後年、この世界に来て俺の運命に深く関わった男の一人であり、そして生涯の友との出会いを思い返す時がある。
その男、ラウ・ル・クルーゼとの初めて出会いを
金髪の白いザフトの軍服、そして仮面。
白いジンのパイロット。
初めて見た彼は、『赤い彗星」――
俺の人生を狂わせたのか?それとも道を示してくれたのか?
そのどちらにでも取る事ができる人物を思い出す。
彼は整備兵の盛大な文句をあっさり聞き流しながら迷いもせずに俺に元にやってきた。
今の俺の格好は一般ザフト兵が着ている緑のノーマルスーツだ。
一見したところで、特別には見えないはずなんだが。
彼は俺の前に立つと
「今更になるが自己紹介をしよう……ラウ・ル・クルーゼだ」
と握手を求めてきた。
僅か数分前に俺たちは互いの命を賭けた死闘を繰り広げていたのにも関わらずに……
勝負は勝負。これはこれというわけだ。
男同士が互いを理解し合うには死力を尽くすことが多々あるのだ。
俺も笑顔で相手に応じ素直に自分の名前を言う。
「ハサウェイ・ノアです」
仮面で表情は判りにくいが相手も微笑みながら、やや揶揄するような感じで
「そして――“正当なる預言者の王”――『マフティー・ナビーユ・エリン』でもある」
「ん?」
なんだと?俺は一瞬、聞き違いかと思ったが――
それは、互いが握手をした瞬間だった――
パァァァァァァァァァァァァ
幻想的な宇宙空間のイメージが広がる。
「む?」
相手も自分と同じ感覚でいるのが理解できる。
ここまで強烈なデジャブ――新たな経験であるにも関わらず、既にそれを経験したという感覚は今までないことだ。
「これは!?――そういうことなのか?」
俺は思わず声が出ていた。
瞬間的に相手の意思と自分の意思が交差した宇宙空間のような感覚――『ニュータイプ能力』
自分は出来損ないニュータイプだと決め付け、感知能力がやや高い程度にしか感じてなかったとういうのに。
戦いの中で敵同士として出会った“ニュータイプ戦士”と”彼女”が初めて接触した瞬間はこのような出会いだったのだろうか?
俺の周りにはニュータイプと言われた人達はいた。
彼らは超人的な行為を成し遂げてきた。
伝説のニュータイプ戦士と謳われた男は地球を救った。
その人達に比べたら自分はニュータイプ的要素はないのでは?と常に卑下していたのだ。
この異世界――“C・Eの世界”に来てから急激に“能力(ちから)”が目覚めていく。
次元を超えた事により何らかの作用が出たのか……それとも……
相手の方も初めての感覚に戸惑っているようだ。
「……宇宙(そら)が見えたよ……君の心を感じた……人というのは言葉が無くても分かり合えるものなのだろうか?」
彼は何か怯えているようだった。俺は答える。決して自分でも完全な答えだとは思っていないが
「ニュータイプと呼ばれる人たちは互いを感じ合い、そして分かり合うことができる」
一瞬の意思の交錯が自分達の心の奥の深い部分のどこかに「何か」を残した。
言葉を介せず分かり合えるということはニュータイプにとってごく、初歩的なことなのだろうか?
「オールドタイプてのは言葉だけで相手を理解した気になる。そのくせ、世界を滅ぼしかけているのも気がつかない」
宇宙の汚染を想像する能力を身に着けた人類は宇宙でも戦争を行使するという愚を犯している。
戦争が出来ない人は、人ではないという恐怖が人を駆り立てるのかもしれない……
それが俺がいた世界だった。人は言葉で相手を理解したつもりになるのだ。
「人の革新――『ニュータイプ』……私もそうなのだろうか?」
彼は何か深く考えこんでいるようだ。そして答えを俺に求めている。だが俺にはそこまではわからない。
だから、俺は彼の求めてる答えとは完全な答えとは言い難いことしか答えられない……
「そうだな。それが第一歩だと思う。自分が『ニュータイプ』だと理解するは難しいものだよ」
ニュータイプは決して万能なものではないし、他人の心の一部は感知しても自分の心の中は完全に理解できない。
だがその能力故に戦争に利用され続けてきた。
俺の世界では『ニュータイプ』と呼ばれる人たちは決して幸せではなかったのだ。
「お? ハサウェイ! それとラウ! そんなところにいたのか」
黒髪で長髪の男が俺達に声をかけて来た。
俺達の雰囲気を全く察しないで遠慮なく話しかけてくる。
まぁ、いいタイミングだったかもしれないが。
「「ギルバート」」
俺とラウの声は見事にハモる。
ギルバートは屈託なく笑いかけてきた。
「探したよ。二人ともこんなところで何をしているんだい?」
ラウは多少の皮肉をきかせながら
「君は幸せだなギルバート」
「それは、どういう意味かねラウ?」
しみじみとラウはギルバートに声をかける。
少し、ムッとしながらギルバートもラウの揶揄に答える。
二人を見ると悪友というイメージが浮かぶ。
そういえば俺はギルバートにまだ礼を言ってないことを思い出した。
「悪かったな。無理を言って」
俺はこの世界のMSを知りたくて無理を言って、ザフトの「ジン」に乗せてもらったのだ。
そしてギルバートは俺の願いを快く応じてくれたという訳だ。
「なに、なんてことはないよ――と言いたいが実は骨を折ってくれたのは、実はそこにいるラウの方なんだ」
そうなのか?俺はラウの方に顔を向けた。
彼は軽く頷く。
まだあの衝撃の余韻があるのだろうか?
「前に君に話しただろう? パイロットに親しい友がいると。彼がそうだ」
あっさりギルバートは自分は全く苦労していないことを白状した。お膳立てしてくれたのはそこにいる仮面の男だと
俺はギルバートを無視してラウの方に向き直し、姿勢を正して頭を下げた。
「ありがとう、礼をいうよ」
「いいさ。私も君に興味があったのだよ。そして実力を見てみたかった」
と意味深に一言付け加える。俺も茶目っ気を出して
「僕がもし死んだらどうするつもりだったんだ?」
と答える。彼は軽く笑いながら応じた。
「それなら、それまでの男と割り切っていたよ『マフティー』」
その名前の意味を知っているなら――彼もギルバートの同志ということになるのだろうか?
俺は黙っていた。
ギルバート達の深いところまで聞くつもりはない。俺はまだすべてを決めた訳ではないのだから。
だが……
「さて、ハサウェイはこれから予定はないだろう? ラウもどうだ? 3人の出会いを祝して」
と一方的にギルバートは宣言しラウもそれに応じる。
出撃前なのだろうが!
そして俺達はギルバートの奢りで飲みにいくことになった。