朱 ◆NaPp2aS6cI 氏_しん・かうんた~・あたっく_第1話

Last-modified: 2010-11-25 (木) 00:33:14

第一話「燃える燃えるよガルナハン」

 

「は、はは…」

 

崖の上からガルナハンの町並みを見下ろし、口から渇いた笑い声を漏らす
ガルナハンの駐在軍人さんことシン・アスカ。

 

「ははは…」

 

同じく渇いた笑い声を漏らす、元レジスタンスの一員にして
現場末の酒場のマスター兼看板娘兼健気な美少女ことコニール・アルメタ。

 

「はははは…っ、オイ見ろよシン。ガルナハンが見事なまでに燃えてるぞ?」
「ま、町並みが紅に染まって本当に綺麗だよな、コニール。
 でも、ガルナハンよりもコニールの方がもっと綺麗だぜ?」

 

渇いた笑い声を上げながら、隣に立つシンにガルナハンを指差して語り掛けるコニールに、
引き攣りまくった笑顔を顔一杯に浮かべたシンが、気が動転しているのか
現状にそぐわなさ過ぎる口説き文句を口にする。

 

「ありがとうシン。お世辞でも嬉しい――っとでも言ってもらえると思ったのか!?
  燃え盛るガルナハンと比べられたって、カケラたりとも嬉しくねーよ!!
 つーか、ガルナハン燃えてるぞ!? どーすんだよこれ!?」

 

見事なまでのノリツッコミ。伊達に毎日シンにツッコミを入れてないとばかりに、
シンの胸倉掴み上げてツッコミを浴びせるコニール。
それに対して動転していたシンも声を荒げ、

 

「俺だって知らねーよ!! 燃えちまったもんは仕方ないだろ!?
  可能な限りガルナハン守ろうと精一杯頑張ったよ、俺は!!
 つーか、ついさっき牛乳飲みながらニヒルにこの平和を守ろうとか決心してたのに、
 たったの数十分でこの様とか一体どんな罰ゲームだよ…」
「それこそ知るかーーーっ!!
 そもそも飲んでるもんが牛乳な時点で、カケラたりともニヒルに決まってないわ!!」
「いくら何でも知るかはないだろ!! これでも結構責任感じてるんだぞ!!
 それにコニールには話したろ!? 俺がどんだけ『守る』って言葉に決意とトラウマ持ってるか!!」
「ああ聞いたよ聞いたさ聞かされたさ!!
 家族は戦争で殺され、守るって約束してラブロマンス繰り広げた敵兵の少女も殺され、
 ついでに元カノとは別れたんだろ!?
 でも別に今回はせいぜい軽傷な奴がいるくらいで、死人は一人もいないしちゃんと守れたんじゃねーの!?
 MS二十機相手にその戦績は誇っていいと思うし、あたしも褒めたたえて
 酒場で好きなもん何でも奢ってやっても良いと思うくらいさ!!
 まあその酒場は無くなっちゃったんですけどねー!!」
「え、なにこれ俺今責められてんの? それとも励まさてんの?」
「シンのせいじゃないのは解ってるしシンが精一杯頑張ったのも知ってるけど、
 酒場燃やされて他の連中みたいに身寄りがないあたしは、
 これから先どうしようという不安をシンに理不尽に叫ぶことで解消しようとしてんだよ!!」
「なんだよそれ、八つ当たりかよ!?」
「お前がトチ狂って糞寒い口説き文句吐いたりしなきゃ、
 一人で整理つけるか普通にお前に相談するかなりして解消したんだろうけどな!!」

 

叫ぶ叫ぶ叫び続ける。互いに互いの額を突き付け、今にも唇が触れ合いそうな距離で、
理不尽な現状への怒りを最大限に込めて怒鳴り合う。
ここ最近は頻度が減ってはいたものの、シンが荒んでいた時は毎日のように喧嘩していた二人だ。
周囲にいたガルナハンの住人達も慣れたもので、逃げる時に持ってきた最低限の荷物を抱えて、
遠巻きに生暖かい目で二人を見守る。
決して、この非常時にイチャついてんじゃねーよボケ、といったような蔑む目ではない。蔑む目ではない。

 
 

さて、それはともかくガルナハンが何故燃えているのかについて簡単に説明すると、

 

①牛乳を飲んでたシンの元にMSが二十機ほどガルナハンに向かってきていると報告が入る
②シンとガルナハン自警団(コニール含む)が様子を見にいく
③近頃噂の巨大な盗賊団だと判明
④トラップだとかなけなしの武器だとかでシンと自警団(コニール含む)が時間稼ぎをし、
 住人を崖上に避難させる
⑤無人のガルナハンを盗賊団に蹂躙される。
 シン達はそれを見ながら、情報を入手したオーブが救助隊を派遣したらしいので救助を待っている。

 

といった変遷を経て、現在ガルナハンが真っ赤に燃えているのだ。
ちなみに、MSに火炎放射器を装備させるのは正直どうかと思う、というのがガルナハン住人一同の見解だ。

 

「ハァ…。ったく、ほんとどうしてこんな羽目になったんだか…」

 

疲れからか現状への諦めからか、シンとの罵り合いを打ち切り、額を押さえてぼやくコニール。
両親が戦争で死に、レジスタンス時代では昨日まで共に励まし合った仲間が目の前で死んでいき、
戦争が終わった今ですら町が焼かれる。
これまでの人生の苦労の数々を回想したところで、何気なく空を仰ぎ見、ポツリとコニールは呟く。

 

「ああ、きっと――この世界が悪いんだろうなぁ――」

 

それは、ただの愚痴でしかない。
恐らく大半の人が一度は思ったことがあるだろう愚痴。
このまま何もなければ、その呟きは風に乗り消えていき、
コニールはまた今日を生きるために前を向いて歩き始めていたのだろう。
しかし、幸か不幸か…いや、確実にコニールにとっては不幸なことに、その呟きはシンに耳に届いていた。

 

「そ れ だ !!!」

 

あの、最近色々と面倒な性格になってきてしまっているシン・アスカに届いてしまったのだ。

 

「はあ?」
「いや、だからそれだよコニール! 全てはこの世界が悪いんだ!」
「そんなことわざわざ力強く言われなくても知ってるよ」

 

度重なる軍縮や意味の解らない政策などのお陰で、
世にはテロリストや陸海空宙問わず賊の類が横行闊歩しているのだ。
その上、ガルナハンを始めとした僻地には、まともな護衛も置かれず、
自分の身は自分で守らなければならない現状。
これで「良い世の中だよねー」などとほざく奴は死ねばいいとコニールは常々思っている。

 

――それなのに、何を今更当たり前のことを言っているのだろうか?

 

そうコニールが思考したところで、これまで幼いながらに幾度となく戦場に出て鍛えられた、
コニールの「第六感」といったものが、全力で警報を鳴らし始める。

 

「し、シン…? お、お前、一体何が言いたいんだ?」

 

唇が震える。顔が青ざめる。嫌な汗が全身を濡らす。
コニールの脳裏に響く警報は今だ衰える様子はなく、これから死刑を執行される罪人の気分で、
コニールはシンに問い掛ける。

 

「俺達は帰るべき家を失った。身を寄せる場所もない。これからどうするか決まってすらいない」
「お前はザフトに戻れよ、な?」
「何が悪い? 何が俺達をこんなにも苦しめる?」
「あたしは現在進行形でお前に苦しめられてるけどな」
「そう! 世界だ!! 三年前に俺の家族が死んだのも、一年前に様々なものを失ったのも、
 そして今帰る場所を失ったのも!!
 全てはこの世界が悪いんだっ!!!」
「無視かよオイ」

 

コニールの話を全て華麗にスルーして、与太話を繰り広げるシン。
周りにいたガルナハンの住人達が、先程よりさらに距離を取っているのも気にせず、
コニールに向かって演説を続ける。

 

「復讐だ!! 報復だ!! 革命だ!! 改革だ!! 散々俺達を苦しめてきたこの世界に『逆襲』だ!!
 コニール、俺と一緒にこの世界に『逆襲』してやろう!!」

 

悪い予感が見事に的中した。シンの演説を聞いて、コニールはまずそれを思う。
そして同時に…

 

「断る。一人でやってろよ」

 

一刀両断でシンの提案を切って捨てる。
確かに、コニールにも今の世界の現状に対する不服も不満も不平もあるが、
しかし彼女にとって重要なのは今日を大切な人達と共に生き抜くことだ。
世界への逆襲なんてやりたい奴が勝手にやってればいい。
一年前にレジスタンスに参加したのだって、自分の大切な人達が直接的に傷つけられていたからであって、
世界をどうこうしたいなどと考えた覚えはない。
皆無事に済んだ現状、わざわざ世界を敵に回すなどといった危険に首を突っ込むつもりもない。
これからどう身を振るかについて考える方がコニールにとって遥かに重要なことだし、
最優先して行わなければならないことなのだが、
だがしかし、シンはそんなコニールの発言も華麗にスルー。

 

「行くぞコニール!! まずは足の確保からだ!!」
「は? …ってオイ馬鹿やめろ!? あたしはやらないって言ってるだろうが!!
 無理矢理人を巻き込むんじゃないっ!!」

 

コニールの腕を無理矢理引っ張り、世界への『逆襲』の為に駆け出して行くシン・アスカ。
コニールは悟る。先程のシンの発言は、問い掛けではなかったのだ。
彼の中ではコニールの参加は決定済みで、ただ口にだして決意を表明したに過ぎない。
しかし、それを理解したところで決して納得など出来るはずもなく、
だからといってシンを振りほどけるほど力強くもない。
だからコニールは…

 

「ふ、ふざけんなぁああああああああああああああああああああ――!!」

 

せめてもの抵抗にと、この理不尽に対する自身の怒りを声に乗せて叫び、世界に響き渡らせるのであった。

 
 

ちなみにガルナハンの住人達は、そんな騒がしい二人を生暖かい目で見守りつつ、
巻き込まれないように無駄なく華麗に優雅にスルー。

 
 
 

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