機動戦士ガンダムSEED True Destiny PHASE-52A

Last-modified: 2007-11-17 (土) 19:09:00

重力脱出の周回軌道コースを回りつつ、アークエンジェルとミネルバは、オーブ第2宇宙軍

とのランデブー・ポイントを目指す。

 直掩機を射出するべく、両艦の発艦デッキのハッチが開かれた。

「シホ・ハーネンフース、イングラム、出ます!」

 リニアカタパルトが射出シークエンスに入ったことを示す、LED照明がカタパルト待機位置か

ら、射出口に向けて点灯して行き、それにあわせて、左肩部にロケットランチャーを追設したイ

ングラムが射出される。

「はぁふ」

 レバーを握りつつ、ルナマリアは軽くため息をついてから、目を見開いた。

「ルナマリア・ホーク、インパルスフォースシルエット、出るわよ」

 イングラムに続いて、インパルスが射出される。シュワルベ搭載のため格納庫に余裕がなく

なったという理由から、インパルスは常にフォースシルエットの完成形態で格納されていた。

ただし、シルエットを組み替えるとなったら今度は大騒ぎであるが。





機動戦士ガンダムSEED True Destiny

 PHASE-52 『ストリーム』





「はぁ……緊張します……」

 アークエンジェル格納庫。

 オーブの宇宙用パイロットスーツに身を包んだ少女兵が、緊張した面持ちで息をつきながら、

胸をきゅっと握り締めるようにしている。

 本物のラクスが亡くなり、誰も彼もがミーアについてきたわけではなかった。

 その例がドム・トルーパーの3人組だった。アークエンジェルが出撃することになった直前、

「ラクス様がいない以上、勝った所で戦後私たちの立場も何も無いだろう? だからここで抜け

させてもらうやね、後は好きにやんな」

 などと言い残して、アークエンジェルを去っていった。

 彼女らはいわばラクスの私兵のようなものだったから、無理に引き止めることもできない。

 やむを得ず、オーブ軍から新たにパイロットを募り、ムラサメとイングラムを割り当てて搭乗

させた。だが、急な事ゆえ、腕っこきというわけにも行かず、地上の治安部隊やらから引き抜

いた新兵といって差し支えない、それも少女兵ばかりだった。

「大丈夫、初めてじゃないんだろう?」

「宇宙空間での実戦は、初めてです」

 タラップに立っているキラに声をかけられて、その少女は言い、ごくり、と息を飲み込んだ。

「肩の力を抜いて……平気、平気」

「はぁ……従姉妹そろってなにか、MSに因縁でもあるんでしょうか?」

 どこか諦めたように言い、シートに身を沈めるようにする。

「従姉妹?」

「いえ、何でもありません…………すみません、出ます」

 少女兵はコクピットを閉じる。キラが控室に退避すると、格納庫の扉が開かれ、イングラムが

発艦デッキへと進む。

 控室に入ったキラは、一度、パイロットスーツのヘルメットを脱いだ。

 その傍らに、ミーアもきている。他の搭乗員を激励していた。ステージや演説で使っていた

あのハイレグ衣装でである。一応、オーブ軍属として腕章をつけさせられていたが。“ラクス・

クライン”として同道することを決めた以上、その象徴であるこの衣装をまとうと決めたのだ。

 …………もっとも、本物のラクスの衣装を着ける事も考えられたのだが、それは純粋な物理

的理由で没になった。

「ミレッタ・ラバッツ、イングラム、出ます!」

 カタパルト待機位置から、アークエンジェルのリニア・カタパルトによって、少女兵を乗せたイ

ングラムが射出される。

「ラバッツ? もしかして、従姉妹って……」

「どうかしたの?」

 キラの言葉に、ミーアが振り返る。

「うん…………」

 キラは振り返ることなく、耐圧ガラス越しに格納庫に視線を送っていた。その視線の先で、金

色のビームコーティングに身を包んだMSが動いている。

「ネオ・ロアノーク、アカツキ、出る!」

 ミレッタのイングラムに続いて、ネオの乗るアカツキが射出された。

 2隻は4機のMSにその前後方を警戒させながら、目標地点へと進む。

「ランデブー地点に接近……レーダーの反応、味方艦隊以外に反応あります、ザフト艦!」

 ミネルバブリッジ。淡々と言いかけたアビーの声が、途中から興奮したような口調に変わる。

「砲撃戦用意……射撃は待て!」

 マリューはそう命令を下す。

 ザフト艦であれば当然敵である可能性は高い。しかし……

『待ってください!』

 メインスクリーンに、アークエンジェルの司令官席、から身を乗り出したミーアが、困惑した様

子で声を上げる。

『あたしに彼らと話を……無駄かもしれないけど、ラクスに彼らを説得させてください』

 タリアはその言葉に、頭を抱えてため息をつく。戦争はそんな甘いものではない。それですめ

ば軍人など要らない。

 ただ、今回ばかりはその甘い考えもまったく否定できない。

「念のためですよ。たぶん戦闘状態にはならない。少なくともすぐには」

『えっ?』

 ミーアはきょとんとして、聞き返してしまう。

「戦闘中ならこんなにレーダーに堂々と捉えられませんよ。NJでレーダーを無効化するか、こ

ちらのレーダー波を逆探した時点で何らかのアクションをとっているはず」

『そうなんですか?』

 ちんぷんかんぷんな様子で聞き返してくるミーア。おそらく単語ひとつひとつが漠然とした以

上にはわかっていない。タリアはもう一度ため息をついた。

「様子を見ながら接近します」

『わかりました』

 そう言って、一度アークエンジェルからの通信は切れる。

「艦種推定、ローラシア級1、ナスカ級1、護衛艦2です」

 アビーが報告してくる。もし敵だったとしても、この程度の戦力ならミネルバとアークエンジェ

ルの能力なら鎧袖一触だろう。

「有視界内に入ります!」

 至近にオーブ艦隊も存在する。だが、交戦している様子はない。平行して並んでいる。

「ナスカ級、ルソーから、本艦とアークエンジェルに呼びかけています」

 アビーが、マリューを振り返るようにして言う。

「回線を繋いで頂戴」

「了解しました」

 メインスクリーンに映ったのは、ブロンドに褐色肌の青年。

『歌姫の座乗艦は、どちらかな』

 細い目の切れるような表情で、彼は尋ねてきた。

 それに、誰よりも先に反応したのは、

『ディアッカさん!?』

 アークエンジェルに乗る、キラだった。

 アークエンジェルブリッジ。

『キラか、久しぶりだな』

「ディアッカさんこそ! ラクスの為に来てくれたんだね!?」

 キラは表情を輝かせて、言い返す。ディアッカは不思議そうな表情をして、軽く首をかしげた。

「ディアッカ、あいつ本物のラクス知ってるからね、気をつけて」

 キラとディアッカのやり取りの間に、ミリアリアはミーアに含む。

『それで、ラクス姫はアークエンジェルにいるのか?』

「うん」

 ディアッカの問いに、キラは何のためらいもなく答える。その瞬間、ブリッジの他のメンバーに

緊張が走った。

「ラクス、ほら、ディアッカさんが代わってくれだってさ」

「え、あ、うん……」

 ミーアはいったん生返事を返しておいてから、ごくりと喉を鳴らし、端末がつながるのに身構

える。

 ミーアの座る司令官席のコンソールに、メインスクリーンと同じディアッカのバストアップ像が

映し出された。

『アンタが“ラクス・クライン”?』

 微妙に含みのある口調でディアッカは言う。しかし、ミーアを含め、キラ以外のアークエンジェ

ルクルーは、気が気でそれどころではない。

「そう……そうです……わ」

 ミーアが低くした声で答えると、しばらくの沈黙がある。

 ミーアは、表面上は平静を装うが、今にもないて逃げ出しそうな状態だった。



 ────個人的に面識ある人に、こんな場面でごまかしきるなんて無理だよぅ



 ディアッカは沈黙し、あちら側でミーアの姿を凝視しているのがモニター越しにもわかった。

そして、口を開いた────。

「ぐ、グゥレィトオ!!」

 サムズアップつきで、満面の笑顔で言うディアッカ。

 一瞬、呆然とするアークエンジェルクルー。否、ミネルバ、ルソー、その他その場に居合わせ、

通信を受信していたすべての艦のブリッジがあっけに取られて沈黙した。

「ゴルァディアッカ! 今のはどういう意味だ!」

 アークエンジェル側の送信がミーアからミリアリアに変わる。ミリアリアは右手の中指を突き

上げるしぐさをしながら、憤ったような表情でディアッカに怒鳴りつけた。

『げっ、ミリィ! やっぱりいたのか!』

「いたのか、じゃないっ! 今の『グェレイトォ』はどういう意図で言ったのか白状してみぃっ」

『い、いや、それは……だな』

 モニターの向こうでたじろぐディアッカ。

 マリューはため息をつきながら、今度は自分に回線を切り替える。

「マリュー・ラミアスです。久しぶり、ディアッカ・エルスマン」

『お、どうも久しぶりっス』

 とたんににやけ顔に戻るディアッカ。

「あなたがそちらのリーダー? これはいったいどのような意図があって?」

 マリューが冷静な顔でたずねると、ディアッカは苦笑で返す。

『大方は、新ラクス・クライン・ファンクラブ過激武闘派、といったところかな。ラクス嬢の意見が

優先という、危ない連中だ』

 そう言って、肩をすくめる。

「ラクス・クライン・ファンクラブ……って……っ」

 ミーアは疲れきったような苦笑で、コンソールに突っ伏しかける。

「まさかディアッカ、アンタもその1人じゃないでしょうね?」

 ミリアリアが刺すと、ディアッカは少し狼狽の色を見せながら、

『ちがうっ!』

 と、反応する。

『俺はな、デュランダル議長の言うことにも懐疑的なんだが、いまさらああいう手合いと一緒に

やるのは好かなくてな。他にもそういう連中が一緒だ』

「それでは、あなた達はR.ZAFTではなく従来どおりのZAFTに従う、という解釈でいいのでし

ょうか?」

 マリューが聞き返すと、ディアッカは真剣な表情に戻って頷いた。

『ああ、かまわない』

「との事です、タリア指揮官」

『了解した』

 タリアがモニターに出た瞬間、ディアッカの後ろから

「おお、また女性だぜ」

「しかもグラマー」

「でもタリア・グラディスって確かバツイチの子持ちだって聞いたぜ?」

「だ が そ れ が い い」

とか聞こえてきた。

「…………」

 見えていないと知りつつ、ジト目でディアッカをにらむミリアリア。

 司令官席でぐったり脱力しているミーア。

『こほん』

 タリアが顔をしかめつつ咳払いをすると、そうしたノイズが一応は静かになった。

『私が現在ZAFT暫定総指揮官に任じられているタリア・グラディスだ。貴官らの指揮権は私

に帰属する。それでよろしいか?』

『とりあえずは』

『解りました。それではよろしくお願いします』

『こちらこそ、総指揮官殿』

 ディアッカはきりっとした敬礼で返した。

「ねぇ、ディアッカさん」

 わずかに間をおいて、キラが通信に割り込む。

『ん? なんだ?』

「イザークはどうしたの?」

 キラがたずねると、ディアッカはあまり浮かない様子で答える。

『いや、俺達とは別行動でな。あいつのことだから大丈夫だとは思うが、立場的に微妙だから

な』

 かつてイザークは母エザリアの属するザラ派を離反して、クライン派の残党とも言えるラクス

についたことがある。とはいえ、その時のザラ派のリーダーはパトリック・ザラだった。パトリッ

クが斃れた後もエザリアはプラント政権にとどまり続けた。イザークの離反はむしろプラスだっ

た。

 だが、今度はそういうわけには行かない。担ぎ出されたのか自ら立ったのかは不明だが、エ

ザリア自身がトップだ。イザークが離反することは母親と直接対峙することになる。

「それと……そうだ、アスラン! ディアッカさん、アスランは見なかった?」

『アスラン?』

 キラの問いに、ディアッカは意外そうな顔をして、鸚鵡返しに聞き返した。

「オーブの検証員として、ダイダロスに言ってたはずなんだけど、連絡が取れないんだ」

『あー……』

 キラの言葉に、ディアッカは納得したように声を出した。

『オーブの検証チームとしてあそこにいたとしたら、多分拘束されてるだろう』

「そんな……」

 ミーアが不安そうな表情で、メインスクリーンを見上げる。

「そうか……そうだよね」

 キラは落胆したように、その場でうつむいた。





「本当にわれわれに組するのか?」

 白服の男が、半信半疑の声をかける。

「勘違いしないでもらいたい。俺の一番の目的は、デュランダルの作り出す絶望を止めること

だ。プラントのあり方については、その後で意見させてもらう」

 ザフト赤服にそでを通しながら、そう答える。

「敵の敵は味方、と言うことか」

「そうかもしれないが、それほど極端でもないと思う」

 言うと、顔を上げる。

「俺は、パトリックの息子だ」

 アスランは険しい顔で、きっぱりと言い放った。







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