第七話「アドヴァンスの欠陥」

Last-modified: 2014-03-11 (火) 13:17:00

アークエンジェル・艦後部展望デッキ。地球連合軍の制服に身を包んだハルトは、一人宇宙を見つめていた。
志願兵として認められた後、マリューから話しかけられた。内容はアドヴァンスに関わる物だった。

 

アドヴァンスにはある致命的な欠陥があるらしい。それがアドヴァンスが正式採用されなかった原因でもあった。
アドヴァンスの重力下飛行形態「type-α」はストライクの高機動兵装パック「エールストライク」の元になったもので、それをゆうに上回る推力と機動性を持つ。
だが、最大出力で長時間稼働すると排熱が追いつかなくなり、処理しきれなかった熱は機体全体に回る。コクピットも例外ではない。
現にテスト段階で死亡者が出た。 その時のコクピット内の温度はナチュラルでは到底助からない温度だったという。
様々な方法で改善が試みられたが、結局どれも功を奏さず、アドヴァンスは正式採用されることはなかった。

 

「あなたはコーディネーターだから大丈夫だと思うかもね。けど、あの時以上の温度がでるかもしれない。くれぐれも気を付けて…」
マリューは最後にそう付け足した。

 

(…父さんの気持ち、何となく分かるよ。)
「あの欠陥さえ直せれば」と何度も書いていたスグルの気持ちが、ハルトには何となく分かった気がした。

 

(父さん、見ていて下さい。必ず使いこなしてみせます。)
宇宙空間に向かってそう心の中で誓ったその時、警報が鳴り響いた。

 

<敵艦影発見!第一戦闘配備!軍籍にあるものは直ちに持ち場につけ!>
「…敵か!」
艦内アナウンスを聞き、格納庫へと走る。その顔に微笑を浮かべていた事は、ハルト本人すら気がつかなかった。

 

「―――おう、キラ。」
「ハルト!? どうしたの、その格好?」
格納庫に向かう道中、キラに出会った。キラはハルトが地球軍の制服を着ている事に驚いている。
「志願したんだ。…こんな俺でも、誰かの役にたてるならって」
嘘だ。さすがに復讐のため、何て言えない。

 

角を曲がると、カトウゼミの皆と出会った。
「トール達も!?」
彼らも軍服を着ている事にキラはさらに驚いているようだ。
「悪い、お先。」
そう断って格納庫へ向かう。
どうやら自分達にできることをしたい、そういう言葉が聞こえてきた。

 

「よう、坊主二号。」
「…一号はキラですか。」
パイロットスーツを着て格納庫に現れると、ムウにからかうような口調で言われた。
本当にこの人は。呆れ半分、尊敬半分の表情でムウの顔を見る。
「しかしあのキラっていう坊主来るかね?まあ来ないなら俺がアドヴァンスに乗ってお前がストライクというのでもいけそうだが。
アドヴァンスのOSは辛うじてナチュラルにも――」
「その心配は必要なさそうですよ。」
キラもパイロットスーツを着て現れた。
「やっとやる気になったってことか? そのカッコは。」
「大尉が言ったんでしょ。今この船を守れるのは僕たちだって。
…戦いたい訳じゃないけど、この艦は守りたい。みんな乗ってるんですから。」

 

ムウがからかうように言うと、キラがばつが悪そうに、口を尖らせて答える。

 

「俺達だってそうさ。意味もなく戦いたがる奴なんざそうそういない。戦わなきゃ守れねぇから戦うんだ。」
守るための戦い――それをこの二人はしようとしている。ならば倒すための戦いをしようとしている自分は異質なのだろうか?
ハルトは深く考える事もなくブリーフィングを終える。
キラはストライクに、ムウは「ゼロ」に、ハルトはアドヴァンスに向かう。
二人が乗り込んだのをみた後、ハッチを閉める。OSを立ち上げ、シートベルトを閉める。

 

<ローラシア級、後方90に接近!>
<艦長、そろそろタイムアウトだ。出るぞ。>
<はい。お願いします。>
艦橋のやりとり、ムウとマリューの会話が通信回線から流れてくる。
<坊主共にも作戦は説明した。>
ムウ発案の作戦――それはアークエンジェルを囮にしてゼロがナスカ級を叩く、というものだった。

 

<この作戦はタイミングが命だからな。あとは頼む!>
<分かりました…お気をつけて。>
艦橋との通信を終えると、ムウはキラとハルトにも声をかけた。
<じゃあな坊主達。とにかく艦と自分を守ることだけを考えろ。>
<は、はい!――大尉もお気をつけて!>
「大尉、ご武運を。」
モニターの中で、ムウは不敵に笑ったあと、通信を切った。
<ムウ・ラ・フラガ、出る!――戻ってくるまでに沈むなよ!>

 

ゼロが艦から離れるのを見送った後、キラがごちるのが聞こえた。
<…うまく行くかな>
「行かなきゃ、みんな死ぬだけだ。」

 

その時、通信機から聞き覚えのある声が聞こえた。
<――キラ、ハルト>
<「ミリアリア!?」>
インカムをつけたミリアリアが、モニターの中で真面目くさった顔をしていた。
<以後、私がMS及びMAの戦闘管制を行います…よろしくネ>
最後に照れ隠しのように笑いながらウインクして、後ろからノトムラに叱り飛ばされている。
その光景にハルトも笑わずにはいられなかった。

 

(あれが「エールストライカー」か…)
ストライクの背面に装着されたユニットを見る。四枚羽なのとビームサーベルの位置が違うこと以外は「type-α」とそっくりだ。

 

ストライクが先にカタパルトに上がる。
<――前方ナスカ級よりモビルスーツ発進を確認――イージスです!>
(イージス…あの赤いのか!)
ヘリオポリスでストライクとやりあっていた機体だ。

 

ハッチが開き、ストライクが宇宙空間に射出される。
「続いて、『アドヴァンス』発進どうぞ!」
ミリアリアの声が聞こえる。カタパルトにアドヴァンスを乗せる。
――あの先にはザフトが、撃つべき敵がいる。
「ハルト・カンザキ!『アドヴァンス』、行きます!」
カタパルトがアドヴァンスを射出する。バッテリーケーブルが弾けるように機体から離れ、急激なGがかかる。
だが、次の瞬間には虚空に投げ出されていた。

 

「フェイズシフト起動…火器ロック解除…」
機体が灰色に色づく。ハルトは敵を探してレーダーを見回した。

 

「!?」
機体接近の警告音が鳴り響く。レーダーを見ると、二機のモビルスーツが接近してきている。
「X103『バスター』に207『ブリッツ』!? …奪った機体をもう投入してきたのか!?」
考えている隙もなく「バスター」の砲撃が飛んでくる。盾がないアドヴァンスではかわす他ない。すると回避した先にブリッツがビームサーベルを抜いて突っ込んで来る。
「―――っ!」
右のビームガンを撃つ。だがブリッツには当たらない。そこに再びバスターの支援砲撃が来る。

 

「…なんて連携だよ!」
バスターに気をとられていると、ブリッツがアークエンジェルの方に向かう。
「抜かれた!?」
だがそちらに回ろうとしてもバスターがしつこいので回れない。

 

<アドヴァンス、「ゴットフリート」を使う!かわして!>
「り、了解!」
マリューからの通信だ。アークエンジェルの225センチ二連装高エネルギー収束火線砲「ゴットフリートMK71」が大出力の熱線を放つ。
機体の位置を変えて熱線をかわす。バスターもすんでのところで回避したので当たらなかったが、隙が生まれた。
「今だ!」
バーニアを全開にする。排熱の問題は「type-α」のみなので「type-β」の今は関係ない。
急接近してきたアドヴァンスに気がついたのか、ブリッツが攻盾システム「トリケロス」を構える。
「遅いんだよ!」
右腕のビームガンを射出し、ビームサーベルとして切りかかる。まさかビームガンがサーベルになるとは思わなかったのだろう。ブリッツの右腕はあっさりトリケロスごと切断された。

 

<うわああ!>
「何だ!…ちっ、またバスターか!」
バスターの94ミリ高エネルギー収束火線ライフルが発射される。アンチビーム粒子によりある程度減退したが、それでもビームがアークエンジェルに当たる。
「お前の相手は後だ!」
ブリッツにスモークグレネードを発射し、バスターへと向かう。バスターはアドヴァンスが近づいてきたのに気づくと、アドヴァンスに標準を変える。
「いい加減それにも飽きた!」
先手を打って両腕のビームガンを連射する。狙撃態勢に入っていたバスターは慌てて回避に入りつつ350ミリガンランチャーを発射する。
「ぐあぁっ!」
回避が遅れ、もろに食らう。だがフェイズシフト装甲により機体にダメージはない。
と、バスターが別の方向へ向かった。見ると、その方向ではストライクとデュエルが戦闘を行っている。ストライクが劣勢だ。

 

「まずい…ブリッツを何とかしてから援護に…」
そう言って後ろを見るが、
「…え?」
ブリッツの姿はなかった。
破損したので撤退したのかもしれない。だが、そうだとしても近くにレーダー反応があるはずだ。それすらないのだ。
まさかこの短時間にレーダー範囲外に出た訳でも、撃墜された訳でもないだろう。

 

「アークエンジェル! ブリッツの反応は?」
<駄目だ、こちらでも感知できない!>
<まさか、「ミラージュコロイド」で!?>
ノトムラの焦った声と何か察したマリューの声が聞こえる。

 

(…あそこでスモークを使ったのがまずかったか?)
ハルトは自分の行動を後悔した。

 
 

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