機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_第01話

Last-modified: 2008-06-18 (水) 01:03:48

U.C.0105年4月22日未明 インドネシア バンダ海上

 

 連邦軍キルケー部隊の妨害を綱渡りながらもはねのけて、無事に新型機〝Ξガンダム〟の回収を成功させ、全機が無事に母艦の支掩船〝ヴァリアント〟への帰還を果たし、そこに集った「マフティー」のメンバー達の雰囲気は明るかった。
思いがけずも、捕虜にされていたガウマンの奪還というおまけまで付いて来たのだから、それもまた無理ないことではあった。
 喜びながらもメカニックスタッフ達は油を売ることなく直ちに収容したガンダムと、主力MS〝メッサー〟各機の点検整備に取り掛かり始める。
地球に降下、即実戦となったΞガンダムだったが、ビームライフルの喪失と消耗品のミサイルの射耗だけで損傷もなしに状況を切り抜けて来れたのは、まずは上出来だろう。

 

「それにしても、カーゴ・ピサに搭載の補充品はあらかた回収できたのは幸いでした」
「ああ、上手く取り付かせてくれたエメラルダのおかげだな」

 

 ヴァリアント側の首尾を伝えるケリアの言葉に、ハサウェイも安堵の笑顔を返す。

 

「そうよ、せいぜい誉めて頂戴」

 

 エメラルダは笑いながら手を振って、自分のメッサーの方へと歩いて行った。

 

 状況の展開が予想以上に加速していた為、本来はヴァリアントに任せる予定だったガンダムを載せたカーゴ・ピサの回収には、ハサウェイ自身が空中受領を決行することに急遽変更したのだが、そのおかげでどうにかなったようなものだった。

 

 幸いなことに、メッサーを操縦するエメラルダはカーゴ・ピサを大きく損傷させることなくハサウェイを機体に取り付かせてくれたので、ガンダムの発進後もカーゴ・ピサは自動飛行を続けて、予定通りにヴァリアントが待機する海面に着水。
その機体の海没前に、ヴァリアントのスタッフ達はガンダム用の補充部品を無事に回収することが出来たというわけだ。

 

「ガウマンの事といい、何だか余りにも順調すぎて恐いくらいだな……」

 

 かの畏るべき敵手である地球連邦軍大佐、ケネス・スレッグの顔を思い浮かべながらハサウェイはふと、そんな事をひとりごちる。

 

……後にして思えば、あるいはそれは彼の〝ニュータイプ〟としての能力が、その後に起こる〝運命〟を予感させていたのかもしれなかった…。

 

 そのまま次の作戦、オエンベリへの偵察飛行を行なうためにオーストラリア大陸の北岸を目指して南下するヴァリアントは、満月の明かりの下、夜の洋上でもう1隻の支援船である〝シーラック〟とランデブーし、艦隊を組んで航行を続ける。
 シーラックには予備のメッサーが3機分、組み上げられるように各種パーツが用意されており、帰還したガウマン用に早速その内の1機が準備され始め、ガウマンはベース・ジャバー〝ギャルセゾン〟でシーラックへと移乗してゆく。
同時にガンダムの補充部品の内の半分もシーラックへと運びこまれる。むしろガウマンはそのついでのようなものだ。
 こうしてリスク分散と、補給・継戦能力の維持を図れるだけの量の物資が確保できていること自体が、彼ら「マフティー」にとっては状況がうまい具合に進行していることになるのだが、果たしてそれは〝ツキ〟と呼べるようなものだったのかどうか…。
むしろそれは、この直後に彼らが投げ込まれる想像も付かないような出来事を前にしての、悪戯な〝運命〟の神の采配だったのかもしれない。

 
 

 夜明け間近の凪の海を同航中のヴァリアントとシーラックの乗員達の中で、最初に〝異変〟に気付いたのは、双眼鏡を手に肉眼での監視任務を行っていた当直員達だった。

 

「そ、空がっ!?」

 

 明らかにパニクった声に、ハサウェイら手すきの者達も舷側窓にはり付いて、あるいは甲板へ飛び出して、外の様子を確認する。
そこに見えたものは、息を呑むような光景だった―

 

 周囲の空一面が、不思議な色をした〝雲〟に覆われかけていた。
みるみる内に濃度を増して行くそれが、彼らの船隊の周囲をすっぽりと覆い尽くしてしまい、周囲の島々の影すらも全く見えなくなってしまった。

 

「な、何なんだこりゃあ!?」

 

 ヴァリアントの船長ウェッジが驚きの声を上げる。
彼のみならず、誰にとってもこんな天候に遭遇した記憶はついぞ無かった。
 船隊の周囲を取り囲むようにして広がるその不思議な色をした分厚い〝雲〟のカーテンは、竜巻のように、だがゆっくりと見える速度で渦を巻いていた。
そしてその表面に次々と、幾筋もの稲妻が生じてゆき、ハサウェイ達の視界が白く光に染まって行く。
そこにいた誰もが圧倒され声も出ない中、ひときわ大きい稲妻が落ち、周囲の全てが目を開けていられない程の閃光に包まれた―
誰彼問わず2隻の乗員全てが声にならない悲鳴を上げながら一瞬の〝浮遊感〟を感じ、そしてその意識を失って行った……。

 

 ―この日払暁、反地球連邦組織「マフティー・ナビーユ・エリン」は、ニュータイプ戦士ハサウェイ・ノアと最新鋭MSΞガンダム以下、実戦部隊の大半を一気に喪失した。
 何の前触れもなく脅威が消え去った連邦政府はこの数日後、予定通りにアデレートにおいて連邦中央閣僚会議を開催し、悪名高い法案を可決させることになるのだが、それはもはや、ハサウェイ達にとってはどうする事も出来なくなった世界での話である…。

 
 
 

C.E.73年11月 ブーゲンビル島沖合 太平洋上(オーブ沖海戦前夜)

 

 いったい、何が起きているのか?
ヴァリアントとシーラックから成る「マフティー」実戦部隊の幹部達は、ヴァリアントの船上に揃って顔を付き合わせながら一様に、何とも不可思議としか言いようのない現在の彼らが置かれている状況に対しての当惑の表情を浮かべていた。
 距離を詰め、肉眼で相手の船の様子が分かる程の近さで併走する形を取りながら航行している両船の頭上には、夜空に月が輝いている。
払暁の海にいた筈の彼ら「マフティー」の船隊は、唐突に出現した〝不思議な密雲〟に呑み込まれ、猛烈な閃光の中に意識を失った……。

 

そして気が付くと彼らの船隊は〝ここ〟にいた。
―無数の星々の光が輝く、夜の海に。

 
 

「……とりあえず、現時点で判明している情報はこんな感じなんだが…」

 

 対策を協議する為に招集された幹部スタッフ達に向けて、今現在も継続中の状況把握の為の試みの暫定報告を示すイラム。
天測を行って、自分達の現在位置をとりあえず確認してみたところ、なんと経度にしておよそ30°近くもの東方の海域―ソロモン諸島はブーゲンビル島沖合の、太平洋上にいるらしいと言う事が判明したのだ。
 無論の事、最初は自分達の目を疑った。
だが、ヴァリアントとシーラックの両方で、複数人がそれぞれ出した天測結果がどれも変わらなかった以上は、とりあえずはその〝現実〟を認めたその上で、ともかくも各部の異常の有無の点検と言った即時的な対応行動を行いながら、ようようこうして対応を協議する態勢になっていたのだった。

 

「つまり、その……なんだ、俺達はニューギニア島を跨いで〝ワープ〟でもしちまったってことなのか?」

 

 古典SFみたいな話だな。

 

 ヴァリアント船長のウェッジが、とても信じられないという想いを滲ませて言う。
だが、そうは言いながらも彼自身の冷静な部分は同時に、目の前の状況は紛れもない現実であることを認めざるを得ないとも認識してもいた。程度の差こそあれ、その辺りの判断力ないし対応力は持っているのが彼らではあった。

 

「いっそ逆に〝何も判らないだけ〟なら、むしろまだいいんですがね…」

 

 何とも参ったと言う風情の苦虫を噛み潰した様な表情で、ヴァリアント副長兼参謀格のイラムが後を引き取る。

 

「ん?それはどういう意味だい?」

 

 MSの整備を中断してヴァリアント船内の異常無しを確認して回り、ブリッジに報告に上がって来ていた整備長のニコライが怪訝そうに聞く。

 

「それが……」

 

 と、本人も半信半疑の表情のイラム。
あの正体不明の雲に呑み込まれると言う状況も異常ではあったが、その後に置かれている〝この海域〟の状況も不可思議なことだらけだった。
 まず何よりも、ミノフスキー粒子の干渉波がこの付近には〝全く無い〟のだ。
地球全域を覆う戦争の産物であるミノフスキー粒子による通信手段の衰亡はもはや常識のようなもので、それが局所的にせよ〝ゼロ〟であるなどと言う状況は、およそ想像出来るようなものではなかった。
 そして、通信妨害素子が消えていることの当然の帰結かも知れないが、ヴァリアントとシーラックの装備するレー
ダーは、およそあり得ない状況である筈の「カタログデータ通りの性能を発揮して」いたし、また通信室で傍受する通信の量も、彼らの感覚で言えば驚くほどの増大を示し―しかもその内容と言うのがほとんどが意味の判らないものばかりとなっていた。

 

 だが、あまりの量に圧倒されながらもとりあえず解析も行い始めたその中に、到底聴き捨てには出来ないようなものが早速混じっていたのだ。活発に交わされている明らかに軍用の通信から、〝地球軍〟の機動部隊がこの付近の海域に展開しているらしいことが推測されたのである。
それも、「連合」などと言う言葉が付いている辺りから、「連邦海軍」の大規模な艦隊が動いているらしいことが伺えた。

 

「まずいな……」

 

 イラムから提示された現時点での状況報告に、一同は渋面を作った。
この艦隊の存在は、クワック・サルヴァーを始めとした彼ら「マフティー」の情報網には全く引っかかっていないイレギュラーだった。
 艦隊そのものは海域制圧と言う形での後方支援が主目的かも知れないが(もちろん、それはそれでやっかいではある)、距離的に間に合わないとしても、ケッサリアを始めとするベースジャバーを使えば充分に、MSを増援に送り込むことはできそうな位置関係であり、連邦政府の中央閣僚会議の開催地はやはりオーストラリア・アデレートだと言う予測を裏付けるものだとも解釈出来るわけではあるが、その予測が正しかったのだとしても、防衛体制の規模の方もまた想定を大幅に上回る状況であるのならば作戦行動の判断自体も難しいことになる。
 そして眼前の状況を考えて見れば、そういう「先々のこと」もさることながら、それ以上にまずこの現在の時点で喫緊の対処としてやるべきことはやらねばならなかった。
想定外のこととは言え、直近の距離に敵が艦隊で展開しているとなれば、発見されないように退避コースを考えねばならない(もちろん、本来の目的地へと向かう航路に~と言うのを再び目指す必要もあるわけだが)。
うっかりと発見され、臨検など受ける羽目にでもなれば目も当てられない。
そして、ミノフスキー粒子の干渉が無くなっていて索敵機器も十二分に機能していると言う状況下では、敵艦隊もまた状況は同様であると考えるべきだった。

 

 以上の状況認識と判断から、とりあえずは島影の間に隠れるような避退コースを取りながら、夜明けを待ってMSを出しての偵察飛行を試みることに決定し、そうして「マフティー」戦闘部隊は慌ただしく動き始めた。

 
 

 払暁……〝この日二度目の〟朝陽が水平線の彼方から姿を現した。
整備班の努力によってそれまでに出撃態勢を整えることが出来た「マフティー」船隊の二隻の母艦の船上は喧噪に包まれていた。
 まずはシーラックから、モーリーとロッドのメッサーを載せた4ギャルセゾンが先陣を切って飛び立った。
続いてヴァリアントからシベットの2ギャルセゾンが、こちらはフェンサーのメッサー一機だけを載せて発艦する。
2ギャルセゾンはそのままシーラックの脇へと向かい、準備が整えられ終わっていた新しいガウマンのメッサーがそこへと飛び移って二機搭載の態勢を整えてから、高度を上げて飛び去って行く。
そして最後の一機はレイモンドの1ギャルセゾンで、エメラルダとゴルフのメッサーを載せて、ヴァリアントを後にする。
こちらは受信する通信を元にした測定で位置の概算を掴んだ連邦艦隊への、強行偵察的な役目を負っている戦闘小隊だった。
その為にこれには、より状況判断が的確に行えるようにと、参謀役のイラムも乗り込んでいた。
 偵察部隊を送り出した「マフティー」船隊は、島影の合間を縫うような退避航路に移って行く。
ヴァリアント、シーラックの直援として、両船ともそれぞれ一個戦闘小隊ずつのメッサーを残しており、そしてハサウェイとガンダムは、後詰めとして即時発進態勢で待機と言う構えになっていた。

 

 ノーマルスーツに着替えたハサウェイはガンダムのコクピットに入り、機付長的に整備をしてくれていたジュリアと共に発進前の機体の最終確認を行っていく。
そんな状態で状況判断を下さなければならないため、ガンダムの機体にもケーブルを繋いで、コクピットにもヴァリアントが受け取る偵察隊からの報告を入れるようにしていた。

 
 

 ギャルセゾンの機体を覆い隠せる程度のミノフスキー粒子を適宜散布しながら、それを隠れ蓑にして高度を取って雲間にまぎれ、望遠レンジで偵察を試みていた1ギャルセゾン戦闘小隊のパイロット達は、眼前に展開する「連合艦隊」のその規模に一様に驚いていた。
連邦海軍がこれほどの大艦隊を編成しているとは、全く予想もつかない現実だった。

 

「……どうも見覚えのないタイプの艦影が多いように思えるんだが…」

 

 そんな中でイラムは眼前の艦艇群のシルエットが、彼の頭の中にインプットされている艦艇識別表のものとは合致していないものがほとんどであることが気になった。
しかし、その微かな疑問はそれよりも遙かにインパクトのある現実の光景が眼前に展開されていたことにより、ひっかかることなしにすぐに脇へと流されてしまった。
なぜならば、その艦隊の中核であろう空母タイプの大型艦の飛行甲板上に並ぶMS群はどう見てもGM系のシルエットをもったMSたちで、しかも驚くべきことにそれらのMSは〝飛行機の翼を付けた格好の新型バックパック〟を装備して、自力での飛行を行っている!

 

 連邦海軍はそういう手法(しかも安価かも知れない)で、MSへの自力飛行能力の付与を試みだしたのか?
と、思うしかないような光景を見てしまっては驚くのが当然であったし、もしそれが有効な装備で今後普及していったりすると言うのであれば、MSの運用概念そのものを一変させる類である、これは大変な驚異だったからだ。
そんなショッキングな光景に、自分達だけでなく映像も併せてその情報を伝えている同志達をも騒然とさせながら、1ギャルセゾン戦闘小隊はより子細を掴もうと、なおも偵察を続行する。

 

 と、にわかに連邦艦隊の動きが慌ただしく鳴り始めた。
通信量が一気に増大し、空母の飛行甲板からは次々とMS―シルエットからして、グスタフ・カールタイプの新型と、アップグレードによってジムⅢと同等の性能にまで強化されてなお現役で頑張っている老兵、ジムカスタムorクゥエル改タイプの機体との混成と見えた―が空中へと飛び立っていく。

 

「っ!発見されたか?」

 

 一瞬、そう肝を冷やしたが、発艦したMS群は艦隊の前方へと出て行くし、艦隊の艦艇の方は鶴翼の陣形と言う感じに大きく左右に広がりだす。明らかに何かを迎撃する態勢を取っていた。
 やがて、水平線上にその〝何か〟―傍受している通信からすると「ザフト」と言う艦名らしい(?)―が姿を現した。
やはり、見たことも無いようなデザインをしてはいるが、そのシルエットは間違いなく宇宙/大気圏内両用艦艇のものだった。
この艦隊はあのフネを待ち伏せて補足しようとしていたのかと、眼前の状況から一応の納得をする「マフティー」の面々だったが、同時にそれに迎え撃たれようとする見慣れない両用艦は、一体どこの勢力のものか?と言う、当然の新たな疑問にも晒されていた。
と、まるでそんな疑問に答えるかのように―実際には連邦艦隊への迎撃のためだろうが、その両用艦の方も動いた。
艦の中央部、艦橋前方の艦の中央軸上に備えられたカタパルトから、合計4機のインターセプターが射出されてゆく。

 

「MSの迎撃に戦闘機を?」

 

 と、更なる疑問を抱いたその直後、彼らはまたまたの驚きに目を見張る。
射出された航空機たちは、最初に飛び出した小型戦闘機を2番目に発進した機体が追い抜き、3番目に発進した機体との間に挟み込む格好で速度と進路を合わせた。
そして真ん中の戦闘機が変形する―見た目の通り、コア・ファイターだった!―と、前後の機体からそれぞれに分離したパーツとそのままドッキングして、その姿を1機のMSへと変える。
 鮮やかなトリコロールに輝くそのシルエットは、あまりにも知られ過ぎた〝伝説のMS〟―ガンダムにほとんどそっくりだった。更にそこへ、最後に射出された機体からこれまた分離した、大ぶりの翼とスラスターを備えたバックパックが〝ガンダム〟の背面に装着され、翼付きバックパックを装備するGM系の機体と同様に自力で飛行しながら、その〝ガンダム〟は接近する連邦軍MS隊へと向かって行く。
 その光景に、同士討ち?といぶかしむ思いを抱くイラム達だったが、その〝ガンダム〟に続けて戦艦《ザフト》が、やはり〝見慣れたシルエット〟のMSを出すのを見て、そうではないことに気付く。
《ザフト》の艦上にと陣取った、新たに出てきた2機のMSも―これまた見紛えようの無い、あまりにも明確なシルエットを持っていた。

 

「ギラ・ドーガ?…………いや、と言うよりは…」

 

 むしろ、ザク(Ⅱ)と言うべきだった。それも、

 

「まるで〝白狼〟に、〝赤い彗星〟じゃないか…!」

 

 そんな第一印象を抱かせるような目立つカラーリングの。
もっとも、〝白いの〟と〝赤いの〟はそれぞれが形状の異なったバックパックを装備しており、装備換装能力を備えていることを窺わせると言う意味では、さしずめ〝ザクⅣ〟と言うべきところだろうかとも見えたのだが。
どうみても戦力差は絶望的だが、それでもその戦艦《ザフト》の戦隊は果敢に連邦艦隊へと挑んで行く。

 
 

「ねえ、どうする?このまま傍観でいいの?」

 

 思わずそう言うエメラルダ。
〝ガンダム〟の存在はともかくとして、「〝ザク〟系の機体を運用している両用艦」となれば、ジオン系の武装勢力のものだと考えるべきであろうが、そうなるとネオ・ジオンの流れを汲む組織である自分達「マフティー」とも〝無縁〟と言う訳ではないとも考えられる。
少なくとも、敵の敵は味方の論理は充分に成り立ちそうだとは思えた。
そして、そんな戦艦《ザフト》に襲いかかる連邦軍の兵士達が交わす通信を傍受していても、

 

「行くぞ!宇宙のバケモノどもを皆殺しにしろ!」などと言った、スペースノイドへの偏見と憎悪をむき出しにした会話も聞こえ、尚更そんな思いを強くもさせていた。

 

「確かにそうかも知れないがな…」

 

 しかしエメラルダの言葉に、ウェッジは懸念を示す。
確かに、広義の意味での〝仲間〟をむざむざ見殺しにするのも寝覚めが悪いことではあるが、だからと言ってやはり〝正体も不明な〟組織を救う為に自分達からむざむざリスクを負うと言うような行動は、大事な作戦を控えている中でどうか?
確かに、それもそうではあるのだ。だが、

 

「……俺は介入すべきだと思う」

 

 ガンダムの中で状況をモニターしていたハサウェイはそう言った。

 

「ハサ?」

 

 後を引き取るように、イラムが続ける。

 

「ここで連邦艦隊を奇襲で混乱させられれば、結果的にはやつらもしばらくは俺達の方へ手が回るどころではなくなるのを狙えるってわけだな?」

 

「ああ、何も〝彼らの為〟ってわけじゃない。まずは〝自分達の為〟さ。その為の行動の〝結果〟と言うことなら、よかろう?」

 

 それでほとんどの者は納得をした。

 

「…確かに、母艦持ちの戦力ならば味方に引き込めるかもしれないか……」

 

 そう言う言い方で、あえて懸念を示してみせていたウェッジも首肯する。

 

「わかった、すぐにそっちへ向かうよ!」

 

 すぐに4ギャルセゾン機長のカウサッリアのきっぷのいい声で、1ギャルセゾンに合流するとの返事が入る。2ギャルセゾンも同様だ。

 

「よし、ガンダムも発進させるぞ!」

 

 ヴァリアント艦上でウェッジ艦長がそう叫び、スタッフは手際よく準備を終えて行く。

 

「なんだか〝妙な状況になってる〟みたいだけどさ、しっかりやってきなっ!」

 

 ジュリアの声に見送られて、ハサウェイの頭上で三重の装甲が閉じてゆき、視界が全天周モニターへと切り替わる。

 

「Ξガンダム、発進する!」

 

 ハサウェイの言葉と共に、機体の拘束が外され、ガンダムは傾けられたレール上を滑り落ちて海中へと一気に飛び込んだ。
そのままゆっくりと沈降する機体の各部の機密をチェックしながら、ハサウェイはメイン・エンジンの出力を上げてゆく。
想定外の状況の中、整備班の徹夜の頑張りのおかげで機体の各部は全てが順調だった。
水面を割ってガンダムの特徴的なブレードアンテナが露頂し、水しぶきをたてながらその機体の全身が上昇してくる。
やがて完全に海面上の空へと舞い上がり、滝のように流れ落ちる海水の飛沫で機体に虹色の輝きをまとわせて、Ξガンダムは彼方の戦場の空へと飛び去って行った。