戦後シン×ミーア_PHASE04

Last-modified: 2008-04-27 (日) 18:32:46

ミーアの護衛に付き、二週間が経とうとしていた。
最初の頃はミーアの着替えの時間を忘れてうっかり部屋に入って怒られなどもしたが、
最近ではそれもなくなり、シンもまたミーアと打ち解けてきた。

 

最近のミーアのお気に入りは午前中に放送されている少し昔のドラマだ。
毎日同じ時間に放送されるというのがミーアの心を虜にしている要因になっているようだ。

 

シンは最初の頃は観ていなかったのだが、ミーアがこの時間がやってくるのを楽しみに
している姿を見て気にしていると、「一緒に観よう」と、誘われたのだ。
途中参加となったシンには人間関係や状況がよく分からなかったが、それも回を重ねれ
ば理解もしてくる。

 

内容は至ってありがちな恋愛ドラマだ。
シンがプラントにやってくる前のドラマのようで、服装の流行が少し古い。
そしてドラマの展開は男のシンには苛立ちさえ感じるような鬱陶しいものだった。

 

ヒロインは外見は可愛いが(女優がやっているから当然だろうが)ドジで不運だが、
それでもめげずに毎日を元気に過ごしている少女。
その少女が恋をしたのは年が離れたZAFTの高官で、色んな女性に騒がれているとい
う設定の二枚目だ。
実は男の背景として戦争が近付き、出兵の準備をしなければならないかもしれないとい
う緊迫した状況で、それまで気楽に過ごしていた生活から一変するかもしれないという、
変化の途中のようだった。
ヒロインはZAFTとは関係のない一般人のため、この男の置かれた状況を知らないと
いう状態だ。

 

こんな内容許されるんだろうかとシンは思ったが、このドラマが制作されたのはまだ
シーゲル・クライン最高評議会議長が健在で、地球との関係を良いものにしようと働きか
けていた頃だ。
戦争なんて無いだろうと思われていた時期に作られたのであれば、これも問題なかった
のだろう。
今となっては洒落にならない状況で、今すぐにでも考えられる事だ。

 

だからこそ、この男の境遇、状況の描き方が生ぬるく感じられた。
男は次第に少女に心を許すようになっていき、戦争に参加したくないと考え始めるからだ。
実際ZAFTに所属しているシンには考えられない状況に寒気すらする。
こんな女々しい男が(それも高官で)ZAFTに居るとなったら、まずアカデミーに
在籍した時点でその根性を色んな教官に叩き直されていた事だろう。

 

フレッド教官だったらあの丸太のような腕で締め上げて何度も気絶させるに違いない。

 

自分がお世話になった教官の顔を思い出し、自分が何度も食らった「仕置き」を思い出し、
同時に苦しめられた時の感触まで思い出して顔を歪めた。

 

決まるんだよ、あの教官の腕。
あいつにやられたら絶対にZAFT辞めるか考え改めるかどっちかだと思うけど。

 

シンは昔を思い出し、ぶっきらぼうな表情のままドラマを観ている。
今回はどうやら少女が告白を決意し、男を捜すところから始まった。
少女はいつも男と偶然出会い、そこで少しの会話をして別れる。そういう逢瀬を繰り返
していたため、少女は男の名前は知っていても男の連絡先も、住所も知らないのだ。
それでも結構な頻度で少女と男は巡り合っていたという事もあってこれまで連絡先を
確認する必要がなかったと、少女はモノローグで語っていた。

 

それもどうだよ。

 

シンは心の中でツッコミ、これがありえるんだろうかとミーアに視線を向けると、ミーア
は真剣に、食い入るようにテレビを見ていた。
どうやらミーアの中では有り得るらしい。
少女がドジな性格であるというところがミーアの納得のポイントなのだろう。

 

そして中盤になると今度は男の方も少女を探す事になる。
理由は簡単。

 

戦争に参加する事が決まったからだ。
男にとっては本意ではない形だが、彼の肩書きや、出生を考えるとどうしてもZAFT
を離れる事も、戦争の参加を拒否する事も出来ないという理由らしい。

 

今時そんな古い考えがプラントで通るんだろうか。

 

確かに、後ろ盾があってZAFTの高官の位置に居る人間もいるが、それでも辞める事
は簡単に出来そうである。
時代考証間違っているんじゃないだろうかと思いつつ、再びミーアに視線を向けると、
ミーアはベッドのシーツを強く握り締めて男が少女を見つけるのを真剣に応援している。

 

これも彼女にとっては有り得る事らしい。

 

ふと昔読んだマユの少女マンガを思い出した。
あの時と同じようだと思うと妙に納得ができた。
マユも半年に一度出る新刊を楽しみにしていて、時にはシンに買いに行くよう強請った
事もあった。
少女マンガなんて買うのは照れ臭いと断った時のマユの激昂ぶりは凄かった。
キレたという訳ではないが、泣きながらシンが大切に集めていた雑誌を片っ端から投げ
付けてきたので流石にシンが折れた。
恥ずかしさを堪えて少女マンガを買って帰ると、すっかり機嫌を直して甘ったれた声で
「ありがとう、お兄ちゃん」と、感謝したのだ。
更にはその後の片付けまでやってくれたので「女とは恐ろしい」と、シンは初めて思っ
たものだったが。
あの時の少女マンガは今は完結したんだろうかと思いながらシンは話の流れをじっと見
ている。

 

少女は男の行きつけの場所を探す。
男は少女といつも会っていた場所を探す。

 

向かう場所がそれぞれ違う為、二人はすれ違い、巡り会う事が出来ない。

 

王道で行けばラスト3分で二人は出会い、次回へと続くのだろうか。
そんな予想を立ててみたが、シンの考えは外れて終わった。

 

結局二人は会えないまま今回が終わり、男は戦場に向かう事になった。
これはこれで王道かと一息ついたところですすり泣く声に気付き、ミーアを見る。

 

「は!?」

 

思わず声を立ててしまった。

 

泣いていた。

 

近くのタオルを取り、そのタオルで鼻の下と口を押さえてミーアが泣いていたのだ。

 

『うわー。この話で泣くっていうのはナシだろ。絶対ナシだろ』

 

と、シンは直ぐに思った為、一体どうすればいいのか分からずその場に固まった。
泣くまで行かなくても共感できればもう少し対処も出来そうなものだが、シンにとって
はZAFTの内情をきちんと描ききれて居ない時点で「駄作」扱いだったのだ。
共感出来るはずが無い。

 

「か、可哀想・・・。折角・・・・探してたのに・・・・」
「い、いや・・・・」

 

掛ける声も見つからない。

 

「二人は両想いなんだよね?それなのに・・・・それなのに・・・・それも分からない
で離れちゃうなんて・・・・」
「・・・べ、別に物語だろ・・・・」

 

その瞬間、ミーアの枕が飛んで来てシンの顔面に当たっていた。
気付いた時には彼女の枕が顔に張り付いていたのだ。(おまけに少し仰け反った自分が居た)
恐ろしい瞬発力での枕投げだった。
「物語だからとか、そういうのは関係ないの!!」

 

関係あるだろ。

 

と、言いたがったが、シンはその言葉を飲み込んだ。
うっかりと口にしなかった自分を一瞬褒めた程だ。
このミーアの姿は昔のマユと似ている。
あの少女マンガを買いに行かないと断った時のマユに似ていて一気にシンの方が気持ち
で負けていた。

 

「は・・・はい・・・・」
「泣けるよね!?」
「う・・・・・ん」

 

枕がずるりと落ちて、下で構えていた手の中に落ちた。

 

目の前に居たミーアは泣きはらした顔で未だにタオルを握り締めていた。

 

可愛い。と、思う。

 

でも手の中には確かに枕はあり、これを投げたのは間違いなくミーアだ。

 

女は可愛い顔して凶暴になるから恐ろしい。

 

納得は行かなくとも、次回からは同意する方向で行こうとこっそりと決意したシンだっ
た。