機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_第02話

Last-modified: 2008-06-18 (水) 01:04:02

 誤解―誤認、齟齬、勘違いに思い込み……。
人が決して捨て去ることの出来ないそんな要素が時に、人を思いがけない方向へと動かし、歴史の流れを紡ぎ上げて来た。
そしてそれはここ、〝異世界からの客人〟を迎え入れたC.E.世界においても同様に繰り返されることだった。
 〝時空の門〟―そうとでも呼ぶしかない事象によって偶然にも導かれ出た〝この世界〟へと、「マフティー」達が割合すんなりと〝紛れ込む〟ことが出来た経緯もまた、そんな要素の故だった。
その時の状況の流れを思い返してみれば、やはり「悪戯な〝運命〟の神の采配」とでも言うべきものの存在を、実感として抱かざるを得ないと、後々になっても当事者達は異口同音に語っている……。

 
 

C.E.73年11月 ソロモン諸島 オーブ連合首長国近海上(承前)

 

 前方に、戦場の様子を滞空して張り付きながら逐一モニターして報告を続けてくれていた、エメラルダとゴルフのメッサーを載せた1ギャルセゾンの機影が迫って来た。
音速を超えて飛ぶΞガンダムは、そのまま彼らの脇をフライパスして真っ先に戦場へと突入して行く。
眼下には、〝連邦海軍の〟大艦隊が展開していた。
大した数だとの情報を受けてはいても、やはり自身の目で確認するその数の威圧感には圧倒的なものを覚えはする。
まさか、あれを全滅させようなどと思える筈はなく、

 

「連邦軍が体制を立て直す間を与えずに、アンノウン艦の離脱援護を最優先に狙う!行くぞっ!」

 

 後続の僚機に向けてそう指示し、ハサウェイはΞガンダムを更に加速させる。

 

(!)

 

 モニター正面に、面白いことにアンノウン艦側のMSだと言うガンダム・タイプが
カニを思わせる形状の〝連邦軍のMA〟(そんなものを開発していたとは知らなかったが……)のクローに捕捉されているのが見えた。
ハサウェイは素早くビームライフルを照準し、発射する。
放たれた初速の高いメガ粒子ビームに撃ち抜かれたMAの前部のアームが2本とも、爆発して吹き飛んだ。
振り回された勢いのまま、拘束が解けて落ちてゆくガンダム・タイプは、空中でトリコロールから鉄灰色へとその機体色を変じて行く。

 

「!?何だ?」

 

 初めて見る現象に瞬間の疑問は覚えつつも、ハサウェイはガンダム・タイプが何とか体勢を立て直すのを横目に確認しながら敵MAへと一気に迫る。
 両腕をもぎ取られて体勢を崩したままのザムザザーは回避どころではなかった。
Ξガンダムは機体を左斜めに傾け、背面のラッチにマウントされたままのビームサーベル(の逆刃側)の左側のみを発振させ、すれ違いざまにMAを側面から両断する。
リフレクターを展開する暇さえ与えなかった。

 
 

「ば、馬鹿なっ!?」
「あ、あのバケモノを一瞬でっ!?」

 

 ザムザザーがたったの二撃で墜ちる光景に、展開する3つの軍の将兵が等しく驚愕し、ついで大多数の悪夢の呻きと、少数の歓喜の叫びとが爆発した。
 まずは一番の脅威を片付けて、ハサウェイは敵艦体上空直援のMS隊へとΞガンダムを向けながら、アンノウン艦―ミネルバへと通信を送る。

 

『〝ザク〟を載せた艦!我々は「反地球連邦組織「マフティー」」だ。これより貴艦を援護する!』

 

その通信を受けたミネルバのCICでは、通信オペレーターのメイリンが叫んでいた。

 

「艦長!アンノウンMSより入電!『反地球〝連合〟組織「マフティー」』を名乗っています。本艦を援護すると言ってきました!」

 

 実はこの時、ハサウェイからの通信はミノフスキー粒子の影響でノイズが入り、メイリンには〝連邦〟の部分が不明瞭に聞こえていたのだ。
だが彼女は、文脈の前後の〝反地球〟等の単語から、「自身の常識」に照らし合わせて〝意味の通ずる言葉になるように〟補完して、報告してしまっていた。
第三者の視点で見れば〝誤解〟でしかないそれが、戦闘中のこの状況下ではむしろ相互の齟齬を顕在化させずに、すんなりと共同戦線を張らせる方向への導きとなる働きをしたのだった…。

 

「味方なのかっ!?た、助かったっ!」
「…………」

 

 心底安堵したという感情を包み隠すこともせずに(またできもせずに)喜色を浮かべるアーサーを叱責することも忘れて、タリアは沈黙していた。

 

(「マフティー」?そんな組織名は聞いたこともないけれど……)

 

 だが、実際インパルスに似たフォルムのそのアンノウンMSは連合のMS隊を攻撃し次々と撃墜していっているし、更にはグゥルに似た大型のMS支援空中機動飛翔体に載った量産タイプらしいMS隊も飛来し、ミネルバに群がる連合のMS隊を攻撃し始めた。

 

(とりあえず、現時点に限っては敵ではないと見るべきか…)

 

 そう判断したタリアは指示を出す。

 

「CIC、及びMS隊各機、戦闘は続行中よ!アンノウン部隊に対してはこちらからは手を出さず、本艦へも敵対行動が見られた場合には反撃もできる様、警戒は怠らないで!」
「りょ、了解!」

 

 あわてて我に返るアーサー以下、CIC要員達。
 そう艦長として叱責気味にの指示は出しながらも、同時にタリア自身も部下達の様子は無理もないと思ってはいた。
実際、「マフティー」と名乗るアンノウン部隊の戦いぶりは凄まじいものだった。
彼女自身、職責への意識が無かったならば、部下達と同様にただ唖然と見てしまいそうなくらいに。

 
 

 何もかも、〝次元〟が違っていた。
速さが、動きが、火力が……。
 隊長機とおぼしき〝インパルスもどき〟のMSは圧倒的に速く、それでいて信じられないほどに自在な空戦機動を行っていた。
自力での飛行は出来ないらしい量産タイプのMSも、載っている空中機動飛翔体から跳び上がっての空中射撃や、ビームサーベルでの格闘を仕掛け、再び飛翔体の上面に舞い降りると言うサーカスまがいの戦闘機動を軽々とこなしてみせる。
しかもその動きには一切の停滞がない。移動しながら照準し、攻撃。それでいて面白いように攻撃を当て、逆に連合MSからの攻撃はかすりもさせない。
見惚れるような戦術運動に、そして恐るべきは使用する武器の威力だ。
 ビームライフルにビームサーベル、他には頭部機関砲に、量産機タイプはMS大のシュツルム・ファウストと言った、ごくごくオーソドックスと言える類の武器を使っているだけなのに。
ビームライフルの火線は恐ろしく射程が長く、連合のMSは自身の有効射程に「マフティー」のMSを捉えられる遙か手前の距離から、なす術もなくアウトレンジ攻撃を受けていた。
それも、アンチ・ビーム・コーティングが施されている筈のシールドが、まるでティッシュペーパーも同然の様に、いとも易々と貫かれて行く。
それどころか、一射のビームが1機のウィンダムを貫通してなお止まらず、更にその先にいた別のダガーLまで貫くと言う桁違いの威力を見せつけた。
更に〝インパルスもどき〟に至っては、同様にして放ったビーム1発で同一軸線上にいた3機のMSを同時に撃ち落とすと言う、信じがたいことまでやって見せたではないか!
位相砲やプラズマ収束砲クラスの破壊力を見せ付けるそれらが、しかしビームライフルの速度で連射されてくるのだ。
たちまち空中には凄まじい速度で連合MSの爆発の花が咲き乱れて行った。
 更に、「マフティー」のMS隊が連合のMS隊への距離を詰め、接近戦の併用へと戦法を移行させた後も圧倒ぶりは変わらなかった。
ビームサーベルの斬撃もやはり、それを受け止めようとするアンチビームシールドごと、ダガーLやウィンダムを真っ二つに断ち割って行く。ほとんどレーザー対艦刀クラスの破壊力だった。

 

「す、凄い…!何なの?あのMSたちは……」

 

 浮き足立つ連合MS隊へのオルトロスでの攻撃を再開しながら、ルナマリアが思わず口にした呟きは、そのまま状況を目の当たりにしている全クルーも同様の思いだった。
あんな戦いぶりは、インパルスのような最新鋭機をもってしても不可能だろう。現実に目の前で見ていても、とても同じ〝MS〟を駆使して出来ることだとは信じられなかった。

 
 

一方、その〝当事者〟たる「マフティー」のパイロット達の方はと言えば、あまりにも脆く、また歯ごたえの無さ過ぎる〝敵〟に対しての違和感を覚えてはいた。

 

「なんなのさ、コイツらはっ!?」

 

 メッサー6号機のモーリーが、拍子抜けと言う感じの声を上げる。

 

「機動も鈍けりゃ、照準しようといちいち固まる。おまけに巻き込んでくれって言わんばかりの〝密集隊形〟ってか!〝連邦海軍〟はこんなひよっこパイロット共を実戦に出すのかよ?」

 

 後を引き取ったガウマンの声にも、ない交ぜになった驚きと呆れが滲む。

 

「畜生!こんなバケモノどもがいるなんざ聞いてないぞっ!」
「怯むな!敵は少数だぞ、同時に数機でかかれっ!」

 

 だが、通信回路から時折聞こえる敵パイロットの叫びそのものは、状況に押され気味だとは言え、パニクったルーキーのそれとも思えない。
首を傾げさせるものを感じながらも、彼らが攻撃の手を休めることはなかったが。

 

(脆すぎる……)

 

 また1機、眼前のウィンダム―ゴーグル型のメインカメラとV字アンテナの組み合わせの頭部形状から、彼らには〝グスタフ・カール〟系の新型高級量産型MSと見えている―を頭部バルカンで蜂の巣にして撃墜し、ハサウェイは〝違和感〟にも似た、この戦いの感触をそう感じる。
この戦闘に介入するまでは、自分達が加勢したとしても物量的にはあのアンノウン艦が離脱出来る突破口を開けるくらいの寄与が関の山だろうと読んでいた。
だが、戦況を偵察し続けていたエメラルダ達からの報告でも言われていたように、この〝連邦軍〟のMSたちは余りにも手応えが無さ過ぎた。
 最初こそ、全ての敵MS―グスタフ・カールタイプの新型と、ジム・カスタム/クゥエル改タイプの旧式機とが混在―が
〝飛行機の羽付きの新型バックパック〟を装着して、単独飛行能力を獲得している~との報告どおりなのを確認して、厳しい戦いになるのを覚悟していたのだが、
実際に交えてみれば、ほとんど「張子の虎」のような相手だった。
 幾ら通常の連邦軍―特に、予算には常に悩まされ、MSですら旧式機中心にしか運用できない海軍のMSとパイロット達なのだとしても、〝全てが〟余りにも稚拙すぎた。
OSの精度と洗練度が比較にもならない〝宇宙世紀〟のMSを動かしている彼らの感覚で言えば、この世界のMSの動きはほとんど初心者向けシミュレーター上での敵機の動きも同然のレベルであった。
それに加えて核融合炉のパワーゲイン、ミノフスキー粒子によるジャミング効果に、ミノフスキー物理学方式のビーム兵器の威力と言ったあらゆる要素において、この世界の技術レベルに対してのオーバースペックの塊であるMSを駆る彼らから見れば当然の結果ではあるのだが、未だ彼らは〝ここ〟が宇宙世紀とは異なった、また別の歴史の途を歩んだ世界の地球であると言うことを知らず、故に躊躇無く眼前の〝連邦軍〟への攻撃を続けていた……。

 
 

 そんな「マフティー」の〝鮮烈過ぎる〟戦いぶりには流石のシンも圧倒され、ルナマリア達と同様に唖然と見上げてしまっていたのだが、タリアの叱責にハッと我に返って、シンは補給を受けるべくフェイズシフトダウンしたインパルスをミネルバへと向ける。

 

「ミネルバ、デュートリオンビームを!それから、ソードシルエットに換装するっ!」
「シン?」

 

 意図を図りかねるメイリンに、シンは後背で繰り広げられている圧倒的な戦況を一瞥しながら言葉を継ぐ。

 

「このまま何もせずに助けられっぱなしってわけにはいかないだろッ!丸裸の母艦を仕留めてやる!」

 

 確かに、シンの言うとおり連合のMS隊は「マフティー」相手に総崩れの状態で、敵艦隊は直援機もない状況に陥っていた。
それをすぐに見て取って、タリアもシンの具申を承認する。

 

「インパルス捕捉!デュートリオンビーム、発射!」

 

 空中のインパルスめがけて、ミネルバの艦橋下面に装備された射出口から一条のビームが照射された。

 

「味方機を撃った!?」
「いや、違う!」

 

 戦闘機動は続けながら、今度は「マフティー」の面々が驚く番だった。
母艦からのデュートリオンビームの照射を受け、エネルギーを回復させてゆくインパルスのVPS装甲が再び鮮やかなトリコロールに色付いた。

 

「ソードシルエット、射出!」

 

 更にそこへ母艦から発進した〝飛行物体〟―シルエットフライヤーが近付き、バックパックを空中換装!
その機体色も青かった部分が赤に変わり、背中に巨大な二振りの剣を背負ったMSへとその〝姿〟を変えた。

 

「なんだよ、あれは?」

 

 面白いことを考える奴がいるもんだなとでも言いたげに、メッサー7号機のロッドが声を上げる。
あのガンダム・タイプが連邦軍の新型機なら、アンノウン艦の連中はそれを奪取する作戦を行ったと言うことなのか?
「マフティー」のパイロット達は、彼らの世界の歴史上で敵対勢力が開発した新型ガンダムを奪取した、デラーズ・フリートやエゥーゴの故事を頭に描いて、状況をそういうものかと想像していた。

 

「うおおおぉっっ!!」

 

 シンは雄叫びを上げながらインパルスの両腕に同時にエクスカリバー対艦刀を抜き放ち、その柄同士を結合させながら連合軍イージス艦の1隻の甲板に降り立って、その巨大な艦橋を一刀に斬り飛ばした。
更にそこから八艘跳びの要領で次々と他の艦艇の上に飛び移り、対艦刀を縦横に振るって斬り割き、撃沈して行く。
 上空からはMS隊を掃討した「マフティー」も対艦攻撃に移行し、〝強力な〟ビームライフルの火線を浴びた艦艇はただの一撃で洋上の活火山と化してゆく。

 

「負けられるかぁっ!」

 

 それを見てシンも更に猛り立ち、攻撃は勢いを増す。

 

「今よ、敵艦隊を突破する!機関全速!」

 

 そこにミネルバも突進し、艦砲とザクの火線までもが連合艦艇に襲い掛かる。
矢面に立たされた連合の艦隊こそ災難だった…。

 
 

「インパルス!シン、帰艦して下さい!」

 

 もはや遮るものは無く、離脱を成功させたミネルバがインパルスに帰艦の指示を出す頃には、洋上に威容を誇っていた筈の地球連合の大艦隊の姿は、今や必死に逃走するわずか数隻の小艦艇を残して消滅していた…。
生存者の救助は、いまや〝同盟国〟となったオーブ海軍がするだろう。
周囲を護るように「マフティー」のMS隊に囲まれて、発揮可能な全速力で水平線の彼方へと遠ざかって行くミネルバの艦影。
その一部始終を見届ける形となった、トダカ一佐以下オーブ海軍艦隊の将兵達、それに国防軍本部のユウナ以下幕僚スタッフ達もカガリも、揃って顔面蒼白だった……。

 

 どう考えても、連合軍の勝利は動かない筈だった。

 

それが、粘り強いミネルバの奮戦と、そして救援に駆け付けてきた化け物の様な部隊の参戦により、文字通りの〝壊滅〟を喫したのは連合軍の方だった。
連合軍が、まさに鎧袖一触に粉砕されたこの時の海戦の状況を目の当たりにしたことで、オーブ内では

 

「連合との同盟締結は早計だったのではないか?」
「あれほどの〝力〟を持っている〝プラント〟側と、明確に敵対する路線を選択してしまって果たして正しかったのだろうか?」

 

 と言った暗黙の空気がにわかに、反セイラン派を中心に勢いを増し始めてゆくことになる。
後に傍受した通信等の解析から、当初はザフトと思われていたあの強力な謎のMS隊は、「マフティー」を名乗る〝ザフトの同盟軍〟らしいと言うことが〝判明〟するが、それは逆に「プラントは決して孤立していない」と言う解釈にもつながり、更に反セイラン派の主張にも裏付けを与えていた。
そして、それがまたセイラン派の権力奪取への露骨な動きをより加速させることにもなり、カガリとユウナの婚姻(これはフリーダムによって妨害されるのだが)に、地球連合―ロゴスへの一層の接近と言った、強引な動きを誘発することにもなって行く。

 

 「マフティー」がこの世界に現れたことの影響は、オーブの先々の行く末にも徐々に現れて行くことになるのであった……。