機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第31話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:20:40

照準を合わせ引き金を引く!

愛機であるハイマニューバを旋回させながら、私は次のターゲットを見つける。
今の私は、索敵センサーも使用せずに敵のMAであるメビウスと味方機のジンとの位置の空間把握が容易くできる。
しかも、敵や味方がどの位置に来るのかという未来予測ともいうべき勘も備わったのだ。

言わば、数秒後に起こる未来を予測できるとも言うべき予知能力。
これがニュータイプの真骨頂だと言うのだ。
彼がいた『UC世界』ではこのMSの戦闘に特化した力は時の権力者に都合の良いように使役されていたそうだ。

メビウスの軌道は単調であり、勘の鋭い者ならば容易に予測はできる。
だが、ここまで完璧に予測できる者は私と……『彼』以外はいまい。

だが――

『ニュータイプと呼ばれる人種がこの世界に介入したことによって、より多くのニュータイプと呼ばれる者達が生まれるのかも知れない』

もう一人の友であるギルバートはそう予測している。

『我々が頂点に立ち、権力を握る。そうすればUC世界のニュータイプ達が辿った不幸は訪れないのではないか』

これはギルバートが出した結論だ。悪くは無いと思う。

私達以外の『ニュータイプ』が生まれる。その可能性がある人物に心あたりはある。

――不幸な私の『弟』である。
私と同じように望まぬ『生』を押し付けられたもう一人の私とも言うべき存在。

あの『唾棄すべき男』の為に辛酸を舐めるのは私だけで十分なのだ。
彼の未来を幸あるものとして残してやりたいものだ。

その為に戦うのはそう悪い事ではないだろう。

世界や人類の為の『正義』『理想』『平和』『愛』……正直に言えば反吐が出る。

そんなもの、コミックの中のヒーローに任せておけば良い。
その事を話すと二人の友人は全面的に賛成してくれた。

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それは『新マフティー結成』を祝う『秘密基地』の司令室を使用した飲み会の席だったのだが……

その場で彼らも私も、それでも世界がおかしくなりそうだったら潰して滅ぼしてしまおう。とあっさりと決めてしまった。
ぐでんぐでん酔っぱらった我々は、既に正気を無くしていたことだろう。

恐らく、以下の会話をしたような気がするが、正直言って定かではない……記憶が殆ど残っておらず、
頭痛全開で昼過ぎに起きてみると私は司令室の床にぶっ倒れていたのだ。無論、残り二人も似たような感じだった。

『うぇーい!! 俺は隕石落しを提案する! あれはコストが大して掛からないからな!』

『おいおい! 肝心のその隕石はどこから調達するんだね? 私はスマートにNJの改良版を雨のように地球や月、
 ラグランジュ・ポイント周辺にばら撒く事を提案するね。エネルギーゼロ。人類はこれで滅びるよ』

『ギルバート! そいつは『クライン派』とか言う輩の十八番じゃないか。何が『穏健派』だ。笑っちゃうね!』

『全く、穴があったら入りたいよ。あっはは! ん……ラウはどうだい?』

『私は大型ビーム砲……『ソーラー……』なんだったかな、ハサ?』

『ソーラーレイだよ』

『そう、それで地球や月。プラントやコロニー郡を撃ち射抜くと言うのはどうだね?』

『そいつはいいや!!』

『名案じゃないかラウ!』

『そうだろう、そうだろう』

『『あっはははははははははははははははっ!!!』』』

と、夜明けまで楽しく飲み明かしたものだったと思う。
ちなみにサラはガンダムにべったりだったので女ッ気はない祝賀会だった。

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ズゥゥン!

「これで6機……!」

メビウスが爆発し四散する。
以前から、ウスノロのMAだとは解っていたのだが、今はもう水族館で見た象亀以下のスピードに見えてしまうのだ。
遅すぎて、尚且つ単調すぎる!動きが全てわかるのだ!

以前から多少の勘が働いていた私なのだが、現在(いま)は大違いなのだ。

超感覚ともいうべきものが、機体周辺から外広がり、更にその果てにある敵の意志……
ハサウェイの言うところの『プレッシャー』というものを感じるようになっている。

この『ニュータイプ能力』ともいうべき凄まじい能力(ちから)は『彼』と出会ってから突然、目覚めたのだ。
それから彼から詳しいレクチャー?を受け、何度か死にそうになりながらも、
日々開発の努力を怠らなかったのだが……

――ピィィィィィン!

脳裏に走るこの感覚!いつ感じても良いものだ。
今度はこちらか!!

私は愛機であるハイマニューバのメインスラスターと姿勢制御バーニアを同時に吹かしながら、
敵機が撃墜できる丁度良いポイントへ移動する。

視界にメビウスの次の動きのモーションが映る。
まるでDVDの再生の早送りのようだ。

操縦桿を握り締める腕が、脳裏に浮かぶその敵の『未来』の動きに合わせ自分の機体を動きを決定する。
その次に照準を合わせ引き金を引く!

ロックオン!撃て!撃て!!敵を倒せ!!!

メビウスに向かって。ハイマニューバのJDP2-MMX22 試製27mm機甲突撃銃が火を噴く!

ドゴォォォン!!

メビウスの中心部に向かいを弾道は走り、装甲を撃ち貫く。
次の瞬間にメビウスは爆発し宇宙の藻屑と消える。

「これで7機……あと何機だ!!」

全ての敵を倒せば味方の被害が減るのだ。
私は次の敵を求めようとすると……私の小隊の列機である隊員の一人が報告を行う。

『クルーゼ隊長!! 敵メビウス部隊の全撃破に成功しました』

「む、そうか? 気が付かなくかったようだ。皆、ご苦労だったな」

その報告を聞き私は肺にたまった息を思いっきり吐いた。
どうやら敵先鋒部隊を撃破に成功したようだ。

後方から別部隊であるジンの群れが次々と我々の先鋒部隊を追い抜いてゆく。
敵第3艦隊の鋭気を撃ち砕くことができたので当初の我々の任務は完了したと言っても良いのだ。

だが……肝心の敵軍最強のメビウス<ゼロ>部隊が出て来ないのは気にはなる。
後続の部隊で対抗できるのだろうか?

その他諸々を短く私は考えをまとめると……一番に気になる事を部下に聞く。

「――被害はどうか?」

『ハッ、さすがに数が多かったので無傷とはいきませんでした。戦死ゼロ。
 ですが3機中破。6機小破の機体がでました。中破した3機の戦闘継続は不可能と判断します』

安堵の息を大きく吐いた。
怪我人は出たようだが、どうやら戦死はいないようだ。

さすが、私の鍛えた精鋭部隊だ。並みの連中ではないのは確かだが、やはり『ジン』の性能と装甲、
そして『シールド』の存在が部下の命を護ったのだ。
やはり、『彼』の構想やカンニンググペーパーやギルバートの政治力を心の中で感謝する。

だが、冷静に部隊の消耗や愛機のバッテリィーの残りの確認と弾の残量などを計算すれば、、
私の明晰な頭脳は部隊の補給と修理の為に一旦、『ガルバーニ』に戻るべきだろうという判断になるのだ。
後続部隊が心配だが、これは仕方が無い。

破損機を中心に護衛しながら艦に戻る事としよう。

「了解した。破損機は直ちに中央に入れ。他の機は防御を優先にしろ。反撃は最小限だ。艦に戻るまでの辛抱だぞ?
 ――ルキーナ! オロール! お前達は私の列機から離れ、破損した連中の穴埋めをしろ」

『はっ! ですが隊長がお一人になりますが……』

「私は大丈夫だ。それに一人に方が動きやすいしな」

『ハッ!! 失礼しました』

「いいさ。私の心配をしてくれるのはありがたい……だが、お前達は生きて帰る事だけを最優先任務と心得ておけ。
 それで十分に任務を果たせるのだ」

『『ハッ!!!!』』

部下達も私の意見に賛同し部隊は一旦後退する事と相成った。

「よし、一旦、補給に戻るぞ! 全機帰還せよ!」

『『了解!!』』

我が先鋒部隊は、一旦補給の為に名誉ある転進をする事となった。

――ローラシア級戦艦・『ガルバーニ』MSドック――

あの後、特に敵の追撃や奇襲も無く我々は母艦に帰艦することができた。

私はハイマニューバの補給と調整をメカニック達に依頼すると
この短い休憩時間でハンドヘルドコンピューターを操作しながら、部隊のフォーメーションの再構築をしていた。
栄養ドリンクを左手に持ち、ストローを咥え、右手だけで操作している。

出撃前に『彼』と一緒に検討しながら想定できるあらゆるフォーメーションを幾つも作製していたので、
パターンを組み合わせるだけの簡単の作業である。

これを『ジン』のコンピューターに入れて各機伝達するのだ。

「よし! OKだ。すまないがこのデータも機体に入れといてくれないか」

「了解!」

「良い整備してくれた礼だ。作戦が終了したら整備班は全員、私の奢りで高いところに飲みに連れて行ってやる!」

「おお!」

「おおっしゃ!! 隊長! 楽しみにしてますよ!」

無論、勘定のツケは全額ギルバートの所に行く予定だ。
私の懐は全く痛まないので、幾らでも高いクラブだろうが高級バーだろうが、
懐を気にせずにどこにでも連れて行くことが可能なのだ。

持つべきものは良い『友』だな。ギルバートよ。

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――プラント・アプリリウス市 デュランダル邸 執務室――

――はっくしょん!!

同時刻。
遠く、プラントでは書類決済に追われた私、ギルバート・デュランダル外交補佐官兼『マフティー』総司令官(仮)は大きなくしゃみをしていた。
傍らには、臨時の秘書官を務めているベルトーチカがいる。

「む、風邪かな……? それとも誰かが私の悪口をいっているのかな?」

「良いお噂ではないのでしょうか? 最近、御評判が上がっていますし……」

最近、私ギルバート・デュランダル外交補佐官のプラント内外での評価が高まり、
正式な外交官或いは他国へ大使として派遣に抜擢されるのでは?最高評議会内での噂が立っているのだ。

私の動きはクライン派だけでなく、ザラ国防委員長の派閥にも水面下に積極的に接触を果たし、それだけでなく
その膨大な資産と潤沢な資金を活用し交際範囲を地球連合加盟国の要人や中立国の要人にも接触をしているのだ。

地球連合と敵対している国は無論のこと、その連合体制に反発する反社会組織や中小ゲリラ組織など
反連合や反ブルーコスモスの組織にも密かに援助を行っているのだ。私の目下の目標は世界規模の『反地球連合』の組織体制を作り上げる事にあった。
プラント一国で地球連合と戦うのは痴人の妄想に過ぎない。
敵が多ければ仲の良い友人を多く作り上げる事が正しい道だ。

その中心となるのが、『反地球連合』組織としての秘密結社『マフティー・ナビーユ・エリン』である。

ザフトとは全く違う、自分の理想目的の為に動く組織を考えていたのだが、実際に動き出すと結局はこのような組織構成となってしまった。

それは別に構わないのだ。
結局のところ、私達が……そしてプラントが生き残るには地球連合を何とかしないと話にならないのだから。
その為の組織作り。自分1代で完成する代物ではないのかもしれないが、

――いいさ。

つい、楽観的になってしまう。
それも、またいいだろう。
『デスティニー・プラン』が駄目だとわかっただけでも収穫があった。

物事はやはり一歩、一歩、土台を固めながら進むべきなのだ。政治などが特にそうだ。
一つの政策を積み上げ、そして一つの害を取り除く。

それの繰り返しだ。早道など存在しない。着実に粘り強く進めてゆくしかないのだ。
それを30年、50年、100年と続けて、いつか実が結ぶ事だろう。

いきなり、正義の味方が突然現れて混乱した世界に乱入し、全ての民をより良い方向に導く事など不可能なのだ。
有り得るとしてもそれは、どこかのおかしな新興宗教のようなものになるだろう。教祖を崇拝し信者はその命に従う。

『デスティニー・プラン』より質の悪いものになるだろう。
物事は、そう都合よく上手い具合に行くものではないのだから。

大多数の一般の人々が、道を間違えてもそれを修正して、正しい時代を模索しながら作り上げれば良いのだ。
一握りの人物たちが世界を動かす事は必要ないのだ。

そして、その次の世代の土台作りをするのが自分の仕事なのかもしれない。
……と、そうカッコよく考えながら鼻水を啜る自分が今ここにいる。

「ッズズッ、いや、きっと誰かが私の悪口を言っているのだろう。ラウか……それともハサウェイか?」

二人の名前を聞き、ベルトーチカが心配そうに呟く。

「お二人ともご無事にお帰りになればよろしいのですが……」

「大丈夫だ。彼等は殺しても死なない。あんな性格の悪い連中があっさり死ぬわけがないさ。悪運だけは強いのだからね」

「……ご自分を棚に上げてよくおっしゃいますね」

む?ベルトーチカは何か言ったかな……?

「いいえ何も。それとも幻聴でもお聞きになられたのでしょうか?」

まだお若いのに……

と彼女は言葉が続け、哀れみの目で私を見る。
何かとてつもなく侮辱を受けた気がしてきたのだが……

「それよりも、この件を片付けませんと……」

ベルトーチカはさり気なく話題を逸らした。
お互いの関係が破滅に向かうのは、どうやら回避できたようだ。

「ゴホン! そうだな……『オーブ連合首長国』か……あれからコンタクトはどうかね?」

「駄目です。正式な外交ルートで来るようにと再三それだけを通達してきます」

「やはり、これ以上のコンタクトは裏目に出そうだな……裏から攻めたほう良いようだ」

「ええ」

真剣な顔でベルトーチカが別の書類を私に差し出す。
こちらは連合の重要開発計画に関する裏ルートからの情報である。
かなりの資金を動かし、やっと入手できた情報だ。

『金の力』は恐ろしい。

世の中大抵のことは『金の力』でまかり通るのだ。
人も平気で殺す事もでき、その罪をもみ消す事も可能なのだ。
その力を私は十二分に承知し、骨身にしみて理解している人間だと思う。

――『G計画』――

差し出された書類のタイトルにはそう記載されていた
大西洋連邦宇宙軍第4艦隊(のちの地球連合第8艦隊)のハルバートン大佐が提案した謎の開発計画。

『マフティー』の読み通りだとして、これが連合のMSの開発計画と考えてみると、
それは水面下を深く静かに進行しているのだろう。

ベルトーチカとも私の考えを理解したかのように頷く。

情報不足の為にまだ詳細な計画は不明なのだ。
これが、『ナチュラル』にも扱えるMSの開発計画なのだろうか?

その書類には『大西洋連邦』の主要人物の名と共に『サハク』という単語が並んでいた。

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