機動戦士ガンダムSEED True Destiny PHASE-51B

Last-modified: 2007-11-17 (土) 19:07:22

「……この子、まだあったんですね…………」

 ミーアは目を円くして、それを見上げる。

 目の前にそびえるMS。

 それは全身をショッキングピンクに塗装されており、盾のみネイビーブルーにピンクの縁取り

になっている。そして、『Lacus Clyne Alive!』の文字が描かれていた。

「いや、こいつは2代目です」

「2代目?」

 照れたように言うザフト赤服を、ミーアは振り返る。

「前のはザクウォーリアだったでしょう。こいつはグフイグナイテッドですから」

「ふーん……」

 MSに造詣の深くないミーアにとっては、せいぜい肩の角が違う程度にしか見えない。

「あのニセモノ騒ぎが起きなけりゃ、この2代目でド派手なパフォーマンスができたものを」

 FATHの襟章を付けたザフト赤服が、拳を握り締めて震える。

「あ、あはは……」

 自分の方がニセモノでした、とは、現時点では言えない。





「アークエンジェルのマスドライバー設置、急いで! ミネルバもスタンバっておくのよ」

 指示を飛ばすマリュー。

「マリューさん!」

 ミーアがそこへ走ってくる。

「あたしも、一緒につれて行って貰えますか?」

 ミーアの言葉に、マリューは一瞬キョトン、とした後、苦笑する。

「てっきりそのつもりだったわ」

「え」

 今度は、ミーアの方が目を円くしてキョトンとする。

「本物のラクスなら当然って顔でついてきたわよ」

「…………ええと、そうなんですか?」

 マリューが困ったような苦笑で言うと、ミーアはどんな顔をしていいのかわからないといった

感じの苦笑を浮かべる。

「それに」

 マリューの顔が、真剣、深刻なものに変わる。

「キラの事があるでしょう。離れて宇宙に上げて良いものか」

「本人、ホライゾンで出る気満々ですけど、大丈夫でしょうか……」

 ミーアも心配そうな表情になる。

「なんとも言えない、でも彼がそうしようとしているってことは、相当の覚悟か何かがあるはず」

「相当の……覚悟?」

 ミーアは首をかしげる仕種をした。マリューは頷きで返す。

「彼、本来は受動的な性格なのよ。それに、戦うことと言うか、その結果、人が死ぬってことに

かなり抵抗があるみたい」

「それで、コクピット直撃を嫌うんですね」

 ミーアはそう言って、気まずそうな顔をした。

「有名だったでしょ? “不殺のフリーダム”って」

「はぁ……」

 目元を緩ませて言うマリューに、ミーアは何か言いかけて、

「……まぁ……そう、ですね……」

「?」

 とり合えずといった様子でマリューの言葉を肯定するミーアに、マリューの方が不思議そうな

顔をした。

「……良いけど……とにかくその彼が積極的に出たがっている以上、逆にとめるのは至難よ。

たとえ“ラクス・クライン”でもね」

「理由は、なんでしょうか……」

 ミーアは困惑しきった様子で訊ね返す。

「多分……デュランダル議長が狙撃された時、貴女とキラと2人とも目の前にいたんでしょ

う? ジブリールの件もあるし、背負い込んじゃってるのかも」

「そうですか……」

 ミーアはなんとなく釈然としない様子だったが、かといってマリューが、キラの心のうちを読

み取れるわけでもない。

「お役に立てなくてごめんなさいね」

「あ! 別に、そんなわけじゃないです!」

 マリューが少し申し訳なさそうに言うと、ミーアはぶんぶん、と首を横に振って、苦笑した。

「それより、お邪魔することになっちゃいますけど、よろしくお願いします」

「歓迎するわ。でも、戦闘行為はプロに任せて欲しいわね」

 マリューがクスクスと笑いながら言う。ミーアは、苦笑しながら返す。

「あたし、ぜんぜん解りませんから、そういうの……おとなしくしてます」

 マリューは眉を下げて苦笑した。





「わたくしは、ラクス・クラインです」

 ミーアは緊張した面持ちで、カメラに向かい、言葉を発する。

「不本意ですが、わたくし達はまた、戦わなければならなくなりました。ロゴスがなくなって、ブ

ルーコスモスは世界を動かすほどの力を持たなくなりました。けれど、それでも足りないという

人たちが、今、プラントを乗っ取っています。R.ZAFTの人たちは、ブルーコスモスの人たちが

そうだった様に、ナチュラルを滅ぼさなければ気がすまないのです。けれど、そうなる前に、プ

ラントも地上もボロボロになってしまいます。今までよりももっとたくさんの悲劇が起こってしま

います。その為、わたくし達、本来のZAFTと、オーブ宇宙軍の連合部隊は、R.ZAFTと戦うと決

めたのです」

 ────どれほどの者が、気付いただろうか。

「その前に、わたくしは、今、プラントを守るために動いている、宇宙のZAFT部隊の皆さんに、

メッセージを送ります。プラントの軍人として、政府の命令で働くのが当然だということは、解っ

ています。わたくし達もその覚悟はできています」

 引き締まったミーアの表情。

「けれど、もし、R.ZAFTの考え方に疑問を持っているのなら、わたくし達の力になって欲しいの

です。わたくし達の味方になって欲しい、できれば一緒に戦って欲しいけれど、それが無理な

ら、戦わないだけでもいいのです」

 サボタージュを示唆する内容だ。正直、褒められたものではないのだが、この手の謀略放送

は、商用ラジオ放送が登場して以降、古今東西どの戦場でも行われている。

「お願いです、世界に平和を取り戻す為に、わたくし達に力を貸してください」

 とは言え、謀略放送の何たるかもよく理解していないミーアにとって、本心を吐露しているに

過ぎない。表情も、裏表のない様子が出てしまっていた。





 放送の収録が行われた後、ミーアは連絡用のホバークラフトで、カグヤ島のマスドライバー

に設置されているアークエンジェルへと向かった。

 プラント国籍のミーアは、本来ならばZAFTの総旗艦であるミネルバに搭乗するべきだろう

が、キラとの関係がある以上、それはできない。

 そのミネルバも、マスドライバーへの誘導路の前で待機している。

 連絡ホバーからカグヤ島のマスドライバー施設に降りたミーアを、待ち構えていたかのよう

に、ザフト赤服が進み出てきた。もちろん、ピンクグフの主ではない。

「ラクス・クライン……で、よろしいか?」

「貴方は……え!? レイ・ザ・バレル?」

 ミーアは驚いて、思わずレイを指差してしまう。シンと並ぶミネルバ登場のエースパイロット、

その名前と顔ぐらいは記憶していた。

「俺を覚えていてくれるとは、光栄です」

 レイは妙に丁寧な口調で言う。

「そりゃあ、ZAFTのエースパイロットの名前ぐらいは、あたしだって……でも、あたしに何の用

なのかな?」

 ミーアは、顔を優しげな微笑みに変えながら良い、そして最後にそれが一瞬引きつった。

「まさか、サインに握手?」

「…………?」

 レイは一瞬、きょとんとして立ち尽くしてしまう。

「いや、貰えるのなら光栄だとは思えますが……それよりも、俺は貴女に御礼を伝えたかった

んです」

「お礼?」

 今度は、ミーアがきょとんとして、動きを止めてしまう。

「あたし、貴方に何かしたかな?」

「はい、大切な事を気付かせてくれました」

 レイはそう言って、柔らかく微笑んだ。

「大切な事?」

「はい」

 ミーアはますます解らない。こめかみに両手の人差し指を当てて考え込む。

 そして、

「まぁ、とにかくそれで、貴方が元気になったんなら良かったわ」

 あっさり考えることを放棄しつつ、微笑みをレイに向ける。

「ラクスー」

 パタパタと、レイの来たのと同じ方から、今度はキラが走ってくる。

「何してるの……あれ……?」

 キラはミーアの隣まで駆けてきて、言ってから、レイの顔に視線を向ける。

「キラ・ヤマトだな?」

ミーアに対するのとは一転、少し固い口調で、レイはキラに話しかけた。

「そうだけど……」

「俺はレイ・ザ・バレル。ミネルバのMSパイロットだ。よろしく頼む」

 そう言って、レイは右手を差し出した。

「うん、こちらこそ」

 キラはそれに応じて、レイと握手を交わした。

「ラクス、貴女もよろしく」

 レイがミーアの方に手を差し出すと、ミーアも少し戸惑った様子でレイの手を握った。

「うん、よろしくね」

 ミーアはにこっ、と笑顔を向ける。

「それでは、俺はミネルバに戻ります」

 レイはそう言って、踵を返しかけた。

「そうだ、僕達も早くアークエンジェルへ!」

 キラは、ミーアの手をとって、走り出した。

「あ、ちょっと、待って」

 キラに引っ張られて走り、追い越していくミーアを見つつ、レイは落ち着いた、どこかすがす

がしい表情で歩く。

 ──たとえ影武者であろうと、クローンであろうと、個は個だ。レイという人格を、生きた跡を

消すことはできない。俺はそんな、単純なことも、忘れていたんだな……



「主機関正常起動確認、全機構異常なし」

 ミリアリアがモニターに視線を向けたまま、高らかに言う。

「あの、あたし、こんな偉そうな席に座っちゃってて良いんでしょうか……?」

 場違い感を感じて、引きつった苦笑のミーア。

「仕方ないわね、打上シークェンス時に余っている座席はそこしか無いから」

 一段低い艦長席から、指揮官席に座っているミーアを振り返り、マリューは微笑ましそうに

苦笑して言う。

「良いんだよ、ラクスはそこで、大きく構えていれば」

 キラが、横から声をかけてくる。

「そうね、“ラクス”はいつも、その位置で構えていなきゃね」

 マリューは悪戯っぽく笑って、姿勢を戻した。

「ふぇぇ~、そ、そうなの~」

 ──ラクス様って、軍人……じゃなかったわよね? 第一、これ、元々は連合の戦艦じゃな

かったっけ?

 涙目で不条理を感じているミーアを他所に、中央のスクリーンモニターにタリアの姿が映し

出された。





『私の下に集ってくれたZAFTの諸君、そして、連合部隊として共闘を受け入れてくれたオーブ

宇宙軍の全将兵に感謝の意を述べる。これから我々は、プラント奪還の為R.ZAFT本拠地で

あるアプリリウス・コロニーへと向かう。言うまでもなく賊軍は敵である。しかし残念ながら烏合

の衆であるのは我々の方だ。オーブ軍はともかくとしてZAFTの部隊は寄せ集めに過ぎない。

不利な戦いが予想されるが、この状況を覆すべく各員の努力奮闘に期待する』

 タリアの表情は険しい。決して楽観はできない。

 R.ZAFTが掌握していると思われる戦力と、ZAFT・オーブ連合部隊のそれは、艦艇の数では

ほぼ同数。しかし、戦艦と呼べる主力艦はアークエンジェルとミネルバの2隻のみ。イズモ級2

隻はアメノミハシラ防衛の任務があるし、スサノヲとツクヨミは中立都市に秘匿されているとい

う事実がまずい状況の為動かすことすらできない。

 余談だが、この2隻は近く解体が予定されている。デュランダルが提示した案はオーブが違

反金を支払うこととの2択であったが、このまま宇宙での戦争は終わると思っていたオーブは

解体を選択してしまっていた。

 閑話休題。彼我の戦力差は、MS運用能力でR.ZAFTが圧倒的に上。ただ艦艇の火力は、

陽電子砲を備える2隻のいるZAFT・オーブ連合部隊のほうがかろうじて上といえた。

『それでは、総員戦闘体制に入れ。状況はコンディション・レッド。以上』

 タリアの通信はそれで終了した。

「アークエンジェル、大気圏離脱。発進」

 マリューの下令と共に、マスドライバーがアークエンジェルを射出する。メインスラスターを全

開にし、熱と光を放ちながら上っていく。

 続いて、ミネルバがその位置につく。

「大気圏離脱準備、総員対衝撃備え」

 ミネルバの艦橋でタリアが指示する。

 ミネルバの艦長はタリアが“指揮官兼任”の形をとっていた。

「機関出力正常、全機構異常なし」

 アビーの声が響く。

「ミネルバ、大気圏離脱。発進」

 あたりに轟音と衝撃波を振り撒きながら、マスドライバーはミネルバを射出した。

 2隻は、蒼穹の空を越え、やがて2つの光の筋となった。







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