた。

 

確かにラクス・クラインそっくりだ。

 

資料により彼女が整形を行っており、どれだけ整形が行われているのかという資料も渡
されていたが、見た限りでは「整形」というよりも「改造」のようだと正直気味悪ささ
え感じた。
整形前の写真も添付されており、シンは整形前の顔も知っている。
確かに華は無く美人とは言い難いが、ラクスの顔を手に入れる必要がある程とは思えない。
シンは戦争で顔の骨格が崩れ、肌は火傷でただれ、正視出来ない人も見た事があるのだ。
(勿論その後整形により元の顔に戻している人が大多数だが、それは全てコーディネイ
ターの話である。ナチュラルの事まではシンは知らない)
そんな人と比べてどれだけ綺麗な顔をしているだろう。

 

何を考えてこの姿になったのかもまだ誰も分かっていない。

 

これから彼女が語るのかもしれない。
記憶障害の為一生明かされないかもしれない。

 

資料には他にも載っていない事項がある。
「性格」だ。
簡単に基本は明朗快活と書かれているが、ラクスとアスランの事、プラントでの己の所
業やデュランダル議長の真意を思い返し、鬱状態に陥る事があるともある。

 

ディオキアで一度垣間見たアスランとのやり取りで「明朗快活」というのは何となく想像がつくが、あれから状況も変わっている。
性格くらい変わっていてもおかしくない。

 

何にせよ、分かるようになるのは明日からだ。

 

ただの護衛任務なのだと思っていても、シンにも知りたい事はある。
自分自身で追求する事は出来ないが、彼女が明かす事実に直面する事はあるだろう。

 

シンは一人緊張の為、息を呑んだ。