機動戦士ガンダム00 C.E.71_第48話

Last-modified: 2012-01-29 (日) 03:04:55
 

イージスを抜いた蒼い刃がバスターに迫る。
モニターに大写しになるそれに、ディアッカは舌打ちした。
「しっかり守れってんだ馬鹿野郎!」
アスランを罵りながらも、連結していた狙撃砲を素早く分離させガンランチャーで
迫るジンメビウスに弾幕を張った。
なけなしの弾薬を使った弾幕はジンメビウスにダメージを負わせる事は出来なかったものの、
イージスが割って入るだけの時間は稼げた様だ。
ジンメビウスに横から斬り込んだイージスが、それを躱したジンメビウスに
追撃のイーゲルシュテルンを浴びせる。
流石に避けきれないジンメビウスはシールドでそれを受けながら距離を取った。
『済まない』
「ったく」
イザークの窮地に、アスランはバスターに隙が出来るのを承知で砲撃指示を出した。
その間バスターを守るのが前衛であるイージスの役目なのだから、
あっさり抜かれたアスランに対してディアッカが怒るのも無理は無い。しかし―――
「こりゃキツいぜ」
『弱音を吐くな』
「へいへい」
先程は一瞬の隙を突けたものの、ジンメビウスの空間認識能力は異常といえた。
メビウス0の援護を受けているとはいえ、機動性だけ無理矢理上げて
やっと五分な機体に乗ってガンダム2機と互角の戦いをしている。
しかも、アークエンジェルはおろか機動力の死んだメビウス0を狙う隙も与えてくれないと来ている。
「背中に目、いや全身目玉だらけなんじゃねぇか、このパイロット」
そんな疑念さえ抱かせる動きだ。こんな奴が味方だったら大層心強いだろう。
だが、いくら動きが良かろうとMSにも物理的な限界がある。
推進剤やバッテリー、フレームの消耗などがそれに当たるが、
それらよりも短期的に限界が来る物がある。それが弾薬の消費だ。
こちらの2機を牽制するのに、ジンメビウスは先程から大量の弾薬を消費していた。

 

「アスラン、MAを狙うぜ!蒼い奴の相手を頼む!」
『・・・成程、了解した!だが長くは持たない』
イージスがジンメビウスに斬り込むのを確認してディアッカはメビウス0に照準を合わせた。
メビウス0もそれを敏感に察知して、回避機動を取りつつガンバレルでオールレンジ攻撃をしてくる。
しかし、所詮は機関砲だ。
PS装甲のエネルギー消費を気にしなければ衝撃も大した物では無い。
バスターに散弾砲を構えさせ、ディアッカは冷静にメビウス0の動きを追った。
スラスターの死んだ機体では、この面攻撃は防げない。
トリガーを引こうとした瞬間に警報がなり、予めそれを予想していたディアッカは迫る榴弾を易々と躱した。
「おら、もっと撃ってこいよ!」

 

メビウス0へ照準を合わせたのは、ジンメビウスに弾薬を消費させる為の完全なブラフであった。
ジンメビウスの射撃がどれだけ正確無比であろうと、撃たれる事が分かっていれば
所詮は弾速の遅い榴弾だ、回避するのは難しく無い。
ジンメビウスには直接本人を狙うより他の機体を狙う方が効果的だとディアッカは判断したのだ。
イージスが張り付いているジンメビウスは、射撃でしか僚機を援護出来ない。
コイツをさっさと弾切れに追い込めば牽制力も半減。
そうすれば、アークエンジェルを撃沈する事も容易だろう。
この地味で姑息なやり方は、真面目で正攻法を好むアスランでは考え付かない物だった。
分かっていても構わなければならないブラフ程厄介なものは無い。
味方を援護しようとしたジンメビウスはイージスに隙を見せる形になり、
結果的にアスランへの負担も多少軽くなる。
「さて、たかがMAの分際で俺達を散々掻き回してくれたツケ、払わしてやるよ!」
逃げ惑う標的を一方的に嬲る快感は狙撃手の特権だ。
ディアッカは舌なめずりをしながら再びその砲門をメビウス0に向けた。

 
 

「カマルさん、ムウさん!」
キラも2人の危機に気付いた。
バスターの砲門から必死に逃れようとしているメビウス0と、
それを撃たれまいと援護しながらイージスと互角の剣戟を演じるジンメビウス。
あのままでは、刹那は兎も角ムウが危ない。自分が何とかしなくては。
戦場では一瞬の隙が命取りになる。キラが気を取られていると、
不意にデュエルASの膝がコクピットを激しく揺らした。
『お前の相手は、俺だ!』
接触回線から怒れるパイロットの声が響き、
続けて左腕に保持されたシールドがストライクの頭部を殴る。
「ぐっ・・・!」
『トドメだぁ!』
怯んだストライクにデュエルASはビームサーベルを振り上げた。
復讐を遂げる喜びにデュアルアイを輝かせるデュエルASがモニターに大写しになり、
爛々と光るビームサーベルがストライクを上から真っ二つにしようと振り下ろされる。
キラにはその光景がコマ送りの様にスローで動いて見えた。駄目だ、僕は死ねない。
みんなを守らなければ。だが、この現象は以前デュエルを圧倒した時の感覚だ。
意識が離れた所で自身が力を振るう感覚は正に恐怖であった。
あんな思いはもうしたくない。だが―――
『なにっ!?』
接触回線からパイロットの驚愕する声が遠くに聞こえる。
ストライクは振り下ろされたビームサーベルの、それを保持するデュエルASの右腕を掴むと、
その力に逆らう事無く機体ごとデュエルASの下に潜り込んだ。
そのままデュエルASの背後に回り込むと、そのずんぐりとした機体を踏み台に
メビウス0を狙うバスターに向けて跳ぶ。

 

結局キラは、迫りくる感覚に抗えなかった。
今も俯瞰で見える世界の中で、踏み台にされて仰け反るデュエルASの後姿を見届ける。
しかし体は自分の手足となったストライクを正確無比に操作し、バスターへ向かった。
こちらの接近に気付いたバスターが構えていた散弾砲をこちらに向けて発砲する。
無数の散弾がストライクの軌道上を覆い、完全に行く手を塞いだ。
いくらPS装甲をもってしても、これだけの散弾を一身に受ければ唯では済まない。
左右上下に躱した所で被弾は避けられない状況で、ストライクはあろう事か
シールドを前面に構え更に速度を上げた。
散弾は距離が開くほど広範囲に広がる。ならば範囲が狭い内に受けてしまおうというのだ。
装甲と衝突して爆ぜた散弾が大量の噴煙を上げ、ストライクを包み込んだ。

「どうだ・・・?」
突然の奇襲に驚いたディアッカだったが、至近距離で散弾をお見舞いしてやった。
冷静に対処した自分に諸手を上げて褒めてやりたいくらいだ。
しかしそんな思いは煙の中から飛び出してきたシールドによって砕かれる。
散弾を受け切って拉げたシールドが煙を穿ち、バスターの散弾砲に突き刺さって爆発する。
「なに!?」
幸いにも破壊されたのは前に連結されていたガンランチャーのみであったが、
ディアッカの受けた衝撃は多大なものだった。
煙が晴れるのを待たずに、続けてストライクがバスターの前に躍り出る。
エールの羽や、頭部のブレードアンテナに損傷があるものの、それだけだ。
デュアルアイが冷たく輝きバスターを睥睨する。

 

「この・・・化け物は1匹じゃなかったのかよ!」
『下がれディアッカ!』
ミサイルで迎撃を図ろうとするバスターの前にイージスが割り込んだ。
ジンメビウスの前から援護に駆け付けた代償か、シールドが破損している。
だがシールドを投げ捨てたストライクはビームライフルも腰にマウントしたままであり丸腰だ。
絶妙なタイミングで割り込んだイージスが左腕と右足からビームサーベルを発振させて、
上下からストライクに斬りかかる。キラは格闘戦が苦手だ。
まだMSという兵器を自分の一部と出来ていない為、
格闘戦で1番重要な自機の動きを正確に把握する想像力に乏しいのだ。
こればかりは搭乗時間の問題であり、訓練を積んだ軍人と素人の差である。
しかし、そんなアスランの考えを嘲笑うかの様に目の前の巨人に俊敏に動いた。
まるで割り込んでくるのを知っていたかの様に冷徹に動いたストライクは、
イージスがビームサーベルを振り切る前にイージスの左腕を掴み、
右膝を踏み付けて右足のビームサーベルを受け止めた。
そのままガラ空きになったイージスの胴を、薙ぐ様に右足で蹴り飛ばす。
『っ・・・キラ!』
「この野郎!」
跳ね飛ぶイージスを見やり、ディアッカはトリガーを押し込んだ。
ビームライフルとミサイルがストライクへ発射されるが、
ストライクは当たる直前にバックステップからの宙返りで全てを綺麗に躱したと思うと、
そのままスラスターを吹かしてバスターに急接近する。
そして頭部を掴んでコクピットに拳を叩き付けた。
何度も何度も殴られる振動でディアッカは堪らずヘルメットに吐瀉物をぶちまける。
ストライクの、キラの覚醒で、一転してザラ隊は窮地に追い込まれていた。

 
 

降下時間が迫る中、鬼の様な動きを見せるストライクは味方をも唖然とさせていた。
『ありゃキラが言ってた・・・』
「大尉、呆けてる場合じゃない。攻めるぞ」
多大な脳量子波を撒き散らすキラに焦りを感じながらも、
刹那はストライクに合わせてジンメビウスを動かした。
蹴り飛ばされた衝撃から回復していないイージスにアーマーシュナイダーを撃ち込み、
それが肘の関節に突き刺さった事を確認すると、ワイヤーを巻き取る加速を使ってコクピットに
シールドからのショルダーアタックをお見舞いする。
立て続けに衝撃を受けたイージスは踏ん張る余裕も無く再度跳ね飛ばされた。
そこに待っていたとばかりにメビウス0のオールレンジ攻撃が降り注ぎ、機関砲がイージスを打ち据える。
それを確認した刹那はイージスをムウに任せ、
自身はストライクを背後から狙うデュエルASへ牽制射を加えた。
「弾切れか」
残弾の切れたバズーカを捨てたジンメビウスが 重斬刀を抜いてデュエルASに斬りかかった。
榴弾による牽制射を躱したデュエルASは、掬い上げる太刀に対して機体を半身に逸らす事で躱し、
そのまま一回転してビームサーベルを薙ぐ様に放とうとする。
しかしその回転はギリギリの所で止められた。
重斬刀を躱された瞬間にジンメビウスが射出したアーマーシュナイダーがデュエルASの胴体を捉えており、
ワイヤーがデュエルASに絡み付いて動きを封じたのだ。
「仕留める・・・!」
ジンメビウスの左肩から3本の砲身が展開され、デュエルASに狙いを定める。
照準も碌に合わない武装だが、この距離なら外し様が無い。
砲門が紫電を帯び、電圧が発射可能な数値まで高まる直前、デュエルASが動いた。
正確にはデュエルASの右肩に装備されたシヴァがこちらに砲門を向けたのだ。
「ちっ!」
シヴァはジンメビウスに装備されたメビウス用のレールガンと違い即時発射が可能だ。
頭部を狙ったシヴァの一射目を、上半身を逸らす事で回避する。
しかし胴体を狙った二射目はワイヤーで繋がり密着したこの状態では躱せない。
刹那は仕方なくワイヤーを強制排除し二射目を躱した。
直後発射可能になった三連装レールガンを放つが、
ワイヤーが緩んだデュエルASはシールドを構える事で難無くそれを防いだ。

 

「焦り過ぎたか」
シヴァの存在を失念していた。
重斬刀でシヴァを破壊すればASの攻撃能力を封じる事が出来たのだが、
デュエルAS自体を戦闘不能に追い込む事に目が向いてしまった。
刹那は焦る理由であったモニターの隅のタイマーに目を向ける。
降下開始まで後僅かしか無かった。
機体も確実に重くなっており、地球に引っ張られているのを否応無く感じる。
「急がなくては」
ストライク以外のガンダムも大気圏突入能力がある。
その際攻撃能力が健在なのかは知る由も無かったが、
少なくともジンメビウスやメビウス0より戦闘可能時間は長いだろう。
だからこそ、タイムリミットまでに敵を戦闘不能、若しくは武装を破壊しておきたかった。
目の前のデュエルASはストライクへの闘争本能を隠そうともせず、
怒りと焦燥が感じられた。さぞかし刹那が邪魔なのだろう。
背後でイージスがメビウス0の攻撃を掻い潜り、ストライクを攻撃するのを感じる。
いくら圧倒的な戦闘能力を誇る今のキラでも、
イージスとバスターにしっかりとした連携を取られれば厳しい。
ムウも懸命に援護しようとしているが、メビウス0の戦場での影響力は既に僅かな物になってしまっている。
思考を巡らし動かない刹那に業を煮やしたのか、
デュエルASはビームサーベルを発振させて斬りかかってきた。
アーマーシュナイダーを失ったジンメビウスでは先程の様な搦め手は使えない。
しかし負ける気は無かった。
最早単機での破壊は困難と考えた刹那はデュエルASの武装を破壊する事に集中する。
ジンメビウスが重斬刀を前に半身の構えでデュエルASを迎え撃つ。
デュエルASがビームサーベルを振り下ろすのに対し、
ジンメビウスがその場で独楽の様に急旋回したかと思うと、
振り下ろされた右腕をシールドで弾いた。そのままの勢いで回転を続け、重斬刀でシヴァを両断する。
しかしデュエルASは怯まず、シールドを捨てると2本目のビームサーベルを抜き放ち、
猛然と突きを繰り出した。踏み込みに迷いの無い、完璧な突きだった。
ジンメビウスは身を屈めてそれ回避するも、 鳥の鶏冠に当たる部分が高熱に貫かれて破損する。
「シッ!」
息を鋭く吐いた刹那は尚もジンメビウスに前進を指示した。
業を出し切って隙だらけのデュエルASに重斬刀を一閃。
しかしデュエルASに損傷は無かった。
ジンメビウスの一撃が空振りと見るや、デュエルASが更に剣戟を繰り出そうとする。
だが振るった腕は空を切り、手応えなど微塵も無い。
それもその筈だった、デュエルASが振るった2本のビームサーベルは
空振りに見えたジンメビウスの斬撃で発振器を切断されていたのだ。
状況が理解出来ないデュエルASにジンメビウスのドロップキックが突き刺さり、
青い復讐者は眼下の地球目掛けて跳ね飛ばされていった。
「これで後は・・・」
振り返った刹那の目に飛び込んできたのは、
MA形態のイージスに捕縛されたストライクだった。

 
 

MA形態に変形したイージスが、バスターへ攻撃を仕掛けていたストライクを捕縛した。
4本の鉤爪が確実にストライクの動きを封じる。
「これで・・・!」
一瞬の逡巡の後、アスランはスキュラの発射トリガーを引いた。
極太のビームがストライクを貫き、目の前で友が消滅するのを覚悟したアスランだが、
その瞬間は一向に訪れない。
「なんだ?バッテリー切れか!?」
計器を操作するアスランだが、バッテリーは後僅かながら残っていた。ならば何故?
更に計器を操作し機体破損状況を見ると、
スキュラの部分が破損、発射不能の文字と同時に赤く染まっていた。
アスランから窺い知る事が出来なかったが、捕縛される直前にイージスの飛来を予期したキラが
胸元にアーマーシュナイダーを構え衝突と同時にスキュラに突き刺していたのだ。
誘爆しなかったのは強運としか言い様が無い。
「クソ、なら!」
アスランが操縦桿を動かすと、イージスはストライクを捕縛したまま地球に落下していく。
『アスラン、どうする気だ!?』
「ここでストライクを破壊するのは無理だ!大気圏に墜とす!」
キラの身に何が起こったか分からないが、
このまま暴れられたらバスターを守り切れる自信が無い。
幸いスラスター推力はエールよりもMA形態のイージスの方が優れている為、
ギリギリの所まで降下した後ストライクを置き去りに
引き返せばイージスは重力に囚われる事無く脱出する事が出来る。
しかし、モニターに映るストライクは自由な左腕で脱出を図ろうと暴れる。
「っ・・・!」
ガンガンとイージスを殴るストライクからはアスランの知る温厚な少年の面影は感じられなかった。
「一体・・・どうしたっていうんだキラ!」
密着した今なら接触回線が開いている筈である。
必死に叫ぶアスランだったが、代わりに返ってきたのは
イーゲルシュテルンと120mmバルカン砲の弾丸だった。
連続する強烈な衝撃にイージスが悲鳴を上げる。
実弾とはいえ、至近距離からの弾幕にPS装甲が持たない。
「もう無理か・・・」
連続する衝撃に歯を食い縛っていたアスランだが、これで撃墜されては元も子もない。
まだ予定の高度まで墜としていなかったが、
アスランはストライクの拘束を解いて素早く反転、上昇を始めた。
対して拘束を解かれたストライクは腰のビームライフルを抜き、
躊躇無くイージスに向けて発砲した。
高速で大気圏に墜ちつつあるストライクからでは照準が定まる訳も無く、
緑色の光がイージスの周りを素通りしていく。
「本当に・・・どうしたっていうんだ、キラ・・・」
ビームライフルを構えるストライクには感情という物を見つける事は出来なかった。
それが何よりも悲しく、アスランは己の無力さを噛み締めながら上昇を続けた。

 

蒼いジンの一撃は、イザークを絶望の淵に墜とす一撃だった。
地球に向けて蹴られたデュエルASは、既に自らの推力では戦場に帰れない程重力に囚われている。
戦闘の光を頭上に見上げ、イザークは悔しげに唇を噛んだ。
「くそっくそっ、こんな筈じゃ・・・!」
コンソールに拳を叩き付けるも、手から痛みが伝わってくるばかりで
地球に墜ちていく現状には変化は無く。機体は摩擦熱で段々と赤くなっていく。
流石のイザークも諦めて、マニュアルにあった大気圏降下姿勢に入ろうとした時、
復讐者の前に文字通り奇跡が舞い降りた。
「何か・・・墜ちてくる?」
何かが頭上からこちらに墜ちてくる。
初めは訝しげにそれを眺めていたイザークだったが、
モニターがそれを捉え識別を表示した瞬間にその表情は歓喜のそれに変わった。
「ストライク!」
恋い焦がれんばかりに復讐を望んだ相手が、
デュエルASを追い抜かんばかりの速度で落下してくる。
みるみる近付いてくるその機影に、イザークは夢中でデュエルASに
ビームライフルを抜かせ、狙撃用スコープを引出し照準を合わせる。
良く見れば、ストライクにはMA形態のイージスが組み付いていた。
「デカしたぞアスラン!」
会う度にいがみ合う相手ではあったが、今回ばかりはアスランに感謝した。
スコープの中でイージスがストライクから離れ、白い機影がスラスターを吹かして減速をかける。
しかしそれは既に遅かった。
デュエルASとストライクが段々と近付き、ビームライフルの射程圏内に入る。
「貰ったぞストライク!」
イージスに向けて発砲するストライクはまだこちらに気付いていない。
イザークは勝ち誇った声を上げてトリガーを引き絞った。
しかし放たれたビームはストライクを外れ、宇宙の暗黒に空しく消えた。
「この・・・照準が!」
大気圏に突入している真っ最中である機体は、大気との摩擦で体勢が安定しない。
いくら大気圏突入能力があろうと、こんな非常事態での戦闘など想定されていないのだ。
それでもイザークは引き金を引き続ける。
ストライクもこちらに気付いた様で、互いの銃口が交差し、発射されるビームが両者の脇を抜けて行く。
そんな不毛な戦いに巨大な闖入者が現れたのは、
丁度2機の相対速度が合わさり機影の細部まで見通せる距離になった時の事であった。

 
 

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