日記の人 ◆WzasUq9C.g 12

Last-modified: 2016-03-22 (火) 01:38:59

スティングの日記 3ページ目「Friendship」
 
 
=======================

消えたい。だがそれは許されない
アークエンジェルに帰ってから幾度となく試みたが、痛みも苦しみもなく、無駄なことだと自嘲する

「誰か……俺を殺してくれ……」

矛盾も甚だしいが願わずにはいられない。その浅ましい願いを

何度かフレイが様子を見に来たが、皮肉にもその優しさが一層心を突き刺した

『絶望しないで』
『きっといい方向にいくよ』
『辛かったら、何時でも相談に乗るよ』

あああああああ、うるさいうるさいうるさい

「滑稽だな、スティング・オークレ」

ふと投げ掛けられた言葉ではっと我に帰る
振り向くと、そこには見知らぬ仮面の男がいた

「死した身でなお苦しむ意味があるのかな?」
「誰だ……貴様……?」
「私は君を嘲笑いに来た者だ」
「……貴様に何が分かるっ……」
「分かるさ。私は貴様の絶望を具現化したような存在だからな
故に貴様の滑稽具合が手に取るように分かる。ふふふ」

「……だから……何が分かるってんだ!!」

何かにかきたてられたように飛び上がり、男の顔面を殴りつけようとしたが容易くかわされてしまった
怒りに息を切らせる俺をよそに、男は仮面を外し始めた

その面立ちに俺は目を見張った

「……お前は……!」
「理解したかな?」

うすら笑いを浮かべながら去っていく男
——仮面は宙に漂ったままだった

=======================

「おい、こんなことしていいのかよ」

呆れかえって通信を開く

「構わんさ。私の知ったことではない」

悪びれもせず答える男

「さぁ、行こうか」

男はハッチを強引に開け、『ソラ』に出た
俺もそれに続く

30分前のことだ——

「お前の絶望とやらを聞きにきた」

俺は仮面を手渡しながら男に語勢を強めて問ただした
あれから色々と考え進めたが、妄想の域は出ず、直接的な手段を決心したのだ
そんな俺の問に、男は侮蔑に満ちた微笑を浮かべながらこう言った

「ただ教えるのでは興が削がれる
退屈していた所だ。手合わせ願おうか」

俺は言っていることが理解出来なかった——が、男が向かった先を見て直ぐに理解した
そう、俺たちは今、勝手にMSを拝借している
クルー達の混乱が容易に目に浮かぶ
しかし量産機というのが唯一の救いか

「喰らえ!」

引金を引き、ライフルを放つが、相手は事も無げにかわしていく
そこで俺は頭を切り替えた

「中々やるではないか、スティング
噛ませ犬にしてはな」
「俺は噛ませ犬じゃない!」

剣戟——鍔競り合い
戦い方が『アイツ』に似ている

「お前は、ネオの何なんだ!?」
「一矢報えたら教えてやろう!」
「……ファントムペインを……舐めんじゃねぇぇぇぇ!!」

蹴りを放って吹き飛ばす
しかし幽霊故にパイロットダメージが目的の格闘戦は無意味だと気付いた

「それなら……」

ならば幽霊の利点を使ってやろう
目を閉じ、右腕でサーベルを構え、スラスターを吹かして突進する

「愚かだな!隙だらけだぞ!!」

降り注ぐ銃弾が身を削る——メインカメラ、右足、左腕

「勝った!!」

俺は勝利を確信した

眼前には仮面の男

拳を振り上げ叩き付ける

「なにぃ!!」

男は拳を避けるも、MSの操縦はおぼつかない
その間に押し寄せる機体——俺が瞬間移動する前までいた場所で、既に自動操縦に切り変わっている
故に単純な動きしか出来ないが、突進して剣を突き刺すことくらいは出来る
勝負は敵コックピットへ瞬間移動するまでの隙をやりすごした時点で終ったのだ

「この手があったか……」
「へへ、一緒に泳ごうじゃないか、暗い海をな」

高熱元体がその場を貫き、爆散する機体
しかし、不自然にも居残る二人、否、二つの思念

「ふふふ……」

男は似合わない、無垢な笑みを浮かべた

「はっはっはっ!!完敗だ!!」
「反則技だがな……ふふふ」

お互い腹を抱えて笑いあった

=======================

しばらくして笑いが収まると、男は真剣な表情に一転した
俺も笑いが吹き飛んだ

「約束は守らんとな。私はな…」
「もういい。楽しかったからな」

もうどうでもよかった
苦しいとか、悲しいとかいう気分は先ほどの笑いで隅に追いやられ、
この男が何者で、どんな絶望を抱えているのかどうでもよくなっていた

「そうか」

男も満足げな表情であった

「……名前だけ教えてくれよ」

俺の問に、少しだけ男の表情が曇ったが、すぐにいつもの皮肉混じりの顔立ちに戻った

「私はラウ・ル・クルーゼだ」

俺に一人、友人が出来た出来事だった

〜つづく〜

03ページの裏

=======================

『……私だけ仲間外れ……MS動かせたらなぁ……
というか、クルーゼに励ましてやってくれなんて言ったの間違いだったかしら……』
「おい、キラ!MSが勝手に動いたらしいぞ!」
「えっ……フレイ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
『私じゃないわよ!!』

〜つづく?〜