機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第24話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:16:31

C・E70年6月2日

――?????――

「よく、プラントからここ(月)まで一人で来たものだ……」

ムシャムシャと携帯食を口にし、これまた携帯用の飲料水をガブガブと飲みながら
『カーゴ・ピサ』――隕石に偽装し『Ξガンダム』を収納した『カプセル』の中のデッキで、俺は自分自身を自画自賛していた。

「さてと、目的のポイントまで後、僅か。それまで、この偽装用の『カーゴ・ピサ』でどこまで接近が通じるものやら……?」

俺は用意していたハンドヘルドのPCを開くと、ラウが明かしてくれたザフト軍の作戦内容をもう一度確認する。

――『6月2日10:00を以って総攻撃を開始する』
――『君はその前後の隙を見て『エンディミオン』の資源供給基地に侵攻し完膚なきまでに破壊して欲しい』
――『そして、私の第3艦隊攻撃を支援してくれよ?』

で、これの他に俺が情報に目を通していると、ラストのとこで急にメッセージが追加された。

――『追伸:お互い存分に楽しもうじゃないか。撃墜数は君の方が上だろうな?だが私も負けるつもりはないぞ?』

――『ホワイト・ワンより親愛を込めて ユニコーン・ワンへ』

……

「ぶっ!」

俺は思わず噴出した。
最近、茶目っ気がたっぷり出てきやがった『親友』に対して

「――ユニコーン・ワン、了解。貴君の、親愛の情を心から感謝する、と」

PCにキーボードで打ち込む。

流石に、今は作戦前なので通信は出来ないが、そう言って感謝して置こう。
後でたっぷりとお返しすればいい。

「……わかっているさ……『ガンダムを見た者は死ぬ』てね……」

俺は口元に笑みを浮かべる。恐らく、酷薄な笑みだったろう。
命なんぞ軽いものだ。それが他人なら尚更だろう。

死にかけてから自覚した事は、皮肉にも『命』というのは大安売りの特売品だということがわかった事だろう。
ましてや、他人の命などは地球より重いどころか羽毛よりも遥かに軽い。

そう思いながら。鏡を見たら「何て悪人だろう」とガックリと肩を落としたかもしれない。
まぁ、いい。

「俺て、やっぱ『悪人』なんだよね」

と苦笑した。
そして、『Ξガンダム』を見上げる。

その『シールド』には誇らしげに『赤いユニコーン』のエンブレムが輝いていた。

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――秘密基地・ガンダム収納ドック――

――出撃の前日――

「よし! 完璧だな。ごくろうだったねサラ」

「はい。準備万端です。これでいかなる『敵』をも粉砕できます!」

俺とサラは『Ξガンダム』のチェックを全て終え、完璧な仕上がりに喜びを分かちあっていた。

「チェックも終わったし。後は出撃するだけだな」

「カーゴの準備も終了していますしね。まさか、偽造用に隕石でカモフラージュして敵地に接近とは……盲点でした」

「古典的だけどね。向こうじゃ月から地球まで、こうやって運搬したんだよ。何とフルオートでね!」

「本当ですか!?」

俺が『向こう』で『アナハイム』でのテストを終了し、卸したての『Ξガンダム』を地球へ移送した時の事をサラに話すと
彼女は驚きの余り、思わず両手を合わせようとして、

バサリっ!

と持っていた書類の束を落とした。

「あっ!?」

「ほら、慌てないで」

と俺は、サラが落とした書類を拾い始めた。

「……申し訳ありません」

「謝る必要なんかないさ……ん? これは?」

俺は書類を拾いながらサラに尋ねる。

「これは……その……『マフティー』の人手不足を解消しようとしまして……私が独自に集めたリストアップなのですが……」

恥ずかしそうにサラは答える。
実質、『マフティー』構成員は一応はリーダー兼唯一の『戦闘員』が俺一人に、後は、サラだけだ。

『司令官』気取りのギルバートなどは、無くても困らない置き物にも等しいし、
ラウの奴は、『名誉会長』とやらを盾にして自分からは全く動こうとしやがらない。

サラも苦肉の策だろう。
かなり彼方此方から人事資料をかき集めたらしい。

優秀なら前歴を問わずに集めたようで、なんと犯罪者の名簿まであった。
……性犯罪者だけは勘弁して欲しい。

そうして、俺とサラは床に撒き散らされた名簿書類をかき集めていると……
ふと、ある書類に目が留まり、俺はその書類に目を通し始めた。

「『英雄』――『ヴェイア』?」

何か『勘』に引っかかりその書類を改めて読み始める。

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『グゥド・ヴェイア』

ザフト軍に属するエースパイロット。
初陣では友軍が全滅したにも関わらず、単機で戦闘を続け敵部隊を壊滅させるという華々しい戦果をあげる。
彼専用にカスタマイズされた『真紅』のジンを拝領しそれを駆って数々の作戦を生き抜いていたことから『英雄』と言う二つ名が付く。

彼の戦闘力は異常なまでに高く、『英雄』の名に相応しい戦果を挙げ続ける。
その後も一年もの間、彼は一度も負けず、逆に彼を敵に回した部隊は常に全滅の憂き目にあったという。

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――こいつは、凄まじいな。と俺が感心しながら読み続けていると……
おかしな疑問点が出てきた。

「ん、なんだこりゃ?……こんなに功績を挙げてるのに未だに、一介のパイロットとはどういうことだ?
 普通だったら最低、副官クラスか戦隊指揮官になってないとおかしいぞ?しかも、激戦区にたらい回しの上に捨て駒扱いだと!?」

「――マフティー? いかが致しましたか?」

俺があまりにも、す頓狂な声を上げたのでサラは慌てて俺の手元の書類を盗み読む。

「ああ、『英雄ヴェイア』ですか……」

「おかしいだろう?こんなに功績挙げてるのに、この不当の扱いだ」

サラはちょっと首を竦めると俺の疑問に対して話を始めた。

「それが……彼には妙な噂がありまして……」

味方殺し。突然狂いだす。敵味方区別せずに全滅させる。
『英雄ヴェイア』と呼ばれながら黒い噂が流れていると。

「それは、単に噂じゃないのかい?」

「ですが、実際に彼の部隊が彼を残して全滅していることが何度かあったそうです」

一度は偶然でも二度三度も続くと必然ということにならないのだろうか?

「その為に彼、グゥド・ヴェイアは昇進も出来ずに戦場をたらい回しにされているそうです、しかも激戦区を」

だから、上層部は彼に戦場で死んで欲しいのでしょうね。
とサラはそう話を閉め括る。

「そうか……」

酷い話だ。

しかし、俺は妙にこの男が気にかかったのだ。
それは、俺が彼の境遇に同情しているからなのだろうか?

いいや違う。その程度の事は戦場では日常茶飯事のことだ。珍しくも無い。
ならば何か?この男に俺は何かの縁とやらを感じのだろうか?
……くだらないか。

グゥド・ヴェイア――

その男の名前を俺は心に刻み込んだ。
この男が、後に俺の側近として重要な存在になろうとは、この時は思いも拠らなかった。

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ビー・ビー・ビー

俺はカーゴの警告音が鳴るのを聞く。
どうやら、もう僅かで目的地に到着するようだ。

俺はガンダムに乗り込む準備をする。

それでは盛大なパーティーを開始するとしますかな。
でっかい、花火を打ち上げて見せよう。

誰もが、大きく見えるくらいの盛大な花火をな――

俺は『Ξガンダム』 のコックピットに乗り込んだ。
それと共に、ガンダムの両目に力強い輝きが宿る。

ウィィィィン ウィィィィィィン ウィィィィィィィン ウィィィィン ウィィィィィィン ウィィィィィィィン

カーゴ内で確かな鼓動が響き渡る。

そして、ガンダムの二つに輝く双眸が俺の目となった。

俺は操縦桿を握る。
ガンダムの腕が俺の腕となる。

俺はフットレバーを踏み締める。
ガンダムの脚が俺の脚となった。

ガンダムの背後にあるメイン・バー二アが輝き始めた。
そう、これが宇宙(ソラ)を翔ける俺の翼になるのだ。

「マフティー・エリン! Ξガンダム出るぞ!!」

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