第5話「ふたつの星(スター)」

Last-modified: 2017-02-23 (木) 15:49:25

ガンダムビルドファイターズ side B
第5話 「ふたつの星(スター)」

 

「それではこれよりーっ、第17回ガンプラバトル選手権、日本枠第1ブロック、
 東四国予備予選の決勝戦を行います!」

 

 準決勝から1週間、いよいよ東四国地区の代表を決める最後の一戦が行われようとしていた。

 

「かたや、その驚異の破壊力と戦術の確かさで、幾多のガンプラをねじ伏せてきた謎のマスクマン
 準決勝では優勝候補筆頭の河野氏を撃破!アルティメットマックスターを操るミスター・G~~!」

 

 威勢のいい司会に紹介されて壇上に上がるマスクマン、貫禄と怪しさを兼ね備えてポジションにつく。

 

「かたや、ガンプラ歴1ヶ月ながら、独自の発想と戦法でここまで勝ち進んできました、
 なんと使用ガンプラはボールだ!最強の棺桶が代表をもぎ取るか!?里岡~宇宙~~!」

 

 宇宙も壇上に上がる。兄と一緒に修復、改良を重ねたトリック・スターを手に。

 

「それでは決勝戦、はじめて・・・」
「ああ、ちょっと待ってくれるか。」
 ざわつく会場、試合を止めたのはミスターGのほうであった。
「里岡君・・・だったな、ひとつ君に聞きたいんだが。」
宇宙の方に歩み寄りながら問い掛けるミスターG。
「何故、ボールなんだ?」
ある意味、当然の質問である。幾多のかっこいいガンプラ、強力なガンプラを差し置いて
”丸い棺桶”と称されるボールを使うのは誰でも疑問が残る。
「作中での扱いも悲惨なもんだし、実際にお世辞にも美しいともいえん・・・
 あえて不利なガンプラで、強力なガンプラを倒すことに悦を感じているクチかな?」

 

「・・・かっこいいからです!」
ミスターGを真っ直ぐに見据えて宇宙が答える、それを聞いた観客からどよめきが起こる。
「僕は、宇宙飛行士になるのが夢なんです。そんな僕が、いつか操れるかもしれない現実的な機械、
 ボールにはそんな魅力を感じます、だからです。」

 

「ふむ・・・わかった。」
マスクの下で笑顔を作って答えるミスターG、背中を向けて自分のポジションへ歩いていく。
「わしも・・・な。このマックスターが一番かっこいいと思うからこそ、こいつを使っておる。
 それでは、勝負といこうか!」

 
 

 ガンプラとGPベースをセットし、舞台が粒子に包まれる。ステージは荒野、マックスターのメインステージだ。
「トリックスター、発進します!」
「アルティメットマックスター、参る!」
両者が舞台に踊り出る、酒場の前の広場に陣取るマックスター。両の拳を打ち鳴らし相手を待つ。
「シュート!」
はるか遠方からライフル弾がすっ飛んでくる、この試合のために頭部のキャノンを
兄のヅダから移植した135mm対艦ライフルに換装していた。

 

「ふん!」
右拳一閃、ライフル弾はまるで豆鉄砲のように打ち弾かれた。
「無駄だ・・・あんな程度じゃ。」
客席にいた河野が嘆く、準決勝であらゆる高エネルギー攻撃を全て拳で打ち消された彼にとって
この改造自体が今更な感じしかしない。
「そいつの真骨頂は接近戦だろうが、小細工は止めて存分に参れ!」
その声に答えるように突撃してくるトリックスター。
「接近戦はしますけど、小細工もしますよ。いけ!チップソースライサー!」
片方の盾を逆に向け、ヒートダガーをオンにしてバーニヤ全開、相手に突っ込みながらコマのように回転
電動丸ノコのように突っ込んでいくトリックスター。
「小ざかしいっ!」
懐に呼び込んで右フック一撃!ものすごい衝撃音とともにトリックスターは
弾かれたベーゴマのごとく殴り飛ばされる。

 

「・・・ほう?装甲が変わっておるな。」
手ごたえに違和感を感じたミスターGが問い掛ける。
「プラ板を板バネのように加工して盾の中に仕込んである、衝撃を吸収しやすくしてるのさ。」
兄の大地が観客席から答える、その分ビーム兵器には弱いけどな、と付け加えて。

 

 トリックスターが両方の盾を斜め上に向ける、バーニヤを噴射し離陸、そのまま飛行状態に入ると
マックスターの上空を旋回し、何かを落下させはじめる。
「ふん、機雷か、ちょこざいな。」
マックスターは腰を落とすと、次の瞬間大ジャンプして一気に機雷とすれ違う、すり抜けた先で
トリックスターと同じ高度まで到達、バーニヤを吹かし一気にトリックスターに迫る。
「落ちとれい!」
両腕を組み合わせ、叩きつけるようなパンチでトリックスターを打ち下ろす、かろうじて盾で防ぎはしたが
勢いよく地面に叩きつけられるトリックスター。
ほぼ同時に地上まで降りてきたマックスターが一気に走って体当たりをぶちかます、
弾かれて酒場を全壊させるトリックスター、土ぼこりが舞い、壊れた材木の中からゆっくりと出てくる。
「む、むちゃくちゃだ・・・」
「ありえねぇよあのパワー」
観客から驚嘆の声が漏れる。

 
 

「どうだこのパワー、この拳力、マックスターの中のマックスターと呼ぶに相応しいじゃろう、
 お主のボールがいかに他のガンプラの武器を使おうが、しょせんは借り物にすぎぬ、
 だが、ボールの良いところを伸ばそうと思っても、そもそもボールには秀でたところなどあるまい。」
「あります!」
「なら見せてみろ、このマックスターに通じるものがあるならな!」
真っ正面から向き合う2機、両者がバーニヤを点灯させ突撃の姿勢を取る。
「「GO!」」
両者の声が重なる、相撲の立ち合いのように突進し激突するふたつのガンプラ、
しかしパワーの差は歴然、一気に押し込まれるトリックスター。
「ぬぅん!」
トリックスターの盾を内側から殴りつけるマックスター、内側からの攻撃を想定してない盾はあっけなく外れ、吹き飛ぶ。
「終わりだ!」
返しの左フックが、盾の無くなったボールの横面に突き刺さる、誰もが試合の決着をイメージした。

 

「なっ・・・」
予想外のことが起きた、フックを放ったマックスターの左腕は、ヒジから先が無くなっていたのだ。
どすん、と音がした方に目をやると、マックスターの左腕が地面に落ちている。
会場内の誰もが、その状況を理解できずにいた、宇宙と大地の二人を除いては。

 

「それは・・・まさか、そんなことが可能なのか!?」
ボールの手がマックスターの右手を捕えていた、しかしもっと異様だったのがボールの両手が
まるで違う形に、しかも誰もがよく知る形に加工されていた事だ。
「ガンプラを・・・分解したというのか、破壊せずに!」
ボールの右手先はまるでマイナスのドライバーのように加工され、左手はスパナのような形状に変更、
両手とも下側の手も工具のように加工され、両手を揃えるとちょっとした工具セットのようだ。
「ボールはもともと”作業用”ポッドですからね、こういう作業は得意なんですよ」

準決勝で大地が使った”腕外し”、それを応用した宇宙のアイデアだった。
ダメージレベルBの設定を逆手に取った、そしてボールの特性を生かした逆転の発想!
「分解!」
マックスターの右腕がヒジから解体される、あわてて飛びのこうとするが、スパナのような手がフックして
引きずりながらも逃れられない。ドライバーの手を差しこみ、こじる。軽い音を立てて足関節が外される。
胴、首、バックパック・・・3分後には全部解体されたマックスターがバラバラ死体のように地面に転がっていた。

 

 ーBATTLE ENDED-

 
 

「優勝、里岡宇宙、トリック・スタあぁぁぁぁぁっ!」
司会のお兄さんが高々と宇宙の手を掲げる、会場に響く万来の拍手。
大地が、例の3人組が、宇宙を手荒く祝福する。

 

「おめでとう、里岡宇宙君。」
ミスターGが祝福の言葉をかける。
「あ・・・なんかすいません、反則っぽい勝ち方で。」
かぶりを振り、マスクを脱ぐミスターG。その素顔を見て、近くにいた河野が声をかける。
「やっぱり、あなただったんですね、矢三附(やみふ)監督。」
「・・・え?」
「ええーーーっ!!」
一斉にどよめく周囲、確かにその素顔は、現グラナダ学園ガンプラ部監督、
矢三附 龍(やみふ たつ)氏その人だった。
「宿敵ガンプラ学園も撃破したし、そろそろわし自身も、と思って出場したが
 若いモンには発想で勝てんわい、はっはっは。」
言って宇宙の背中をばんばんと叩く。
「河野よ、ガンプラはまだまだ奥深い。お前も他人のマネばかりせずに
 お前だけの”味”を身につけろ、いくら滑稽でも荒唐無稽でも、他人には無い
 ”自分だけの武器”は必ずお前の財産になる。」
「はいっ!」
元、師弟が握手する、周囲から自然に拍手がわく。最高のフィナーレになりそうだ。

 

「ところで宇宙君、君、中2だったな、是非進学はわがグラナダ学園に・・・」

 

台無しだーっ!という司会の絶叫が会場に鳴り響いた。東四国予備予選、ここに終了!

 

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