第三話「復讐」

Last-modified: 2014-03-06 (木) 19:57:07

ハルトは母親の顔を覚えていない。
母親は彼がまだ2歳の頃に病気で死んだ。父親があまり多くを語らないので詳しい事は知らないが、研究者だったらしい。

 

なので、彼が肉親と聞いて思い浮かべるのは父親・スグルの事だった。
ハルトにとってスグルは心おきなく相談できる数少ない相手であり、自分が間違った道に歩まないよう見守ってくれる存在であり、
目標であるかけがえのない人物だった。

 

「う…嘘だ…嘘であってくれ…」

 

それが今、いなくなった。
「―――うわあああああああぁ!」

 

届かないと分かっていてもモニターに移る手に手を伸ばし絶叫する。

 

―父さんが死んだ。
――父さんが殺された。
―――父さんがザフトに殺された!

 

その時、崩落した天井から二機のモビルスーツが降下してくる。「ジン」だ。

 

「…お前達が」
コクピットのレバーを握りしめる。

 

向こうもこんなところに新たなモビルスーツがあるとは思わなかったのか、一瞬戸惑うような動きを見せたが、すぐに前の一機が76ミリ重突撃銃をこちらに向け、トリガーを引く。
何発かの弾がアドヴァンスに向かい飛んでいき、直撃する。だが、アドヴァンスには傷一つつかない。
それはフェイズシフト・システム―― 一定の電流を流すと移相転移が起こり、装甲が硬質化してあらゆる物理的攻撃を無効化する強度を持つようになる――のお陰だった。

 

「お前達が父さんを殺したあああぁ!」

 

ハルトは機体の武装欄を呼び出す。モニターに機体図が表示され、機体両下腕部に搭載されたビームガンが点滅する。
それを選択して、ハルトは手探りするように標準スコープを引き出し、覗く。
目の前の「ジン」の機影が捉えられ、ロックオンの表示が出る。
「食らえええ!」
トリガーを何度も引く。
「ジン」に向かい真っ直ぐに伸ばされた右腕下腕部のビームガンから緑色のビームがトリガーが引かれた回数だけ発射される。

 

それは「ジン」の装甲をいとも簡単に貫く。
蜂の巣になった「ジン」は動きを止め、バランスを崩して倒れ込んだ。

 

後ろにいた「ジン」はそれを見て一瞬たじろぐか、すぐにサーベルを抜いてこちらへ向かってくる。

 

「接近戦兵装… これか!?」

 

ビームガンでは対応しにくい。そう考えたハルトは接近戦兵装のビームサーベルを選択する。
左下腕部に内蔵されていたビームガンが射出される。
それを右手に持ち、スイッチを押すと柄からビームの刃が形成される。

 

「消えろおおおぉ!」

 

突撃してくる「ジン」に対し、両手で持ったビームサーベルを横に振る。そしてスラスターを吹かして後ろに下がる。
思い切り壁に押し付けられるような感覚がハルトを襲う。
サーベルを振り上げて無防備になった横脇腹から斬られ、「ジン」は斬られた場所の電気系統から火を吹きながら真っ二つになった。

 

「…やった。」

 

「ジン」を二機倒した彼の心の中には、奇妙な達成感と高揚感があった。

 

「はは…ははは…ざまあみろ…」

 

冷淡な笑みを浮かべてそう呟く。
蜂の巣になった「ジン」と真っ二つになった「ジン」。パイロットは生きてはいないだろう。
だが、彼らは今まで多くの人を殺したのだろう。そして今ここでスグルを殺した。
その報いを受けたと思うと、このような死に方をしても当然のような気がしていた。

 

「バッテリー残量78%か…結構食うな。」
自分でも不思議なほど冷静にバッテリー残量を確かめる。ビームガンもビームサーベルも電力消費が激しいようだ。

 

「他の武装はバルカンと…ワイヤーシューター…?何だこれ?」
武装欄を確認していると「ワイヤーシューター」という武装がある事に気がつく。
今回は使わなかったが、どうやら両腕に搭載されているようだ。

 

「他に使えそうなのは…スモークグレネード砲くらいか。…あんまり武装ないんだな…」

 

ビーム系統以外で攻撃に使えそうなのはバルカンくらいだ。
「…一応持って行くか。」

 

倒したジンが落としたマシンガンをアドヴァンスに持たせる。ロックオンはできないが撃つことはできるようだ。

 

一通り確認した後、破壊された「ジン」に冷たい目線を向けながら崩落した天井から外に出る準備をする。

 

まるでカブトムシの羽のように閉じていた背部メインスラスターのウイングが開く。
そしてスラスターを全開にして穴へ跳躍する。

 

今のハルトを動かしているのはただ一つ。

 

父を殺された事に対するザフトへの復讐心だ。

 

<ミゲル・アイマン、リーズ・ステイン、ジェス・ガズィよりエマージェンシー!機体を失ったようです!>

 

「ヴェサリウス」艦内の「シグー」のコクピットに入った通信にラウ・ル・クルーゼは眉をひそめたようだった。
だが仮面に阻まれて実際の表情は分からない。
コロニー内部に侵入したミゲルがやられたという事は、奪り損ねた機体がそれほどの性能を示したという事だが、
クルーゼの疑問は別にあった。

 

(リーズとジェスは何にやられた?)

 

彼らは二機のチームで事にあたっていたはずだ。それが同時にここの守備隊にやられたとは考えにくい。
ならば新型モビルスーツにやられたかと思ったが、辻褄が合わない。
情報によればここで開発されていたのは5機、そのうち4機は既にこちらの手の中にある。
残りの一機はミゲルを撃破した機体だ。
ミゲルはリーズ達と一緒に行動していなかったからこの機体にやられた可能性は低い。

 

(まさかもう一機あるというのか?…まあいい。)
「私が出たら、モビルスーツを一旦呼び戻し、D装備をさせろ。」
そう艦長のアデスに指示を出す。

 

<D装備…ですか?>
それは要塞攻略戦用の最重装備だ。
モニターの中でぎょっとするアデスに笑いかけた後、ラウは愛機を発進させた。

 
 

【第二話「アドヴァンス始動」】 【戻】 [[【第四話 】>第四話 ]]