「しかし……ホントにそんなに似るのか? その、マネマネの実の能力ってのは」
アラバスタも近くなった海の上、メリー号の甲板に集まった一行は、各々左前腕に包帯を巻きながら、最前に出くわしたミスター2ことボンクレーに関する情報を再度確認していた。
ボンクレーがいた時丁度船室にいたサンジは彼の能力を目にする事がなかったので、ルフィやウソップらの言うのにも半信半疑だった。
「いや、似るなんてもんじゃねえんだ。あれはほぼそのままって言っても良い」
「そうそう。顔だけじゃなく体までそっくりになるんだ」
「あの能力はやっかいだわ。あんなのが敵にいるとなるとあたし達もお互いを信用できなくなる」
ウソップとルフィ、そしてナミが言うのに対し、ゾロも自分の腕に包帯を巻きつけながら口を挟んだ。
「だから、こうして仲間の印を付けてんだろう? 言ったろうが、今ヤツに会えたのは、却ってラッキーだ」
「ゾロの言う通りだ。相手の情報を事前に知れた以上、それを視界に入れて対策を練れば、それ自体の脅威は減る」
赤服の袖をめくり、やはり包帯を巻きつけながらシンがゾロに同意する。
敵を知り己を知らば百戦するも危うからず――アカデミーの座学で学んだ言葉を反芻しつつ、シンは、そうした事を軽視していたかつての自分を叱り、今の自分を戒めていた。
今度の戦いは自分だけのものじゃない。
いや、勿論前の時だってそうだったけど、結局自分は自分の事しかろくに考える事が出来ずにいた。
もう、そんな間違いはおかさない。
そうだよな、デスティニー。
胸に下げた皮袋を握り締め、再度誓う。
これより先の自分の戦いは、全てはビビと、彼女が愛するアラバスタ――そこに住む人々の為なのだと。
「ともかく」
ルフィの一声に、皆は甲板の中央に集まる。
めいめいに、包帯を巻いた左腕を差し出す。
カルーも、やはり包帯を巻いた左の翼を差し出した。
「この先何があろうと、左腕のこれがある限り、俺達は仲間だ!!」
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アラバスタ沿海の港町ナノハナ――交易都市であり、各地から多くの香辛料を始めとする交易物資が集まる街だ。
港町でも最も大きく栄えた土地であり、その事から必然的に、外から入ってくる船――海賊や海軍もそれらに含まれる――が、一番にやってくる所でもあった。
そして、麦わら一味もやはりこの街で一度上陸する事となった。底をついた食料の調達と、厳しい砂漠型気候であるアラバスタ内陸を移動する為の装備を整える為だ。
「めぇ~~~しぃぃ~~~っ!!!」
因みに、船長であるルフィは上陸後さっさと駆け出し食事に行ってしまっていた。
「あいつ、自分が賞金首だって自覚ないのかしら」
「いやあ……だって、ルフィだしなあ」
「あー……って、アンタもよ。良い、その赤服隠すのよ」
呆れるようにルフィを見送るナミが、矛先をシンに向けてきた。
「はあ? 何でだよ。これは俺の……」
「あ・ん・た・も・賞・金・首・でしょうが!!」
親友とその両親からの贈り物で、しかも自分のトレードマークだと主張しようとしたのだが、自分の顔写真が映った手配書を突きつけられて、はたと思い至った。
「……ああ! そういやそうだっけなあ」
「どこまで暢気な脳みそしてんのよアンタは!!」
ぽんと手を打つシンに、ナミの鉄拳が炸裂する。
「ごべんなざい」
頬を腫らしたシンが両手をついてナミに謝る。
その前で腕を組んだナミは、つくづく呆れたような表情で溜息を漏らした。
「まったく。そりゃあルフィの3000万に比べたら低いけど、800万ってのも大層な額よ?」
「でもクロコダイルはその10倍ちかいじゃんか」
「一緒にすな!! 大体、アンタそう言えば一体何やってこんな賞金掛かったのよ?」
「えーと……支部の海軍将校を3、4人はぶっ飛ばして……後、小さかったけど海賊団も幾つか」
「ごめん。もう良いわ……ルフィがアンタを誘った理由が解った気がするわ」
「似た者同士にも程があんだろ」
疲れたように項垂れるナミと、呆れたような顔つきのウソップのツッコミに、首をひねるシンだった。
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シン達がたどりついたナノハナとは離れた街、レインベース。
夢と欲望が渦巻く、乾きに苦しむアラバスタでも、王都アルバーナと並んで恵まれた街である。
そのレインベースの中心に聳える巨大カジノの奥底で、今アラバスタを飲み込まんとする策謀が最終段階を迎えようとしていた。
ミスター1以下のオフィサーエージェント達と、ボスであるミスター0、すなわち、王下七武海の一角たるクロコダイルが、最初で最後の会合を開いていたのである。
ミスター1以下のメンバーは、ミスター0の正体に驚き、また彼が提示した計画の周到さにも同様に驚いた。
冷酷にして周到、大胆にして繊細。
アラバスタ乗っ取り計画は、確かにこれならば上手くいくであろうと、誰もが考えた。
もっとも、幾許かの不安要素はあった。すなわちミスウェンズデーとしてバロックワークスに潜入していたアラバスタの王女ビビと彼女に協力する麦わら海賊団である。
だが、それらにしても大した問題ではないと、彼らは結論付けた。
一味の船長である麦わらのルフィは能力者ではあるが、それとて大した問題ではないと。
そのための準備も、クロコダイルは用意していると言う。
ならば、それはどうとでもなる筈だと。
ただミスオールサンデーだけは、周囲が不適に嗤う中、ただ一人、無表情を通していた。
「そうだわ。ついでに今紹介しておきましょう」
作戦発動を意味する乾杯の後、ミスオールサンデーが広間に通じる扉の一つを開けた。
そこには、ピンク色の髪をした女と、トロンボーンを持ち、白いスーツを着込んで頭をリーゼントにまとめた軽薄そうな男が立っていた。
「あーらピンクちゃんじゃないのよーう! 元気だったーあ?」
女を見たミスター2が陽気に語りかけるが、女はびくりと身をすくませると、こわごわと会釈するばかりだった。
「怯える事はないわよ、彼も仲間なんだから」
「ちょっとミスオールサンデー、そいつらは一体何なんだい?!」
巨漢の中年女性、ミスメリークリスマスがいらいらした口ぶりで怒鳴る。
「今回の作戦でダメ押しの役割を担う二人よ。こちらが」
と男の方を指し示す。
「ミスター6。この間昇格したばかり。そしてこちらが、ミスター6の相棒になる、ミスエイプリルフールよ」
「ちょっと待って。ミスター6の相棒のコードネームはミスマザーズデイじゃなかったの?」
アフロヘアの女性エージェント、ミスダブルフィンガーが怪訝そうな顔で問う。
「ミスマザーズデイは、先代のミスター6が脱走しようとした時交戦の結果大怪我を負って療養中……彼女の位置は空白になったわけじゃないのよ。だから、これは緊急措置ね」
「ミスター6が脱走? 聞いてないよそんな話!!」
「伝える必要を認めなかったからよ。どうせ、今彼は海の底だもの」
ミスメリークリスマスの抗議にも、ミスオールサンデーは事もなげに、微笑みさえして答えた。
「ともあれ、彼らは今回、計画の最終局面で民衆を扇動する重要な役割を担っているの。例え王女や王が民衆に向かって叫ぼうとも、決して暴動を止めさせないように」
「なあるほど……0ちゃんがアチシにピンクちゃんを連れて来いって命令した時なんでなのか解らなかったけど、そーいう事だったのねい」
「ローレライ。ウタウタの実の能力か。しかし、ローレライはともかく、そっちの男は使えるのか?」
それまで沈黙を守り続けてきた丸刈りの男、ミスター1が突如口を開いた。
その視線は、値踏みするようにミスター6と呼ばれた男を頭から足元までなめまわす。
「タッハッハ! こいつぁ心外だねえ。このミスエイプリルフールなんぞより、俺様の方がよっぽど使えますよ? と言うかね、この俺様なしにこの女の力は制御出来ませんぜ」
「そんな事は解ってる。ローレライの力は確かに厄介だからな。お前がそれを抑える事が出来ないなら、話にもならん。俺が言ってるのは、それ以外の事だ」
「……へえ?」
ミスター1の、どこか相手を軽んじるかのような言葉に、軽薄そうなミスター6の表情がひくついた。
「例えば。麦わら一味の連中を相手に、お前、戦えるのか? バ ン ド マ ン」
「何なら、今ここで証明してみせたって良いんですぜぇ!! このミスターつるっぱげがあ!!」
一触即発――まさにそうした空気が出来たその瞬間。低く響く声が、辺りを圧倒した。
「黙れ」
「し、しかしボス!! 幾ら何だってこりゃあ我慢できませんぜ!」
「聞こえなかったのか? ミスター6。俺は何と言った?」
「ぐ……っ!!」
「お前もだ。ミスター1。余計な面倒を起こすな」
クロコダイルに殺意すら乗った言葉を向けられたミスター6は、軽く肩をすくめるばかりのミスター1や、全く無関心そうなミスター4ペア、ミスダブルフィンガー、自分を完全に無視してミスエイプリルフールにばかり話しかけるミスター2に、恨みの篭った視線を放った。
しかし、誰一人それを頓着などする事もなく、彼の苛立ちはただ増すばかりだった。
そして、ミスター2に話しかけられながらミスエイプリルフール――すなわちミーアは、この先自分がしなければならないとされている事、血で血を洗う暴動の扇動に自分の歌を使わねばならぬと言う事について、絶望にも似た思いを抱いていた。
誰でも良い。誰か、自分をここから救い出して、と。
To be continued...
26話として登録されたが、作者さんのナンバリングミスとの事。
それで、えー、質問の件ですが、ナンバリングミスです。この間投下したヤツが、25話になります。 混乱させてしまって申し訳ありませんでした。