第16話「ガンダムの落日」

Last-modified: 2016-04-30 (土) 23:58:27

ガンダムビルドファイターズ side B
第16話:ガンダムの落日

 

 Bブロック第3試合の開幕は、いきなり原作の逆オマージュから始まった。
アレクセイ・ジョンのガンダム・サイサリスが問答無用で撃ち込んだ核弾頭を
サザキ・ススムのギャンがビームサーベルで叩き落したのだ。
「逆だろ、逆!」
観客が、選手が、主催者が一斉にツッコミを入れる。
「さすがだなサザキ、ちゃんと危険な信管部分を避けて落とすとは、律儀なことだ。」
「当然だよ、自らの毒で死ぬ毒蛇は存在しないさ。」
一応、原作で核兵器を打ち込んだマ・クベの愛機、ギャン使いの自覚はあるようだ。

 サイサリスの武装はまさに『兵器』そのものだった。原作付属の武器に加え、ビームやバルカン、
ミサイルにキャノン砲、果ては機雷にビットまで、あらゆる武器のオンパレードで
ステージの工業地帯を次々に灰燼と帰していった。
対してサザキは意外にもビームサーベルと盾のみの装備であった。が、その操縦の正確性と
剣さばきの見事さで、サイサリスの雨あられと飛来する火器を次々といなしていく。

 すでに15年、それはサザキ・ススムがこのギャンというガンプラに拘り続けた年月。
時には盾を2つにし、時には背中にバルカンを背負い、時には下半身をタンクにし、
またある年には頭から下をビグロにしたりもした。
そして今、まるで原点回帰のように剣と盾だけで戦っている。ただしその剣さばきは
単なるモビルスーツの動きを越え、まるでフェンシングの選手のように鋭く、速かった。
その手足、関節の動き、稼動範囲、塗装や仕上げのクオリティ、そして操縦するサザキの
剣技の冴えは、他の誰にも真似出来ないレベルに達していた、ことギャンに限っては。

 

「アロンジェブラ!」
サイサリスのミサイルポッドが叩き落される。
「リポスト!」
ビーム兵器を交差して突きを加える。
「サーブル!サーブル!サーブルっ!!」
ビットが次々と撫で斬られていく。
「プリーズドフェール!」
ビームサーベルを抜いたサイサリスの両腕を叩き落し。無力化するギャン。

 

サイサリスも別に無抵抗なわけではない、火器はもとより移動も常に行い
相手との距離を保ち、戦いに有利な状況を常に作ろうとしてはいるのだ。
しかし、全くギャンを振り切ることが出来ず、火器を当てることも出来ず、次々と
フェンシングの技で切り刻まれていく。
「フレッシュ!!」
ギャンの突きがサイサリスの頭を貫いた時、アレクセイのベスト8入りの夢は終わった。

 
 

「勝者!サザキー・ススムーっ!」
司会のお姉さんがサザキを称える。アレクセイにフェンシング流の礼をしてから控え室に向かうサザキ。
その姿を選手控え室から見下ろしていたエマが一言嘆く。
「・・・見事なものね。」
12歳の時、フェンシングの国内代表の最終選考まで言った彼女をして、こう言わしめた。

 

 1回戦最終試合、優勝候補の一角、ルワン・ダラーラの対戦相手がそのエマである。
いや、一角という言い方は適切ではない。メイジンが敗れ、フェリーニが敗退した今
このルワンこそが優勝候補の筆頭と言ってよかった。

 

「ルワン・ダラーラ、∀ガンダムビートル、出撃!」
「エマ・レヴィントン、オッゴカスタム、行きます。」

 

 かつてはアビゴルをベースにした改良機を使っていたルワン。5年前に世界大会を制してからは
様々な機体に手を出すようになった。もっとも、その改造センスは相変わらずだ。
この∀ガンダムもビートルの名に恥じず、背中に甲羅のようなシールドと、両肩には
コーサカスカブトムシのような角を備えている。
予選ではアビゴルを使っていたあたり、今大会の本命はこっちなのだろう。
一方のエマは一見ごく普通のオッゴである。誰もが瞬殺を予想していた。

 

「まずはこのへんから行くか!」
背中の甲羅を開く∀ガンダム、その内側には多数のビーム発射口。
一斉に発射されるビームの雨がオッゴの周囲一帯を埋め尽くす。
「ディフェンスモード。」
オッゴは機体を横に向け、マニピュレーターを操作して機体横の盾を取り、構える。
ほとんどのビームはオッゴを通り過ぎ、残ったビームは盾に弾かれた。
しかし次の瞬間、オッゴは四方八方からのミサイルの雨に囲まれていた。
ビーム発射のスキに第二波攻撃をくり出していたのだ。
「オールレンジモード。」
そう呟いてコントローラーを操作するエマ、その瞬間、なんと円筒状のオッゴは
タテに割れた。そしてそのまま割れ口を90度回転させ、十字架のようなカタチに変形。
見えなかった切り口部分には無数のミサイルポッドが見える。
乱回転しながらミサイルを四方八方に撒き散らし、自分に向かっていたミサイルを
片っ端から相殺する。

 

「すごいな、エマさん。よくあれで酔わないなぁ・・・」
高速で乱回転するオッゴを見て感心する宇宙。元々トリックスターのジャイロの発想が
回転酔いを防止するものだっただけに、あの操縦席なら絶対に酔う自身がある。
「なるほど、遠距離戦はなかなかのものだな、お嬢ちゃん。」
そう言ってオッゴに突進する∀ガンダム。ツインビームソードを抜き、回転させながら
オッゴに斬りかかる。一刀のもとに、バームクーヘンのように輪切りになるオッゴ。
「なに!?」
手ごたえは無かった。オッゴは斬られてバラされたのではなく、自らの操縦で
バラバラになったのだ。
タテ割り2分割+輪切り3分割で合計6つの半切り輪っかになったオッゴ、そのパーツは
それぞれがワイヤーで繋がっており、まるでヌンチャク、いや多節混のようだ。

 
 

「スネークモード」
あまりの事態にしばし固まるルワン。その機体∀ガンダムに、分離してヘビのようになった
オッゴが巻きつく。切り口を内側、つまりミサイル発射口を内側にして。
「ファイア!」
そのままゼロ距離からミサイルを放つオッゴ。密着して動けない状態でミサイルの
密着弾を浴びつづける∀ガンダム。
「お。おい。ちょっと待て・・・」
呆然として呟くルワン、その間にも巻きついたオッゴからの超至近距離攻撃は続いている、
∀ガンダムはもちろん、密着しているオッゴも次々と壊れていく、しかしそれでもエマは
攻撃の手を休めない。
 ほどなくその空間に大爆発が起き、巻きついていたオッゴが吹き飛ばされる。
かろうじて原形をとどめてはいるが、その破損状況は悲惨の一言に尽きた。
もはや1/144ジオン兵が殴るだけで爆発しそうに見える。

 

 ―BATTLE ENDED―

 

「え・・・俺、もう終わり・・・?」
呆然とするルワン、そして観客。
メイジン、フェリーニと優勝候補の脱落の流れとはいえ、あまりに呆気ない決着だった。
水を打ったような静けさに包まれる試合場、ルワンに一礼して通路を引き上げるエマの
足音だけが響いていた。

 

「お、おい・・・これで今大会って。」
「ああ、よりによって、なぁ。」
観客の何人かが『ある事実』に気付いていた。それは・・・

 

○リーナ・レナート(リーオー)   - ×メイジン・カワグチ(ガンダムレッドウォーリア)
○里岡宇宙(ボール)        - ×ヤン・ウィン(ネーデルガンダム)
○グレコ・ローガン(呂布トールギス)- ×リカルド・フェリーニ(Wガンダム)
○ライナー・チョマー(ザクレロ)  - ×ヨハン・シェクター(ズサ)
○レイラ・ユルキアイネン(モック) - ×マイケル・チョウ(マスターガンダム)
○マツナガ・ケンショウ(ザク)   - ×ルーカス・ネメシス(クロスボーンガンダム)
○サザキ・ススム(ギャン)     - ×アレクセイ・ジョン(ガンダムサイサリス)
○エマ・レヴィントン(オッゴ)   - ×ルワン・ダラーラ(∀ガンダム)

 

 そう、ガンダムと名のつく機体の全滅である。
本来、主役機であるガンダムは、ガンプラバトルにおいても基本的には
有利に戦いを進められるハズの機体なのだ。
しかし1回戦でガンダムの名を冠する機体はなんと全て敗退してしまった・・・
 その夜、ネットではこの話題で持ちきりになった。
”ガンダム落日に消ゆ”、”脇役の反乱”、”メイジンの呪いか?”
そんなタイトルのニュース記事やスレッドが大いにカウンターを伸ばすこととなった。

 
 

「ただいまー。」
宿舎に戻った宇宙が大地に声をかける。が、返事がない。
見ると机の上で突っ伏して寝ている兄、その傍らには完全に修理されたトリックスターが
鎮座していた。
「ありがとう、兄さん、明日も頑張るよ。」
兄の背中に毛布をかけ、部屋の電気を消す。シャワーを浴び、食事を済ませ床に付いた。

 

 AM3:00、大地が目を覚ます。
「あ、ありゃー、寝ちまってたか・・・この毛布は宇宙か、あいつももう寝たんだな。」
節電モードになっているPCを消すべくマウスを動かし、画面を復活させる。
「あ、そうか・・・リーナ・レナートの戦法を調べてて、そのまま落ちたんだった。」
もっぺん見るか、と、巻き戻しボタンを押す。再生中だったので時間逆行のように
巻き戻されていく。
テキトーなところで再生ボタンをクリックし、画面が歪みながら止まり・・・
そして動き出すまでのその一瞬、大地が奇妙なものを見た。
「・・・なんだ?・・・今のは」
違和感を感じて再度巻き戻す。しかし今度はそれが見えなかった。
眠い頭を総動員して、今見た物の意味を考える。リーオーの『ある部分』に見えた『ある物』。
「・・・まさか!いや、それなら辻褄が合う。」
再度巻き戻して、今度はコマ送りでそのシーンを確認する。
しかし3度、4度と確認しても『それ』は見えなかった。
「そうだ、もし俺の推理が正しければ、そう簡単に『見えちゃ』いけないんだ。」
5度目のコマ送り再生をかける大地、ほんの1/10秒ずつコマ送り再生される画面。
そしてついに、その『物』を見つける大地。
「やっぱりか!これだ、これがメイジンすら負かせた、リーナ・レナートの『罠』・・・」
眠気は完全に吹き飛んだ。さらにコマ送り再生を続け、別のシーンでも『それ』を確認する。
「なんてコト考えやがる!だが、これで宇宙には通用しないぜ!このことを宇宙に伝えれば・・・」
そこまで考えて、はっとする大地。重要な問題が解決していないのに気付いたのだ。

 

「伝えても・・・意味がないじゃないか、これは。」
愕然とする大地、明日の試合まであと6時間ー

 
 

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