第三話 復讐の咆哮(前編)~オトメVSガンダム~
航海日誌…某月某日
レクイエムでの戦闘からの転移から随分と時間が経過した気がする。
救助した男は自分を国王といっており、その信憑性は定かではないが、支援物資等を出すことを提言している。
無論、この世界ではすべてを疑って挑むことにしているが、今の状態では彼の言うことを聞かなくてはいけないというものもまた事実である。
今現在もメサイア、およびザフト友軍からの通信は途絶中。
またルナマリア・ホークの容態に関しては健康上の問題ではなく精神的原因があげられている。
ミネルバ艦長タリア・グラディス
「…寒くなってきたわね」
タリアは艦長室でパソコンから目を離しつぶやく。
艦内には冷暖房が完備されており、その気温に関しては直接影響があるとはおもえないが…気持ちの問題であろうか。
タリアはパソコン画面を切り替え艦の外の映像を呼び出す。
そこは真っ白い雪の映像…吹雪の世界。
それはアークエンジェル追撃線のときを思い出す。
あのとき確実に落としていれば、現在のような状況も無かっただろう。
あの艦は今どこでなにをしているのだろう。
私たちと同じく転移されたか、今もあの場で戦っているのか。
「…艦長、失礼します」
「どうぞ?」
考えを中断し、室内に入ってくるレイ・ザ・バレルを見るタリア。
「直接話したいことがあるっていっていたわね?」
「…はい。今後のことなんですが、我々が救出したあの人物…ナギといいましたか」
やはり考えていることは皆、同じか…。
タリアはナギを全面的に信用していないとはいえ、艦の進路はナギの言うとおりに動かしている。
「信用がならないのはわかっているわ。
でも、現地人であり、国王といっている彼は救出したか暁には支援物資をだすといっているわ」
「…艦長がそう判断されるなら自分は何も言いませんが」
「レイ、皆が不安になっていることは十分承知しているつもりよ。
でもここで動揺してもはじまらないわ。私たちが出来ることをやっていきましょ?」
タリアはそういってレイに微笑みかける。
レイは冷静なその表情を変えずにただ頷く。
医務室
そこにはいまだ、眠っているルナマリアがいた。
いやなことをすべて忘れようとしている彼女だが、夢の中に出てくるのはメイリンとシンのことばかり、みんな自分の目の前でアスランに切り裂かれるものばかり。
運命は自分を裏切る。
自分をすべて…。
シーツを握り締める。
彼女の悲しみはやがてすべてを憎しみにへと変えていく。
黒く染まるその憎悪…。
何もかもを破壊してしまいたい衝動。
「…あの子はなんなの?」
ナギは医務室の前のガラスからルナマリアを見つめる。
「レイと同じMSパイロットですが、負傷して」
副長であるアーサー・トラインが真面目に説明している。
「…にしてはさ?怪我してるとこは見えないよ?」
「それはですね…戦争の長期化にともなう精神的なものであって…」
さすがに彼女の前で友人が撃墜されたという言葉はつかいたくないアーサー。
ナギはへーと頷きながら、医務室の中にへと入っていく。
「あ、ちょっと!?」
アーサーは慌てて彼を追いかける。
なぜ自分がナギの護衛もとい監視なのか…アーサーはほとほと自分が運の無い男なんだなとかんじる。
ナギはこの艦に乗ってからというもの、艦を見て回りたいといったり、乗務員を把握したいといって動きまくりである。
現地人にとって珍しいものもわかるが。
ナギはルナマリアの診断書を取り出し、それをジロジロと見ながら、ルナマリアを見る。
そこでナギは彼女の血液の検査結果を見て目がとまる。
「…ねぇ?君たちってさ。みんなこの血液なの?」
「え…はい。我々はコーディネイターというものであって、普通の人間とは違います。いろいろと改良を加えた、新しい人類なんです」
アーサーはこのとき、ナギがなにを考えているのかさっぱりわからないでいた。
ナギは眠っているルナマリアを見る。
「おーい。えーっと…ルナマリアちゃんだっけ?起きてる?」
「ちょっと!やめましょうよ!ナギ大公。こんなところ艦長に見つかったら僕まで怒られちゃうんですから!」
寝ている病人を無理に起こそうとしているナギをとめようとするアーサー。
ナギの声に悪夢から目を覚ますルナマリア。
「うわぁあ!!」
ルナマリアは飛び起きると、目の前にいたナギを床に押し倒し、首を絞めようとしている。
さすがに慌てたアーサーが必死になってルナマリアをナギから離す。
「お、落ち着いてルナマリア!ここは誰も君の敵はいないよ。君の敵は…」
「…私の敵…」
ルナマリアはふたたび、力を失った状態でその場に倒れる。
大きく咳き込むナギ。
だがその表情は苦痛には満ちていない。
むしろ楽しみが増えた…。
いやこれから楽しめるという、その楽しさに満ちた表情。
「…ピースは揃いつつあるね」
『ナギ大公、アーサー副長、目的地にそろそろ到着します。すぐに艦首までお越しください』
アルタイ
北方の軍事大国であるこの国は貧しい中、ナギ・ダイ・アルタイの富国強兵政策の中貧しいながらもその領地を拡大し続けてきた国。
だが先のヴィント事変により敗北したこの国はオトメ要請学校でありオトメの力を司るガルデローベから派遣された5柱の一人破弦の尖晶石であるジュリエット・ナオ・チャン
そして彼女が率いるシマシマ団により間接的に政治が行われてきていた。
軍隊の一部解体などの措置がとられた。
ナギの近衛隊や陸軍の一部は地下にもぐりナギ・ダイ・アルタイ奪還を求めテロ活動にへとはいっていた。
シマシマ亭(平和維持軍本部)
「はぁー…なにこれ?全部見なきゃいけないわけ?」
バーのような薄明かりのその場所には部相応な白い分厚い紙の資料が置かれている。
「みたいですね…」
ピンクとシロのシマシマの服を着た屈強な男たちがナオの前でその分厚い資料をまとめながら答える。
イスの上ではそんなことを知ってかしらずかネコのミコトが気持ちよさそうに眠っている。
ナオは大きくため息をつきながらその資料を見る。
アルタイ陸軍近衛師団隊編成表
アルタイ今年度予算
またなんとも頭がいたくなりそうなものだ。
こんなものまでチェックしなきゃいけないのだろうか。
ナオはここに来る前のときの学園長ことナツキ・クルーガーを思い出す。
「あの地はお前の生まれ故郷だ。部外者である我々では抵抗もあるかもしれない。無用なトラブルはなるべく避けなくてはいけないからな。
基本、仕事さえ行ってくれれば行動は自由だ。好きにするといい」
これではその自由行動もいつの日になることやら…。
ナオは大きくため息をつく。
「へ~さっそく、げんなりしちゃってるわけ?」
「げっ!?あんたは…マーヤ・ブライス!?」
それは頭に白いターバンを巻きそして褐色と金髪が特徴の5柱、怜踊の蛍石である。
もっといえばナオのひとつ上のパールお姉さまであった人である。
「手伝いにきたよ。新人のあんた一人じゃ大変でしょうしねー。それにこれ学園長からの直々の命令って奴だからそこんとこよろしく」
マーヤはそういいながらシマシマ団の一人に飲み物を勝手に注文している。
ナオはさらに機嫌の悪そうな顔になりながら頬づえをつく。
「オトメ取締りのあんたがきたってことは私の監視ってとこ?信用ないねー」
「そんなんじゃないって。本来ならアカネとカズ君陛下のとこについてなきゃまずいんだけどさー。
新人にはきついお仕事でしょ?今はかわりにシズルがいってくれてるわよ。シズルは女相手なら誰でも食べちゃうだろうからあの二人も苦労しているんじゃない?」
そういうマーヤはすごく楽しそうに話をしている。
ナオは5柱が学園長以外、みんなSの軍団であるということを確信した。
しかも自分はその一人に見張られている立場になるということだ。
トモエ・マルグリットあたりなら言いくるめられるが、さすがにこの人では…。
「…5柱がこうして二人そろっているとなんだか壮観だな?」
眼鏡をかけ、薄いひげを生やした細長の顔の男。
ヴィント事変では裏でさまざまな情報を仕入れ、手引きをした男。
名前はヤマダということ以外は正確な情報はない。
彼もまたその豊富な情報能力を見込まれてシマシマ団とともにアルタイにへと渡ってきた。
「ちっとも嬉しくないわよ。ヤマダッチ」
「もっと歓迎しなさいよーナオ?久しぶりの感動の再会ってとこでしょ?」
ヤマダはいつも場を仕切っているナオが慌てているその図を面白くみながら二人の後ろのソファーに座る。
「…アルタイ公家は基本、歓迎ムードにあるといったところだな。ナギ大公によって謀殺されたと思われる兄弟たちの家族が今後の政治運営について多少もめているようだが」
突如大きく揺れる建物…。
「なに?地震?」
マーヤがナオを見る。ナオは首を横に振り
「ここには断層って言うのは遠いって無いんだよ」
「…人為的なものってわけね」
二人は建物の外に飛び出す。
白く振り続ける雪の中、あたりを見回す。
だが視界の中にはなにもはいってこない。
見慣れた町だけ。だがその彼女たちの目的物はすぐに見つかることになる。
『あーあ、聞こえるかな、アルタイのみなさん?』
その声は忘れもしない。ナギの声…。
そしてその声のするほうを見てナオとマーヤは驚きを隠し切れなった。
今まで見たこともない巨大な戦艦がそこには浮かんでいた。
『驚いてくれているかな。僕がいない間お留守番ご苦労様~』
戦艦はそのまま黒曜宮、彼の城にへと向かう。
「のこのこと帰ってきて…このままあいつの好き勝手にさせるわけには行かないんだよ!」
「ナオ?ちょっと!」
マーヤの制止を振り切りナオは前に出る。
「5柱のⅣ、破弦の尖晶石、ジュリエット・ナオ・チャン…真祖様の名の下に」
「マテリアライズ!」
ナオの身体が赤く輝くと、そのローブが彼女にへと降り注ぐ。
緑の色をベースとした蜘蛛のマーク。巨大なクローを装備したオトメのローブだ。
「…ヤマダッチ、もしものときの備えてあんたはあの子たちを!」
「わかった。無茶はするなよ」
ヤマダッチはそういって雪の中、どこかにいってしまう。
マーヤは勝手気ままに動く人物たちに大きく吐息をつきながら、飛び立っていくナオをおいかける。
ミネルバ艦内
「艦長、撃ってきます!!」
平和維持軍の部隊がその巨大な戦艦に対して攻撃を仕掛けている。それもそのはずだ。
なぜならあの艦には戦争犯罪人のナギがいるのだから。
しかし、空を飛んでいるものにたいしての地上からの砲撃ではミネルバにたいしてダメージらしいダメージを与えることは出来ない。
「対空防御。これはどういうことですか?ナギ大公!?」
タリアは視線を隣にいるナギにうつす。
「おかしいな。…僕が留守の間に革命でもおきてしまったのかもしれないね」
タリアはその言葉を信用できない。わざととしか思えないからだ。
「僕の国だって一枚岩じゃないのさ。とりあえず城につけてよ?そうすれば話はすぐに済むんだからね?」
「我々はあなたの軍隊ではないのよ?」
「わかっているさ。でもこのままだと、この艦が落ちちゃうかもしれないじゃない?」
時既に遅し…このまま城に艦をつけるとすれば、地上にいる部隊からの猛攻を受けるのは必死。
物資もつきかけているこの状況では引くに引けない。
このナギという男のいいように我々は動かされたというのか?
「…レジェンドの発進準備を」
「了解。レイ・ザ・バレル機、レジェンド発進準備」
「…じゃ、僕は先に城にいってくるよ。すぐに戦闘は終わらせるからさ。あー、あと一人借りていくね?」
そのままナギはその場から出て行く。
ナギの言葉の意味など考えている時間は無い。今はなんとしてでもこの状況を打破しなければ。すでに艦は地表すれすれのところまで降下している。
「総員、第一種戦闘配置、迎撃する。タンホイザー準備!」
「艦長、あれを撃てば…」
アーサーがすぐに反応する。あんなものを撃てばここらへん一体は壊滅する。一般市民も巻き添えだ。
「あくまで威嚇用に使う。あれを撃てば向こうの抵抗も収まるでしょう」
「…了解」
一方、上空で出撃したレジェンドは砲撃する敵艦にビームライフルを発射、敵の戦闘力を削いでいく。
「…撃墜するなという命令も難しいが…だがMSがいないならばどうにかなるか」
だがそんなレジェンドに迫る一つの閃光。
「!?」
レジェンドはその攻撃を避ける。
前にいる一人の人間!?
さすがのレイも宙を浮く人間に驚きを隠しきれない。
モニターを最大望遠にしてその姿を把握する。
そこにいるのは一人の女子。
おかしな格好をしている…シンあたりが見れば呆然として操縦桿から手を離してしまうかもしれないだろう。
「新しいスレイブかなんか知らないけど、これ以上はやらせないよ!」
ナオはクローから赤い蜘蛛の糸のようなワイヤーを放出し、目の前の人型機動兵器に攻撃を仕掛ける。
「こんなもの!」
ビームサーベルでそれを切り裂こうとしたレイだが、ビームサーベルはそのワイヤーに巻きつかれ、まったく動けない。
切り払うことさえ出来ない状態だ。
「なに!?あの…武装はMSを凌駕するというのか?」
レイは空いている腕を使いビームライフルを放つが、大きさの違い、ナオは易々とそれを避ける。
「子供の遊びじゃないんだよ!!…そこのでかいの!!」
ナオはクローで接近し、レジェンドを切り裂く。満足な防御も出来ずそのまま雪山に突っ込むレイ。
「落着します!!」
ミネルバがゆっくりとその雪の地表に降り立つ。これで勝負はわからない。
敵艦の武器はだいたいレジェンドが無効化させたものも。そのレジェンドは今まさに…。
「レジェンド押されています!」
オペレーターの声が聞こえる。
タリアは目の前で行われている戦闘に目を疑うしかない。人間がMSと戦闘し、しかもMSを圧倒しているのだ。
「インパルスは?」
「ダメです。ルナマリア・ホークの現在の状態では」
「くぅ…」
ナオはレジェンドを一蹴するとこちらにへと向かってくる。
機銃で応戦し接近こそ許さないものも。それこそ時間の問題だ。
レイは雪山に埋もれたレジェンド内で不甲斐ない自分にイラついていた。
こんなところでしかもあんなふざけた人間に遅れてなどいられない!
「こんなところで負けられるか!」
倒れていた雪山から飛び出し、艦の周りを飛びまわるナオに体当たりを食らわすレジェンド。
ナオはそのまま地面に叩きつけられる。
代わりのビームサーベルを取り出し、臨戦態勢をとるレジェンド。
「さすがに…これで」
だがレジェンドの予想は覆ることになる。
「…少しはやるじゃない?」
ふたたび宙に飛ぶナオ。ほとんど無傷だ。
「化け物め」
レイは画面を見ながらぼやいた。
「これで…とどめだよ!」
ナオの耳のGEMが輝く。だが瞬時、ナオの後ろから強烈な一撃が加えられ、そのままナオはふたたび雪山に突っ込む。
雪山にはクレーターのようなあとがのこる。
「あれは!?」
戦闘の様子を伺っていた5柱のマーヤはその現れたものを見て驚愕する。
マーヤだけではない、それはミネルバクルーにとってみても驚きであった。
赤黒く輝く鎧のようなそのローブ、そして握られている巨刀。乱れる赤い髪…。
「運命の黝廉石…ルナマリア・ホーク、いきます!!」
ルナマリアの巨刀が地面に倒れているナオに向けられる。