第八話「進路変更」

Last-modified: 2014-03-11 (火) 13:20:10

ブリッツが行方不明だがどうしようもない。ハルトは二対一の状態に陥っているストライクの元へ向かう。

 

「もらった!」
ストライクに気をとられていたバスターに対し、ワイヤーシューターを発射する。ワイヤーはバスターのライフルに絡みつく。
バスターはそれを放棄したため無事だったが、電流を流されたライフルはそのまま破損した。

 

「帰還信号?」
アークエンジェルから信号弾が打ち上げられる。撤退信号だ。
「キラ、帰還信号だ…無理か。」
ストライクはデュエルの相手で精一杯だ。他の敵も下がる気配がない。

 

「キラ!エネルギー残量は大丈夫か!?」
さほどエネルギーを使っていないアドヴァンスでさえもう残量が32%だ。
あれほどビームライフルを連射しているストライクは後どれだけ残っているのか。

 

「聞こえないのかキ――何!?」
機体に衝撃が走る。見るとアドヴァンスを何かが羽交い締めにしている。
「―――ブリッツ!?」
先程からレーダーに反応すらなかったブリッツに羽交い締めにされている。その事に驚くあまり、反応が遅れた。
「ぐああぁ!」
バスターのガンランチャーが何発も直撃する。フェイズシフト装甲によりダメージはないがその分エネルギーがどんどん削れていく。
「この…野郎…っ!」
自由な右腕を動かす。自機の頭部を傾け、ブリッツの頭部を殴る。そしてマウントしたままビームサーベルを展開する。
メインカメラの損傷によりブリッツの動きが止まったその隙をついて振りほどき、上昇する。

 

「…遅かったか!」
すでにストライクはフェイズシフトを落とし、イージスに捕獲されていた。救出したいが、既にアドヴァンスのエネルギーもレッドゾーン一歩手前だ。
「黙って見てるしかないのかよ…!」

 

その時、モニターに見覚えのある機体が映った。ムウのゼロだ。ゼロはガンバレルを展開し、四方からイージスを狙う。
イージスは防御態勢をとるため、モビルアーマー形態を解除するしかない。

 

<離脱しろ!アークエンジェルがランチャーストライカーを射出する!>
ムウの声が飛び込んで来る。
<坊主二号、ストライクの援護はできるか?>
「なんとかやれます!」
ハルトはそう答える。ビーム系統の武器を使わなければまだ戦える。

 

離脱するストライクを見て、デュエルが追いすがる。アークエンジェルからの援護射撃もかわし、ストライクとの距離をみるみる詰めていく。
右腕のワイヤーシューターの電磁銛を右手に持たせ、デュエルに接近する。そして、その加速度のままショルダータックルをかます。
弾き飛ばされたデュエルだが、すぐに立ち直る。目標をアドヴァンスに変え、サーベルを手に猛然と突っ込んで来る。

 

とっさにスモークグレネードを発射し、赤外線センサーを起動させる。
赤外線センサーならスモークによるジャミングも関係なく目標を捉える事が可能だ。
熱を持ったデブリなどにも反応するため広範囲索敵には向かないが、今回の目標は分かっているので問題はない。

 

スモークの中に飛び込む。そして視界を奪われたデュエルの右腕の関節にワイヤーシューターの先端を突き刺す。
ワイヤーシューターは本来の用途以外にもこうして装甲の間を攻撃する手持ち武器としても使える。

 

スモークの中から飛び出す。それを追ってデュエルも飛び出すが、その右腕を一条のビームが吹き飛ばす。
「上手くいった!」
ビームの出所には、再び装甲を白、赤、青と色鮮やかにしたストライクの姿があった。
ストライクの巨大なランチャーが火を噴く。その射線にさらされ、デュエルはなすすべもない。必死にかわし、後退していく。
四機のXナンバーが撤退していくのとほぼ同時にアドヴァンスのフェイズシフトが落ちた。
「…何とかなった…」
ハルトはコクピットの中で、ほっと息をついた。

 
 

ヴェサリウス艦内。イザーク・ジュールは端正な顔を怒りに歪ませ、アスラン・ザラの胸倉をつかみながら勢いよく壁に打ちつけていた。
「お前があそこで余計な真似をしなければ!」
「とんだ失態だよね。あんたの命令無視のおかげで」
ロッカールームの壁にもたれかかっていたディアッカ・エルスマンも口調に苦々しさをにじませる。
アスランは言い返す事もせず、ただ目をそらした。

さらにイザークが締め上げようとしたところで、ドアが開いた。
入ってきたニコル・アマルフィが、険悪な状況を見て取って声を上げる。
「なにやってるんですか!?やめてください、こんなところで!」
「四機でかかったんだぞ!?それでしとめられなかった!こんな屈辱…!」
「だからって、ここでアスランを責めてもしかたないでしょう!?」
「…っ!」

 

イザークはもう一度アスランを睨みつけたあと、突き放すように手を離し、部屋を出て行った。
イザークが出て行くと、ニコルはアスランにためらうような視線を向けた。
「アスラン…あなたらしくないとは、ぼくも思います…。でも…」
「…今は放っておいてくれないか…ニコル…」
アスランは顔を背け、ニコルの気遣う表情も見ようとしないままロッカールームを出て行った。

 

ロッカールームにいるのが二人だけになった時、ディアッカが切り出す。
「ニコル…あの『104』どう思う?」
「僕もおかしいと思います…何でシュミレーター上にしか存在しない機体が実機で存在するのでしょう?」

 

X104の存在は確かに奪取した機体のデータの中で確認していた。だがそれはシュミレーター上のデータとしてだ。
「それに…あいつ相当厄介だぜ?」
「ええ…ブリッツもだいぶやられましたし…」
アドヴァンスのせいで彼らはアークエンジェルに満足に攻撃できなかったばかりかバスターはライフルを、
ブリッツに至っては右腕と頭部を損傷しているのだ。

 

「…まあいいさ。」
しばらくの沈黙の後、不意にディアッカが立ち上がる。
「え?」
「何にせよ、借りはきっちりと返す…絶対にな。」

 

アークエンジェルへの帰投後、ハルトはマリューに呼び出された。そしてブリッツと交戦中に起きた事を逐一話すよう命じられた。
「…そう。」
一通り聞き終えた後、マリューは確信を持ったかのような声でそう言った。
「十中八九、ミラージュコロイドね。」
「ミラージュコロイド?」
マリューはミラージュコロイドについての説明を始めた。
可視光線を歪め、レーダー波を吸収するガス状物質を展開し、それを磁場で機体の周囲に引きつけ、完全に見えない存在となるステルスシステム…
「…それじゃ、感知できないんですか?」
「ええ、さっきの戦闘に使われたのもそれでしょう。」
そのシステムの事を聞いて、ハルトは驚くよりまず感心した。
「じゃあどんなに強固な障壁があったとしてもそれさえ発動すれば、後は戦艦に続くなりすれば入れてしまう訳ですか…」
「そうなるわね…!?」
マリューが何かに気づいたような顔をする。が、すぐに元の顔に戻り、ハルトに告げる。
「もう下がっていいわ。」
「はい、失礼します。」

 

ハルトが下がった後、マリューはぽつりと呟いた。
「…進路を変更するべきかしら?」

 

この後、アークエンジェルは当初の寄港予定地であるアルテミスには寄港せず、デブリベルトへと向かうことになる。

 
 

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