第15話「すれ違う邂逅」

Last-modified: 2016-05-01 (日) 00:00:25

ガンダムビルドファイターズ side B
第15話:すれ違う邂逅

 

 一夜明けて8月12日、決勝トーナメントBブロックの4試合が行われる日、
今日でいよいよ世界のベスト8が決定する。
・・・が、昨日勝ちあがった選手は、いずれもガンプラの補修に大忙しだ。
ただひとり、宇宙を除いては。

 

「修理は俺がやっといてやっから、お前は試合を見て来い。」
兄、大地にそう言われて今日も会場に足を運ぶ宇宙。確かに彼にとっては
大会の様々な戦法やガンプラの特徴を見て知っておいた方が、修理に付き合うより
明日に繋げられる。といってももう第一試合は始まっているが。
 選手室に到着、眼下で行われている試合はレイラVSマイケル。
「おはようございます。」
声をかけるが、返事は無かった。選手全員が食い入るように試合に見入っている、
そういえば会場全体が、なんだか異様な空気に包まれていた。
宇宙も窓に駆け寄り、試合場のモニターに目をやる。レイラのモック、マイケルの
マスターガンダムともに特に大きく壊れてはいない。

 

「もひとつ行くよー!モックパーンチッ!!」
助走をつけ、モックが超がつくテレフォンパンチを放つ。マスターガンダムは
これを易々とかわし、その腕をひねって地面に叩きつける、もんどりうって転がるモック。
起き上がるより先に接近し、背中のマントのような羽根で打ち据えるマスター、
まるで野球のボールのようにかっ飛ばされて、実物距離で200メートルほど転んで止まる。
「うああ・・・一方的だね。」
宇宙が嘆く、まるで大人と子供の試合だ。
実際レイラは見たところ12~3歳、マイケルは43歳なのだからそのまんまなのだが。
「・・・そう、見えるかい?」
宇宙の右にいたサザキが嘆く、顔に冷や汗をかきながら。

 

「んじゃ、もっかいっ!」
モックが再びマスターに突進、信じられないことに無傷だ。
「えええーっ!?」
「さっきからずっとあの調子なのさ。マスターガンダムがいくら殴ろうが蹴ろうが
 まるで効かず平気で起き上がってくる、並みのガンプラなら、何度壊れているか・・・。」
そう言っている間にも、どハデに蹴りを喰らってすっ飛ぶモック、石柱に激突して止まり
石柱だった石の破片がモックに降り注いで完全に埋まる。
・・・ほどなくモックが瓦礫をどけつつ立ち上がる、まるでのれんをくぐるように軽々と
岩をどかしながら。

 
 

「・・・い、いいかげんにしろ!貴様の機体、本当にプラスチックかっ!!」
マイケルが吐き出すように言う、確かにプラどころか超合金並みの頑丈さだ。
レイラの後ろで涼しげに笑ってるビルダー、ププセ・マシタが笑って返す。
「プラでなければ、そもそも動かないでしょう。」
「んじゃ、次いくよー、次!」
腕をぐるぐる回して元気アピールするモック。助走をつけてドロップキックを仕掛ける。
それを半後転してよけつつ、逆立ち状態で蹴り上げるマスター。
「うおおおおおおおおおっ!」
落下してくるモックにマスターが下から突っ込む、体を回転させ、ドリルのような勢いで
モックのボディに突き刺さる。
「超級覇王電影弾!!」
そのままモックを持ち上げ、はるか上空にまで到達して折り返し、地上に落下していく。
「くたばれえぇぇぇぇぇっ!」
モックどころかマスター自身さえ破壊しそうな勢いで地面に激突する2機、爆音と振動が響き
土煙が視界を遮る。
 やがて視界が晴れた時、地面に巨大なクレーターが出来上がっていた。
中心部にはマスターが逆立ちの体制で刺さっており、その下にいるはずのモックが
無事だとは誰も思わなかった。
 すっ、とマスターの体が持ち上がる、逆立ちしたまま。
その下にいたモックが、マスターの頭をわし掴みにして起き上がってきたのだ。
完全に立ち上がったモックは、逆立ちのままのマスターの頭部をもぎ取った、
まるで果実でももぎ取るように。

 

 ―BATTLE ENDED―

 

 静まり返る会場。唯一レイラの「やったー!」の声が響くのみだ。
選手席で見ている宇宙も愕然として固まっていた。
マスターの超級覇王電影弾が、自分のスパイラルドライバーと被ったのだ。
むしろ威力はマスターのが強かったのに・・・
「どうしろっていうの、アレ・・・」
選手席の誰も返事を返さない。誰もが勝つイメージを想像できないから。
 観客横の通路を下がるレイラとププセ、その二人に観客席から出てきた二人が合流する。
「あれは・・・まさか。」
そう呟いたのはルーカス、突然駆け出し、あわただしく部屋を出て行った。

 
 

「お前なぁ、あれじゃ10回は負けてるじゃねーか。ププセに感謝しろよ!」
「いいじゃん、結局は勝ったんだしさ!」
赤髪の中年男性が通路裏でレイラにお説教を垂れている、その傍らにはププセともう一人
30半ばほどの、銀髪のマダムが笑って立っている。
その顔立ちからも、髪の色からも、レイラの母親であることは間違いなかった。
 そこにルーカスが息を切らせてやってきた。
「あ、イケメンのお兄ちゃんだ!」
レイラがマセた言葉で迎える。4人が一斉にルーカスに目をやる。
「貴方は・・・アイラ・ユルキアイネンさん、ですね。」
マダムに向かって問うルーカス。
「・・・お久しぶり、ルーカス・ネメシス君。立派になったわね。」
柔らかに笑って答えるアイラ。
「誰?こいつ・・・」
その場一番の年長者のレイジが、一番ガキっぽい発言をする。
がっくりとうなだれるアイラとププセ。
「これで次期王様なんですから・・・空気読んで下さいよ。」

 

 30分後、第2試合が始まる。今大会屈指のイケメン対決!

 

 ルーカス・ネメシスVSマツナガ・ケンショウ
かつて高校時代、グラナダ学園とガバイ学園でのチーム戦で対決した二人が
世界大会の舞台で再戦を果たす。
「ルーカス・ネメシス、クロスボーン・ウッコ、行きます!」
「マツナガ・ケンショウ、ザク・シンデレラ、行くぜ!」
その宣言に大勢が噴き出す。何故シンデレラ・・・

 

 今日のルーカスは浮かれていた、そしてそのせいで消極的だった。
いつか憧れていた人との再会、そして「次」にその娘さんとの対戦が待っている、
そんな喜びと、本来の彼とマツナガとの実力差の認識がルーカスを蝕んでいく、
超一流のガンプラファイターも、まだまだ20歳前の若者なのである。
決められるチャンスを逃し、受けなくてもいい反撃を受け、それでも勝てるという思いが
ピンチを自覚できないでいる。

 
 

コロニーの隙間にザクを誘い込むクロスボーン、迷わず突進するザク。
逃げ場の無い狭い空間でバックパックを変形させ、メガ・ビーム砲を作り上げるクロスボーン。
ザクもまた、従来より大型のシールドを変形、ビーム砲にかざす。
「そのシールド、アブソーブ・システムだね。」
ルーカスが問う。かつて第7回大会でイオリ・セイが作り上げたビーム吸収装置。
「でも、その小ささでこのメガ・ビーム砲を全部吸収できるつもりかい?」
「くっ!」
「もう遅い。」
メガビーム砲が発射され、シールドに直撃!ルーカスの読み通りそのビームは盾を貫通し、
いくつかの光の線がザクをかすめる。
「・・・え?」
貫通?吸収しきれずに爆発するならともかく、アブソーブにビームを打ち込んで何故貫通する?
事実、野太いメガ・ビームは盾に当たって吸収され、そのまま即、盾の後ろからいくつもに
分散して吐き出されている。まるで寒天の塊がトコロテン突きに押し出されるように・・・
「吸収じゃなく、受け流す盾・・・強力なビームを分散して散らすためのアブソーブか!」
時既に遅し、メガビームの反動でバランスを崩したクロスボーンに、ザクのヒートホークが
打ち下ろされる。肩から胴へ、クロスボーンの象徴ともいえるドクロが叩き割れる。
「『シンデレラ』は灰の意味、この機体のような真っ白な灰になるまで戦いつづけるって意味だ!
 お前へのリベンジを果たすためになぁっ!」
「そんな・・・」
初優勝、憧れの人に捧げたかった勝利、その娘さんとの対戦、栄光への道・・・
その全てを飲み込む爆発の花がフィールドに咲く。

 

 ―BATTLE ENDED―

 

ルーカスに対するリベンジのみの執念で這い上がってきたマツナガ
対戦相手のマツナガがまるで見えてなかったルーカス
勝利の女神は、祝福するべき相手を間違わなかった。

 

 通路裏、立ち尽くすルーカスの前にアイラが現れる。お疲れ様、と残して
一瞥もせずに通り過ぎる、アイラなりの気の使い方で。
ぼろぼろ涙をこぼすルーカス。ほんの少しの油断をした自分を心底呪った・・・。

 

「それにしても、わっかんねぇなぁ・・・」
選手宿舎、大地がパソコンをいじりながら嘆く。
修理がひと段落ついたので、2回戦の相手、リーナ・レナートの1回戦の録画を
チェックしていた。
試合は常にメイジンのペースだった、最後のあの発光のシーンのみがあまりにも不自然だ、
何故メイジンは左にヤマを張った?何故リーナは全く同時に逆に飛んでメイジンの
背後を取れた?フェイントをかけてるわけでもなし・・・発光のシーンを何度コマ送りしても
その理由がわからない。
「とはいえ、あのメイジンが『偶然負けた』って結論にすんのもなぁ・・・」

 
 

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