紅い死霊秘法_04

Last-modified: 2013-12-22 (日) 20:24:44

 何も考えられない。

 シンは呆けたまま少女に見蕩れていた。



「名前を聞いていなかったわね、親切な人」

「シン、シン・アスカ」

 反射的に答えてしまうシン、不思議と恐怖は湧かなかった。

「そう、ねえシン。私のこと助けてくれるのでしょう」

「ああ、うん、約束した」

「じゃあ、私と契約してくれる」

「契約って……どんな?」

「私の断片を探す。私に魔力を与える、これは他の力ある魔術師から奪えばいい。

 その代わりに、あなたに魔術師として力を与えるわ」

「断片? 魔導書? 魔術師?」

 鸚鵡返しに問うシンに眉を顰める少女。いぶかしんだようだ。

「素人なの? でもあの狭間で貴方は正常だったのに。

 普通、垣間見ることも、入ることも出来ないわ。

 余程の素質が──────ある、みたいね」

「よく、覚えていない。

 君の、君の腕が落ちてて、声が聞こえたから助けなきゃって」

「……妄執のたぐいかしら、当たり前のヒトが、あの世界でそんな結論に至る訳もないし。

 ───きっと私が貴方を見つけたのではなく、貴方が私を選ぶ運命だったのね」

「あの病院行かないと、腕」

「ついてるわよ、見えない?」

 確かについている。訳が分からないことだらけだ。

「あ、うんついてる」

 駄目だ。もうシンの脳みそでは付いていけない世界だ。



「この状況で契約してもフェアじゃないか……

 ねえシン、試用期間ということで仮契約でいいわ。

 このままだと私、消えてしまうから。

 礼儀としてこの姿を維持してるけど、とても辛いの」

「約束したから、契約……するよ」

「愚かね。外法の存在との口約束は破滅と相場が決まっているのに。

 でもそんな貴方だから、私の聲を拾ったのでしょうね」



 不意に少女がシンの頭を自らに引き寄せる。

 可憐な雰囲気を醸し出す少女にシンはドギマギしたが、

 止める間もなく互いの顔は近づき………

 柔らかな感触。シンと少女は唇を触れ合わせた。

 余談だがシンのファーストキスでした。それを怪異そのものに捧げた事を喜ぶべきか、

 悲しむべきか。答えはずっと先に分かることです。





 つづく



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