朱 ◆NaPp2aS6cI 氏_しん・かうんた~・あたっく_第2話

Last-modified: 2011-01-30 (日) 23:58:00

第二話「バトル化へのテコ入れはジャンプでは良くあること」

 
 

荒野を走る一台のジープ。
運転席には楽しそうな様子のシン・アスカを、助手席には遠い目をしたコニール・アルメタを乗せて、
自由気ままに荒野を走り続ける。

 

世界に逆襲をすると崖の上で(一方的に)誓いあった彼等だが、
しかし、コニールはこれから具体的に何をするのかを今だに聞いていないことに気づき、
あからさまに面倒臭そうにシンに声をかけることにした。

 

「でー、今からどうすんのー?」

 

気の抜けた声になってしまったのは仕方のないことだろう。
彼女にとって逆襲など、全く興味のないことなのだから。
むしろ、コニールとしては方針を聞いただけでも褒めてもらいたい気分だったりする。

 

「あー……これからどうしよっかコニール」
「………は?」

 

だがしかし、そんなコニールに対して斜め異次元な対応をするのが
シン・アスカという生き物だったりするのだ。
今回も、朗らかな笑顔すら浮かべて、コニールにとって斜め異次元でしかない発言をシンは口にする。

 

「いや、だからこれからどうしよっか。
 世界に逆襲するのは良いんだけど、どうやって逆襲するかまでは考えてなかったんだよな」
「よし死ね」

 

ゆっくりと。ゆっくりとシンの吐いたアホな台詞の意味を咀嚼したコニールは、
次の瞬間には懐から護身用にと持っていた拳銃を取り出し、シンに突き付けた。

 

「三秒やろう。何か言い残すことはあるか?」

 

そして死刑宣告。無理矢理自分を訳の分からないことに付き合わせておきながら、
今後の方針が決まってないなどと間の抜けた事を言うシンに多分の怒りを籠めて、
コニールは静かに告げる。

 

本当に撃つ訳はない。シンと同じ立場にたたされれば、大半の人間はそう思うだろうが、しかしシンは違う。
シンは知っている。今コニールが構えている銃の中身は、ゴム弾だということを。
そして思い出す。実弾入りの拳銃とは別に、ゴム弾入りの拳銃を何故携帯しているのかと
コニールに聞いたら、気のない様子でツッコミ用だと言われたことを。
故に撃つ。今までの経験上間違いなく撃つ。実際何度となく撃たれた。

 

「こ、こんなところで俺はぁああああああっ!!」

 

だからシンは抵抗する。
これまたこれまでの経験上、当たると死ぬほど痛いことを理解しているから。
どこかの蝙蝠ハゲと違って、シンは痛いのは特に好きではないから。
人は彼をこう呼ぶ。ドS大帝シン・アスカと。嘘である。

 

脳裏に種子が弾けるイメージが浮かぶ。その紅い瞳からは光が消え、思考が一気にクリアになる。

 

狭い車の中、直ぐ真横で銃を突き付けられている現状、
このままでは為す術もなく銃弾の餌食になるのは目に見えている。
故に、そんな悲惨な未来を回避するべく、シンは急ブレーキを掛けジープを無理矢理停車させることで
コニールの体勢を崩させようと目論見る。

 

「うわっ!?」

 

結果は成功。急な停車にコニールは留まることが出来ずに為す術もなく体勢を崩される。

 

「くぅっ!!」

 

しかし、伊達にコニールとてレジスタンスを経て自警団をやってきたわけではなく、
ついでにシンと腐るほど喧嘩をしてきたわけではない。
コニールがこれまで培ってきた経験が頭で考えるよりも早く体を動かし、
体勢を崩しながらも反射的に狙いを修正して、シンに向けて引き金を引くという妙技を成し遂げる。

 

「チッ、外した!!」

 

だが、荒野に響いたのはシンの悲鳴ではなく、コニールの舌打ち一つだけ。
それなりの速度で走っていたジープの急停車とあっては、
いくら狙いを修正しようと流石に完全とはいかなかったのか、シンの必死の回避も合わさって、
コニールの放った銃弾は上体を反らしたシンの顔面ギリギリを掠めるに留めた。

 

「あ、危ねぇえええ!! 回避してなきゃ直撃してたぞ!?」
「当てるつもりだったからなっ!!」

 

一言吐き捨て、ジープが完全に停止すると同時にシンは転がり落ちるように車から外へと飛び出し、
コニールもまたシンを追って車の外へと飛び出す。
そして、ほぼ同時に体勢を整えて、シンはザフト時代から愛用しているナイフを、
コニールは先程から使用している拳銃を互いに構えながら荒野にて睨み合う。

 

「コニール。戦り合う前に一つ言っておきたいことがある」
「……何?」

 

その状態でのシンの突然の言葉。
また何か下らない作戦でも思いついたのかと、コニールは訝しながら問い返す。

 

「運転中に発砲とか危ないだろうが。事故ったらどうすんだ」
「……ハァ」
「溜息!?」

 

何か必死にツッコミを入れてくるシンだが、
まさか戦る前に真剣な顔でそんなことを言われるとは思っていなかったコニールは、
露骨に呆れた表情で溜息を吐く。

 

「……だから周囲に何もない状態で撃ったんだろうが。多少ぐらついたところで事故ったりはしないよ」
「頭狙ってたじゃねーか!! 例え周囲に何もなくても、気絶しちまったら事故るに決まってるだろ!?」
「お前がゴム弾喰らったくらいで気絶するような奴なら、あたしはここまで苦労してない」

 

きっぱりと言い切るコニール。
ああ、こんな下らない質問にわざわざ答えてやる自分は何て優しいんだという空気をありありと発している。

 

まあ、実際最新鋭機であるストライクフリーダムに、至近距離からレールガンを撃たれても
気絶どころか怯みもしなかったシンなのだから、ゴム弾ごときじゃ気絶などしないのは事実ではあろう。
しかし、そんな風に妙な方向に信用をされているシンとしてはたまったものではない。
抗議を送ろうと、コニールに向け口を開こうとするのだが、

 

「もういいか? それじゃあ、取り敢えず一発喰らって反省しろっ!!」

 

それよりも早く、コニールは牽制の意を込めた弾丸を一発、シンの顔面に向けてぶっ放した。

 

牽制とはいえ、何もしなければ必中コースのその弾丸。
だが、それに対してシンは自身の顔面に迫るゴム弾をまるで存在しないとでも言うかのごとく、
コニールに向けて真っ直ぐに駆け出す。

 

「こんなもん、牽制にもなりやしねえよ!!」

叫ぶと同時に、ナイフを一閃。ゴム弾を真っ二つに切り裂き、
スピードを緩めることなく尚もコニールへと突き進む。

 

「相変わらず出鱈目な…っ」

 

その光景を見てコニールが思わず毒づくが、それも無理からぬことだろう。
どこの世界にナイフで銃弾を切り裂く人間がいるというのだ。
いや、コニールの目の前に一人いるのだけど。

 

「でもなっ!!」

 

しかし、数えるのも馬鹿らしくなるほどシンと喧嘩をしてきたコニールだ。
今更、ゴム弾を切り裂くという芸当を見せられたところで怯みはしない。
その程度、既に何度も経験済みだ。

 

切り裂かれたと認識した次の瞬間には、二発連続で再びゴム弾を放つ。
一発はシンの手前の地面に向けて、もう一発は直接シンの腹部に向けて。

 

「ハッ、足を止めようって……嘘だろっ!?」

 

余裕綽々と言った様子で腹部に向けて撃たれた弾を切り裂き、
軽くステップを踏むことでペースを落とすことなく足元に撃たれた弾を回避しようとしたところで、
シンは驚愕の光景を目撃した。

 

跳ねたのだ!
足元に向かっていた筈の銃弾が地面から少しだけ顔をだしていた岩にぶつかり、
シンの顔へと向かって!

 

「あ、当たってたまるかぁああああああああああああああああっ!!」

 

魂の底から叫びを上げて、シンは迫りくる銃弾を回避せんと全力で体を捻る。

 

然して、銃弾はシンの頬に一筋の傷を残して、雄大なる大空へと吸い込まれていった。

 

「くそっ、想定してたよりも跳ねた!! 避けるなよ、シン!!」
「避けるに決まってるだろ!? というか、跳弾とか何時覚えたんだよ!?
 前の喧嘩の時は使ってこなかったじゃないか!!」
「エンジェルなんちゃら作戦の話をお前から聞かされた後に、
 投げたシールドでビーム反射させたって奴が喧嘩の時に使えるなと思って練習したんだよ!!」
「は、話すんじゃなかったぁああああああっ!!」

 

自分のたわいない話から、まさか自分を倒す為の技を習得してくるなんて思ってもみなかったシンは、
思わず後悔の声をあげる。
しかし、真面目に駐在軍人として仕事もしないで、毎日コニールの酒場で牛乳を飲んで
駄弁っていた罰が当たったのだ。自業自得、因果応報、今のシンについての感想を聞けば、
百人中六十九人くらいはそう答えること安請け合いだろう。

 

「だけど、これで…っ!!」

 

それはさておき、シンが後悔していたのもつかの間。既にコニールとシンとの距離は数メートルしかなく、
コニールとの距離を詰めるべく一気に駆け出す。

 

「しまっ…!?」

 

叫んだと思ったら駆け出してきたシンの切り替えの早さに呆気にとられたコニールは、
慌てて距離を詰めさすまいと、さらに二発弾丸を放つが…

 

「今更この程度で!」

 

小細工も何もない、ただただ愚直に真っ直ぐ放った弾丸は、あっさりとシンに両断されてしまう。

 

「これで残弾もゼロだな、コニール!!」

 

装弾数六発のコニールのリボルバー式の拳銃。ちゃっかり何発撃ったか数えていたシンは、
銃弾を警戒する必要もないと更にスピードを速めて距離を詰め、
そのままコニールに足払いを仕掛けて押し倒し、首筋にナイフを突き付けて勝利宣言を行う。

 

「なかなか良い線いってたけど、今回も俺の勝ちみたいだな」
「あーあー、はいはい。あたしの負けだよ負け」

 

流石にここから挽回する手もなく、押し倒されても放さなかった拳銃を手放し、
悔しそうにコニールは負けを認めた。

 

「ああくそっ、せめて街中だったら跳弾も上手くいっただろうにさー」
「おいおい、負け惜しみかよ。
 まあ、確かに顔じゃなくて胴体だったら避けられなかったかもしれないけどさ。
 でも、この状態の俺に銃弾掠らせただけでも大したもんだと思うぞ?」
「嬉しくねーよ。というか、それ卑怯だろ。反応速度諸々が上がるとかどんなチートだよ」
「ふっふっふっ、この状態だと気合いでビームも曲げられるんだぜ?」
「堂々と嘘つくなよ」

 

既に何故喧嘩をしてたのかも忘れたのか、二人はその体制のまま談笑をし始める。

 

ガルナハンにいたときも大体何時もこのような感じで、
喧嘩をするたびにコニールも腕を上げてはいくもののシンには及ばず負けてしまい、
しかし互いに全力で動いたお陰か、喧嘩を始めた原因も忘れて何時も通りの関係に戻る。
二人にとってはこんな喧嘩もコミュニケーションの一つでしかないのだ。
周囲の人間には迷惑極まりないのだが…。

 
 

実際、二人の喧嘩のせいで迷惑を受けた人間が上空に一人いた。
二人に接触しようとしたものの、行きなり銃弾をぶっ放し始められたせいでタイミングを逃し、
今も二人の和やかな空気のせいで出るに出られない人間が一人。
しかし、何時までも見ているだけというわけにも行かず、意を決して二人に接触しようとする人間が一人。

 

あー…。お二人さん、仲良さそうにしてるとこを邪魔して申し訳ないんだけど、
 少し話を聞いてもらっていいか? あんま遅くなると、うちのリーダーが恐ぇんだよ

 

モビルスーツに乗って現れた、二人の喧嘩のせいで割を喰らった一人のその人間。
空気の読める、人の良さそうなその人間との接触が、一体シンとコニールに何をもたらすのか。
それは、その人間にもシン達にも、ましてや作者にも分からない。

 

「さ~てコニール。罰ゲームの時間だぞぅ?」
「はあ!? 何だよ罰ゲームって!! 今までそんなもん無かっただろ!?」
「敗者コニール。勝者俺。そして敗者は罰ゲーム。
 世界の常識だろ?」
「そんな常識捨ててしまえっ!!」
……え? いやいやいや可笑しいだろ。 
 直ぐ近くにMSが降ってきて気づかないなんてそんな馬鹿なことが…。
 あの、聞こえてますか? 聞こえてますよね? お願いだから返事してくれませんか?
 ほんとお願いしますから――!!

 

何故なら何ももたらさないかもしれないから。

 

人はシンを称してこう呼んでいる。ドS大帝シン・アスカと。嘘である。自信はない。

 
 

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