第十二話「ラクス返還」

Last-modified: 2014-03-14 (金) 12:49:47

「おう、坊主二号。」
「…もう、それで確定なんですね。」

 

アドヴァンスの整備を終えた後パイロットロッカーに戻ると、先に着替えていたムウが話しかけて来た。
ムウの方も自分と同じ用事だったのだろう。

 

「…今回のやり方、どう思います?」
暫くの沈黙の後、ハルトがそう切り出す。
「…どうもこうもねえよ。あの場合ああするしかなかった。」
ややけわしい顔で、ムウが答える。
「…坊主にも言ったが、ああいう情けねえやり方しかできねえのは、俺達が弱いからだろ。」
確かにその通りだ。だがどうしても納得できないハルトは反論する。
「…あのままいけば、ヴェサリウスは落とせていました。」
「いーや、あの艦はそう簡単には落とせねえ…それにもし落とせてたとしても、イージスにやられてたかも知れねぇんだぞ?」
「…」
ムウの言葉には妙な説得力がある。ハルトは今度こそ黙り込む。
「…にしてもお前、最近ちゃんと休めてるか?ひでぇ顔だぞ?」
ムウに指摘される程顔に疲れが出ているのだろうか。
確かに最近のハルトは休む間を惜しんで訓練やシュミレーターをしている事が多い。
「今のアークエンジェルの戦力が俺達しかいないのも事実だけどよ…しっかり休むのも軍人の仕事だぜ?」
そう言ってムウはハルトの肩を叩き、ロッカールームを出る。
「休むのも仕事…か。」
今日ぐらいはしっかり休もう。そう考えながら、ハルトも着替えを始めた。

 

制服に着替えたハルトは、医務室へと向かった。別にケガをした訳ではない。ただ様子を見に行きたかったのだ。
ハルトがドアの前に立つと、自動ドアが開いた。
医務室の中には未だに目を覚まさないジョージ・アルスターとその手を握ったまま眠ってしまっているフレイ、それに付き添うサイがいた。
「あ…」
ドアの開く音でサイがハルトに気がつく。何か言おうとするのをハルトが止め、医務室の外に出るようジェスチャーで指示した。
「…フレイの親父さんの様態は?」
外に出ると、まずハルトが訪ねる。
「一応命に別状はないらしいけど…やっぱりまだ目を覚まさない。」
「そうか…」
「――ところで、なんでハルトはここに?」
「いや、様子を見に来たのと…後はフレイに謝りに。」

 

先程の戦闘後からずっとハルトが悔やみ続けていた事がある。それは、フレイとの約束を守れなかった事だ。
先程の戦闘で、ハルトは「モンドゴメリ」を守りきる事が出来なかった。
もちろんハルト一人の責任ではないのかもしれないし、結果的にフレイの父親を助けれたならそれでいいのかもしれない。
だが、少なくともフレイはこんな形での再会は望んでなどいなかっただろう。現に、さっき見たフレイの顔には、涙の跡があった。
望んだ形の再会を果たせなかったなら、それは自分が約束を破った事になる。ハルトはそう考えていた。
「フレイ、俺達の事何か言ってた?」
「いいや、何も。…ずっと親父さんにつきっきりだったし。」
「そ…。」
「ハルト、あんまり抱え込むなよ?別に死んだ訳じゃないんだから。」
「…それでも、約束破った分の報いは受けなきゃな…」
「…」
「…じゃ、また来る。」
「何か伝えておこうか?」
「いや、いい。」
そう言って医務室前から立ち去る。
――展望デッキに行こう。こういう気分の時はあそこに限る。

 

だが、二人の会話を既に起きていたフレイが聞いていた事を、ハルトは知らなかった。

 

「あ」
「…ん?」
展望デッキへの道を歩いている途中、トールに出会った。
別に彼に出会う事自体珍しい事ではないが、問題は彼の後ろにいる二人だった。
「キラに…ラクス・クライン?」
キラだけならまだ分かる。だが、何で自室にいるはずのラクスがここにいるのだろうか。
「えっと、ハルト…これはだな…」
「案内か?」
「へ?」
トールが何それ、という顔をする。
「いや、彼女の外出許可が出たから見張り兼案内で付き添ってんのかなって…違うのか?」
「あ、ああそうだ。なあキラ?」
「う、うん、そうだよ」
「やっぱりそうか。なら邪魔して悪かったな。そんじゃ。」

 

トール達に別れを告げ、目的地へと向かう。
(いくら人質とはいえ相手も俺達と同じ年齢。ずっと部屋にこもりきりじゃ嫌気がさすもんな…)

 

数分後、ハルトは自分の考えていた事が全くの見当違いだということを知る。

 

「…どうしてこうなった…」
ハルトはナタルにこってり絞られ、少しぐったりした様子で艦長室から出てきた。
あの後、ストライクが発進したという知らせを聞いてアドヴァンスでムウのゼロと共に緊急出撃した。
結局戦闘はなくストライクも無事帰って来たのだが、本当の地獄はそこからだった。
ナタルにラクス返還の手伝いをしたと勘違いされ、こっぴどく叱られたのだ。勘違いを正すまで二時間近くかかった。

 

「やっぱあの人だけは苦手だ…キラめぇ、恨むぞ…」
愚痴をいいながら枝分かれした通路に差し掛かった時、不意に陰から腕を掴まれた。フレイだ。
「あ、フレイ―――」
出会えたこの機会に謝ろう。そう思って顔を見た瞬間、言葉を失った。
――こんな目をしたフレイ、初めて見た…
この目をどこかで見たことがある。だがどこで見たかは思い出せない。

 

「…頼みたい事があるの。」
フレイが口を開く。

 

「私に戦い方を教えて」

 
 

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