機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_第07話中編

Last-modified: 2008-10-15 (水) 23:00:34

(!?)
ネオは唐突にアーモリーワン以来となる〝不思議な感覚〟を覚え、それを感じた敵艦ミネルバの方向へと注意を向けた。
遅れてセンサーが、新たにそちらから接近しつつある2つの機影を捉える。

 

「ちっ、増援か!」
ネオは舌打ちしながら、
(しかし、この感覚は……)と、内心でひとりごちる。
何故だかその「不思議な感覚」には〝それ以前から覚えがある様な〟気がした。

 

だが、それもほんのごく一刹那の間だけの事。
少しずつその数を減らしつつあるとは言え、まだ充分に機数を残して車掛かりに敵機インパルスへとかからせていたウィンダム隊の中からネオは3機を引き抜くと、とりあえずはそちらへと差し向ける。

 

ネオの与えた指示に忠実に従って、ランダムな回避機動を行いながらザフト側の増援へと向かって行くウィンダム隊だったが、
接近するその敵機からは、やはり信じがたい程の超長距離射撃のビームが浴びせられ、3機は次々と接近の中途で空しく爆発の炎を空中に散華させて行った。

 

「ちっ!やはり出て来たかっ!」
ネオはついにあのマフティーとやらが出て来た事に気付いて舌打ちする。
充分に研究し、対策を練っても来たつもりではあったが、やはり直に眼前に迎えてみての脅威度にはとうてい届いてはいなかった様だ。

 

『各機、いよいよ〝化け物ども〟のお出ましだぞ!気合いを入れろよ!』
残った僚機へとそう通信を送ると、ネオは対マフティーを想定したフォーメションへの移行を指示して行く。
対インパルスの包囲と車掛かりの交互攻撃の態勢は維持したまま、散開の度合いを大きくし、まとめて同時に数機が落とされる様な状況は阻止すると言う構えだ。

 

だが、そこにネオの戦闘プランでも想定はしていなかった状況の変化が飛び込んで来たのだった。
即ち、どちらもマフティー達の脅威過ぎる防衛戦に侵攻を阻まれ、押し戻された友軍の第二、第三編隊が彼らの方にと雪崩をうって潰走して来たのだ。

 

迫り来る2機のギャルセゾンの前で、機数だけは増強された格好の地球連合軍編隊だったが、戦いの趨勢は明らかにザフト側に傾きだそうとしていた――この瞬間までは。

 

しかし、再びその戦況を盛り返したのも、ネオが周到に準備した作戦の成果だった。
ネオが用意した最後の第四矢――即ちスティングのアビスを主軸にした水中戦用MS隊が、彼らが戦う眼下の海中で戦闘に入っていたのだ。

 
 

「艦長!敵MS1、超高速で接近中! これは……アビスです!」
潜行したニーラゴンゴの水測員席で、ソナー手が叫ぶ。
「何だと!?」
その報告に驚きの声を上げたニーラゴンゴの艦長は、大慌てで自艦の水中戦用MS隊に発艦を命令する。

 
 

ニーラゴンゴの吊り下げたドライチューブから、まずは3機のグーンが海中に飛び出して行く。
後詰めとして更に5機の水中戦用MSが、それぞれ発進態勢に移っていた。

 

「おっ、やっとお出ましか?」
カブトガニを連想させる形状のMA形態を取って海中を猛スピードで侵攻するアビスのコクピットの中で、アウルは敵潜水母艦が慌てて迎撃のMSを差し向けて来るのを見て、そう嬉しそうに声を上げる。

 

「さーて、こいつらは……って、何だよ!?グーンじゃんか!」
しかし、その向かって来る敵機の機種に気が付くと、その呟きはすぐに面白くなさそうな舌打ちに変わった。

 

(ちぇっ!なめられたもんだよなっ……せめて、ゾノくらいは出してくんないとさあ?)
「さっさと、終わっちゃうよっ?」
そう叫びながら、アウルのアビスは更に速度を上げて、向かって来るグーンに向けて突っ込んで行く。

 

予想を上回るその動きに3機のグーンは大慌てで無数の魚雷を放って来るが、その速度はとうていアビスを捉えられる様なものでは無かった。

 

アビスは圧倒的な速度と機動性で易々と全ての魚雷を振り切ると、一気にグーン隊との距離を詰め、回避できない距離まで近付いて放った反撃の魚雷一発でまず1機のグーンを血祭りに上げると、
続けて襲いかかったもう1機には、その眼前でMA形態を解くや、格闘能力は持たないグーンをランスの実体刃で真っ二つに斬り下ろす。

 

それを見て、とてもかなわないと察した最後の1機は急いで後退をかけ始めたが、幾らも行かない内にいともたやすくアビスに追い付かれ、やはりランスの餌食となって海の藻屑と化していった。

 

「い、いかんっ!全機発進だ、急げっ!」
あっと言う間に先鋒のグーン3機が退けられるのを目にして、危険を感じたニーラゴンゴの艦長が慌てて命令を下し、ドライチューブから残る3機のグーンと2機のゾノとが発進して行く。

 

グーンとは違い、水中での格闘戦も可能なゾノがいれば……と言う期待はしかし、敵の伏兵によってあっさりと打ち砕かれる。
アビスにと向かって行く途中のゾノの眼前に、いきなり別の敵機が立ちふさがって来た!

 

アビスに先行してJ.P.ジョーンズを発進し、海底に着底待機していた2機のディープフォビドゥンがそれぞれ、ゾノを足止めすべく浮き上がって来たのだった。
否応なしにそのまま一対一の対戦を余儀なくされる2機のゾノ。

 

その結果、機動性で劣る上に格闘戦も出来ないグーンは、自分達3機だけでアビスを足止めすると言う絶望的な状況を余儀なくされ、
必死に挑んで行きはするものの、やはり敵せずに次々に撃破されて行く――MSのカバーをはぎ取られ、ニーラゴンゴは丸裸にされていた。

 

ニーラゴンゴからの悲鳴のような報告と支援要請に、タリアは厳しい顔になりながらもアスランに状況を伝え、海中戦への支援を要請する。
とは言え、空戦中のザフトMS隊各機には水中戦用の装備が用意されていなかったのだが、
すかさずそれに了解を返して来たのは、ガウマン達マフティーの面々だった。

 

使える武装は限定されはするものの、緊急即応は可能(と言うよりも、やるしかないだろう!)と言う事で、ギャルセゾンに乗るメッサー隊の内の5機が、海面スレスレまで高度を下げたギャセゾン上から次々に海中へと飛び込んで行く。

 

水の抵抗があるので〝重く〟なりこそはするものの、水中での機動は宇宙空間での操縦感覚でどうにかならないでもないと言うことだ――推進剤の続く限りは。

 

アビスガンダムとニーラゴンゴの間に立ちはだかる様に海中に飛び込んだメッサー隊は、3機がアビスへの牽制に回り、他の2機はそれぞれゾノを足止めしているディープフォビドゥンの撃破に向かう。

 
 

「おっと、嬉しい乱入してくれるねぇ!」
新たな敵機の出現に、アウルは喜色を露わにした。
ネオに「作戦だからな」と、言い含められていたのを思い出して我慢をする事にはしたものの、やはりせっかくの獲物を(幾ら小物とは言え)あえて譲ると言うのは面白くない……。

 

そう思っていた所に現れた新しい敵機群――しかも、バンクに該当データ無しと出た――と、言う事は……あのマフティーとか言う奴らのMSか!?
そう察したアウルは、再び獰猛な笑みを浮かべてアビスに海中を駆けさせる。

 

再びMA形態にと変じていたアビスは、一直線にガウマンのメッサーへと突撃すると、その眼前でMS形態にと戻り、
「そぉらっ!」
両手で握ったランスで回し斬りの斬撃を送り込む。

 

「ふんっ!」
ガウマンのメッサーは左腕のシールドを上げてその斬撃を受け止め、腰アーマーの後部にマウントされたメインのビームサーベルを右手に構える。
メッサーのメイン・ビームサーベルは、原型機ギラ・ドーガの装備を継承してアックスやピック状のビーム刃の形成も可能なビームソードアックスだが、
改良点として、ヤクト・ドーガのビームサーベルに採用された、ナックルガード兼用のヒートナイフも同軸に装備しており、実体刃を持つそれが、水中戦においての主な武器になっていた。

 

「おおっと!?」
反撃で突き込まれるナイフの、思ったよりもかなり素早い鋭さにアウルは軽く驚きの声を上げ、そのまま一度アビスをすれ違わせて間合いを開いた。

 

「へぇー、少しは楽しませてくれそうじゃん?」
いかにも楽しげに言うアウル。
グーンなどは問題外として、眼前の機体はゾノ以上にいい動きをする様だった。

 

「じゃあ、こっちはどうだっ!」
アウルはそう言うや、アビスにMA形態を取らせると逆方向に猛スピードで駆けさせ始める。
格闘性は悪くなさそうだとして、高機動戦に対してはどうか?と言う腹だ。

 

「そぉらっ、喰らえよ!」
メッサーにも付いていけないスピードで海中を飛ばし、充分に距離を開くや立て続けに3機のメッサーに向けて、それぞれ高速魚雷を発射する。

 

ガウマン達は揃って前方に向けて、投網を投げるかの様にサンド・バレルを放って対魚雷のアクティブ・バリアと為すと、シールドを前方に突き出す格好で後退をかける。

 

空中で使うのに比べれば遙かに距離も飛ばず、散弾の散布も鈍いものにはなるが、放たれたサンド・バレルの弾頭のセンサーは接近する魚雷を感知して炸裂、弾体に収めた金属粒を前方に吐き出して見事に魚雷を爆発させて行った。

 

その連続する爆発が起きる頃には、残る2機のメッサーもそれぞれターゲットに定めたディープフォビドゥンへと接敵を果たしていた。

 

水中での格闘戦能力に優れるディープフォビドゥンはゾノを圧倒していたのだが、なまじ大物狙いのアビスの為の「押さえ」である事を意識していたが故に、自機の保全も考えてゾノに対して致命的なダメージを与えるには至らず、
その結果として格闘中に新たにメッサーの挑戦を受ける格好になってしまっていた。

 

「ちっ!」
挟撃を受ける格好になって、瞬間どちらの敵を優先すべきかを逡巡するディープフォビドゥンのパイロット達。
その僅かな時間が生と死の明暗を分ける事になったのだった。

 

結局、2機のディープフォビドゥンの反応は対称的になった。
1機は眼前のゾノを無視して迫るメッサーに向き直り、もう1機の方は逆に迫るメッサーを無視して先にゾノを仕留めにかかった。

 

正反対の対応を取ってはいたものの、どちらのパイロットも挟撃を受ける形には気付きつつも、やはり自機がTP装甲を持つ機体である事への過信があったのであろう。
両機とも、接敵を果たしたメッサーがナイフを突き出して来るのを、避けようともしなかった。

 

だが、その判断の間違いを彼らは自分の生命でもって支払わされる事になった。
水中で効率が著しく落ちる事は承知の上で突き出されたメッサーのヒートナイフの切っ先は、ディープフォビドゥンの装甲に接触した部分に高熱の効果で僅かながらめり込んで行く。

 

「なっ!?」
フェイズシフト系の装甲を、実体刃で!?
驚愕する暇もあらばこそ、次の瞬間、突き立てられたナイフの直上から伸びたビームサーベルの光刃にヴァイタルパートまで突き抜かれ、
2機のディープフォビドゥンは共にその動きを止め、直前にそうなったゾノの後を追う様に、力なく海底へと沈降して行きながら、爆発した。

 

確かに、水中でのビームサーベルの出力は著しく落ちる。
とは言え、ビーム刃の射出口を敵機の機体に押し付ける様にして起動させれば、その機体を貫通するくらいの長さのビーム刃は充分に形成できる。
ヒートナイフの切っ先で敵機の機体表面を捉え、それを軸にビームサーベルを起動すれば外す事もないと言う判断だった。

 

もっとも、まがりなりにも水中でも起動が出来るのもU.C.式のビームサーベルだからであって、
そもそもC.E.世界のビーム兵器は水中では使用不能であると言う事を考えれば、ディープフォビドゥンのパイロット達の判断は常識的なものではあった。
その意味でも、彼らにとっては「運が無かった」と言うしかなかった。

 

「何だって!?」
そうしてディープフォビドゥンの瞬時の撃破を知ったアウルも、流石に驚きの声を上げる。
どんな手を使ったのかは知らないが、フェイズシフト系の装甲を持っているディープフォビドゥンをいとも簡単に撃破したとなると、
VPS装甲で守られたこのアビスでも迂闊には近付くのは(その手段が判らないだけに)危ないかもな?

 

そう判断したアウルは、不用意な接近戦を避けた機動戦で相手の隙を伺う構えに入るが、
逆にメッサー隊の方は援護が間に合った、ただ1機生き延びたゾノとも接触回線を開いて、寄らば斬らん!の構えで防衛陣を展開しようとし、
海中での戦況も互いに牽制をし合う、一時的にながら静かな対峙の局面を迎えていた。

 
 

そんな海中戦が展開されていた間にも、もちろん空中での激しい戦闘も継続されていた。

 

海中戦の窮地と見てメッサーの半数が海面下へと没し去ってしまった事で、空中戦での戦力バランスは地球連合軍側が再び盛り返す様な形になっていた。

 

このまま押し込めるか、それとも押し返されるか。
ここが最後の分かれ目だなと、そう認識しているネオだった。

 

やはり、見ると聞くとでは大違い。マフティーなる連中のその脅威的な実力の程は、彼の想像をすら遙かに凌ぐものだった
しかも、単独でもそうなのに、共同戦線を張っている敵艦ミネルバのザフトMS隊までもが、しばらく見ない内に数段その技量を向上させて来ている――ボズゴロフ級艦載の空戦用MS隊と見比べれば、その差は明らかだった。
それも恐らくはマフティーの引き出した〝効果〟だろう。

 

今、こうしてまがりなりにも戦況では互せているのは、数で勝る上に戦場も戦法も選べる攻撃側――それも奇襲さえ仕掛けている――のアドバンテージを最大限に生かせているからで、
逆に言えば、それでも〝互角〟と言うのは普通ならばあり得ないことなのだ。

 

ネオは自身の戦闘機動も続けながら素早く戦場全体の情勢を確認する。
彼自身が直率して来たカオスと基地部隊の編隊は、その只中に2機のザフトセカンドステージシリーズ機を呑み込んだ格好で交戦中。
向かって6時方向には、後退を余儀なくされて来た二群に分けていた空母艦載MS隊の残存機隊どうしが、追い込まれて合流の格好になっている集団――それでもその総機数は彼の直率部隊よりも多い。
そして、5時と7時の二方向から艦載機部隊を追い上げて来た敵機群を挟んで、目指す敵母艦ミネルバがいると言う様な展開になっていた。

 

ただ、海中の救援へと5機ものメッサーが消えた事で、艦載MS隊を追い上げるザフト・マフティー同盟軍側のその圧力はこの時弱まっていた。
特に、6時方向からの編隊が〝消えて〟しまった――ギャルセゾンがニーラゴンゴ救援の為に反転し、その機上のメッサーを海中へと下ろしてしまった為だ――と言う事情もある。

 

しかも、本来ならばその6時方向から追い上げる部隊は、敵第一編隊に包囲され孤立しているシンとアスランの救援に向かう予定だったのが、必然的に不可能になり、
他方面からの追い上げを続行する各機でその分の代理を担って突入し、アスラン達との合流を図る事になると言う状況もあって、
機数では圧倒的に劣る側ならではの悲しさ、この時はさしもの彼らの側にも陣形に乱れが生じてしまってもいた。

 

そしてもちろんの事、それを見過ごす様なネオではなかった。
ネオはようやく態勢を立て直しつつある艦載機部隊に、散開しながらの6時方向への一斉突入を指示する。
敵の動きで生じた隙を示し、そうやって乱戦に持ち込んで敵の防衛戦を突破すれば、敵母艦には直援は無い。食らい付け!と。

 

確かに、密集状態のままアウトレンジからの猛射を一方的に浴び続けていてもジリ貧と同じ事。
ならば死中に活を得ん!と言う勢いで、散開しながら一斉に突貫に移る艦載MS隊。

 

中央突破を仕掛けられたマフティー・ザフト同盟軍の各機も、その進路を左右にと転じて横撃の格好で阻止を図る、乱戦の構図となった。
こうなると幾ら質的な面での絶対優越を持とうとも、それを充分に活かしきれないと言う状況になり、文字通りに「質対量」のせめぎ合いとなって来る。

 

その一方でネオは直率のカオス、基地部隊と共に、ミネルバを目指す艦載機部隊とは逆方向へと戦場を移動させ始めた。
友軍を囮にして自分達は逃げると言うのではなく、味方とは引き離したセイバーとインパルスを仕留める事で、(マフティーと言う化け物はさておくとしても)
〝どうにかなりそうな〟敵の戦力は確実に削り取ろうとしてのものだ。

 

無論、その意図はミネルバ側の戦況を〝見ている(見えている)〟者達にも判らない筈は無かったが、流石に気付いてもすぐに対処できる余裕は無かった。
本来ならば乱戦に持ち込まれる前に十二分に敵機を漸減し、その上で自分達の側が最後の止めの一振りとして突入、乱戦に移る筈が、その逆をやられた様なものだ。

 

結局はシンの盲目的な猪突猛進が、この戦闘全体の戦況の流れを最後まで決定付けてしまったと言えるだろう。

 

だが、その中でなお、
「レイ、行け!」
ハサウェイはせめて君達だけでも敵中で孤立する二人の支援に向かえと、乱戦の中、驚異的な狙撃の連射でレイのザクが載る4ギャルセゾンの前方をこじ開ける。

 

この世界に来て、またレイを弟子に試行錯誤の訓練を施しながら、ハサウェイはこと戦闘と言う面においての自身のニュータイプとしての能力の増大を実感しつつあった。
それが、〝時空の壁〟を超えた事による影響なのか、あるいはレイと言う異世界に生まれた〝同類〟との邂逅によって共鳴するかの様に高められたものであるのかは判らない。
その力は現に今必要であり、であるからそれを活かす。ただ、それのみだった。

 

レイ機が載る4ギャルセゾンも無論メッサーと同乗をしていたのだが、相乗り相手のガウマンは海中へと突入した為、彼のザクだけが機載を続けると言う格好になっていた。
その為、空荷になってミネルバの直援機になる位置まで後退した他の2機のギャルセゾンとは異なり、4ギャルセゾンだけは再び右大旋回で2ギャルセゾンの後を追う形で戦線へと戻っていたのだ。

 

(ハサウェイ総帥!?)
レイは、自分達の隊長と戦友を助けに行けと言う、ハサウェイの意志を〝感じ〟た。
『はい!』
その〝声〟に背を押され、レイは決然と4ギャルセゾンの女性キャプテン、カウッサリア・ゲースに機の前進を願う。

 

『いいともさ、美少年!』
仲間の助けに……と言う意図は言わずもがな。
打てば響くかの様なカウッサリアからの快諾の声が返され、4ギャルセゾンはΞガンダムからの援護射撃と共に自らもメガ粒子砲の火線を放ちながら猛然と突進を開始する。

 
 

「うっ!? 何だ?」
時を同じくして、ウィンダムのコクピットに座るネオにもまた、ハサウェイの強い恣意は〝届いて〟いた。
こちらの戦線へ、なおも支援を差し向けると言うのか? この状況で?
まるで叩き付けられるかの様に〝感じた〟それに、一瞬の驚きを抱くネオだったが、
「いや、〝あいつら〟なら本当に寄越すだろうな」
すぐにそう呟いて、一人頷いた。

 

海中の戦況が窮地らしいと見るや、どう見ても水中戦用MSでも無ければ、おそらくその為の装備も揃えてはいなさそうなのにも関わらず、躊躇無く飛び込んで行く様な奴らだぞ?
(無理をしてでも、こっちにも支援機を差し向けて来るな……)

 

そう判断するや、ネオはすぐに思考を切り替える。
こちらは敵の主力から分断した赤いのと白いの両方を……と思ってはいたが、そんな時間的猶予は無さそうだ。

 

(この際だ、白いのだけでもいい)
ネオはそう腹を括った。
アスランがそうであったのと同様に、彼もまたここまでは指揮官としての務めを果たす為に、一パイロットとしての純粋な技量を発揮しきるのには制約を課されてもいた。
戦況推移の判断から、ネオはそれを棚上げにする気になったのだ。

 

ネオは残存する直率部隊を二手に分派する。
多数を残す主力は、艦載機部隊側から1機だけ手元に呼び戻したスローターダガーに乗るファントムペインの部下に指揮を委ねて、カオスを援護して赤いのを狙わせ、また足止めを(敵の増援が来たら、それに対しても)させる。

 

少数の分隊の方は、これから本機で白いのに当たる自分の援護機だ。
だが、彼が本気でそのあてにしていたのは、ステラのガイアだったのだが。

 

「さあ、行くぜ?ミネルバのエース君!」
そう呟くや、ネオはインパルスめがけ一気に逆落としをかける。
通常の機体とは違い、リミッターの掛けられていないジェットストライカーを装備する赤紫のウィンダムは重力を味方に付け、まさに矢の様な勢いでインパルスへと肉迫する!

 
 

「何ッ!?」
けたたましいセンサーの警告音が鳴り響くのと、ほぼ同時に攻撃が来た。
後方斜め上空から恐ろしい速さで襲いかかって来た敵隊長機が、すれ違いざまにビームサーベルの斬撃を送り込んで、そのまま急降下を続けて離脱して行く。

 

完全に虚を突かれていた。
積み上げた猛訓練の賜物、考えるよりも早く反応した身体がとっさにシールドを上げる操作を行っていなかったら、その一撃だけで愛機は致命的なダメージを受けていただろう。
遅れてそれに気付いたシンの背中に冷や汗がにじむ。

 

だが、そのしてやられたと言う思いはすぐに敵機への怒りへと変化する。
「こいつッ! 逃げるな!」
シンもフォースシルエットの高推力を一気に高め、逃げる赤紫のウィンダムを追ってインパルスガンダムを猛然と急降下させ始めた。

 

敵隊長機が逃げながら振り向きざまに二度、ビームライフルの火線を放ってくるが、それはインパルスガンダムをそれて空しく大気中を駆け抜けただけだった。

 

「そんな逃げ腰の攻撃を!喰らうかよっ!」
それが、自分を乗せる為に適当に放たれたものだとも知らずにシンはそう叫び、今度は自分の方が赤紫のウィンダムに向けてビームライフルを構えた時、再びの警告音と共に背後から追尾をかけて来る数機のウィンダムの機影が現れた。

 

「このっ!」
シンはインパルスガンダムの機体に縦方向の宙返りを打たせ、後方へと向けた数瞬の間に放ったビームライフルの連射で追いすがるウィンダム分隊の1機を撃ち落とし、そしてそれで他の機体を一瞬怯ませたその隙に、再びネオ機を追って空を駆ける。

 

『シン、戻れ!乗せられているぞ!』
自ら虎口に飛び込んで行こうとしているシンの動きに、強い口調の警告と制止を送るアスランだったが、熱くなったまま聞く耳を持たないシンは状況も判らずに言い返す。
『大丈夫!やれますよ!』

 

「くっ、シン!」
これが戦闘機動中でなかったら、アスランはコンソールの側面を殴りつけていたであろう。
すぐにでもシンの後を追って援護に向かいたいのは山々だったが、彼自身にもその余裕は流石に無かった。

 

ほぼ互角に近い状態で交戦を続けているカオスガンダムに加えて、マゼンダの敵隊長機がいた時に比べて程度は落ちているとは言え、残存ウィンダム隊の多数がカオスガンダムを援護してのミドルレンジからの射撃を車掛かりに浴びせて来る。
地球軍側は単にそれまでインパルスガンダムに対して用いていた戦法を、相手を変えても踏襲しただけに過ぎなかったのだが、
航空機型のMA形態を取る事で、高速で機動し自在に距離を取る事が強みのセイバーガンダムにとっては、〝その先の空間〟を封じられる事になるこの緩包囲の戦術を取られると言うのは、インパルスガンダムよりも遙かに厳しいものであった。

 

それでも落とされそうにもならずに、逆にウィンダムの方を数機返り討ちに叩き落とすアスランだったが、だからと言って単機で突破できるまでの勢いは無い。

 
 

『ニーラゴンゴ隊の各機は後退、ミネルバの直掩に回れ!諸君が最終防衛ラインだ、頼む!』
戦いながらそう自軍MS隊への指示を出すアスラン。
半分は本当だったが、口にはしないもう半分は、乱戦の状況下でザフト機が混じっている事でマフティーの動きの制約にならない様にと言う事でもあった。

 

ニュートロンジャマーの影響がある中にも関わらず、マフティー所属の各機(主にギャルセゾンだが)が揃って中継を行ってくれているおかげで、ミネルバのCICとも緊密な連携を維持しての戦況判断も可能になっている。
そのおかげでこの状況下でもなお指揮を続けられていたわけだが、それ故にシンの独走による〝悪影響〟がどれ程のものをもたらしているのかと言う現実もまた、如実に判ってしまうのだった。

 

それでも、ここでそんなシンを見捨てると言う選択肢がかけらも出て来ないと言う辺りが、アスラン・ザラと言う人間のその長所と短所とをどちらも示していたと言えるかも知れない。

 

「くっ、せめて敵の動きに隙が生まれれば……」
一瞬だけでいい、どうにかこの状況を打破するその為のきっかけが掴める瞬間があれば!
そう思った刹那、後方からのビームの火線が1機のウィンダムに突き刺さった。

 

センサーが、後方に遠ざかりつつある対ミネルバの戦線から飛び出して、こちらへと向かって来る一つの機影を捉える。
この距離でも届く攻撃とこの威力は、マフティーの機体が持つ方式のビーム兵器以外にはあり得ない。

 

接近するその機影のIFF反応は――4ギャルセゾン!
そう気付いた処に、聞き慣れた部下の声で通信が入った。
『隊長!』

 

『レイか!? すまん!』
流石にアスランは嬉しい驚きの声を上げる。

 

4ギャルセゾンの機上に立ってビーム突撃銃を連射しながら接近して来た白いザクファントムが、セイバーガンダムを緩包囲する敵機群に向かって、背部のブレイズウィザードに装備されたファイヤービー誘導ミサイルを派手にバラ撒く。

 

一斉に放たれた多数のミサイルが緩包囲網の一角へと飛び込んで行き、慌てて回避しようとするウィンダムの動きが乱れ、命中とCIWSの迎撃で撃破されたミサイルが次々と引き起こす爆発の華がその一角を埋め尽くす。

 

『レイ、シンが!』
インパルスガンダムの方はもっと危ないと言う事を、そう叫ぶ様に伝えながらアスランはセイバーガンダムをMA形態へと変形させる。
レイのザクと4ギャルセゾンが作ってくれたその〝隙〟をもちろん逃さずに、そこへとMA形態のセイバーガンダムを突っ込ませ、ついに虎口を逃れ出た。

 

そのまま併走してインパルスガンダムや敵隊長機の飛び去った方へと飛ぶ4ギャルセゾンとセイバーガンダムだったが、
当たり前の事ながら、スティングのカオスがやはりMA形態へと変形して猛然と追尾して来るし、包囲を突破されたウィンダム隊もスローターダガーに乗る指揮官代理の命令の下、緩やかに半包囲の態勢は維持したままでカオスに続いて来る。

 

ブレイズザクファントムと4ギャルセゾンの加勢を受けたセイバーガンダム対カオス及びスローターダガー以下のウィンダム隊との戦線は、間断なく交戦を続けながら地球連合軍前進基地のある島の方角へと移動をして行った。

 
 

海に突き出した島の東側の岬の突端に愛機ガイアを立たせたステラは一人、コクピットのモニター越しに彼方をずっと見つめていた。

 

スティングもアウルも、ネオと一緒に行ってしまった。
優しいネオも、今回は無理だからと言ってステラの事を連れて行ってはくれなかった。
一人だけ置いて行かれてしまって、やっぱり寂しかったし、ネオ達の事が気がかりでずっとそうしていたのだった。

 

ガイアからかなり離れた後方では、前進基地の防衛用にと空母から降ろされたストライクダガー隊がどことなく弛緩した雰囲気で待機していたが、そちらに対してはステラは何の関心も無かった。
(!)
と、それまでずっと静かなままだったセンサーに反応が現れた。
IFFが急速にこちらに近付いてくる味方機の反応を一つ、示している。
間違える筈が無い、この味方機のシグナルは――

 

「ネオっ!」
そう嬉しそうに声を上げたステラは、その次の瞬間ネオ機の後ろに現れた二つ目のセンサーの反応――それも、今度は敵機だ――に気付く。

 

(こいつ、ネオを追っている?)
センサーが示す敵機のその速度は、ネオが乗るウィンダムを凌いでいた。
このままでは追い付かれる?

 

(ネオが危ない!)
一瞬でそう認識するや、矢も楯もたまらずにステラはガイアを四足獣型のMA形態へと変形させ、海上に点在する小島や大岩を次々に跳び伝ってガイアをネオ機が来る方向へと駆け出させた。

 

「おい!? 何だ?」
センサー性能(アップグレード自体は行われているものの)の差で、まだネオのウィンダムの接近にも気付いていないストライクダガー隊は、突然のガイアの行動を訝しみながら緩慢に態勢を改め始めた。

 

前方を飛ぶ赤紫のウィンダムは、海面すれすれまで高度を落として遁走を続けている。
しかし、それでも最大速度はこっちが上だ。追いつける!
そうして追尾を続けたシンは、遂にビームライフルの射程内に敵機を捉えた。

 

その直前の時点から待ちきれずに先に起動させていた照準用センサーは、既に逃げるウィンダムを捕捉している。
「落ちろよッ!」
シンは有効射程に入るや、すかさずビームライフルを発射する。

 

しかし、ロックオンされたウィンダムの方もその直前に、左急旋回で斜線を外した。
「くそっ!」
更に二度、三度とビームを浴びせて行くシンだが、敵隊長機はその度に小刻みな左右への急旋回でことごとくその攻撃をかわして行く。

 

「このッ!ちょこま…うわっ!?」
ひらひらと舞う様に自分の攻撃を回避して行く敵隊長機への苛立ちでますます熱くなる一方のシンは、いきなり横手から襲いかかって来た衝撃に苦鳴を上げた。
機体の左側面から、四足獣形態のガイアガンダムが体当たりをかけて来て、弾き飛ばされたインパルスガンダムの機体と共に、2機のセカンドステージシリーズのガンダムは盛大な水飛沫を立てながら浅い海の中へと落ちる。

 

「くっ!」
意識をはっきりさせようと、頭を左右に二、三度振ってシンはインパルスガンダムの機体を立ち上がらせる。
全身から滝の様に海水を流れ落としながら立ち上がる彼の機体に向き合う形で、ガイアガンダムの方もMS形態に戻りながら同様に立ち上がっていた。

 

「こいつうぅっ!」
そう叫びながらステラはガイアの右手にヴァジュラ・ビームサーベルを抜き放たせ、膝まである海水を掻き分けながら眼前の敵機インパルスへと踊り掛からせる。

 

シンもまた、同じヴァジュラ・ビームサーベルをインパルスガンダムの右手に握らせると、左腕のシールドを上げて接近戦を受けて立った。
ぶつかり合った白と黒のガンダムは、互いのビームサーベルをシールドで受け止め、同様に更に数合、激しく斬り結び合う。

 

そこへ回頭して戻って来たネオのウィンダムが、高度を取りつつ頭上からインパルスガンダムを狙って来るが、シンはガイアガンダムに対しての隙を見せる事なしにそれらをかわし、あるいはシールドで防ぎきる。

 

熱く闘志を燃え上がらせているのは相変わらずながら、この時のシンは冷静に戦況を見る(あくまで自機の周囲に限って~のレベルの話ではあるが)部分と言うものをようやく取り戻していた。
この短時間の間に二度までも、全く同じパターンで危うく殺られかける様な状況に陥ったのだ。流石にシンもその点に関しては相手のせいには出来ないと言う、自身に対して歯噛みをせざるを得ないと言う心境になっていたのだ。

 

あるいはこのタイミングでアスランやレイからの制止の声が送られていたならば、遅きに失したとは言え、シンは一時後退を聞き入れたかも知れない。
しかし、残念ながらシンの元へと急ぐアスランとレイはその時にはまだそこに辿り着けてすらいなかった……。
それもまた、〝運命〟と言うものであったのだろう。

 
 

「ステラか!」
機体を横向き気味に傾けながら後方を確認したネオの目に、追って来ていた敵機インパルスが斜め下側からのガイアの体当たりをもろに喰らって、もつれ合いながら共に海面へと落ちるのが見えた。

 

彼女のガイアの支援を期待していたのはもちろんだったが、自分から戦況を判断して前進し、予想よりも早く駆け付けて来てくれたのだ――それも、こんないいタイミングで。
「いい子だな、ステラ」
そう呟いて、ネオはウィンダムを反転させながら高度を取って行く。

 

眼下の岸辺ではガイアがインパルスと互いにビームサーベルでの斬り合いを展開していた。
ネオはガイアを誤射しない様に、その動きのタイミングを見極めながらインパルスをビームライフルで狙うが、
先程までの〝まっすぐ過ぎる〟機動とは別人の様な見事な動きで、インパルスはそれをも凌ぎきって見せた。

 

「ちっ、あいつの頭まで冷やしちまったかな?」
そう言いながら、ネオが自分も再降下してガイアと一緒にチャンバラと行くか?と考えた次の瞬間、

 

(!?)
こちらに向かって降下して来る、ようやく追い付いて来た援護を担わせたウィンダム隊の機影の一つが、後方からのビームを浴びて爆発した。

 

(くっ、もう来たのか?早過ぎる!)
またもやマフティーが支援に駆け付けて来たその証、再びアウトレンジからの猛射が浴びせられるのを覚悟するネオだったが、以外にも今回はその洗礼は来なかった。

 

最初の一発以降も長射程(と言うより〝超射程〟と言う感じだが)のビームは飛んでは来るが、その密度はこれまでの三割分程度にしか感じられなかったし、それ以降は命中弾は出なかった
――もっとも、こちらを牽制し、散開させる事を主目的にしているだけなのかも知れなかったが。

 

訝しむネオとウィンダム隊のパイロット達だったが、理由はその飛来する一つの機影が更に接近した事で判った。
飛んで来るのは確かにあの〝グゥルもどき〟だが、その機上には白いザクだけが載っていた――つまり、恐るべき威力と長射程のビームを撃てるのはそのグゥルもどき一機だけだと言う事だ。

 

どうやら、赤いのは自分よりも白いのを援護させたと言う事か。
それならまだ目はあるか?
そう考え、ネオは新たに戦闘加入して来たこの新手に向き直る。

 

(!)
先程も〝感じた〟この感覚は、アーモリー・ワンでの戦いの際にも感じたのと同じものだった事にネオは気付く。

 

高機動型バックパックを装備した、白いパーソナルカラーの上位型ザク・タイプ。
「あの時の君か? 面白い!」
宇宙空間では押されもしたが、果たしてここではどうかな?
ネオは白いのはしばらくガイアに任せて、標的を変更した。

 
 

(!?)
「この〝感覚〟は!あの時の!?」
強奪されたカオスガンダムが姿を見せ、更には海中にはアビスガンダムも現れたと言う事実から、あの部隊が出張って来たのであろう事は当然想定は出来たのだが、
(あの赤紫のウィンダムの動き……間違いない!)
レイは、眼前に対峙する1機だけ桁違いの動きを見せ付けるパーソナルカラーの機体に、宇宙で対戦した特殊装備を持った地球連合軍の新型MAの事を想起させられた。

 

ここで出会ったからには!
互いにそう対戦の意志をかき立てられ、地球上へとステージを変えての第2ラウンドのゴングを鳴らす。

 

赤紫のウィンダムは自身もビームライフルの速射を浴びせて来ながら、同時に麾下のウィンダム隊を動かして緩包囲の援護射撃も得られる態勢作りを狙う。

 

(これが、〝有線式遠隔攻撃端末〟〈ガンバレル〉の代わりと言うわけか……)
敵隊長機の様な精度は無いが、残る3機のウィンダムが位置を変えながら交互に援護射撃を浴びせて来る。

 

元々、中~近距離での速射性を重視したビーム突撃銃を装備するザクに対して、大型のビームライフルを持つウィンダムの方が射程と一発辺りの威力では勝っている。
また、大気圏内ではサポートマシンに乗らなければならないこちらに対して、
ジェット(もしくはエール)ストライカーを装備して自力飛行が可能であると言う決定的なアドバンテージを活かそうと言うつもりだろう。

 

(悪くはない戦術だ……だが!)
レイのザクは何と、ギャルセゾンの機上から跳び上がった。

 

「なっ、何ぃッ!?」
全く予想もしなかったザクのその機動に驚愕するウィンダムのパイロット達。
その隙に距離を詰めたレイのザクが速射する突撃銃のビームの数発をまともに浴びて、一機のウィンダムが爆発する。

 

メッサーに倣っての、ジャンプ・フライトによる空中戦だ。
フォースシルエットの様な自力飛行こそは不可能だが、それでもブレイズウィザードの持つ高推力を活かせば、ザクでもジャンプ・フライト戦法はある程度には可能。
戦場を地球上に移すと言う事で、ルナマリアの様にガナーウィザードをメインにすると言う選択肢もありながら、あえてレイがブレイズウィザード装備のままでいたのは、
単に彼女との棲み分けと言う事だけではなかった。

 

「驚かせてくれるじゃないか!」
そのまま宙に跳んだレイのザクに、飛んで来たネオの専用ウィンダムが交錯する――すれ違いざまに互いに斬りつけ合った、ザクのビームトマホークとウィンダムのビームサーベルとが、共に相手のシールドで受け止められていた。

 

(流石に……!)
「その機体でか!」
レイは内心で、ネオは口に出して、互いに一合で相手の技量を直感し合う。

 

そのまま飛び交わす両者だが、元より条件は互角ではない。
(飛べない機体でこうも見事に〝空中戦〟をしてのけるとはな! だが……)
自力飛行をしている機体ではない以上、必然その機動には最大の隙が生じる。
即ち、ザクの方はこの後、ジャンプの足場となる空中機動飛翔体の機上への降着をしなければならないのだ。

 

「さよならだ!」
ネオは機体を回頭させざまに、シールドをこちらに向けながら降下して行くザクではなく、その下方で受け止める動きをする大型の〝グゥルもどき〟の方をビームライフルで狙う。
白いザクを受け止めようとする、敵機の動きの先を予測した見越し射撃だ。
しかし……

 

「何ッ!?」
グゥルもどきの方にまで、予想外の機動でその攻撃を見事にかわされ、ネオは思わずそう驚きの声を上げた。

 

「おおっと!」
隣のシートに座る副操縦士の声に、機長のカウッサリアも口笛を一つ吹かして応じる。
「はん、〝この世界〟の地球軍にもいい腕の奴はいるってわけね」
確かに、弱点をきっちり狙われてはいたのだ。

 

しかし、その戦術を基本としている彼らでもある。
機動上の最大の弱点がどこであるかなど百も承知の事だったし、だからこそ戦闘中にそんな単純な機動など、間違ってもしはしない。

 

ネオ専用ウィンダムのビームライフルに狙われた4ギャルセゾンはとっさに、片舷のVTOL用スラスターだけを先に全開にし、機体を斜めに傾けながらの垂直上昇をかけ、見事に放たれたビームを機体の下にとやり過ごす。

 

「っ! グゥルとは、モノが違ったか……!」
狙い澄ました〝見越し射撃を、あっさり見越されて〟かわされた。
輸送力を重視して、図体ばかり無駄に大きい機体だと、どこか侮っていたのだが、あの機動はスカイグラスパーも顔負けだぞ?
あっさりと殺れると思ったのは大間違いだったかと、半ば呆れ混じりに痛感させられるネオだった。