第五話
「しっかし厄介なところに落ちちまったねぇ。」
「・・・すみません。」
「いいのよ、ナタル。指示をしたのは、私だしね。」
こう話しているのは、アークエンジェルトップ3
ムウ・ラ・フラガ少佐
マリュー・ラミアス少佐
ナタル・バジルール中尉
の三人。
ちなみに、以前は階級が大尉×2と少尉だったのだが、ハルバートン提督の計らいによって昇格した。
そして、キラ・ヤマトは少尉、他の志願兵は二等兵となっている。
「どうすんだ?ボウズがいなけりゃ、この艦を守れる自信はないぞ。」
「そうですね。」
「現在の戦力はスカイグラスパー八機ですからね。」
「艦長!」
そんな物々しい雰囲気の中、格納庫から通信が入った。
「どうしたの?」
「いや・・・・さっき出撃した偵察機なんですがね・・・。とにかく大変なんです。すぐ来てください。」
その整備長・コジロー・マードックの切羽詰まった声が、事の重大さを感じさせた。
「こりゃぁひでぇな・・・。」
帰ってきたスカイグラスパーのありさまは、宇宙用モビルアーマー・メビウス・ゼロをボロボロにした、
ムウに、こう言わせるほど酷かった。
翼はひしゃげ、コクピットは穴だらけ。火器は内蔵ミサイル以外は発射不能。エンジンも一個のみ・・・。
このような状態で帰ってこられたのが奇跡だった。
「・・・・。」
ナタルは黙ってパイロットに事情を聴きに行った。
「なんだと・・・!」
ナタルの顔は、ここ最近見ないほど青かった。
「・・・これが・・・今回の偵察の・・・成果です。」
そうパイロットは言った。
今パイロットが話したことは、驚愕に値した。
偵察仕様スカイグラスパーパイロット、ライサル・ライブリアンは、
アークエンジェルから50キロほど離れたところにいた。
「偵察か・・・ニュートロンジャマーがあるからなぁ。」
ぼそっと愚痴をこぼす。
その時、大量のレーザー照準感を知らせるアラートが鳴り響いた。
それと同時に、大量のミサイルが視界に飛び込んできた。
「え?ミサイル?」
体に染みついた生存本能が操縦桿を引かせたのが幸いだった。
ミサイルは小回りの利くスカイグラスパーについていけず、互いにぶつかって爆発した。
「うわ!くぅ!」
爆発の衝撃と強烈なGで、ライサルはうめく。
そして、またアラートが鳴り響き、ミサイルの接近を知らせる。
「またか!しかし、不意打ちじゃないなら!」
そして、ライサルはスカイグラスパーを巧みに操り、ミサイルをよけると同時に、機首を下に向ける。
「ミサイル発射元は・・・いた!」
そこでライサルが見たものは、
陸上戦艦・レセップス
陸上駆逐艦・ピートリー、ヘンリー・カーター
「レセップス?・・・相手は「砂漠の虎」か!」
一瞬で相手を特定すると、アークエンジェルへ帰還しようとする。
「うわ!」
そこに立ちふさがったのは、
大気家内飛行用量産型モビルスーツ・ディン二機
モビルスーツ支援用戦闘ヘリ・アジャイル六機
大気圏内用垂直離着陸(VOTL)戦闘機・インフェトゥス五機
たかが偵察機一機に対しては、大部隊だった。
「・・・!!知られちゃぁいけないのか!だとすると、相手の狙いは・・・奇襲か!うわ!」
結論を出した瞬間、ディンの90mm対空散弾砲が主翼をかすめた。
機体が大きく揺れる。
「うう・・・。」
激しく揺さぶられ、一瞬動きが直線的になる。
その隙をザフト軍を見逃さなかった。
スカイグラスパーの目の前にアジャイルが舞い降り、機関砲をコクピットに向け、撃った。
「う・・ぐぁ・・・!」
数発の弾丸がコクピットに当たり、そのうち二発がライサルの肩に直撃する。
肩からの出血と、衝撃で朦朧とする意識。
だが、彼は痛みに打ち勝ち、目の前のアジャイルに向け、20㎜機関砲を打ち込んだ。
4つの砲口から放たれた弾丸の嵐がアジャイルをとらえ、撃墜する。
そして、Gを無視し、神が買ったかったような操縦を見せる。
「う・・・うおおおおぉぉぉ!」
痛みをこらえ、大型ビームキャノンを発射する。
それはインフェトゥス二機と、ディン二機を撃墜する。
そうしてできた包囲網の穴を抜け、ライサルはアークエンジェルに向け、離脱した。
これはのちの世のSEEDである。
ここに、新たなSEED覚醒者がいた。
「・・・・そうか。」
ナタルは床に目を落とした。
「・・・・・・・副艦長、早く戦闘配備を・・・来ます。」
「っ!・・・・そうだったな。」
そうしてナタルは我に返る。
「感謝する。ライサル・ライブリアン軍曹。」
そうしてナタルはマリューに事を知らせに行った。
「んん・・・。さっきの偵察機落とせなかったねぇ。」
「はい。」
夜の砂漠に響く声
「んーいい味だ。」
「はぁ。」
砂漠に立つ二人の男。
「コーヒーが旨いと気分がいい・・・。よーし。」
彼らの後ろにそびえたつ四本足の巨大な機械の犬。
「戦争をしに行くぞ!!」
コーヒーを飲んでいた男の物騒な言葉で、隣の男が大声で指揮を執る。
「目標、敵新造艦!総員出撃!」
すると、巨大な犬がモノアイをぎらつかせ、ディンが、アジャイルが飛び立った。
砂漠の一角は、戦場になろうとしていた。