第6話 コロニーと父と母

Last-modified: 2018-12-01 (土) 22:40:09

第6話 コロニーと父と母

 

「すげえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「でっかぁーーーーーーーっ!!」
貨客船の窓に張り付いて叫ぶ少年二人、トオル・ランドウとジャック・フィリップス。
彼らの眼には天体レベルと言っていいスケールの建造物、スペースコロニーが映し出されている、
しかも単基ではない、全方に広がる宇宙空間に所狭しと無数にひしめき存在する。
人類の手によるその雄大な眺めは、地球では絶対にお目にかかれないものだ。

 

「やっぱすげーな宇宙コロニー」
「実物見ると圧倒されるなぁ、やっぱ。」
人類のフロンティアスピリットの集大成ともいうべき宇宙居住区、スペースコロニー。
その巨大さは人類が作り出したことが信じられないスケールでありながら、その機械的な外見は
確かに人類の創造物であることを示している。
遠方からは天体にしか見えないその表面は、近づいてみると確かに金属の板とビスと
ワイヤーなどによって構成されており、それが人の手によるもの、かつ膨大な苦労と最新鋭の
技術を結集したものであることがわかる。
例え自分たちがかかわっていなくても、それを成した人類の一員であることに誇りすら持ててしまう。

 

-当船は間もなくサイド2、8バンチ。通称「アイランド・イフィッシュ」に接岸します-

 

船内アナウンスが告げる。二人はハイスクールの一年の冬休みを利用してここにやって来た。
トオルはもちろんセリカに会いに、そしてジャックは・・・
「いよいよだな、ここがお前の新たな生活の場になる、頑張れよ。」
トオルの悪友ジャック。中学時代、彼の父親のエクステリア会社で一緒にバイトした仲間、
彼は2学期からこっちの機械工学の専門の親方に弟子入りする手はずになっていた。
メカニック志望の彼にとって、地球にいたのでは必要な技術の半分しか習得できない、
宇宙の真空、無重力の中で使える技術と経験を得てこそ、これからの時代に通用するメカマンになれる。
そう考えた彼は思い切って家を出て、このコロニーで新たな生活を切る決心をしたのだ。

 

「ああ、こんなデカい建造物を見たら否応なしにテンションアガるよ。」
「お前の名前のコロニーが出来るのを楽しみにしてるぜ!」
「いや、さすがにそれ無理だろ。」
冗談を飛ばしながら下船準備をする二人、やがてコロニーに空いた穴の中に船が入り、ようやく彼らの知る
現実的な光景、宇宙港が姿を現す。非現実的なパノラマとはしばしお別れだ。

 

 船を降り、検疫を受けて荷物を受け取る、ここはいわばコロニーの外側と内側の中間部、
ここではまだ重力は外からコロニー中心に向かってかかっている、これからコロニー内部に入ると
回転するコロニーの遠心力とGコンによって外側に重力がかかることになる。
荷物を抱え、内部行きのエレベーターに向かう二人。

 

「トオルっ♪」
柱の陰からいきなり抱き着いてきた少女に押し倒されるトオル、荷物が多いせいでロクに抵抗もできん。
「セ、セリカ!来てたのか・・・」
「うん。」
金緑の髪をなびかせトオルの上で四つん這いになって微笑むセリカ。
全く、内緒で来て驚かそうと思ったのに何で知ってるんだよ。これもニュータイプとやらの・・・
「あ、ミアが教えてくれたよ、トオルが今日来るの。」
「そっちかいっ!」
というか今トオルの心を読んだほうがニュータイプの力なのか・・・

 

「どーでもいーけど、目立ってますぜお二人さん。」
ジャックが視線をそらして言う、まぁ当然のごとく周囲の注目の的だ。
赤くなって立ち上がり、パンパンとズボンを払うトオル、その腕にセリカが笑顔で腕を絡める。
「いや、だから目立ってるから…」
「ご飯にします?お風呂にします?それとも、わ・た・し?」
「大きな声で何を言っとんだお前わあぁぁぁぁっ!て、ジャックちょっと待て、
他人のふりして先に行くなあぁぁっ!」
腕を絡めたまま、セリカを引きずるように駆け出しジャックを追うトオル、
先に行くジャックは背中で夫婦漫才を聴きながら決心する、俺も絶対かわいい彼女作ってやる!と。

 

大型のエレベーターで内部に向かう3人含む数10人。最初はコロニー内に「降りて」いくのだが
道中でゆっくりと反転し、気が付くと「昇って」いく感覚に代わる。
エレベーターが止まり、トアが空き外に出る、その瞬間観客の大部分から歓声が上がる。
「おおーーーっ!!」
「すごーい、地面がせり上がってるーっ!」
「すげぇ、真上にも町がある、すげぇ光景だな!」
再び現れた非現実的なパノラマ、地球出身の客から、コロニー内独特の光景に次々と感想が上がる、
むろんトオルもジャックも例外ではない。

 

 人がバラけたところで、セリカがぴょんと一跳ねし、二人に向き直って笑顔で言う。
「ようこそ、スペースコロニー、アイランド・イフィッシュへ!」

 

 出口の際にあるバスターミナルに向かう3人。
「じゃあ俺、こっちだから。」
「ああ、また連絡するよ。」
ここからはトオル&セリカとジャックは別行動だ、彼はお約束の冷やかしを投げてよこす。
「結婚式には呼んでくれよな。」
「やかましい!」
出発するバスの窓からツッコむトオルと、笑顔で手を振るセリカを見やってから、ジャックも自分の
バス停に向かう。
「やれやれ、あの分じゃマジで結婚式もそう遠くないな、すでに夫婦じゃねぇか。」
呆れ顔で自分の乗るバスに向かう。

 

 その姿を物陰から、無数の目が追いかけている、
黒服に身を包んだその連中は、ジャックが乗り込んだバスの行き先を確認し、携帯で連絡を取る-

 

「で、これからどうする?」
「もちろん、わたしの家に行くの。」
「え・・・いいのか?」
「うん、パパもママも待ってるよ、トオルのコト。」
「えええぇぇぇっ!?」
バスの中で絶叫するトオル、まさかの超展開に緊張が走る。
「な、なぁ、念のために聞くが、俺は一体ご両親にとって、今どういうポジションなんだ・・・?」
「ん、もちろん私のフィアンセだけど?」
血の気が引く音がした気がした。コロニーの雄大さを楽しんでいた時間はどこへやら、サイド2ツアーは
処刑場への直行便になってしまった。
「あはは、大丈夫だよ。パパもママも楽しみにしてるよ、トオルと会うの。」
いやお前はそれでいいのか、しかし押せ押せで来るなぁセリカ、というかセリカの両親って
一体どんな人なんだ、全く想像できんが。

 

 コロニーを4分の1ほど回った所の住宅街、その前の停留所で降り歩くこと数分、
青い屋根の1件屋の玄関に進むセリカ、ここが彼女の家か。ウチよりだいぶ大きい。
むろんコロニーが宇宙移民の住処であることを考えれば、土地割りは大きくなって当然かもしれない。
地価が上がる原因は人口過密にあるのだから、その対策として宇宙に移民した人は広い土地が得やすい。

 

「ただいまーっ!」
ドアを開け、上機嫌で叫ぶセリカ。奥からおかえりー、と男性の声。父親かな?と思った瞬間
いきなり背後から何者かに羽交い絞めにされるトオル。
「う、うわっ!?」
「いらっしゃーい、このコがセリカのいい人かい、なかなか可愛いじゃないの。」
羽交い絞めを解き、トオルの肩を掴んで180度回して正面からトオルを見る長身の女性、
紺の髪をポニーテールに束ね、袖なしの上着に短いパンツルックが活発な印象を与える。
「よろしく!セリカの母親、アーチェス・ナーレッドだよ。」
ニヤリと笑って、白い歯を見せる。肝っ玉母ちゃんと若奥様の両方の印象を持った女性。
「トオル・ランドウです、よろしく!」
威勢に当てられてか、強気で返すトオル、元々こういうノリは嫌いじゃない。
「元気だねぇ、よしよし、そうこなくっちゃ。ほらほら、入った入った。」
家の中に引っ張り込まれるトオル、すでに上がっているセリカが笑顔で言う、
ね、大丈夫でしょ?と。
ま、まぁ母親はなんとかなるとして、問題は父親なんだが・・・

 

「さ、ここよ、入って。」
二人に促され、居間らしきドアを開けるトオル。そのドアの目の前に「彼」は立っていた。
眼鏡をかけ、無精ひげを生やした、やや痩せ型の銀髪の中年男性。
いきなりのことに一歩後ずさるトオル、それに呼応するように一歩前に出、居間から廊下に出てくる父親。
「・・・ふむ」
固まったままのトオルを値踏みするかのように上から下まで視線で舐める、やがて手を出し、一言。
「合格。」
親指を立て、ニヤリ笑ってそう一言。一体何を値踏みされたんだ俺・・・
「悪い人じゃなさそうで安心したよ、セリカ。」
あ、ひょっとして、この人も・・・
「リャン・ナーレッドだ。よろしくな、ランドウ君。」
まぁ、能力はともかく、セリカの不思議ちゃんな感覚はこの父親譲り、押せ押せの陽気さは母親か。
なんか納得。

 

「そうかそうか、プライマリーの頃からセリカと勝負を、ねぇ。」
「あー、2人3脚してた子だねぇ、覚えてる覚えてる。」
あの頃はセリカの家族にまで気がいかなかったが、いたのかあの時。
「で、この子とはどこまで行ったんだい?」
母親の下世話な質問に、平然と返そうとするセリカ。
「んっとねぇ、とりあえずー」
「交換日記中ですっ!!」
迂闊なことを言われないように、語気を荒げてセリカを制するトオル。
その態度に思わず吹き出す両親。
「ははは、ご両親の教育の良さが見えるねぇ。」
「そんなノンキなこと言ってないの、アンタみたいにお堅いと実る恋も実らないよ
男の子ならガンガン行きな!」
よっぽど自分の娘をキズモノにしたいらしいな、この母親は。

「ちなみに、お二人の馴れ初めはどうだったんですか?」
トオルの反撃の一言に、母親がドライアイスを詰め込まれたように凍り付く。
「あ、えと・・・とりあえずお茶入れてくるから、テレビでも見てゆっくりしてな。」
バタバタと走り、つまづきながら台所へ逃走する母アーチェス、それを見てセリカとリャンは
同じ表情で含み笑いをしている。さすが親子、笑い顔がそっくりだ。
しかし一体どんな馴れ初めだったんだ、この夫婦・・・

 

 つけられたTVがニュースを流している、地球と違うエリアだけに、流してる放送も
毛色の違うものになっている。しばしニュースに見入るトオル達。

 

-次に、ジオン公国を名乗るサイド3は今日、政治体制の新しい人事を発表しました-
「ジオン公国」を正式に認めていないことを暗に示す放送、もっとも地球じゃ「ジオン」という表現すら
公的には認めてはいないけど。
-外政担当大臣、ミケ・リヒャルト、能力開発省、フラナガン・ロム、技術開発局、アルベルト-
・・・え?
「セリカ!今の。」
「うん!あの機関の・・・」
確かサイド6の「特殊能力研究開発機関」とかいうトコの代表者、セリカが「研究対象を実験動物扱いする」
ことを見抜き、避けてきた組織。ジオンに走ったのか、背中で冷や汗をかくトオル。
「まぁ心配あるまい、ここは地球連邦に近いし、遠くジオンに行ったのならむしろ一安心だよ。」
父親の言葉にほっとする二人、そこに母親がお茶を運んでくる。
「安心すんのはまだ早いよ、ああいう輩が権力を手に入れると、何しでかすか
わかったもんじゃないからねぇ。」
湯呑をテーブルに並べながら物騒なセリフを吐くアーチェス、そして続ける。
「だからさ、さっさとヤる事ヤっちゃいな、今夜は離れにベッド用意してるからさ♪」
おい母親・・・

 

と、その時、トオルの携帯に着信が鳴る。モニターの画面を見てトオルが固まる。
そこには拘束され、黒服に囲まれた悪友の姿が映し出されていた。

 

-君の友人、ジャックは預かった。彼の身を案ずるなら、今から指定の場所に出頭すべし-

 
 

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