機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第26話

Last-modified: 2008-01-11 (金) 01:29:15

機動海賊 ONE PIECE Destiny 第26回
 アラバスタ沿岸の交易都市ナノハナ、香辛料をはじめとした様々な物資が集まり、また各地へと
渡って行くにぎやかな街だ。
 だが、その日のナノハナは、にぎやかと言うにはいささか過剰な様相を呈していた。

 

「さがせ! 麦わら一味はこの辺りに潜んでいる筈だ!!」

 

 食堂へと向かったルフィが、ローグタウンから彼らを追ってきた海軍将校スモーカーと出会い、
そこに謎の人物が乱入、あわせてスモーカーの配下達がルフィを除いた一味全員を捕縛しようと街
中を駆けずり回っていた。
 中でも。

 

「赤服の男がまず目立つ目標だ! 赤服のシンを探せ!」

 

 すでに賞金首であるシンは、ルフィに次ぐ目標とされてしまっていた。

 

「くっそー……何で俺ばっかり」

 

 事前に受けたナミのつっこみやビビの助言を受けて、砂漠用のゆったりとした装束で赤服を隠し、
ターバンを目深に巻いた事でどうにか特徴を隠せたのが幸いだった。
 とは言え、大勢の海兵が自分の名を連呼しながら辺りをうろうろしている状況と言うのは、決し
て気分の良いものではない。
 騒動を起こしているらしいルフィや他の仲間と合流しようと建物の影やら露店の天幕の後ろやら
を人目を避けるように歩きながら、シンは、ルフィを探しに行くなどと言い出さねば良かったと今
更ながらに後悔していた。
 とりあえず、一行の中でルフィを除けば唯一の賞金首であるシンが動きまわるのは危険ではある
のだが、六式を駆使した隠密行動の巧みさは、やはりシンの方がたくみではある。
 ゾロはそうした繊細な行動には向かず、サンジは何処でナンパをするか知れたものでなく、ウソッ
プは単独行動を断固として嫌がり、チョッパーは香辛料の匂いで苦しんでおり、そもそもあまりに
目立ちすぎる。アラバスタ王女であるビビが街中を動き回るのも危険極まりない。
 もともとが泥棒であり、隠密行動にも長けているだろうナミが動かなかった理由はと言えば。

 

『とりあえずあたしはこのバカども抑えてないと駄目でしょ』

 

 そういう訳で、さっさとバカ一号を見つけて帰ってきなさいと、シンが厳命されたのだった。
 とは言ったものの、この状況ではルフィを見つけるどころではない。
 海兵達の会話を盗み聞く限り、どうやら部隊の最高指揮官は、あのスモーカーであるらしい。
 となれば。

 

「来てるんだろうなあ、ナタルさん達も」

 
 
 

 海兵の視線がこちらに向くより先に、剃でその場を離れつつ、シンはふかぶかと溜息をつきたく
なっていた。

 

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「まったく……大佐にも困ったものだ」

 

 ナノハナの市場、その人ごみの中で、海軍将校の証である真っ白なコートを羽織った女性が、
背後に数人の海兵を従え、腰に手をあてて喧騒の起きている方向を見やりながら溜息を漏らして
いた。
 堅物ナタル――バジルール・ナタルその人である。
 ナタルのすぐ脇には、普通より銃身の長いマスケット銃を背負ったフレイが、やはり呆れたよ
うな表情で、ナタルと同じ方向を見つめていた。

 

「基本的に熱血ノリな人ですからねー。まあ、仕方ないんじゃないですか?」
「その尻拭いがこちらに来るのを除けば、だがな」
「大佐は多分頭目の……麦わらのルフィでしたっけ? そっち狙いなんでしょうけど。アタシ達
はやっぱり彼を?」
「そうだな。まあもっとも彼に限らず、麦わらの一味は全員捕縛対象だが。重要度で言えば、現
在麦わらを除いて唯一の賞金首である彼が優先だ」
「とは言ったものの……」

 

 フレイは周囲を見回し、小さく溜息をもらした。

 

「この人ごみじゃあ、探すのも骨ですよ。結構広いですし。手数が足りませんね」
「大方彼とて、あの目立つ赤服そのままではいるまいしな」
「いやー、どうでしょう。『これが俺のトレードマークだー』とか言って、そのまんまの格好で
うろついてるんじゃないですか?」
「……有り得ん、とは言い切れんな……まあ、彼がそうでも周囲がそれを許すまい。これまでの
彼らの行動を見るに、どうやらかなり隠密性を重視しているようだからな」
「ですねえ。ローグタウンからこのアラバスタ近海まで、彼らの姿が見受けられたのは僅かにウィ
スキーピークだけって有様ですからね」

 

 麦わら一行を追ってグランドラインに入ったナタル達は、近海を渡りながら情報収集に努めて
いた。途中、アズラエル商会からの情報提供なども受けつつの任務だったのだが、収穫と言える
ものはほとんどなく、ただ一つ、ウィスキーピークで彼らと戦い撃退されたと思しき賞金稼ぎ達
――とは言っても、その実態は極めて怪しげな海賊まがいのものだったのだが――から得た情報
程度だった。
 ウィスキーピークを経由する航路ならば、時間的に言ってこのアラバスタで捕捉出来る可能性
が一番高い。ナタルの進言によってスモーカーはアラバスタ寄港を決定したのだが、そこにこの
騒動だった。

 
 
 
 

「まあドンピシャでしたね。アタシはてっきりリトルガーデンで足止めくらってるんじゃないかっ
て思ってたんですけど」
「あそこで終わる程度ならば、幸せだったのかも知れんがな。ここには『あの』クロコダイルが
いる」
「あー……王下七武海かあ……でも、どうなんでしょう。もしかして彼ら、クロコダイルが狙い
なんですかね?」
「さてな。それとて、決して無いとは言えん。殊に、あの情報が真実ならば、だ」
「バロックワークス、ですか」

 

 ウィスキーピークで捕縛した怪しげな賞金稼ぎ達から引きずり出した証言の中に浮かんだその
単語は、実を言えば、アズラエルの元からも得られていたものだった。
 グランドライン入り口付近でルーキー達を狩り立てている賞金稼ぎ達は多いが、どうも、そこ
には大規模な組織的動きが見られる、と。
 単に海賊を目の仇にしていると言うよりも、もっと何か、深遠な狙いが潜んでいるのではない
か。ひどく大掛かりで重大な陰謀の一角、それが、彼ら賞金稼ぎの正体なのではないかと。
 実際、バロックワークスと言う名前は、ナタルも以前耳にした事はあったのだが、それがここ
に来て真実味を帯びようとは、思っていなかった。
 ただ、バロックワークスが実在するとして、彼らが何を目的としているのか、そこは計り知れ
なかった。そこに助言を与えたのが、アズラエルだった。
 近海における物、人、金の流れが、どうもアラバスタに集中している、と。
 このナノハナのような交易都市があるのだから、それは当たり前の事のようにも思える。
 しかし、ここがグランドライン上である以上、その物や人、金の流れとて、一定のペースや量
を越える事は難しい。更に、彼が言うには勘定が合わないのだそうだ。
 アラバスタに入る量とアラバスタから出て行く量。それらの資産価値の勘定が、あまりに食い
違っている、と。
 商取引をベースにした物流の場合、それがたとえば植民地経営とでも言うのでないなら、そこ
には多少の変動こそあれ、均衡を取るように曲線は変動して行くものだと、アズラエルは主張し
た。そうしなければ、市場の早期崩壊を招くからだ。出て行く時にはそれに見合うだけの代価が
払われねば、その市場は早々に枯渇するだろうし、入ってくるのに見合うだけの代価が出ていか
なければ、周囲は早々にその市場を見放す。
 健全な市場とは、長期にわたって安定した取引が可能な場所を言うのだ、と。

 

 だから、このアラバスタの状況は、いささかならずおかしい。そこには、確かに物、人、金を
無闇に集めようとしている何らかの意図がある。そして、それは単純に儲けようなどと言う暢気
な話ではなく、もっと危険で、鉄火にまみれたものである筈だ。
 そして、それだけの大規模な動きを画策し、実行出来る者がこの近海にいるとしたら、それは、
まず間違いなく、王下七武海の一人、クロコダイルその人であろうと。

 

「でも……もしあの人の言うとおりだとしてですよ? 一体何が目的なんでしょう」
「さて、な。私にもその辺りは読めん。だが、何かがここ起こっているのは確からしい。やたら
と暴動が増えているしな。そのくせ、この辺りにはドラゴンの動きが見えぬと来ている」

 
 
 
 

 ナタルは言葉を切り、背後に控える海兵達に向きなおった。

 

「ともあれ、今の我々の任務は、赤服のシンを発見、捕縛する事だ。しかし、現状ではそれはい
ささか困難であるのは確かである。諸君に、何か意見のあるものはいるか?」

 

 ナタルの弁を受けて、ただ一人将校の証であるコートを羽織った巨漢が手を挙げた。
 フレイにとっては砲術の師にあたる人物で、名前をキャノン、ナタル達の乗艦ドミニオンの砲
術参謀を務める中尉だ。

 

「何か。中尉」
「はい。闇雲にこの市場を探しても、成果を得るのは難しいと思われます。そこで、おとりを使っ
ては如何でしょうか」
「おとり? 具体的にはどのように」
「はい。フレイ伍長が市民に変装し、暴漢に襲われる、と言うのを演じてはどうでしょう。赤服
のシンは義侠心に篤いと聞きます」
「ふむ……しかし、どうだろうな。この広く騒がしい市場の中で、どれだけ効果を得られるか」
「んー、でもやってみる価値はあると思いますよ? だってホラ、彼ってかなり単純じゃないで
すか」
「えらい言われようだな……おとりはフレイが勤めるとして、暴漢役は?」
「そこはホラ、言いだしっぺって事で中尉が」
「えっ?! 俺か?!」
「だって、中尉なら顔も怖いしうってつけじゃないですか」

 

 確かに、キャノンは強面である。顔の右半面には縦に長いサンマ傷が走り、若禿だと言う頭は
むしろ丁寧に剃っているかのような見事なスキンヘッド、口の周りにはヤマアラシの棘のように
硬い髭がもっさりと生え、その間からは分厚い唇が覗いている。かてて加えて、少し小型の大砲
ならば抱えて撃てる程の筋肉は、まるで岩、あるいは小山のようですらある。
 人の二、三十人は絞め殺して来たと言えば、そんなに少ないはずがない、とまで言われる。
 性格はいたって真面目な上に、むしろ花鳥風月を愛する博愛精神の持ち主で非常に部下思いで
あるのだが、いかんせん、見かけの恐ろしさがあまりに印象として強すぎる。

 

「ねえ、みんなもそう思いません?」

 

 しかし、やはりそこで同意を求められたとしても、素直に肯けるものでもない。海兵達は皆口
ごもり、冷や汗を流すばかりだった。

 

「あー……まあ、この中では中尉が一番適任ではあろう。我慢してくれ」
「うう……了解です……」
「えーと、じゃあとりあえず予行演習って事で、ちょっとやってみましょう」
「え? いや待てフレイ!」
「きゃーっ!! 助けてーっ!! ちかーん!!!」

 
 
 
 

 ナタルが止める間もあらばこそ、辺りにフレイの黄色い悲鳴が響き渡る。と同時に。

 

「アンタは一体何なんだーっ!!!」

 

 哀れなキャノン中尉の側頭部に、突如現れたシンの左踵がめり込んだ。

 

To be continued...

 

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