機動戦士ガンダムSEED  閃光のハサウェイ 第37話

Last-modified: 2007-11-29 (木) 21:24:01

『ガンダム』のセンサーが捉えた17の敵影。
有視界に入る直前の事である。
直線的な動きは、モビルスーツの機動では考えられない事だ。

こんなモノは、直ぐに恰好の標的となってしまう。

「――ファンネルを使えば、もっと容易いのだが……」

俺はニュータイプ専用攻防一体型の特殊武装を思い浮かべた。

空間戦闘に於けるオールレンジ攻撃が可能な、この特殊な武装は『ニュータイプ能力』を持つ者が
最大限の真価を発揮できる。

サイコミュによる脳波で遠隔操作が、可能なこの兵器は、ビームや無誘導ミサイル・砲弾等を
目標を中心にして、宇宙空間では全方位の攻撃を繰り出す戦法を取る事が可能なのだ。

目標からすれば、攻撃を仕掛ける側の位置から、予測可能な範囲外の
思わぬ方向から攻撃を受ける為に、不意を突かれて最悪の場合は撃破される事となる。

更に、ファンネルは発生するメガ粒子をファンネル間に面的に展開し、
防御障壁として使用する事も可能である。

俺が知る限り、これを使いこなした『ニュータイプ戦士』達の数は多くない。
自分を含めても10人いるのか、いないかだろう。

使い勝手の悪い武装だが、使い慣れると、これほど便利で恐ろしい兵器はないであろう。

俺は、初めて『ファンネルミサイル』を使用した時に、その使い勝手に良さに驚嘆したものである。
――そして、俺が地球上の戦闘で愛用した『ファンネルミサイル』 とは、
無線式のオールレンジ攻撃用ミサイル兵器である。

サイコミュによって無線誘導が可能になったミサイルであり、
俺が生きた前世界『UC104年』頃に完成した最新兵器でもある。

『ファンネルミサイル』の登場は部分的ではあるが、強力な通信障害が発生する戦場で、
再度、誘導兵器を脅威とすることに成功したのだ。

そして従来のファンネル武装とは異なりビームの発生機構を必要としない為に、
非常に小型化することが可能であり、モビルスーツ単機の搭載数も格段に向上している。

――これが在ると無いでは雲泥の差だろう。

地球上の戦闘ではほぼ無敵の部類に入る。
狙った獲物を俺の意思通りに確実に直撃できる上に、ある程度、敵からの攻撃の回避行動もとれる。

一撃必中。無数のミサイルの一つ、一つをを全て操作するのは正直難しい。

以前の俺では、ある程度のミサイルをまとめて群れとして、
目標に発射しなければならなかったが、現在の俺ならばミサイルの一つ、一つを
全て個別に誘導し、目標に確実に当てる自信と自負があるのだ。

だが、今はその便利な武装を『ガンダム』は搭載していない。
俺も……無い物を今、ねだってどうするのだ。

現在、この世界でも生産が可能な、『ファンネル』や『ファンネルミサイル』の開発をしているが、
まだ、こちらでの実用化は難しいだろう。

その前に、短時間で『Ξガンダム』の規格に合うミサイルを揃えた方に驚嘆するべきだろう。

威力があり、尚且つ小型のミサイルを用意してくれた、ギルバートやサラの手腕に感謝せねば。

既にメインモニターでは、光点だった敵モビルアーマー群を有視界で確認できる。
17の光点はやや蛇行しながらも、真っ直ぐにこちらに近づいてくる。

何やら動きが遅く、おかしいのだが……それはどうでも良い事か。

この時の俺は、『ガンダム』が放つ『ミノフスキー粒子』をそれ程、重要視していなかった。
『ニュートロンジャマー』があるので、そう大した効果はないと高を括っていたのだ。

後になって、かなりジャマー効果を発揮することが判明し、
モビルアーマーや艦船のコンピューターの計器を狂わす現象は、戦場で都市伝説のように語り継がれる事となる。

――『白い悪魔』を見た者は死ぬ。と
――あらゆる敵に死を与えるという『ガンダム』の伝説の一つとなった。

俺は『ガンダム』をモビルアーマーの群れへと向ける。
『ガンダム』の中枢にある心臓ともいうべき核融合炉が、大きく脈打ち始めた。
膨大なエネルギーの流れが体中を駆け巡る!

――ゴオォッ!!

『ガンダム』の背部のメインバーニアが大きく火を噴いた!

瞬時に最大加速し、機体は光の粒子に包まれながら、白い軌跡が大きく尾を引く。
そうして、角張った直線的な動きではなく、滑らかな流線的な機動を発揮するのだ。

僅か数秒で一気に戦闘可能領域の距離まで詰めると、有視界戦闘へと突入する!

モビルアーマーは、こちらの動きについて来れないらしい。
小隊ごとに纏まっているモビルアーマーの群れに、俺は襲い掛かった!!
メインバーニアが大きく噴射する!

――ゴォォッ!!

そして、俺の意思通りに『ガンダム』の姿勢制御バーニアは、
芸術的までに、右斜め上方に細かく旋回をし、『ガンダム』は丁度、月面に頭部にし、機体を斜めに向けた状態となる。

――モビルアーマーの群れの反応は鈍い。
パイロットからのプレッシャーを感じない。

逆にその気になれば、狼狽、恐怖、焦り等の色を、視覚ではない感覚で見る取れるだろう。
が、そこまで感じ取る必要はあるまい。敵に対して俺は一切、情けを掛けない。
情を移すようなヘマはしないさ。

――どうか、迷わず死んで欲しい。

独特のフォルムの薄い紫の色で全身が塗装されている
戦闘艇タイプのモビルアーマー『メビウス』だ。

やはり、直線上にしか動けない。『ガンダム』の目を通し、視認でも簡単に捉える事が可能だ。

――奴等にはできない動きを見せてやろう。
機動力の差が戦場での生死の境へと繋がるのだ。

『ガンダム』は急激に動きを変えてゆく。瞬時に後方に移動したかと思うと、
そして一気に月面へ下降し、鋭角斜め上へと度に目標へ向かって突入する!

『ガンダム』の右手マニュピレーターには、カービンのようなMMI-M8A3 76mm重突撃機銃が、
鈍い色を放ちながら輝いている。

……狙いつけるかのように、翠の燐光を放つその双眸が、
フォン!と一瞬、紅く輝く。

些かの躊躇いも無く、無骨ながら、繊細な動きが可能なその指先に力が入り

――鉛色の死神は溜息を吐いた。

――ズドドドッ! ズドドッ!!

引き金は2回引かれた。
無論、『メビウス』2機を狙った攻撃である。

モビルスーツ『ジン』のメインウェポンであるこの実弾型銃器は、
高い命中精度と連射性能を兼ね備えており、セミオート時の精密射撃とフルオート時の連射を
使い分ける事で高い汎用性を実現している。

期待に答えて、精密な射撃は、二機の『メビウス』の機体の中枢部を寸分も違わずに撃ち抜いた!

――ゴウッ!

『メビウス』の中枢部が拉げ砕け散り、破片が、ばら撒かれる!
そして、次に瞬間に火を放ち爆散し、木端微塵に消し飛んだ。

2機の『メビウス』をほぼ同時葬り去る。

「――出てこなければ、無駄死にせずに済んだのにな……」

こうして、生命が虚空に散ってゆくのだ。
そして、同時に俺は、身体を右に大きく捻りながら、
AMBAC(能動的質量移動による自動姿勢制御)による姿勢制御の慣性を利用し、
蹴るように振った、右脚の膝に収納されている『ミサイルポット』から一撃を放つ!

拡散タイプの爆撃ミサイルだが、直撃を受ければ粉々になるものだ。
だが、一発で一機仕留めるにしては効率が悪いので、小隊単位の3機の『メビウス』の丁度中心部に向けて放ったのだ。

――俺は合理主義なのだ。

狙いを誤らず発射された一発のミサイルは途中で拡散し、群れの丁度、ど真ん中で花火となる。
拡散した破壊のウエーブは広がりの波を見せて、獲物を飲み込んでゆく!

――そして、後には、三つの花火が生まれるのだった。

瞬時に、同僚5機を地獄に送り込んだ事によって奴等は恐慌を起こしてた。
滅茶苦茶にレールガンやバルカン砲、更には、対艦用有線式誘導ミサイルを撃ち放ってくる。

当たってもビクともしないが……そんな間抜けな真似はできない。
ミサイルは全て叩き落す!

レールガンの砲撃等は、回避しながら、

――ドッ!ドッ!ドドッ!

『ガンダム』頭部バルカン砲が唸り声を上げる。

――ドドッォンン!!

モビルアーマー連中と比べて、初速が桁違いのスピードと威力のバルカン砲の砲撃によって、
ミサイルが順番に綺麗に爆発してゆく。

――ミサイルの動きが、スローモーションのように見えてしまう。

やはり冷静さを欠いた敵など相手にならないのだろう。
そして、そろそろ連中の狂乱が目障りとなり、一気に片を付ける事とする。

残りは、ビームサーベルで片を付けるか?

この世界での機動兵器のドックファイトでまだ仕掛けてないのは、
近接戦闘だけである。

突撃銃を収納し、俺は右腕を伸ばし、右肩のビームサーベルの収納ラックに向ける。

マニュピュレーターの動きに連動し、サーベル固定装置が解除され、
右手にはビームサーベルの柄が握られる。

収納ラックから引き抜くと同時に、ビームサーベルの柄から高エネルギーが発生する。
そして、高エネルギーはIフィールドによって収束され、ビーム状の刀身を形成される。

サーベルには、省エネの斬りかかる瞬間に刀身を形成する、
オートリミッター機能もあるが俺は敢えて使っていない。

だが、真の強敵と使用するかもしれない。
刀身の動きを見切れる敵を叩く時に、斬りかかる瞬間に刃が形成されるのは有効手段となろう。

ビームの紅の刀身を自分の最も好みである『刀』に近い形で収束させる。
『Ξガンダム』の『兄』に当たる機体が、使用していたサーベルの形状に近い。

サーベルを右手に退くように下段構えで持ち運び、そして左手のシールドを前に突き出すようして、
『ガンダム』の独特構えのポーズとなる。

各バーニアが火を噴き全開となり、虚空を駆けるようにガンダムは翔ぶ!!

――右腕を大きく振りかぶると、赤い刀身は空間を裂き、
稲妻のように目標へと斬りかかる!

――ザシュッ!!!!

赤い刃は、一機の『メビウス』の正面真ん中辺りを大きく切り裂く!

――バシュンン!!

そして、返す刀でもう一機の胴体を袈裟斬りとした!

更に、反動を利用し、左腕に装備されたシールドを一旦解除する。
そして、両手にサーベルの柄を持ちながら強烈な突きを放った!

――グシャッ!!

真紅のメガ粒子の刃の先端は、三機目の『メビウス』の下腹部面の真ん中当たりを貫く!
そして、一気に刀身を機体の奥へと捻じ込み、斜め上方へと引き裂く!!

――ドオォォォォンン!!

斬り裂きながら、俺は前方へと駆け抜ける!

――俺の背後から瞬時に爆発の光が、三つ生まれる事となった。

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