日記の人 ◆WzasUq9C.g 05

Last-modified: 2016-03-22 (火) 01:26:22

メイリンの日記_1日目
 
 
ヤタガラスが解散の危機に陥っている——

私は耳を疑った。それは想い人との別れに直結していたから。

この想いを告げずに別れるのは嫌だった。不器用でも伝えなきゃ——

艦長室の呼び出しブザーを震える指で押す。心臓が破裂しそう。
悲しい結果に終わるかもしれない。だってあの人には亡国の女神が取り付いているから。

——死人は無敵だ——

「どうぞ」

スピーカーから少し疲れた声がする。ドアが開かれ、私は部屋の中に入った。

「どうした?」
「私事ですが…よろしいでしょうか…?」
「構わない」

覚悟を決めた。覚悟とは暗闇の荒野に足を踏み出すことと、ある人は言った。将にその気持だ。

「私は…」

喉が渇く。声がかすれる。上下の感覚が無くなり、唇が震える。
どれほどの時間が流れただろう。

「黙っていては分からない。」
「…」
「悪いが、考えがまとまってからにしてくれないか。少し忙しい。」
「好きなんです!貴方のことが…」

言ってしまった…何故か少し涙が溢れた。

目の前の想い人は、溜め息をつきながら、視線を落とした。

「ありがとう。だが、俺はその想いに応えることが出来ない。」
「…」

思考停止、放心状態、真っ白な灰、どんな言葉で形容したらいいんだろう。私は何も考えられなくなった。

「…何故…ですか?」
無粋な質問だって分かってる。でも聞かずにはいられない。

「好きな…いや、好きだった奴がいるんだ…」
「カガリ代表ですか…?」
「…そうだ…」

でも覚悟していたことだ。

「それでも…いいんです…」
「馬鹿を言うな。それほど俺は女にだらしなくはない」
「そうじゃないんです…」
「…?」
「ある人に言われました。
『昔の恋人を引きずっている人を愛するには、それも含めて愛さなければならない』
と」
「…」
「だから…カガリ代表を愛した貴方も含めて…私は…貴方のことを…愛しています…
きっと一生、カガリ代表は貴方の心の中に生き続ける…でも、そんな貴方が…大好きです…」

想いのたけは伝えた——
後は返答を待つだけ——

「うっ…うっ」

想い人はさめざめと泣き始めた。普段の厳格な雰囲気とは、正反対の、まるで子供のような涙だった。

「泣かないで下さい…」
「…」
「…こっちまで…悲しくなるじゃないですか…」

私は彼を抱き締めた。抱き締めずにはいられなかった。
そして優しく…口づけた——

今までどれだけの重石を背負ってきたのだろうか。想像もつかない。彼の全てを受け入れよう…そして彼の一部になりたい。全てなんていらない。ただ一部に…